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「コーダ あいのうた」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
コーダあいのうた.jpg
米国アカデミー作品賞を受賞した、
2021年米仏加合作映画ですが、
もともとはフランス映画のリメイクです。

個性的な聴覚障碍者の一家に、
1人だけ聴覚障害を持たずに生まれた少女の、
家族との葛藤と愛情、そして旅立ちの物語です。

これは割と地味に公開されて、
すぐに上映も終わってしまった印象があります。
それがアカデミー賞受賞後にリバイバル公開されて、
もう来週には終わる感じのようですが、
映画館はなかなかの盛況でした。

これは素晴らしかったですよ。

たとえば「ひまわり」みたいな、
これぞと言うような泣かせの場面がある訳ではないのですが、
じわじわと長く余韻を持って泣ける映画です。

主人公は通訳として、
聴覚障碍者の家族と社会との繋がりを1人で担っているのですが、
歌が好きで学校の音楽教師に指導され、
音楽大学への受験を目指すようになるんですね。
しかし、家族は少女に頼り切っているので、
そこに葛藤が生まれるのです。
一方的なものではなく、
家族と少女の双方が、
自分達中心の考え方から、
次第に相手の気持ちを考えるように変わって行くんですね。
ジョニ・ミッチェルの名曲が、
クライマックスでそれを象徴するように歌われる辺り、
上手いなあ、と思いますね。

内容的には至極まっとうで、
古典的で手垢の付いた素材なのですが、
それが完成度の高い台本と、
精度の高い格調のある演出、
センスの良い音楽劇としての趣向、
そして何よりキャストの絶妙な演技によって、
極めて純度の高い生気のみなぎる傑作に仕上がっているんですね。

これね、僕は観ている間、
ずっと主人公の少女のことだけを、
考えていることが出来ました。
ラストは素直に良かったなと思って胸が熱くなりました。
こうしたことは実際にはあまりないんですね。
心配事も多いでしょ。
映画を観ていても、
時々別のことや昨日あった嫌なことなどを、
考えてしまうことが多いんですね。
それがないということは、
かなり凄いと思います。

途中でややあざとい演出があって、
少女が歌を歌うところで一時無音になるんですね。
10秒か20秒くらいですかね。
そうするとね、映画館の中が完全な静寂になるんですね。
少なくとも僕が観た時はそうでした。
「困るじゃん。鼻をすすったら泣いてるとばれて恥ずかしいし」
などと思ったのですが、
これはね、映画館でないと感じられない静寂を、
味わって欲しいということなんですね。
配信では成立しないぞ、ということなんですね。
それが多分、この映画がアカデミー賞を取った大きな理由です。

多分近いうちにほぼほぼ作品賞は配信作品になると思いますし、
映画自体オワコンなのだと思いますが、
映画の最後の悪あがきみたいなものを感じますよね。

でも僕は映画も本も好きで育っているので、
まあそれが無くなる世の中には、
もう未練はないかな、という気分もあります。

この静寂で僕が感じたのは、
能の「道成寺」ですね。
鐘の供養が始まる前に、
狂言方が舞台を清めるようなところがあるんですね。
そこで良い舞台だと完全な静寂になるのです。
そのあとが例の乱拍子になります。
この静寂が凄いんですね。
聴衆が数百人集まった空間が、
完全な無音になるというのが凄まじいのです。

それに近いものを今回の静寂には感じました。

観客にもブラボーなんですが、
それを成立させた映画の吸引力が素晴らしいですよね。

昔並木座で黒澤明の「生きる」を観たのですが、
あそこの劇場はやることのないご老人が、
寝るために来るような場所なんですね。
いびきの聞こえないことはないような映画館なんですね。
それが「生きる」の時は違ったんですね。
志村喬が息子に邪慳にされるでしょ。
あんなに愛情を注いだ息子なのに…
というところがあるでしょ。
場内が完全な静寂になったんですね。
横をみたらね、いつも寝ているおじいさんが、
食い入るようにスクリーンを凝視していたんですね。
ああ、これが映画の力だ、と思いました。

