SSブログ

新型コロナ感染症に伴う糖尿病発症リスク増加について(2023年カナダの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19と糖尿病リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年4月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症後の、
糖尿病リスクについての論文です。

この話題については以前にも取り上げたことがあります。

新型コロナウイルス感染症は、
オミクロン株の流行以降軽症化が指摘されています。
現状新たな変異株も確認されているものの、
その基本的な性質については、
感染力は非常に強いものの重症化は稀である、
という点についてはほぼ一致しています。

その一方で問題となっていることの1つは、
後遺症と呼ばれるような持続する症状が、
少なからずの患者さんで、
数か月以上という長期間持続していることです。

それに加えて動脈硬化性疾患や慢性の代謝疾患、
慢性の炎症性疾患などの、
本来は新型コロナウイルス感染症とは無関係な筈の病気のリスクが、
急性症状が改善した以降に、
増加していることが指摘されています。

そのうちの1つが糖尿病の増加です。

これまでの複数の疫学データにおいて、
新型コロナウイルス感染症の罹患と、
糖尿病の新規発症との間に関連があると指摘されています。

2022年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に発表されたデータでは、
アメリカの退役軍人の医療保険データを解析した結果として、
非感染者と比較して新型コロナ感染者では、
感染後の糖尿病リスクが1.4倍有意に増加していた、
という結果になっていました。

今回の疫学データはカナダにおいて、
629935名の新型コロナの感染者を、
年齢などをマッチさせた503948名の非感染者と比較して、
陽性になった検査から30日以降の新規糖尿病発症リスクを、
比較検証したものです。

中間値で257日の観察期間中の糖尿病発症リスクは、
17%(95%CI:1.06から1.28)有意に増加しており、
特に男性においては22%(95%CI:1.06から1.40)と、
より高いリスクの増加が認められました。
また集中治療室の入室した患者に限ると、
糖尿病発症リスクは3.29倍(95%CI:1.98から5.48)、
入院した患者に限ると、
2.42倍(95%CI:1.87から3.15)と、
感染後の糖尿病リスクは顕著に高いものとなっていました。
今回の解析からは、
トータルな解析で糖尿病発症事例の3.41%、
男性のみの解析では4.75%は、
新型コロナ感染が原因となっていると推計されました。

このように、今回の大規模な検証においても、
新型コロナウイルス感染の回復期以降に、
糖尿病のリスクが増加することが確認されました。

それでは、何故こうした現象が起こるのでしょうか?

理論的には膵臓のインスリン分泌細胞に、
新型コロナウイルスが感染する可能性はあります。
ただ、実際にはそうした感染があるとしても、
極小規模に留まるという考え方が一般的です。
新型コロナの感染はその後の免疫異常や慢性感染に結び付きやすい、
という知見はあり、
それが事実であるとすれば、
自己免疫的な機序でインスリン分泌細胞が攻撃される、
また慢性の炎症によりインスリン抵抗性が生じる、
というような可能性も考えられます。
新型コロナの感染により隔離が続き、
運動量が低下したり食生活が乱れて、
そうした生活習慣が糖尿病の誘因となった、
というような可能性も否定は出来ません。

現状はこうした仮説が幾つか提示されているものの、
正確な原因は分かっていないのが実際であるようです。

いずれにしても新型コロナウイルス感染症後に、
糖尿病のリスクが増加すること自体はほぼ事実である可能性が高く、
特に感染が重症であった方は、症状に留意して、
血糖値の定期的なチェックを行った方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0)