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ベムペド酸の心血管疾患予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ベムペド酸の心血管疾患予防効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年4月13日付で掲載された、
新規コレステロール降下剤の有効性についての論文です。

コレステロール降下剤の主役は、
所謂スタチンと呼ばれるタイプの薬です。
アトルバスタチンやプラバスタチン、ロスバスタチンなどがその代表で、
コレステロールの合成酵素を阻害することにより、
強力にLDLコレステロールを低下させ、
心筋梗塞などの心血管疾患の、
再発予防効果も確認されています。

ただ、スタチンには、
新規糖尿病の発症リスク増加や、
筋肉痛や筋脱力などの、
筋肉系の有害事象が多いという特徴があり、
スタチン治療の適応と考えられても、
その継続が困難な患者さんが一定レベル存在しています。

実際にはスタチンを本当に使用出来ないという患者さんは、
極少数に留まるという報告が多いのですが、
軽度の筋肉痛などの症状で、
臨床的には継続することは可能であっても、
患者さん自身の不安や拒否感が強く、
現実には継続が困難であることが多いことも知られています。

それでは、スタチンと同等の有効性を持ち、
コレステロール低下作用のみならず、
心血管疾患の予防効果も併せ持って、
スタチンが継続困難な患者さんにも、
安全かつリーズナブルに、
使用可能は薬はないのでしょうか?

その候補として今注目されているのが、
今回ご紹介するベムペド酸(Bempedoic Acid)です。

ベムペド酸はATPクエン酸リアーゼ(ACL)、
という酵素の阻害作用を持つ薬です。
この酵素はコレステロールの合成に関わる酵素で、
この酵素を阻害することにより、
血液中のコレステロールは低下します。

このメカニズム自体は、
スタチンと同じなのですが、
スタチンはHMG-CoA還元酵素という酵素を阻害するのに対して、
ベムペド酸はそれより初期段階の酵素であるACLを阻害する、
という点が違うのです。

もう1つのポイントはベムペド酸は、
そのままで効果を示す薬ではなく、
細胞の中にあるASCVL1という酵素により代謝を受けることで、
初めてその活性が生じる、
という性質があることです。
こうした薬をプロドラッグと言います。

ASCLV1は肝臓の細胞に潤沢に存在しているので、
ベムペド酸は肝臓の細胞で働いて、
コレステロールの合成を抑えます。
その一方で膵臓の細胞や筋肉の細胞には、
ASCLV1が存在していないので、
筋肉や膵臓ではこの薬は働きを示さず、
そのため糖尿病や筋肉系の有害事象を、
スタチンのようには起こさない可能性が想定されるのです。

それではこの薬はどの程度の有効性を持ち、
本当にどの程度の安全性があるのでしょうか?

今回の臨床試験はベムペド酸の有効性を評価する目的で、
心血管疾患のリスクが高く、スタチンの適応であるものの、
副作用などの原因でスタチンの使用が困難な13970名の患者を、
世界32か国で登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
患者にも主治医にも分からないように、
一方は毎日180㎎nベムペド酸を使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で40.6か月の経過観察を施行しています。

その結果、
ベムペド酸の使用により、
LDLコレステロールは21.1%に当たる29.2mg/dL低下し、
心血管疾患による死亡と、心筋梗塞、脳卒中、心臓カテーテル治療を併せたリスクは、
13%(95%CI:0.76から0.96)有意に低下していました。
有害事象としては、
痛風と胆石症のリスク増加が認められました。

このように、
ベムペド酸は高力価のスタチンほどの、
コレステロール低下作用はありませんが、
中力価のスタチン治療に匹敵する効果を持ち、
このコレステロール低下作用に、
ほぼ見合った心血管疾患の予防効果も確認されました。

その有害事象としては、
以前より指摘のある痛風と胆石症が認められ、
その使用時には胆石の有無や尿酸値に、
注意する必要があると考えられます。
またこれまでの他の臨床データより、
腎機能の低下や腱断裂が報告されている点にも注意が必要です。
スタチンとの併用はあまり想定はされていませんが、
シンバスタチンとプラバスタチンの血中濃度を上昇させ、
フェノフィブラート以外のフィブラート製剤は、
胆石症のリスクを高める可能性があることより、
原則禁忌と考えられているようです。

