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お酒の最低価格を上げることによる健康効果(スコットランドの試み) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコール価格と健康効果.jpg
Lancet誌に2023年3月21日ウェブ掲載された、
アルコールの価格を上げることによる、
アルコールに起因する疾患への影響についての論文です。

アルコールの摂取は、
それが適量(概ね1日1合、アルコール20グラム程度)であれば、
大きな健康影響はなく、
場合によって一部の病気のリスクを低下させる、
というようなデータもありますが、
それを超える飲酒については、
多くのアルコール関連疾患の原因となり、
生命予後にも悪影響を与えることが分かっています。
また、強い依存性があり、
アルコール依存症とそれに関連する精神疾患の存在も、
飲酒の大きな問題点です。

アルコールに関連する健康問題は世界的に深刻で、
特に経済的に困窮しているような人において、
その影響が表れやすいという点も問題を大きくしています。

スコットランドはウイスキーで有名で、
住民もお酒には強そうなイメージがありますが、
MUP(minimum unit pricing)という、
お酒の最低価格を国が決めて、
お酒の安売りを許さないという法律を、
世界で初めて導入し、
2018年5月から施行しています。

これはアルコール10mLに当たる1単位の最低価格を、
0.5ポンドに規定するという法律です。
この法律の施行により、
それまで安売りされていたようなお酒の価格が、
物によっては2倍以上に上昇するということになります。

その目的は、
アルコールが原因で起こる、
依存症や肝硬変、肝臓癌などの病気を減らし、
そうした病気で亡くなる人を減らそう、
というものです。

国民の飲酒量を減らすために、
大幅にその価格を上げよう、というのですから、
かなり荒っぽい方法であることは確かです。

勿論、その施行に当たっては、
アルコール飲料業界から強い反発があり、
「アルコールで病気になるのは、
一部の自堕落な飲酒者のみであって、
そのツケを全ての飲酒者が払うことは理屈に合わない」
「そもそもそんな法律でアルコール性の病気が減るとは思えない」
という批判の声も強く寄せられました。

それでは、実際にこの法律は効果があったのでしょうか?

今回の研究では飲酒に起因する入院と死亡の頻度を、
この法律施行前後で比較し、
またこうした法律が施行されていないイギリスとの比較も行っています。

その結果、
アルコールの最低価格を規定する法律の施行により、
飲酒に起因する疾患による死亡は、
13.4%(95%CI:-18.4から-8.3)有意に低下していました。
そして、アルコールに起因する入院も、
有意ではないものの低下する傾向を示していました。
この死亡リスクの低下は、
主にアルコール性肝障害やアルコール依存症による死亡の、
低下が原因となっていましたが、
一方でアルコール依存症による入院については、
増加する傾向を示していました。

つまり、アルコールの最低価格を規定する法律により、
トータルな飲酒量は減少し、
それに伴ってアルコールに起因する死亡は減少しています。
ただ、飲まないと禁断症状になるような依存症の患者では、
充分な治療がなされていないと、
飲酒の制限により一時的に病状が悪化して、
入院に結び付いたケースもあったと想定されます。

このように、
アルコールの価格を釣り上げて飲酒量を制限するという方策は、
アルコールに起因する健康被害を予防し、
その死亡リスクを低下させるという有効性があるようです。
ただ、どうしてもこうした方策により、
却って被害を被るようなケースも当然想定されるので、
依存症の患者のケアが、
その経済的な背景に関わらず手厚く行われることなど、
多くの配慮を行った上で、
施行されることが望ましいように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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