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日本人の胃癌リスクに対するピロリ菌と遺伝素因の相互作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
胃癌リスクとピロリ菌と遺伝素因との関連.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年3月30日掲載された、
胃癌のリスクに対するピロリ菌感染と、
癌リスクに関わる遺伝子変異との、
関連を検証した論文です。

これは理化学研究所や愛知県がんセンターなどの研究チームによる、
日本の疫学データを元にした研究結果です。
国立がん研究センターのサイトにも解説記事がありますので、
よろしければそちらもご参照下さい。
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/0330/index.html

胃癌は日本人などアジア人に多い癌として知られていて、
ピロリ菌の感染とそれに伴う胃粘膜の萎縮性変化が、
その病因として重要であることも実証されています。

ただ、全ての胃癌の原因が、
ピロリ菌だけで説明可能ということはありません。
たとえば、遺伝性びまん性胃癌と呼ばれるものは、
遺伝性に高率に発症して、
印環細胞癌と呼ばれる特殊な組織型を持ち、
その原因がCDH1遺伝子という遺伝子の変異によることが分かっています。

それではこうした胃癌の発症に関わる遺伝子変異と、
ピロリ菌感染との間には、
胃癌の発症リスクとどのような関連を持っているのでしょうか?

今回の研究では、
日本の遺伝情報を集めたバイオバンク・ジャパンで収集された、
10426名の胃癌患者の遺伝情報を、
38153名のコントロール群と比較して、
癌のリスクと関連する27個の遺伝子変異を検出。
そのうちの9個の遺伝子変異
(APC、ATM、BRCA1,BRCA2,CDH1、MLH1、MSH2,MSH6、PALB2)が、
胃癌のリスクと関連することを確認しました。

そして更に、
この9種類の遺伝子変異とピロリ菌感染との関連を、
1433名の胃癌の患者と、
5997名のコントロールとを比較して検証しています。

その結果、
9種類の遺伝子変異のうち、
特にDNAの2本の遺伝子が切断された時の修復に関わる、
4種類の遺伝子変異(ATM、BRCA1、BRCA2、PALB2)と、
ピロリ菌の感染との間には強い相互作用のあることが確認されました。

ピロリ菌が陰性で遺伝子変異もない場合と比較して、
ピロリ菌のみの陽性で胃癌リスクは5.76倍(95%CI:4.88から6.80)に増加し、
遺伝子変異のみの陽性では有意な増加を示しませんが、
ピロリ菌陽性で遺伝子変異もある場合、
胃癌リスクは22.45倍(95 %CI:12.09 から41.70)に跳ね上がっていたのです。

ピロリ菌の感染がなく遺伝子変異もないと、
85歳までに累積で胃癌を発症する確率は5%未満ですが、
ピロリ菌の感染が持続しているとそれが14.4%となり、
そこに遺伝子変異が加わると、
45.5%という累積発症率となるのです。

これは食道癌におけるアルコールと遺伝子変異との関連でも、
同様の相乗効果のあることが知られています。

この現象をどう考えるかと言うと、
胃癌になり易い遺伝子変異を持っている人では、
ピロリ菌を除菌することで、
遺伝子変異を持たない人と比較して、
遥かに高い胃癌の予防効果が得られることを示しているのです。

今後こうした遺伝子変異を効率的にスクリーニングして、
ピロリ菌の感染の有無と比較することにより、
かなり正確にその人の胃癌の将来的なリスクを算出し、
ピロリ菌の除菌を行うと共に、
定期的な検査を施行することにより、
これまで以上に胃癌を未然に防ぐことが可能となることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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