この薬は理論的にはスタチンのような、
糖代謝や筋肉系の副作用は生じない筈なのですが、
実際にその点がどうなのかについては、
今後より多数例で長期の臨床観察が必要であると考えられます。

ベムペド酸の使用は、
スタチンが使用困難な患者さんにおける選択肢として、
非常に有望なもので、
近い将来に日本でも発売されると思いますが、
その安全性を含めた評価については、
今後の検証を待つ必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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若年性脳卒中後の癌リスク増加について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談や保育園の健診で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脳卒中と癌リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年3月28日ウェブ掲載された、
若年性脳卒中後の新規癌リスクについての論文です。

脳卒中と癌は勿論全く別の病気ですが、
両者に一定の関連があるというデータは、
以前より存在しています。

癌の中には、
その初期症状が脳卒中、
というケースがあります。

また、癌の患者さんはその経過の中で、
脳卒中を起こしやすいというデータもあります。
これはその癌そのものの性質による場合もありますし、
癌による身体の変化が、
血液に血栓を生じやすくしたり、
出血を起こしやすくしたという可能性、
また抗癌剤などで治療をされている癌患者であれば、
その副作用として起こるというケースも想定されます。

脳卒中というのは、
脳梗塞と脳出血とを併せた用語です。
脳内出血は高血圧によって起こることが多く、
脳梗塞は身体に血栓という血の塊が出来易い体質や、
心臓の病気、
動脈硬化の進行などによって起こります。

このため、
脳卒中の多くは50歳以上で発症しますが、
中にはより若年での発症があり、
概ね49歳までに起こる脳卒中を、
若年性脳卒中と呼んでいます。
ただ、これは必ずしも国際的な定義のようなものではなく、
文献によっては45歳までになっていたり、
40歳までになっていることもあります。

若年性の脳卒中では、
動脈硬化の進行による原因は、
当然少ないので、
高齢者の脳卒中とは別個に考える必要があります。

それでは脳卒中と癌との関連について、
若年性脳卒中とそうでない場合とで、
何か差はあるのでしょうか?

今回の疫学研究はオランダにおいて、
15歳以上で癌の既往はなく、
初めて虚血性梗塞もしくは脳内出血に罹患した、
15から49歳の27616名と、
50歳以上の362782名の、
脳卒中後の癌リスクを比較検証しています。

その結果、
15から49歳までに若年性脳卒中を発症後1年以内に、
癌が診断されるリスクは、
虚血性梗塞の場合標準的な罹患率の2.6倍(95%CI:2.2から3.1)、
脳内出血の場合標準的な罹患率の5.4倍(95%CI:3.8から7.3)、
有意に増加していました。
この癌リスクの増加は、
主に肺癌と血液系の癌の増加によるものでした。

一方で50歳以上発症の脳梗塞で同様の検証を行うと、
虚血性梗塞の場合標準的な罹患率の1.2倍(95%CI:1.2から1.2)、
脳内出血の場合標準的な罹患率の1.2倍(95%CI:1.1から1.2)と、
こちらも有意に増加はしていましたが、
若年性脳卒中の場合と比較すると、
そのリスクの増加はより小さいものになっていました。

このように、
特に若年性脳卒中においては、
その後1年以内に癌と診断されるリスクが、
通常の数倍以上に増加していて、
その正確な原因はまだ不明ですが、
若年性脳卒中の罹患後には、
必要に応じて癌のスクリーニングを行うなど、
慎重な全身状態のフォローが必要であると思われました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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トラネキサム酸の帝王切開時産科異常出血予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トラネキサム酸の出血予防効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年4月13日付で掲載された、
トラネキサム酸の産科領域の出血予防効果についての論文です。

