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COCOON PRODUCTION 2023「シブヤデマタアイマショウ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
シブヤデアイマショウ.jpg
2021年に上演された松尾スズキさんのミュージカルレビューショー、
「シブヤデアイマショウ」が、
シアターコクーンの休館に合わせて、
第2弾として今日まで上演されています。

これは第1弾がとても楽しかったので、
今回も是非と思い、
初演の能年玲奈さんが出ていないのが残念ですが、
期待して足を運びました。

今回もとても楽しかったですよ。

松尾スズキさんの関わった舞台としては、
この10年くらいでしたら一番好きな作品で、
過去を遡っても、
「愛の罰」の初演でしょ、それから「嘘は罪」の初演、
「キレイ」の初演、スズナリでやった1人芝居、
それに継ぐくらいに好きです。

基本的な構成は第一弾と同じなのですが、
前回はヒロインの能年玲奈さんが、
今回は多部未華子さんに代わり、
それに応じてヒロインの役柄も変更されて、
前回は能年さんが「召使を孕ませて家出した地方の名家のおぼっちゃま」
というとてもシュールで、
能年さんでなければ、とても演じられないな、
というような役柄を演じて素晴らしかったのですが、
今回は多部さんが本人を演じ、
彼女がホテルで寝ていると、
「不思議の国のアリス」もどきに、
ウサギに導かれて渋谷の町を彷徨うという、
夢の世界で別人格を演じる、
という趣向になっていました。

もう1つの主筋は、
前回も登場した秋山菜津子さんが,
自分自身をヒロインにしたミュージカルを作る、
という話で、
これは前回はダークサイドに堕ちた、
松尾スズキを救う、というようなお話であったのです。

この作品は何より松尾さんが、
パフォーマーとしての本領発揮の感じで、
恥ずかしそうに頑張っている姿がとても楽しいのです。
最初から客席にヨロヨロと登場する、
動きの藝からして素敵ですし、
得体の知れないダンスや歌も、
多部さんや秋山さんとの掛け合いも、
これはもう円熟した古典芸能を鑑賞するような気分です。

歌のレパートリーの中では、
「キレイ」で個人的には最高の名曲だと思っている、
「ここにいないあなたが好き」を、
初演のオリジナルキャストである、
秋山菜津子さんと村杉蝉之介さんが、
歌い上げてくれたのが最高のご馳走でした。
ただ、一般の知名度は低い曲なので、
客席の反応は薄かったのがとても残念です。

「コクーンの終末」ですし、
もっと終末感満点に、
破壊的な作品にしてくれても…
という思いもあるのですが、
松尾さんもそうした破滅的な時期は過ぎているのだと思いますし、
これはこれでとても素敵な時間だったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「帰ってきたマイ・ブラザー」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
帰ってきたマイ・ブラザー.jpg
水谷豊さんの主演舞台が、
マギーさんの脚本に小林顕作さんの演出、
相棒コンビの寺脇康文さんや堤真一さん、
段田安則さん、高橋克実さん、
更には峯村リエさんと池谷のぶえさんが脇を固めるという、
小劇場的には超豪華なメンバーで今上演されています。

昔解散した実際に4人兄弟のコーラスグループが、
ひょんなことから数十年ぶりに公演を開くことになり、
その楽屋でのやり取りがお芝居として描かれて、
ラストはその公演風景で締め括られます。

これは個人的にはとても良かったです。

仲の悪いグループの公演直前の楽屋風景という、
これはもう本当にベタな設定なんですね。

それがその通り基本的には予定調和的に進みます。
最初は、とても公演など迎えられないのではないか、
という雰囲気なのですが、
色々な偶然や、蔭のマネージャーやファンの努力、
そして過去と向き合いながら葛藤する、
メンバー(今回は家族でもある)の人生を凝縮したような時間のやり取りがあって、
ラストでは公演の風景に全てが集約されてゆきます。

ここまでベタな設定ですと、
そのまま丁寧にやれば一定のレベルの舞台になるのは、
それはもう当然と言って良いのですが
その一方で特徴が出にくいという欠点はあります。

