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村上春樹「街とその不確かな壁」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は夏季の休診期間でクリニックは休診です。
明日15日からは通常通りの診療に戻ります。
ご迷惑をお掛けしますが、ご了承下さい。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
街とその不確かな壁.jpg
村上春樹さんの最新長編を読了しました。

これは最近の村上さんの長編の中では、
一番好きな作品です。

村上さんの長編で最も好きなのは、
何と言っても「羊をめぐる冒険」で、
この作品は村上節が堪能出来る上に、
ミステリー的な構成がガッチリ出来ているでしょ。
他にはこうした作品はないんですよね。
いつも構成には難があって、
ラストはおやおやという感じになります。

次に好きなのは、
「ノルウェイの森」と「国境の南、太陽の西}の、
情念とエロスの恋愛小説。
強烈で濃厚な世界に酔うことが出来ます。

一方で2つの世界を往還するような、
複数視点のファンタジー小説はあまり好きではないんですね。

ただ、小説のどの部分が一番好きかと言われると、
「ダンス・ダンス・ダンス」の、
前半の主人公が必死で羊男を探して、
闇の中で出会うまでの描写なんですね。
あれは良かったよね。
単調な日常を克明に描写して、
そこで遂に幻影との再会が叶うというあの感触、
あれこそ村上小説の神髄だと、
個人的にはそう思っています。

今回の作品は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の派生作で、
同じ架空の街が出て来るという話なので、
個人的には苦手ジャンルなのですが、
それでいて基本的には単一視点の物語で、
長い第二部では、
「ダンス・ダンス・ダンス」に近い、
忍耐の時間が現実を変容させる、
という僕好みの描写があって、
「なかなかいいじゃん」という気分になりました。

第三部は個人的には蛇足に感じたんですね。
おそらく力を入れて描かれたのだろうな、
ということは分かるのですが、
第二部のラストで唐突に川を遡ると若返って最愛の少女に出逢うなんて、
何そのご都合主義、という怒りを覚えましたし、
最後には少女の姿もぼやけてしまうんじゃ意味ないじゃん、
とラストには脱力しました。
まあでも、「世界の終わり…」と同じと言えば同じなんだよね。
怒る方が多分村上さんを理解していない、
ということになるのだと思います。

でも、個人的には第一部のラストは、
「ノルウェイの森」みたいな余韻があって悪くなかったし、
第二部の抑制の効いた日常描写は大好物だったので、
第三部でガッカリはしましたが、
「騎士団長殺し」や「巡礼なんちゃら」辺りよりは、
100倍楽しめる作品でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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