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骨粗鬆症治療薬デノスマブの糖尿病予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
デノスマブの糖尿病予防効果.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年4月18日ウェブ掲載された、
骨粗鬆症治療薬の糖尿病予防効果についての論文です。

取り上げられているデノスマブ(Denosumab)は、
抗RANKLモノクローナル抗体と呼ばれるタイプの薬です。

RANKLというのは、
NF-κB活性化受容体リガンドの略称で、
これは一種の炎症性のサイトカインで、
その主な働きは骨の破骨細胞の元になる細胞の、
表面にある受容体にくっつき、
骨を壊す細胞である、
破骨細胞の分化を阻害することになります。

そもそも骨を壊す細胞である破骨細胞は、
白血球の一種である単球系の細胞が、
何段階かの刺激により分化して成熟したもので、
それが骨の表面に取り付いて骨を壊します。

RANKというのはこの白血球にある受容体で、
そこにくっつくのがRANKLというリガンドです。
RANKLとRANKが結合することにより、
破骨細胞は分化するのですが、
デノスマブはRANKLに特異的に結合して、
RANKとRANKLの結合を阻害し、
それにより破骨細胞の分化を抑制するのです。

抗RANKLモノクローナル抗体であるデノスマブは、
皮下注射で使用することにより、
血液中に移行し、
破骨細胞の分化を抑制し、
結果として破骨細胞を減らして、
骨塩量の低下を防ぎます。

白血球が体内で入れ替わるまで、
その効果は持続しますから、
半年に一度の注射で有効性は維持されるのです。

これは完全なヒト型抗体なので、
体内で安定して存在し、
身体の免疫の攻撃を受け難いと考えられます。

この薬はまず、
多発性骨髄腫や癌の骨転移における、
骨病変の治療目的で適応が取得されました。
これはランマーク皮下注と言う名称で発売され、
半年に1回120ミリグラムという用量です。
ところが、この用量では重症の低カルシウム血症の発症が多いので、
骨粗鬆症に対しては、
その半分の60ミリグラムの用量の注射薬が、
今度はプラリア皮下注という名称で、
2013年に発売されたのです。

2009年のNew England…誌に掲載された、
FREEDOMという大規模臨床試験の結果によると、
閉経後の骨粗鬆症の患者さんに対して、
デノスマブを3年間継続使用した結果として、
偽薬と比較して新たな背骨の骨折を68%、
股関節の骨折(大腿骨頸部骨折)を40%、
そして背骨以外の骨折を20%、
それぞれ有意に低下させていました。

半年に1回の皮下注射という使いやすさから、
現行広く使用されているデノスマブですが、
そのメカニズムから、
骨代謝ばかりでなく、
エネルギー代謝との関連が近年注目されています。

血液中のRANKL濃度が高いと、
将来的な2型糖尿病のリスクが高まるという疫学データがあり、
白血球のRANKの活性を阻害することにより、
糖代謝が改善したとするデータも複数発表されています。

それでは、
実際に臨床に使用されているデノスマブに、
どの程度の2型糖尿病予防効果があるのでしょうか?

今回のデータはイギリスにおいて、
骨粗鬆症の治療をしている人のうち、
飲み薬のビスフォスフォネートという、
標準的な治療薬を使用している場合と比較して、
デノスマブを使用している人の、
2型糖尿病発症リスクを比較検証しているものです。

4301例の新規デノスマブ使用患者を、
年齢などをマッチングさせた、
21038名の経口ビスフォスフォネート使用患者と、
平均で2.2年観察して比較検証したところ、
デノスマブの使用により、
新規2型糖尿病の発症リスクは、
32%(95%CI:0.52から0.89)有意に抑制されていました。
サブ解析では特に糖尿病予備群と診断された患者において、
その糖尿病への進行が66%(95%CI:0.35から0.82)と、
より高い予防効果が認められました。

このように、
デノスマブが糖代謝に良い影響を与え、
糖尿病への進行を抑制する作用のあることは、
ほぼ間違いのない知見であるようで、
今後こうした特徴も配慮した上で、
骨粗鬆症の治療薬の選択は、
成される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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