今回何が良かったかと言うと、
まず第一に上演時間の短さです。
トータルで上演時間は1時間半弱なんですね。
それでいて短すぎるという感じはありません。
オープニングからすぐ水谷さんと寺脇さんが登場して、
無意味な前振りがありませんし、
久しぶりに再会した4人兄弟が、
最初は過去のわだかまりがありながらも、
徐々に1つになって、
その日の舞台に向かうまでを、
時間経過を踏まえながら、丁寧に描いてゆきます。
1人2役の女優陣が途中に綺麗に挟まって、
単調になりがちな段取り部分を、
丁寧に補完してゆきます。
そして、いよいよ公演ということになると、
劇場がそのまま公演会場に変貌し、
観客はその世界に入り込んで、
本人と役柄とを二重写しにしながら、
その展開を見守るのです。

この短さの選択と、
凝縮されたマギーさんの台本の完成度の高さが、
この作品のまず第一の魅力です。

この作品の第二の魅力は勿論キャストです。

主役が水谷豊さんで、
マネージャー役には相棒でも共演の寺脇康文さんでしょ。
水谷さんの弟に段田さん、高橋さん、堤さんという、
それぞれ1人で充分舞台の主役を張れる面々が揃っています。
そして、アクセント的に出演する女優陣も、
おそらく今の演劇界で最も器用なコメディエンヌと言って良い、
峯村リエさんと池谷のぶえさんという豪華さです。

こうしたキャストを組むと、
ともすれば皆が顔見世的な出演になって、
「無駄に豪華」という感じになりがちなのですが、
今回は違っていました。

矢張り水谷さんがスーパースターなんですね。
そのオーラがとてつもないので、
水谷さんを活かすためには、
周りにもこのくらいのメンバーが必要なのです。

それから、矢張りこれはマギーさんの脚本が良いのですが、
1人として段取り的な役柄はなく、
それぞれがしっかり自分の役柄をこなし、
見せ場も作るという感じになっていて、
その贅沢なアンサンブルに、
こちらもちょっと豊かな気分にさせられるのです。

特筆するべきは矢張りラストで、
4人兄弟が真紅の背広でずらりと並び、
歌が始まった時の感銘というのは、
それまでの経過をしっかり見せられているだけに、
胸に迫るものがありましたし、
久しぶりに舞台を観て鳥肌が立ちました。

要するに1曲の歌が背負っているものを、
演劇として見せておいて、
それを感じながら歌を聞くことにより、
全ての思いがそこに集約されるのです。

その後はカーテンコールのダンスになるのですが、
全員が揃ってのダンスシーンは、
オールスターキャストならではの凄みのある舞台面で、
この場面のみでも、
このキャストを集めた意味は充分にあったと感じました。

そんな訳で、
とてもベタな芝居ですが、
それを超豪華なキャストと手練れのスタッフで、
1時間半の結晶体のような舞台に仕上げた傑作で、
是非是非劇場に足をお運び頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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赤信号劇団「誤餐」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
赤信号劇団『誤餐』チラシおもて.jpg
コント赤信号の赤信号劇団の第15回公演が、
28年ぶりに今下北沢のスズナリで上演されています。
公演は今日までですね。

コント赤信号の3人が勿論顔を揃え、
そこに室井滋さんや那須凜さんら実力派のゲストが加わって、
作・演出は精緻な人間ドラマで評価の高い桑原裕子さんという、
演劇好きには見逃せない贅沢な布陣です。

これは如何にも小劇場という感じの家庭劇で、
なかなか良かったですよ。

主人公は渡辺正行リーダー演じる大学教授で、
その秘密を握るかつての恋人に室井滋さん、
教授の年の離れた若い妻に那須凛さん、
教授の竹馬の友で室井さんの旦那にラサール石井さん、
教授の妻の間男に小宮孝泰さんというキャストで、
室井さんが数十年ぶりに渡辺さんの家を訪れたところから、
登場人物の多くの愛情と思惑が入り混じって、
ほろ苦い悲喜劇が描かれます。