トラネキサム酸(tranexamic acid )は、
必須アミノ酸のリシンが、
生合成される時の誘導体を元に、
人工合成された化合物です。

1960年代に当時の第一製薬が開発販売し、
現在でも第一三共製薬が、
先発品として商品名「トランサミン」で販売。
先発品自体安価な薬ですが、
ジェネリックも多く発売されています。

開発者は後に神戸大学の医学部長などを勤めた、
岡本先生で故人です。
主にこの業績により、
ノーベル賞の推薦を受けたこともあります。

さて、このトラネキサム酸は、
そもそも止血剤として開発されました。

この合成アミノ酸の一種は、
プラスミノーゲンという蛋白分解酵素にくっつき、
その作用を妨害します。
このプラスミノーゲンは、
線溶と言って、
一旦凝固した血液を、
溶かすメカニズムに大きな働きをしているので、
それが妨害されると、
一度出来た血栓が溶け難くなり、
それだけ止血がし易くなる仕組みです。

血管に傷が出来れば、
血が部分的に固まって、
血栓を作り、その傷を塞ぎます。
しかし、どんどん血が固まり続ければ、
血管は詰まってしまいますから、
凝固と共に、
その血栓を溶かすような働き、
すなわち線溶が、
同時に起こっているのです。

人間の身体はこのように、
常に相反する働きを同時に持っています。

ただ、身体が色々な要因で出血に傾くと、
一時的には凝固を強めて線溶を弱めた方が、
身体の回復には望ましい、という状況が生じます。

それは大怪我をした時や、
外科手術の時、また鼻血や生理の出血が、
止まり難い時などです。

こうした状況では、
一時的にプラスミノーゲンの働きを弱め、
線溶を抑える薬の有効性が高まります。

その時に効果のあるのが、
このトラネキサム酸です。

トラネキサム酸は安価で、
飲み薬でも注射薬としても使えます。
この使用のし易さと効果の高さが、
この薬が50年以上に渡り世界中で使用されている理由です。

この薬は日本においては、
その抗炎症作用を期待して口内炎や咽頭炎に処方されたり、
プラスミンの抑制が肝斑に効果があるとして、
OTCが薬局で販売されたりしています。

ただ、こうした主に内服薬の出血予防以外の使用は、
殆ど日本のみの処方で、
その根拠もほぼ国内のもの以外にはありません。

アメリカのFDAはトラネキサム酸を、
2009年に重い生理出血の治療薬として推奨しました。

2010年の英国の医学誌「Lancet」には、
外傷後で救急の患者さんに、
急性期にトラネキサム酸を使用すると、
死亡のリスクが有意に低下する、
という論文が掲載されました。
2万人以上をトラネキサム酸使用群と、
偽薬に割り付けた、
非常に大規模な研究です。
危惧された血栓症の増加は認められず、
安全性も確認された形です。

この研究の取りまとめに当たった英国人の医師は、
岡本先生の妻に報告に訪れたと、
神戸新聞には記事が載りました。

このようにトラネキサム酸の効果は、
世界的にも確認がされています。

トラネキサム酸は分娩に伴う出血、
所謂産科異常出血の予防にも使用されています。

ただ、帝王切開時の使用については、
これまでの臨床試験において、
出血量を減少させるという効果は確認されていますが、
輸血のリスクを減少させるなどの効果については、
明確な結果が得られていません。

今回の臨床試験は、
アメリカの複数の専門施設において、
帝王切開を施行予定の妊娠女性、
トータル11000名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は分娩時臍帯を結索した時点で、
トラネキサム酸を1グラム静脈内注射し、
もう一方は偽薬を注射して、
分娩後の経過を比較観察しています。

その結果、
母体の死亡と分娩7日以内の輸血を併せたリスクは、
トラネキサム酸使用群の3.6%、偽薬群の4.3%に認められ、
トラネキサム酸により低下する傾向は認められたものの、
有意ではありませんでした。
手術時の1リットルを超える出血は、
トラネキサム酸群の7.3%、偽薬群の8.0%に認められ、
この差も有意ではありませんでした。
治療を要するような出血は、
トラネキサム酸群の16.1%、偽薬群の18.0%に認められ、
トラネキサム酸はこうした合併症のリスクを、
10%(95%CI:0.82から0.97)有意に低下させていました。

