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2 型糖尿病治療薬の有効性比較(2023年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病治療薬と生命予後.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年4月6日ウェブ掲載された、
2型糖尿病治療薬の有効性を比較してメタ解析の論文です。

2型糖尿病の治療薬は最近重要な新薬が複数開発され、
数年前までとはかなり様相が変わりました。

以前は血糖をともかく正常値に近付けることが絶対とされ、
飲み薬ではSU剤、注射薬ではインスリンが主役となり、
血糖値を強力に下げることが、
患者さんの予後の改善に結び付くと考えられていました。
しかし、勿論血糖値が正常化することは望ましいことではあるのですが、
強力な血糖降下作用を持つ薬を使用すると、
低血糖のリスクが高まり、
却って患者さんの予後に悪影響を与える可能性が、
精度の高い臨床試験結果で示されたことで、
血糖を下げることが絶対ではない、
という考え方が生まれたのです。

血糖コントロールの指標であるHbA1cを、
7.5%以下に維持することは、
多くの合併症を防ぐために意義のある治療ですが、
それを下回る厳格な血糖コントロールを目指しても、
それだけでは患者さんの予後の改善には結びつきません。

多くの2型糖尿病の患者さんの予後を決定しているのは、
実際には心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患と腎臓病です。
つまり、こうした病気を予防する効果がなければ、
治療薬にはあまり意味がない、
ということになるのです。

近年、そのハードルをクリアした薬が、
尿にブドウ糖を排泄する作用を持つSGLT2阻害剤と、
インクレチンという、
SU剤などとは異なるマイルドなインスリン分泌作用を持つ、
GLP-1アナログという注射薬でした。

その後GLP-1アナログは飲み薬も開発され、
更に2種類のインクレチン(GIPとGLP)を共に刺激する作用を持つ、
新しい注射薬チルゼパチド(商品名マンジャロ)も開発されました。
腎臓病に関しては、
2型糖尿病に合併する慢性腎臓病の治療薬として、
腎臓の炎症や線維化を予防する作用があるとされる、
ミネラルコルチコイド受容体の阻害剤フィネレノン(商品名ケレンディア)も、
既に臨床で使用が開始されています。

それでは、現時点の臨床データを比較した時、
患者さんの予後改善のために、
このうちのどの薬が最も優れているのでしょうか?

今回の検証は、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析して比較する、
システマティックレビューとネットワークメタ解析という手法を用いて、
この問題の現時点で最新の検証を行っています。

これまでの816の精度の高い臨床試験に含まれる、
トータルで471038名の患者データをまとめて解析したところ、
スタンダードな治療と比較して、
SGLT2阻害剤の使用は12%(95%CI:0.83から0.94)、
GLP-1アナログの使用は12%(95%CI:0.82から0.93)、
総死亡のリスクを有意に低下させていました。

フィネレノン(商品名ケレンディア)の使用も、
データはまだ少ないものの11%(95%CI:0.79から1.00)、
総死亡リスクを低下させる傾向を認めました。

より古くから使用されている薬の中では、
メトホルミンを含まないスタンダードな治療にメトホルミンを追加すると、
総死亡リスクを低下させる傾向は認めたものの有意ではなく、
SU剤は総死亡リスクを増加させる傾向を、
有意ではないものの認めていました。

このように、
現状心血管疾患リスクを抑制して総死亡リスクを低下することが、
ほぼ実証されているのが、
SGLT2阻害剤とGLP-1アナログで、
フィネレノンにもまだ明らかとは言えないものの、
その可能性がありそうです。

こうしたデータを今後も積み重ねることにより、
2型糖尿病の患者さんにとって真の意味で有用な治療が、
実証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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