これは桑原さんの作品としては、
抜群という部類ではないのですが、
緻密な人間ドラマの組み上げはさすがの筆力で、
何より赤信号劇団という枠組みを、
しっかりと活かして、
見せるべきものをしっかり見せる、
という作劇が見事です。
数十年ぶりの再会と過去の回顧というのが、
そのまま28年ぶりの赤信号劇団を象徴しているでしょ。
リーダーにちょっと任ではなさそうな大学教授を当てて、
それが意外に嵌り役なのが素敵ですし、
それでいてラストになると、
それだけの趣向ではなかったことが分かるのも鮮やかです。
対する石井さんには豪放磊落な人物を演じさせ、
そのやり取りの中にトリオ愛を感じさせます。
1つの下の世代での愛情が滲むのも良く、
その相互作用がこの芝居を、
内容以上に膨らませていたと思います。

スズナリという小屋にも作品がフィットしていて、
満員ではあっても窮屈にはしていない客席の雰囲気も良く、
まずは楽しい2時間を過ごすことが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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岡田利規「掃除機」(KAATプロデュース 本谷有希子演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
掃除機 ちらし.jpg
チェルフィッシュの岡田利規さんがドイツで上演した戯曲を、
本谷有希子さんが演出して日本語版として上演しています。
そのKAATの公演に足を運びました。

80代の男性の父親と、
50代の引きこもりの娘と40代の無職の息子の3人が、
互いに干渉することなく同居する家を舞台に、
擬人化された掃除機が語り手を務め、
音響を担当するラッパーの環ROY(たまきろい)さんが、
もう1人の狂言回しを演じるという作品で、
今の日本のある種典型的な状況を、
複雑な演劇的仕掛けで描いています。

舞台は3方に大きく上方に盛り上がった床面で構成され、
同じ家の中のそれぞれ別の部屋が、
抽象的に表現されています。
床面が強調されているのは、
語り手が掃除機で、
常に床に視点を持っているからなのです。
80代の男性は3人の役者の3人1役で表現されていて、
細胞分裂のようなコミカルな不気味さがありますし、
音響担当の環さんは、
途中で40代の息子の友達として舞台に介入し、
その圧倒的存在感で舞台を支配すると、
最後にはその家を乗っ取ってしまいます。

非常に刺激的な舞台で、
岡田さんの作品としては、
比較的分かり易く、観易い部類ではあると思います。

環ROYさんが身体を揺らしながらリズミカルに独白する辺りは、
チェルフィッシュのスタイルなのですが、
他のキャストはもう少し「重い」芝居をしていて、
至近距離で絶叫したりするのは本谷さんのスタイルだと思います。

その辺りはちょっと微妙なバランスで、
バラバラな芝居をしていること自体が、
作品の内容と合致しているところもあるので、
意図的ではあるのだろうなあ、と思う一方で、
台詞劇として観ていると、
やや居心地の悪さを感じるところもあります。

印象的だったのは、
個々の「痛み」だけが、
分断された個人を結び付けているという指摘で、
それが今の家族内の犯罪に繋がっている可能性を考えると、
暗澹たる思いもあるのですが、
心に刺さる指摘ではありました。

正直岡田さんのお芝居には、
馴染めない部分が多いのですが、
現代を代表する劇作家の1人であることは確かで、
食わず嫌いはせずに、
時々は舞台に足を運ぼうと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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三谷幸喜「笑の大学」(2023年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
笑いの大学.jpg
1996年に青山円形劇場で初演され、
初演時から名作の誉が高く、
1998年にパルコ劇場で同一キャストで再演された「笑の大学」が、
キャスト一新して装いも新たに再演されています。

初演は西村雅彦(上演当時の芸名による)さんと近藤芳正さんの2人芝居、
今回は内野聖陽さんと瀬戸康史さんの2人芝居で、
初演は山田和也さんの演出でしたが、
今回は三谷幸喜さん自身が演出に当たっています。