このように、トラネキサム酸の帝王切開時の使用は、
産科異常出血の予防に、
一定の有効性を示唆させる結果が得られましたが、
以前の同様のデータと同じように、
輸血のリスクを明確に抑制するような効果は、
認められない結果に終わりました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ビタミンD間欠大量投与の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビタミンDの間欠投与の有効性.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2023年3月31日ウェブ掲載された、
ビタミンDの間欠大量投与の有効性とリスクについての論文です。

ビタミンDはビタミンという名前は付いていますが、
体内でも合成されるステロイドホルモンの一種で、
骨の健康な成長と維持に必須であると共に、
細胞の成長や分化を調節して、
細胞の健康についても必要な成分であると考えられています。

実際にビタミンD濃度が低値であると、
骨粗鬆症や骨折のリスクが高まると共に、
心血管疾患のリスクや癌のリスク、
総死亡のリスクが増加するとする報告があります。

その一方でビタミンDをサプリメントとして使用したような、
介入試験と呼ばれる臨床試験の多くでは、
ビタミンDによる病気のリスク低下や、
生命予後の改善効果は確認されていません。

ビタミンDの高度の欠乏が、
骨粗鬆症や骨軟化症の原因となることは間違いがないのですから、
その補充にビタミンDを使用すれば、
骨量は増加して骨折リスクが低下しても、
おかしくはないように思われます。

しかし、実際にそうした効果のあるのは、
一部のビタミンDの高度の欠乏や、
骨軟化症など特殊な病気を持つ人に限られていて、
血液のビタミンD濃度が低下している一般の人に、
ビタミンDの補充を行っても、
そうした有効性は確認されないのです。

ビタミンDの補充としては、
毎日定期的に使用するという方法と、
たとえば、1か月に1回というように、
間欠的に投与を行うという方法があります。

現状特に混乱があるのが、
この間欠的使用法で、
ある介入試験のデータでは骨折リスクの低下が示唆されている一方、
複数の臨床試験において、
むしろ間欠的なビタミンD大量使用により、
骨折リスクが増加したという結果が報告されています。

ビタミンDの間欠大量投与には本当に危険があるのでしょうか?

今回の研究はその疑問を検証する目的で、
オーストラリアで施行されたもので、
60から84歳の一般住民トータル21315名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1か月に一度6万単位のビタミンDを補充し、
もう一方は偽のカプセルを使用して、
その後の骨折リスクについて、
中央値で5.1年の経過観察を施行しています。

その結果、
トータルな骨折リスクについて、
ビタミンD使用群と偽薬群との間で、
有意な差は認められず、
時間が経過するにつれ、
有意ではないものの、
骨折リスクは減少する傾向を示しました。

今回の大規模で厳密な臨床試験においても、
ビタミンDの補充を健康な高齢者に施行した場合の、
骨折予防効果は確認されませんでした。

しかし、その一方で一部で指摘されていた、
間欠大量投与による骨折リスクの増加も、
確認はされず、
長期的にはむしろ骨折リスクは低下する傾向を示していました。

この問題は今後も検証が必要ですが、
現状骨折リスクを抑制する目的で、
一般の高齢者にビタミンDを補充することの意義は、
科学的にはあまり実証はされていないと、
そう考えて大きな誤りはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ナイロン100℃「Don't freak out」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドントフリークアウト.jpg
ナイロン100℃の結成30周年公演が、
先日下北沢のスズナリで上演されました。

