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75歳以上における大腸ファイバー施行の意義について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大腸ファイバーの高齢者での検査間隔.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年4月3日ウェブ掲載された、
高齢者の大腸癌スクリーニングの意義についての論文です。

便潜血や大腸ファイバーによる検診が、
大腸癌による死亡のリスクを低下させる効果のあることは、
これまでの精度の高い臨床データにより、
ほぼ実証されている事実です。

ただ、これは敢くまで、
45から75歳くらいの年齢に限った場合のデータで、
75歳以上の年齢層で、
同じことが言えるとは限りません。

大腸癌の多くは腺腫性ポリープから、
10年から15年という長期の経過を経て、
癌化すると考えられています。
大腸癌のスクリーニングの有効性が明確になるのにも、
同じくらいの時間が必要です。
そのため、患者さんの推定される余命が、
10年未満である場合には、
スクリーニング自体の評価は困難となります。

現行のガイドラインの多くでは、
75歳以上の高齢者で無症状の場合、
大腸癌検診は個別の受診者の推定される余命や、
他の病気の有無などを総合的に判断した上で、
個別に決めるべきとしています。

それでは、実際に75歳以上の無症状の高齢者に、
大腸ファイバーによるスクリーニングを施行することで、
そのような効果や影響が見られるのでしょうか?

今回の研究はアメリカにおいて、
75歳以上の高齢者、
トータル7067名にスクリーニング目的で施行された、
大腸ファイバー検査の有効性と有害事象とを解析したものです。
入院を要するような検査に伴う有害事象は、
検査後10日の時点で1000件当たり13.58件認められ、
年齢と共に増加する傾向が認められました。
大腸ファイバーを施行された75歳以上の7067名のうち、
56.6%に当たる3997名は異常はなく、
37.7%に当たる2669名は高度異形成ではないポリープを検出。
大腸癌に近い病変である高度異形成の腺腫は、年齢によりかなり差があり、
76から80歳では5.4%、81から85歳では6.2%、
それ以降では9.5%に認められました。
全体のうち、進行した大腸癌と診断されたのは、
0.2%に当たる15名のみでした。
この15名のうち推計される余命が10年未満の9名のうち、
実際に治療が施行されたのは1名で、
余命が10年以上と推計された6名のうち、
4名が治療を施行されていました。

このように、
無症状の75歳以上の年齢で施行された大腸ファイバー検査で、
進行癌が見つかる可能性は極めて低く、
推定される余命と比較した時に、
治療を要すると判断されるような病変が、
見つかる可能性も極めて低いということが分かります。
その一方で高齢者では検査に伴う有害事象も多く発生するため、
現状は積極的に検査を行う必要性は、
通常は低いと考えて誤りはないようです。

従って、スクリーニングとしての大腸ファイバー検査は、
基本的には75歳未満で施行し、
その結果をもとにして、
その後のスクリーニングの方針を、
その方の健康状態や年齢などを考慮しつつ、
決めることが現状では妥当な方針であるようです。
勿論これは無症状の場合なので、
症状や他の検査などから、
大腸癌の可能性が疑われる場合には、
その時点で検査を考慮することは、
高齢であっても否定されるものではありません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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