これは初演と再演の両方を観ています。

初演は「巌流島」という作品とほぼ同時上演で、
「巌流島」の方がパルコ劇場で、
「笑の大学」が青山円形劇場だったのですね。
確か両方とも戯曲がギリギリまで完成せず、
「巌流島」は初日を遅らせての上演となり、
キャストも陣内孝則さんが降板してしまったりして、
相当のドタバタになったのですね。
それで、「巌流島」はチケットを取っていたのですが、
「笑の大学」は「どうせ間に合わないのじゃないかしら」と思って、
当初は行く予定がなかったのですが、
幕が開いてみると大好評で、
当日券に並んで、見切りに近い席で鑑賞したことを覚えています。

これは確かに素晴らしかったのですね。
三谷さんがちょっと井上ひさしさんに、
寄せていた時期だったと思うのですが、
如何にも井上さんが描きそうな台本を、
井上さんの数段上を行く完成度で、
見事な2人芝居に仕立てて見せたのですね。
戦時体制批判のように見えながら、
勿論そうしたものでもあるのですが、
それよりもっと大きな、
藝術家の、そして喜劇作家の矜持のようなものを、
ストレートに描いている点に、
素直に感銘を受けました。

基本西村雅彦さんと近藤芳正さんへの当て書きなのですが、
2人の芝居もそれぞれの代表作と言って過言でない、
非常に見ごたえのあるものでした。

その後映画にもなるなどして、
三谷さんの代表作としての評価を高めたことは、
言うまでもありません。

それで今回の満を持した感のある再演ですが、
改めてこの作品の質の高さを、
再認識させる上演にはなっていたと思います。

役者に関しては微妙なところで、
前半はどうしても、初演のコンビの印象が脳裏に焼き付いていて、
今回のキャストの2人も、
明らかに台詞の言い回しや間合いなど、
影響は受けているんですね。
ああこれは西村さんだよね、
ここは近藤さんが良かったよね、
というように思ってしまいました。
ただ、後半のシリアスになる部分は、
今回のキャストの方が映像経験などは豊富なので、
よりリアルに場面を感じられました。
瀬戸さんは確かに青年座付き作家のように見えますし、
内野さんも検閲官みたいに見えますよね。
ここは今回のキャストの強みだと思いました。
冷静に見ると初演のキャストは、
「お馴染みの2人の2人芝居」のようではあっても、
その役柄をリアルに感じさせる、
というようには見えなかったからです。
ただ、検閲官が後半で一度恫喝するところがあるでしょ。
あそこはもう一段凄味が欲しかったと思いました。

この作品の弱点は、
ラストがそのままでは終われない、
という部分だと思うのですね。
青年座付き作家が去って行って、
検閲官が1人残されるでしょ。
ここでちょっと小芝居がないと、
終われないですよね。
つかこうへいの「熱海殺人事件」と一緒で、
戯曲にきちんとした終わりがないので、
それを演出や役者が埋めないといけない、
というような構造になっているんですね。

今回で言うと、
検閲官は戯曲を読み直して笑いだして、
それからちょっと切ないような表情をして、
それでラストになるのですが、
これで「笑いとペーソス」ということになるのかしら。
こうした台詞のない小芝居をしないと、
終われないというのは如何なものか、
というように思うんですね。
今回の演出では、オープニングも、
1人で部屋に入って来た座付き作家が、
こちらも少し時間を使って小芝居をしていて、
おそらくラストとのバランスを取ったのだと思うのですが、
こういう勿体ぶった感じの演出が、
僕はあまり好きではありません。
本来もっとスパッと始めて、
スパッと終われないといけない筈で、
それが出来ないということは、
戯曲自体に瑕疵がある、ということではないでしょうか?