ナイロンは最近は中劇場クラスでの上演が殆どでしたから、
スズナリは本当に久しぶり、という感じです。

30周年ですか…
僕は勿論旗揚げから観ているので、
「そんなに時間が経ってしまったのか」と、
何か愕然として人生を振り返るような気分になります。

今回の作品はあまり笑いの要素はなく、
戦前の旧家を舞台にしたおどろおどろしい物語が、
アート的白塗りメイクの役者さんにより演じられます。

旧家の没落が、
松永玲子さんと村岡希美さんによって演じられる、
2人の女中たちを主人公にして描かれる、
というのがポイントで、
お話的にはケラさんに時々ある、
残酷な家庭劇のスタイルですが、
旧弊な男尊女卑の世界を舞台にして、
そこで自立してたくましく生きて行く、
女性の姿を描いている、
という側面もあります。

以前からそのアート的な場面構成や、
歌や闇で場面を断ち切るという趣向、
ナンセンスコメディで見せる、
今はあまりありませんが、
かつては定番であった、
ラディカルで前衛的で、
観客を巻き込むような演出は、
寺山修司の演出にかなり近い部分がありましたから、
今回の作品はケラさんのキャリアの中でも、
かなり寺山修司に寄せたな、
という感じの部分があります。

ただ、それならもっと、
ラディカルにやって欲しかったな、
というような思いもあります。
好きな世界なので、
どうしても希望が強くなってしまうのですね。

今回特筆するべきは、
矢張り舞台装置や映像などのスタッフワークの部分で、
これはもう今演劇界一と言って良い素晴らしさです。
あのスズナリに良くぞここまで作り込んだ、
と感嘆するような見事なセットに、
洗練された衣装とメイク、
そして音響と映像のコラボの精度は、
それだけで1つのアート作品として鑑賞することが出来ます。

役者は主役の2人を中心にして、
ナイロンの面々は的確で洗練された演技を見せていますし、
今回は特にゲストの松本まりかさんが、
艶っぽい役柄を魅力たっぷりに演じているのが眼福でした。

総じてケラさんの新作となると、
どうしても高いものを求めてしまうのですが、
非常に贅沢に作られた、
小劇場の宝石のような作品で、
心ゆくまでその世界に浸ることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「シン・仮面ライダー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
シン仮面ライダー.jpg
庵野秀明監督による過去の特撮レジェンドを、
庵野流にリクリエーションする企画の第3弾として、
「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」に次いで、
「シン・仮面ライダー」が公開されています。

これは過去2作と同じく一般公開初日に観たのですが、
多くの皆さんと同じように、
正直かなりガッカリしました。

「シン・ゴジラ」は中盤に向け徐々に盛り上がる、
という感じがあったのですが、
「シン・ウルトラマン」はオープニングのみ抜群で、
その後はオヤオヤという場面が続き、
ラストの貧弱なCGショーには、
失望以外のものを感じませんでした。
そのため今回は、
それほどの期待はせずに足を運んだのですが、
最初のクモ男(クモオーグ)のパートのみまあまあで
その後はまあ、とても恥ずかしいような感じで、
半分目を閉じて見ていたのですが、
後半に至っては、所謂「脱力超大作」そのもので、
「シン・ウルトラマン」をより劣化させたような、
CGパートがアクションの代わりに挿入され、
グッタリした気分で映画館を後にしたのでした。

まさかここまで酷いとは、
とちょっと想定外だったのですが、
良く考えると「実写版キューティーハニー」という、
こちらも信じられないくらい酷い作品があり、
それも庵野監督作品だったのですから、
こうしたジャンルの実写映画としては
これが庵野監督の定常運転であるのかも知れません。

これ、どう考えても肉弾戦のアクションをやるべきでしょ。
ドキュメンタリーを見ると、
それをやろうとしていたのに、
結果として監督が全て気に入らなくて、
それで最終的にはCGショーにしてしまったようなのですね。
何でそんなことをするのかしら?
天才の考えることは、
とても理解が出来ません。
肉体を否定すること自体は良いと思うのですが、
あのお絵描きのようなCGが、
それより良いとはとても思えないですよね。
本当に監督は自分の目で、
出来上がりの映像を見たのかしらと、
そんなことまで考えてしまいました。

