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藤井道人監督「ヴィレッジ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ヴィレッジ.jpg
藤井道人監督の新作が今ロードショー公開されています。
この監督の映画は映像に哲学があって、
毎回拘りがあるので大好きです。

それで今回もとても期待をして鑑賞しました。

今回も非常に良かったですよ。

巨大なゴミ処理場を誘致した架空の寒村が舞台で、
古田新太さん演じる村長に牛耳られているのですが、
主人公の横浜流星さん演じる青年の父親は、
10年前にゴミ処理場の誘致に反対して、
殺人を犯した上家に火を点けて焼死していて、
そのために村で「犯罪者の息子」として、
迫害される日々が続いています。
西田尚美さん演じる母親はアル中のギャンブル中毒で、
闇金に借金までしているので、
その負担も全て息子の流星さんに掛かっています。

古田村長の長男は一ノ瀬ワタルさん演じる強面の問題児で、
杉本哲太さん演じる裏社会の人間と結託し、
不法に感染廃棄物を持ち込んで放置しています。
村長の次男は中村獅童さん演じる警察官で、
村の状態に嫌気がさして村を出ています。

そこに東京で仕事をしていた、
主人公の幼馴染の黒木華さんが村に帰って来るところから、
主人公の心にそれまでなかった希望の光が灯るのですが、
そこに矢張り黒木さんに思いを寄せていた一ノ瀬さんが絡み、
物語は急速に展開を始めます。

舞台となっている村が「古い日本社会の縮図」のように言われ、
確かにそうした部分はあるのですが、
それが特に強調されているという作劇ではなく、
能の「邯鄲」に絡めて、
何重もの因果の網の中で絶望していた若者の、
一瞬見た希望とその後の絶望とを描いた、
極限の青春ドラマとして理解しました。

たとえば、大島渚監督の「青春残酷物語」や、
長谷川和彦監督の「青春の殺人者」のような世界です。
抽象的な部分のある架空世界を作り込むのは、
今村昌平監督作品に似通ったイメージもあります。

藤井監督は生粋のシネフィルですから、
その辺りの過去作は当然分析した上で、
それを監督自身の希望と切望の物語に咀嚼して、
今回の作品が出来上がったのではないでしょうか?

ラスト旧家が燃え上がるのは、
明らかに野村芳太郎監督の「八つ墓村」ですよね。
横溝正史さんの映像化が繰り返されるのは、
ミステリーとしての側面はもうあまり重みがなく、
仮面を付けた人物や旧家の広間に居並ぶ人々、
燃え上がる屋敷や様式的な殺し場などの、
イメージの魅力と思われるので、
そうしたイメージの幾つかはこの作品においても、
重要なモチーフの1つとして活用されています。

この映画で出色であったのは、
黒木華さんに好意を寄せられることにより、
内に秘めていた主人公の希望の明かりが燃え上がり、
そこから静謐な濡れ場に至るまでの、
狂おしいほどに繊細で切ない描写で、
流星さんと黒木さんの演技も素晴らしかったですし、
これは今では藤井監督にしか、
描きえない描写であったように思いました。

ただ、かつては「青春残酷物語」や「青春の殺人者」の主人公の心情は、
当時の若者の心を捉えるものであったのですが、
おそらく今回描かれた流星さんの心情は、
あまり今の若者の心には響かないような気もします。

僕にはその方がフィットはするのですが、
おそらく一時代前の心情であり感傷であった、
というような思いもあります。

役者は今回も物凄く良くて、
杉本哲太さんなど、最近はくだけた役柄が多くて、
悪役でもあまり凄味を感じなかったのですが、
今回の作品の悪党ぶりは、
その目つきに背筋が凍る感じがありました。
古田新太さんも、
面白いながら、役柄の一貫性がない感じも多いのですが、
今回の村長の下品で軽い悪党ぶりは、
最近では出色の芝居でした。
西田尚美さんも良かったですし、
こうしたバイプレーヤーにしっかりと仕事をさせる、
というところは、
矢張り藤井監督の腕なのではないかしら、
と思いました。

勿論特筆するべきは矢張り横浜流星さんで、
「流浪の月」の悪役は、
ちょっと作り過ぎの感もあったのですが、
今回は堂々たる主役を、
一時代前の青春残酷映画の感傷と絶望たっぷりに、
堂々と演じていて見事な芝居でした。
前半はオーラを消した鬱々とした姿で、
それが後半状況の変化で好青年のオーラを纏う辺りの計算も
あざといくらいに完成度の高いものでした。

そして対する黒木華さんの受けの芝居は安定感抜群、
最近絶好調の一ノ瀬ワタルさんが、
おそらく格闘技出身の俳優さんでは歴代最高と思える、
内に弱さを秘めた強烈な悪党ぶりを演じて最高でした。

そんな訳で役者よし、演出よしの充実した作品で、
その内容の好き嫌いと、
藤井監督の作品に何を求めるのかによって、
評価は分かれるところはあるのだと思いますが、
個人的には藤井節を堪能し、
映画の魅力に浸った2時間でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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