そんな訳でこの戯曲の素晴らしさを、
改めて感じさせる上演であった一方で、
まだこなれていない部分も散見される上演でもありました。
同一キャストでの、
練り上げられた再演に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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月影番外地その7「暮らしなずむばかりで」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
暮らしなずむばかりで.jpg
高田聖子さんが企画している、
月影番外地の第7弾として、
福原充則さんの新作を木野花さんが演出し、
高田さん以外に松村武さん、宍戸美和公さんらが出演する舞台が、
先日下北沢のスズナリで上演されました。

これはもうレトロに小劇場という感じの舞台。

3人の小劇場で生きて来た、
おじさんおばさん役者をメインにして、
果たして今の時代にどのような「物語」が可能なのか、
今はドラマの脚本でも名を挙げている福原さんが頭を絞り、
こちらも小劇場と共に年を重ねて来た、
木野花さんの演出でスズナリで上演、というのですから、
これはもう生粋の小劇場演劇です。

ボロアパートに暮らす、
曰くのある3人の中年の男女の人生スケッチが、
ちょっとした金銭的トラブルから、
瞬く間に闇の世界に疾走し、
ラストは異界の扉を抜けるというところで終わります。

勿論派手さはないのですが、
工夫された台本も、手作り感のあるセットや演出も、
なかなか趣きのある感じです。
役者は松村武さんが、
これぞプロというスケール感のあるお芝居で、
舞台の格を一段上げていたように思います。

多分小劇場に慣れ親しんでいない方には、
あまり向いていない舞台であるように思いますが、
小劇場好きにはとても楽しく、
その世界にゆったりと浸ることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「宝飾時計」(根本宗子作・演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
宝飾時計.jpg
根本宗子さんの新作公演が、
物凄い豪華なスタッフとキャストを伴って、
今大々的に上演されています。

この作品についてはちょっと複雑な気分です。

根本宗子さんはバリバリの演劇少女としてデビューし、
熱のこもった小劇場の舞台で人気を集めました。
演劇作品としてはその当時の、
下北沢のスズナリなどの小劇場を、
熱気で埋め尽くしたような舞台が、
とても印象に残っています。

それが次第にビックネームになって、
中劇場クラスの箱での公演が増えると、
多くの劇団がそうですが、
やや水増しされたような舞台面になりました。
最近ではその交流も演劇界を超えて多岐に渡り、
作家としてもそのキャリアを積み上げています。

1つの明確な成功パターンを辿っていることは、
間違いがないことだと思います。

今回の舞台はホリプロステージとして企画され、
ホリプロの高畑充希さんが主役で、
成田凌さん、小池栄子さん、伊藤万理華さんが競演、
衣装は著明なファッションデザイナー、
音楽は生演奏で、
テーマ曲は椎名林檎さんの書き下ろしという、
豪華絢爛な布陣です。

これ、何に似ているかと考えると、
中島みゆきさんの「夜会」に近い感じなんですね。

ストーリーはあるのですが、
台詞劇という感じではないのですね。
どちらかと言うと、高畑充希さんの1人語りに近い雰囲気で、
他のキャストは基本添え物という感じ。
高畑さんの感情に伴って、
時間も空間もコロコロ変わっていって、
他のキャストはそれをサポートするために出演している、
という構成です。
そして、ラストは生演奏でテーマ曲を、
高畑さんが歌い上げて終わるのです。

ね、「夜会」と一緒でしょ。

中島みゆきさんの語りがあって、
悠然たるテンポで、
繰り返しの多い場面が、
淡々と続いていって、
テーマ曲で締め括られます。

内容も小説の心理描写に近いですよね。
子役時代に1人の少年への情念から、
自分の成長を止めて、
同じ少女の舞台を演じ続けている主人公の、
心の揺らぎを綴って行きます。
2幕構成になっていて、前半も後半も70分という構成。
前編の終わりにある「秘密の曝露」があって、
結構衝撃的に雰囲気が変わるのですが、
後半は再び前半の流れを、
その秘密を交えた形で繰り返すのです。

内容も悪くないし、
キャストは豪華だし、
ラストの歌も素敵で悪くありません。

ただ、「夜会」が純粋な演劇ではないのと同じ意味で、
この作品も演劇ではないという気がします。

何より、豪華キャストがとても勿体ないですよね。

小池栄子さんは今や充分主役を張れる大女優ですが、
今回の役柄は台詞はあるものの、
主人公の心理を補完する程度の役割ですし、
伊藤万理華さんも、
「サマーフィルムにのって」など、
唯一無二の存在感のある女優さんなのに、
その存在感が活かされているとはとても思えません。
成田凌さんの役柄も、
対等な主人公の相手役ではなく、
主人公の心理の反響板のような役割を、
半ば人形のように演じているだけにも思えます。