今回の静寂は、多分それ以来のものでした。

この映画は音楽がいいですよね。

まあ、僕好みなんですね。
特にクライマックスのジョニ・ミッチェルは最高ですね。

高校の時にね、
一時は登校拒否みたいになっていましたし、
それから復帰して通っていた時はつらかったんですね。
人生において3番目くらいに辛かったですね。
鎌倉の七里ガ浜から1時間半掛けて通ったのですが、
朝行く前にね、
LPレコードで何か1曲聴くんですね。
それから気合を振り絞って、どうにか行くぞ、
というように思うんですね。

色々な曲がその時の助けになりましたが、
ジョニ・ミッチェルは一時その定番だったんですね。
文字通りその時の僕を救ってくれたのです。
これも音楽の力ですね。

そんな訳でこの映画の話をすると止まらないのですが、
素晴らしい傑作なので是非是非ご覧下さい。
2本立てにするなら、
史上最も暗い気分になる映画、
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」とのカップリングはどうでしょう。
先に「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観て、
それから「コーダあいのうた」を観れば、
その高揚する感動もひとしおではないでしょうか?
くれぐれも順序を入れ替えては駄目ですよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オミクロン株の乳幼児感染の傾向 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オミクロン株の乳幼児のリスク.jpg
JAMA Pediatrics誌に2022年4月1日掲載されたレターですが、
5歳未満の新型コロナウイルス感染症の傾向を、
オミクロン株とデルタ株の流行時期で比較した内容です。

デルタ株と比較してオミクロン株の流行期には、
症状は明らかに軽症化しましたが、
その一方で乳幼児を主体とした感染は増加し、
デルタ株の流行時期にはあまりなかった、
保育園の休園などの事態が急増しています。

実際にクリニックにおいても、
感冒程度の症状の乳幼児で、
他院で「ただの風邪」という判断で検査もされず、
数日経ってから父親や母親が次々と発熱して、
検査をしたら新型コロナの家族内感染だった、
というようなケースを、最近は多く経験しています。

これは、デルタ株の流行時期など、
これまでの感染では見られなかった事態です。

そもそも新型コロナウイルスの乳幼児の感染は、
極めて稀だと考えられていた筈です。
しかし、オミクロン株の流行に至って、
状況は一変し小児、特に乳幼児が家庭に感染を持ち込み、
それで家族内感染が広がるという経路が、
今の感染拡大の1つのパターンとなっているのです。

それでは、実際にどの程度オミクロン株の乳幼児感染は、
それ以前の時期の感染と違いがあるのでしょうか?

今回の疫学データはアメリカにおいて、
5歳未満の新型コロナウイルス感染症患者トータル651640名を、
オミクロン株流行期の22772名と、
デルタ株流行期の2つの疫学データの66692名と10496名に分けて、
その罹患率を比較検証しています。

その結果デルタ株の流行期には、
新型コロナ感染の罹患率は、
乳幼児1日1000人当たり1.0から1.5件であったのに対して、
オミクロン株の流行期に入った2021年12月には
2.4から5.6件と増加していて、
2022年1つ前半には8.6件とピークに達していました。
つまり、デルタ株の流行期と比較して、
8倍以上に増加したということになります。
オミクロン株の感染は、
3から4歳と比較して0から2歳の方がより多く、
感染はより低年齢化した、と言うことが出来ます。
今回の3つの疫学データにおいて、
全てを併せても死亡者は10人に満たないレベルでした。

このように、
デルタ株の感染と比較してオミクロン株の感染では、
5歳未満の感染のリスクが明らかに高く、
より低年齢化が進行していることが確認されました。
どちらの流行時期においても、
乳幼児感染は同じように軽症でした。