それでも、ここまで公開前に、
ワクワクさせてくれる監督はいないことも確かで、
どうせ騙されてもそれはそれで構わないので、
これからも開けてビックリの壮大な見世物映画を、
監督には期待したいと思います。
どうせ駄目だと思っていると、
時々「悪くないじゃん」と思うことがあり、
ごくまれに、
身を乗り出すような作品があるので目が離せないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ後遺症のリスクについてのメタ解析 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や小学校の健診で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ後遺症のメタ解析.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年3月23日ウェブ掲載された、
新型コロナ後遺症のリスク因子についてのメタ解析の論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患時には、
その急性症状が回復した後に、
数か月から経過によっては数年に渡り持続する、
倦怠感や息苦しさ、眩暈や精神症状など、
幅広い症状が見られることが知られています。

この現象には多くの呼び方がありますが、
厚労省は「新型コロナウイルス感染症罹患後症状(いわゆる後遺症)」
という言い方を採用しています。

これはWHOが提唱している、
Post-COVID-19 Conditionを翻訳したものと思います。

そのメカニズムにはまだ不明な点が多く、
現時点で有効な予防法や治療法は確立していません。

今回の研究は、これまでの主だった臨床データをまとめて解析した、
システマティックレビューとメタ解析ですが、
主に新型コロナ後遺症に関わるリスク因子を検証したものです。

これまでの41の臨床研究に含まれる、
トータル860783名の患者データをまとめて解析したところ、
新型コロナ後遺症のリスク因子としては、
女性であることが1.56倍(95%CI:1.41から1.73)、
40歳未満と比較して高齢であると1.21倍(95%CI:1.11から1.33)、
BMI30 以上の肥満が1.15倍(95%CI:1.08から1.23)、
喫煙者が1.10倍(95%CI:1.07から1.13)、
それぞれ有意なリスク増加を示していました。
要するに女性であること、高齢であること、肥満のあること、タバコを吸うこと、が、
新型コロナ後遺症のリスクになるということです。

新型コロナの急性の感染時に、
入院した事例はそうでない事例と比較して、
後遺症のリスクが2.48倍(95%CI:1.97から3.13)、
集中治療室に入室した事例はそうでない事例と比較して、
後遺症のリスクが2.37倍(95%CI:2.18から2.56)、
有意に増加していました。
糖尿病や腎臓病、呼吸器疾患や心血管疾患の存在も、
後遺症のリスクを増加させていました。

また、ワクチンを2回接種していると、未接種と比較して、
後遺症のリスクは43%(95%CI:0.43から0.76)有意に低下していました。

このように、持病がある場合や新型コロナの感染自体が重症であった場合には、
後遺症のリスクもより高くなっていて、
現時点でデータが検証可能な範囲において、
そのリスクを抑制する可能性があるのは、
今回のメタ解析ではワクチン接種のみでした。

今後こうしたデータを基礎として、
本当の意味で有効な後遺症の予防法と治療法とが、
確立されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高齢者の体重変動と生命予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
体重減少と生命予後.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年4月10日ウェブ掲載された、
高齢者の体重の変動と生命予後との関連を検証した論文です。

体重は健康の大きなバロメーターの1つです。

中年くらいまでの年齢では、
体重増加が病気のリスク増加のバロメーターとなり、
糖尿病や内臓肥満が主な病気として問題となります。

それがある程度高齢になってくると、
むしろ体重は徐々に減少することが、
自然に見られるようになってきます。

これは筋肉や脂肪などの減少による生理的現象ですが、
その程度が生命予後にどのような影響を与えているのか、
というような点については、
あまり明確なことが分かっていません。

また、内臓脂肪の指標としては、
体重よりお腹周りの腹囲の方が、
よりその程度を的確に反映している、
という指摘もあり、
それが健康な高齢者に対しても成り立つのか、
というような点も不明です。

今回の研究はアメリカとオーストラリアで施行された、
アスピリンの予防効果を検証した、
疫学研究のデータを二次利用する方法で、
特に病気のない65歳以上の健常な高齢者の、
体重と腹囲の2年間での変化と、
生命予後との関連を比較検証しているものです。