こうした内容であれば、
ほぼ高畑さんの1人芝居でいけたと思いますし、
その方が観客の想像力を刺激して、
より演劇としては本来の姿かな、
という気がします。

まあでも、
かつての小劇場的なものからは遠く離れて、
根本さんは根本さんでしか叶わない夢を、
追い求めているのだと思いますから、
個人的にややその方向性には興味を失いつつあるのですが、
今後も時々は様子を窺いたいとは思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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彩の国シェイクスピア・シリーズ「ジョン王」(2022年吉田鋼太郎演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ジョン王.jpg
もともと蜷川幸雄さんの演出により、
シェイクスピアの全作品上演を予定していた、
彩の国のシェイクスピア・シリーズですが、
蜷川さんが亡くなったため、
それを引き継いだ吉田鋼太郎さんの演出で、
2020年に予定されるも、
新型コロナのため中止となった作品「ジョン王」が、
今装いも新たに、
シアターコクーンで上演されています。

ジョン王役は横田栄司さんが当初予定されていましたが、
病気のため降板となり、
映画「ヘルドックス」の怪演も印象的だった、
吉原光夫さんに交代。
ジョン王の副官的な謎めいた男を小栗旬さん、
敵対するフランス王に吉田鋼太郎さん、
という布陣です。

これはかなりの問題作というか、
吉田鋼太郎さんの趣味爆発の怪作で、
ラストなどはかなり呆然としてしまいました。

シェイクスピアの原作の骨格はそのままながら、
昔懐かしいアングラ演出を臆面もなくやりまくり、
ミュージカル仕立てで過去のポップスなどを熱唱するという、
おかしなサービスまで付いています。

もし万一まともなシェイクスピア劇を期待して、
劇場に足を運ぶ予定の観客があるとすれば、
そんなものではありませんよ、
と力の限りお止めしたいと思います。

これはそんな作品ではありません。

以下ネタバレを含む感想です。

最初後ろの搬入口が開いていて、
これを演出に使い始めたのは、
蜷川さんの「身毒丸」の初演が最初だと思いますが、
外の渋谷の町の駐車場から、
私服姿の小栗旬さんが歩いて来て、、
アーサー王の扮装の子役が登場して水たまりで転び、
それを写メしようと向かい合うところでストップモーションすると、
巨大なオレンジ色の月が上がり、
一気にシェイクスピアの世界に時間が移ります。

本来戯曲の主人公はジョン王の筈で、
小栗旬さん演じる先王の私生児を名乗る男は、
イアーゴ的な脇役ですが、
王室に入り込む異物と言う設定を膨らませて、
それを1人だけ現代の衣装で演じることで、
現代とシェイクスピアの時代を繋ぎ合わせ、
舞台となった13世紀の血塗られた戦争の時代が、
沖縄戦やウクライナ戦争と重ね合わされます。

オープニングの辺りは、
ちょっとやり過ぎの感もあるけれど、
このくらいの解釈から入っても、
悪くはないのではないかと思って観ていたのですが、
前半の終わりで「涙そうそう」が大音量で流れ、
血まみれの悪趣味なマネキンが無数に宙吊りになる背景の中、
アーサー王の母親が狂乱して舞踏的に踊り狂う、
という場面には、
さすがにこれをシェイクスピア原作と謳うのは、
ちょっと違うのではないかと思い始めました。

後半になると、
その歌謡ショー的な側面は露骨になり、
小栗旬さんはザ・バンドの名曲「アイ・シャル・ビー・リリースト」を、
訳詞で歌い上げ、
ラストはカーテンコールでも1人静止したままの小栗旬さんの前に、
機関銃を持ったコマンドが登場し、
その前で衣装を脱ぎ捨てて最初に戻った小栗さんは、
そのまま渋谷の町に退場し、
コマンドが客席に銃口を向けると、
フォークソングが大音量で鳴り響き、
背後の門には巨大な菊の御紋が浮かび上がって暗転します。

