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成人の胸腺切除の影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
胸腺切除の免疫への影響について.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年9月3日付で掲載された、
胸腺切除のその後の影響についての論文です。

胸腺というのは、
胸の中央の胸骨の裏側で心臓の前にある、
リンパ組織で、
小児期の細胞性免疫の成立に大きな役割を果たし、
T細胞と呼ばれるリンパ球を産生すると、
通常は30歳くらいまでに萎縮して脂肪に置き換わります。

小児期を過ぎると、
年齢を重ねるに従って、
胸腺からのT細胞の産生は減少し、
代わりに末梢で複製されたT細胞が、
細胞性免疫の主体を担うようになります。

従って、大人における胸腺は、
特に必要不可欠な組織ではない、
という見解があり、
そのため心臓や縦郭などの手術の際には、
胸腺に特に病気がなくても、
胸腺の切除を行うことがしばしば行われて来ました。

しかし、このように成人以降で胸腺を切除した場合の、
その後の健康影響については、
これまであまり厳密な検証が行われていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカのマサチューセッツ総合病院において、
成人(18歳)以降で心臓手術などの際に胸腺の切除を受けた、
トータル1146例の患者の予後を、
心臓手術を同様に施行して胸腺は温存された、
1146例のコントロール群の患者と、
年齢などをマッチングさせて比較検証しています。

その結果、
術後5年の時点での死亡率は、
胸腺切除群で8.1%に対してコントロール群では2.8%で、
胸腺切除群の総死亡リスクはコントロールと比較して、
2.9倍(95%CI:1.7から4.8)有意に増加していました。
また術後5年の時点までの癌リスクも、
胸腺切除群で7.4%に対してコントロール群では3.7%で、
胸腺切除後の癌リスクはコントロールと比較して、
2.0倍(95%CI:1.3から3.2)有意に増加していました。
自己免疫疾患のリスクについては有意な差はありませんでしたが、
術前に感染症、癌、自己免疫疾患のあった患者を除外して解析すると、
胸腺切除群での自己免疫疾患発症リスクも、
1.5倍(95%CI:1.02から2.2)有意に増加していました。

これは術後5年以内の解析ですが、
その後の長期経過を追えた事例について、
一般住民の標準的なリスクと比較した解析においても、
総死亡リスクも癌リスクも胸腺切除群で高くなっていました。

このように成人以降であっても、
胸腺の切除はその後の生命予後に、
悪影響を与える可能性があり、
今後どのような事例においてそのリスクが高いのか、
といったより詳細な解析を含めて、
この問題はより深い検証が必要だと考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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