対象は平均年齢75歳の16523名で、
体重の2年間の変動が5%以下と比較して、
男性の場合5から10%の体重減少があると、
総死亡のリスクは1.33倍(95%CI:1.07から1.66)、
体重が10%を超えて減少すると、
総死亡のリスクは3.89倍(95%CI:2.93から5.18)、
それぞれ有意に増加していました。

これが女性の場合、
同じく体重変動が5%以下と比較して、
5から10%の体重減少があると、
総死亡のリスクは1.26倍(95%CI:1.00から1.60)、
体重が10%を超えて減少すると、
総死亡のリスクは2.14倍(95%CI:1.58から2.91)と、
男性と比べると影響は小さいのですが、
矢張り体重減少と総死亡リスクは関連していました。

この体重減少に伴う死亡リスクの増加は、
癌による死亡のみで見ても、
心血管疾患による死亡のみで見ても、
それ以外の原因による死亡のみで見ても、
同じように認められています。

一方で腹囲の減少も同様に、
死亡リスクの増加に繋がっていましたが、
概ね体重減少よりも小さな影響に留まっていました。

このように、
特に2年以内に10%を超えるような体重減少は、
生命予後の悪化に結び付くような病気に関連している可能性が高く、
特に男性においてはその傾向が顕著であるので、
今後原因のはっきりしない高齢者の体重減少についての、
適切な観察や検査のガイドラインが、
作られることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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お酒の最低価格を上げることによる健康効果(スコットランドの試み) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコール価格と健康効果.jpg
Lancet誌に2023年3月21日ウェブ掲載された、
アルコールの価格を上げることによる、
アルコールに起因する疾患への影響についての論文です。

アルコールの摂取は、
それが適量(概ね1日1合、アルコール20グラム程度)であれば、
大きな健康影響はなく、
場合によって一部の病気のリスクを低下させる、
というようなデータもありますが、
それを超える飲酒については、
多くのアルコール関連疾患の原因となり、
生命予後にも悪影響を与えることが分かっています。
また、強い依存性があり、
アルコール依存症とそれに関連する精神疾患の存在も、
飲酒の大きな問題点です。

アルコールに関連する健康問題は世界的に深刻で、
特に経済的に困窮しているような人において、
その影響が表れやすいという点も問題を大きくしています。

スコットランドはウイスキーで有名で、
住民もお酒には強そうなイメージがありますが、
MUP(minimum unit pricing)という、
お酒の最低価格を国が決めて、
お酒の安売りを許さないという法律を、
世界で初めて導入し、
2018年5月から施行しています。

これはアルコール10mLに当たる1単位の最低価格を、
0.5ポンドに規定するという法律です。
この法律の施行により、
それまで安売りされていたようなお酒の価格が、
物によっては2倍以上に上昇するということになります。

その目的は、
アルコールが原因で起こる、
依存症や肝硬変、肝臓癌などの病気を減らし、
そうした病気で亡くなる人を減らそう、
というものです。

国民の飲酒量を減らすために、
大幅にその価格を上げよう、というのですから、
かなり荒っぽい方法であることは確かです。

勿論、その施行に当たっては、
アルコール飲料業界から強い反発があり、
「アルコールで病気になるのは、
一部の自堕落な飲酒者のみであって、
そのツケを全ての飲酒者が払うことは理屈に合わない」
「そもそもそんな法律でアルコール性の病気が減るとは思えない」
という批判の声も強く寄せられました。

それでは、実際にこの法律は効果があったのでしょうか?