こういうのは確かに昔は沢山あったのですよね。

蜷川さんも清水邦夫さんの戯曲の演出などで、
こうした観客を巻き込んだアングラ演出を多用していましたが、
その後商業演劇にその場を移してからは、
確かに「王女メディア」のラストに、
現代の戦争の音響を重ねるような、
「匂わせ演出」はあるものの、
基本的には観客の望むものを、
丁寧かつ親切に提供する、
という姿勢を第一にしていたと思います。

要はTPOの問題だと思うのです。

僕はアングラ芝居は大好きなのですが、
彩の国シェイクスピア・シリーズで、
滅多に上演されることのない、
マイナーなシェイクスピア作品を上演するという試みなのですから、
作品の真価を味わえるような、
まっとうな上演を期待した観客が、
大多数であったと思うのですね。

それでこのようなアングラばりばりの舞台を上演するのは、
どのような意図があったとしても、
矢張りやるべきではなかったように、
僕には思えてなりません。

そんな訳で開けてびっくりのヘンテコ上演でしたが、
演技派の競演には見どころも多く、
吉田さんには次は内容と演出との方向性がマッチした、
現代に牙を剥く先鋭的な芝居を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2022年の演劇を振り返る [演劇]

あけましておめでとうございます。
北品川藤クリニックの石原です。

今年もよろしくお願いします。

今日は昨年の演劇を振り返ります。

昨年は以下の公演に足を運びました。

1.ほりぶん「かたとき」
2.松尾スズキ「命、ギガ長ス」(再演;ギガ組)
3.マクドナー「ピローマン」(演劇集団円 寺十吾演出)
4.北村想「奇蹟 miracle one-way ticket」
5.蓬莱竜太「広島ジャンゴ2022」
6.加藤拓也「もはやしずか」
7. ゴキブリコンビナート「貧民窟サバイバル」
8. シベリア少女鉄道「どうやらこれ、恋が始まっている」
9.「神州無頼街」(劇団☆新幹線)
10.「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」(唐組・第68回公演)
11.岩松了「青空は後悔の証し」
12.倉持裕「お勢、断行」
13.松尾スズキ「ドライブイン カリフォルニア」(2022年上演版)
14.「奇人たちの晩餐会」(2022年山田和也演出舞台版)
15.「2020」(上田岳弘作 高橋一生1人芝居)
16. 「ザ・ウェルキン」(作ルーシー・カークランド 演出加藤拓也)
17.ゴキブリコンビナート「こえだめアンダンテ」
18.三谷幸喜「VAMP SHOW ヴァンプショウ」(2022年河原雅彦演出版)
19. ケラリーノ・サンドロヴィッチ「世界は笑う」
20. NODA・MAP第25回公演 『Q』:A Night At The Kabuki(2022年再演版)
21. シェイクスピア「ヘンリー八世」(吉田鋼太郎演出2022年再演版)
22. 加藤拓也「ドードーが落下する」
23. イキウメ「天の敵」(2022年再演版)
24. 唐十郎「秘密の花園」(唐組・第69回公演)
25. 宅間孝行「ぴえろ」(タクフェス第10弾)
26. 岩松了「クランクイン!」
27. シベリア少女鉄道「アイ・アム・ア・ストーリー」
28. SPAC「夢と錯乱」(2022年東京芸術祭上演版)
29. 「薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」(2022年劇団☆新感線42周年秋興行)
30. 松田正隆「真夏の砂の上」(2022年栗山民也演出版)
31. アラバール「建築家とアッシリア皇帝」(2022年生田みゆき演出版)
32. 城山羊の会「温暖化の秋」
33. KERA・MAP「しびれ雲」
34. 三谷幸喜「ショウ・マスト・ゴー・オン」(2022年上演版)
35. 松尾スズキ「ツダマンの世界」

以上の35本です。
今年もあまり頻繁には劇場に行けず、
観落としている作品が多いので、
ベストを選ぶことはせず、
特に素晴らしかった作品を幾つか順不同でご紹介したいと思います。