今回の研究では飲酒に起因する入院と死亡の頻度を、
この法律施行前後で比較し、
またこうした法律が施行されていないイギリスとの比較も行っています。

その結果、
アルコールの最低価格を規定する法律の施行により、
飲酒に起因する疾患による死亡は、
13.4%(95%CI:-18.4から-8.3)有意に低下していました。
そして、アルコールに起因する入院も、
有意ではないものの低下する傾向を示していました。
この死亡リスクの低下は、
主にアルコール性肝障害やアルコール依存症による死亡の、
低下が原因となっていましたが、
一方でアルコール依存症による入院については、
増加する傾向を示していました。

つまり、アルコールの最低価格を規定する法律により、
トータルな飲酒量は減少し、
それに伴ってアルコールに起因する死亡は減少しています。
ただ、飲まないと禁断症状になるような依存症の患者では、
充分な治療がなされていないと、
飲酒の制限により一時的に病状が悪化して、
入院に結び付いたケースもあったと想定されます。

このように、
アルコールの価格を釣り上げて飲酒量を制限するという方策は、
アルコールに起因する健康被害を予防し、
その死亡リスクを低下させるという有効性があるようです。
ただ、どうしてもこうした方策により、
却って被害を被るようなケースも当然想定されるので、
依存症の患者のケアが、
その経済的な背景に関わらず手厚く行われることなど、
多くの配慮を行った上で、
施行されることが望ましいように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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75歳以上における大腸ファイバー施行の意義について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大腸ファイバーの高齢者での検査間隔.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年4月3日ウェブ掲載された、
高齢者の大腸癌スクリーニングの意義についての論文です。

便潜血や大腸ファイバーによる検診が、
大腸癌による死亡のリスクを低下させる効果のあることは、
これまでの精度の高い臨床データにより、
ほぼ実証されている事実です。

ただ、これは敢くまで、
45から75歳くらいの年齢に限った場合のデータで、
75歳以上の年齢層で、
同じことが言えるとは限りません。

大腸癌の多くは腺腫性ポリープから、
10年から15年という長期の経過を経て、
癌化すると考えられています。
大腸癌のスクリーニングの有効性が明確になるのにも、
同じくらいの時間が必要です。
そのため、患者さんの推定される余命が、
10年未満である場合には、
スクリーニング自体の評価は困難となります。

現行のガイドラインの多くでは、
75歳以上の高齢者で無症状の場合、
大腸癌検診は個別の受診者の推定される余命や、
他の病気の有無などを総合的に判断した上で、
個別に決めるべきとしています。

それでは、実際に75歳以上の無症状の高齢者に、
大腸ファイバーによるスクリーニングを施行することで、
そのような効果や影響が見られるのでしょうか?

今回の研究はアメリカにおいて、
75歳以上の高齢者、
トータル7067名にスクリーニング目的で施行された、
大腸ファイバー検査の有効性と有害事象とを解析したものです。
入院を要するような検査に伴う有害事象は、
検査後10日の時点で1000件当たり13.58件認められ、
年齢と共に増加する傾向が認められました。
大腸ファイバーを施行された75歳以上の7067名のうち、
56.6%に当たる3997名は異常はなく、
37.7%に当たる2669名は高度異形成ではないポリープを検出。
大腸癌に近い病変である高度異形成の腺腫は、年齢によりかなり差があり、
76から80歳では5.4%、81から85歳では6.2%、
それ以降では9.5%に認められました。
全体のうち、進行した大腸癌と診断されたのは、
0.2%に当たる15名のみでした。
この15名のうち推計される余命が10年未満の9名のうち、
実際に治療が施行されたのは1名で、
余命が10年以上と推計された6名のうち、
4名が治療を施行されていました。

このように、
無症状の75歳以上の年齢で施行された大腸ファイバー検査で、
進行癌が見つかる可能性は極めて低く、
推定される余命と比較した時に、
治療を要すると判断されるような病変が、
見つかる可能性も極めて低いということが分かります。
その一方で高齢者では検査に伴う有害事象も多く発生するため、
現状は積極的に検査を行う必要性は、
通常は低いと考えて誤りはないようです。

従って、スクリーニングとしての大腸ファイバー検査は、
基本的には75歳未満で施行し、
その結果をもとにして、
その後のスクリーニングの方針を、
その方の健康状態や年齢などを考慮しつつ、
決めることが現状では妥当な方針であるようです。
勿論これは無症状の場合なので、
症状や他の検査などから、
大腸癌の可能性が疑われる場合には、
その時点で検査を考慮することは、
高齢であっても否定されるものではありません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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