①加藤拓也「もはやしずか」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-04-17
間違いなく昨年最も感銘を受けた1本で、
そのテーマのこれまでにない切り口の斬新さと、
安達祐実さんや黒木華さんなどの、
実力派の役者の競演に魅せられました。
ラストを公演途中で削除するなど、
未完成な部分を残しながら、
そんなことはどうでも良いと、
思わせるような凄味がありました。
それで一気に加藤拓也さんのファンになり、
翻訳劇の「ウェルキン」や新作の「ドードーが落下する」にも足を運んだのですが、
それぞれに刺激的な作品ではあったものの、
この作品の衝撃には及びませんでした。

②ゴキブリコンビナート「こえだめアンダンテ」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-07-24
ゴキブリコンビナートが、
本当に久しぶりに順路演劇を上演してくれました。
下北沢のバースペースを改造して迷宮世界が作り込まれ、
見ず知らずの女性とコンビを組んで、
得体の知れない「鬼」を倒すというミッションを体感しました。
途中で2人は離ればなれになり、
最後に再会して鬼を退治するために謎を解くのです。
小劇場演劇の愉楽というのは、
まさにこうしたところにあるんですね。
この奇跡を実現させた労力には頭が下がります。

③イキウメ「天の敵」
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-10-02
演出により出来栄えにはかなりブレのあるイキウメですが、
この作品は哀愁の漂う前川版「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の物語に、
キャストの演技も演出の肌触りもマッチしていて、
その哲学風味のSFほら話に、
自然に没入することが出来ましたし、
最後に残る切ない余韻も素敵でした。

そんな訳で昨年も本数は少なかったのですが、
この3本の傑作に出逢えただけで、
昨年は充実した観劇体験になりました。
関係者の皆様本当にありがとうございました。

今年何本くらいの舞台に出逢えるでしょうか?
感染防御には留意しつつ、
一期一会の思いで作品に対したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良いお正月をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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松尾スズキ「ツダマンの世界」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ツダマンの世界.jpg
松尾スズキさんの久しぶりの新作が、
渋谷のシアターコクーンで上演されました。

今回は昭和初期から戦後すぐくらいを舞台に、
ツダマンと称された作家と、
太宰治をモデルにしたその弟子との葛藤を軸にして、
フェミニズムの時代から俯瞰して男女の性の問題を、
松尾さんなりに咀嚼してロマネスク的な舞台に仕上げた作品です。

タイトルロールを阿部サダヲさんが演じていて、
弟子の作家を間宮祥太朗さんが演じていますが、
どちらかと言えば吉田羊さん、江口のり子さん、笠松はるさんといった、
女性陣の生きざまに力点が置かれた作品です。
ラストはちょっと根本宗子さんばりに、
女性陣が自分の主張を客席に向かって歌い上げる、
というような趣向になっています。

阿部サダヲさんはどちらかと言えば引いた芝居に終始し、
皆川猿時さんと村杉蝉之介さんが、
かつての松尾作品の狂気を孕んだ役柄を演じますが、
以前と比べればかなり大人しい雰囲気で、
役者の狂気が梃子となって、
作品世界が予想もしなかった方向に転がり出すような、
昔の大暴れを期待すると、
やや肩透かしの気分にもなります。

僕はかつての「愛の罰」や「嘘は罪」で松尾戯曲の虜になり、
多くの地獄巡りを共に旅したという実感があるので、
勿論かつてのそうしたお芝居が、
今の社会状況やモラル意識、
フィクションで許容される表現のようなものに、
抵触する部分のあることは理解していますが、
それに匹敵する別種の魅力が今回の新作にあるかと言うと、
あまりなかったように感じました。

おそらく明治から昭和の文豪の世界というものも、
今後は今の倫理観から俯瞰されて糾弾され、
その作品の価値も否定される流れになるのだと思いますが、
松尾さんにはもっと自由度のある世界で、
心ゆくまでその妄想の翼を広げて欲しいな、
というようには感じました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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