従って、乳幼児の新型コロナウイルス感染は、
患者本人にとっては単なる風邪と違いはないのですが、
そこから家族内感染により感染が拡大することが、
オミクロン株の感染拡大の一因となっていると考えられました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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軽度認知障害(MCI)の介入法(2022年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
MCIの予防法.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年5月3日ウェブ掲載された、
軽度認知機能障害(MCI)の治療についての論文です。

軽度認知機能障害(MCI: Mild Congnitive Impairment)と言うのは、
正常の老化と認知症との間のどちらでもない状態のことで、
通常物忘れの自覚が本人にあり、
家族も以前はなかったような忘れ方や言動がある、
という訴えがあるのですが、
ミニメンタルテストのような一般的な認知症検査では、
認知症の基準を満たさない、という状態のことです。

この中には、
その後急激な悪化はすることなく、
結果として正常な老化と判断される場合と、
経過とともに進行して認知症の基準を満たすようになり、
結果的には認知症の初期症状であった、
というように判断される場合とがあります。

この両者のいずれであるかは、
経過をみないと分からないというのが、
軽度認知障害の厄介なところで、
一部で両者を見分けるのに有効な血液検査と称するものが、
開発され活用されていますが、
それがどの程度正確な診断に結び付くものであるかは、
まだ明確ではないと思います。

軽度認知障害と判断された場合には、
それが更なる認知機能の低下に進行しないように、
対策を講じる必要があります。

ただ、現行認知症に使用されているような薬剤は、
敢くまで認知症と診断された場合の進行抑制にのみ、
その有効性が確認されているので、
副作用や有害事象もあることを考えれば、
まだ病気とは言えない段階で使用することは、
適切ではありません。

そうなるとその時点での進行抑制の介入としては、
生活習慣病の管理や、
運動、ゲームなど脳を活用する娯楽の習慣化、
健康的な食生活、ストレスのコントロール、
などの一般的なものにならざるを得ません。

そうした生活への介入の中で、
最近注目されているのが、
複数領域への介入(Mutidomain interventions)という考え方です。

これはどういうものかと言うと、
たとえば読書などの脳を刺激するインドアの習慣と、
運動などのアウトドアの習慣など、
複数の認知機能に良い影響を与えると想定される活動を、
2つ以上同時に習慣化するという方法です。

こうした介入により、
単独の運動療法などと比較して、
より高い効果が得られるのではないかと考えられているのです。

しかし、実際にはそれほど実証的に、
そうした介入の効果が検証されている、
という訳ではありません。

今回の研究はこれまでに試みられた複数領域への介入が、
単独の介入と比較して、
有効であるかどうかを、
これまでの臨床データをまとめて解析する、
メタ解析という手法で検証しているものです。

これまでの28の臨床研究で登録された、
トータルで2711名の患者のデータをまとめて解析したところ、
単独の方法による介入と比較して、
運動と認知刺激など2つ以上の方法を併用すると、
トータルな認知機能や記憶機能など多くの分野において、
より認知機能の改善に結び付いていたと解析されました。

このように、
運動と知的ゲームの習慣を同時に持つなど、
脳の複数領域を刺激するような習慣を持つことは、
現状最も有効な軽度認知障害への介入法であると言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチン接種後の帯状疱疹発症について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
帯状疱疹とCOVID-19ワクチン.jpg
Vaccines誌に、
2021年9月11日発表されたレビューですが、
新型コロナワクチンの接種後の有害事象として、
報告されることのある帯状疱疹についてまとめたものです。

新型コロナウイルスワクチンの3回目接種が、
日本では2種のmRNAワクチンによって進められていて、
今後4回目接種も対象を限定して準備されているようです。

この2種類のmRNAワクチンに関しては、
その短期の有効性はブースター接種を含めて確認されていて、
その安全性についても現状大きな問題は生じていません。

ただ、他のワクチンではあまり報告のない有害事象が、
新型コロナワクチン接種後には多いのでは、
というような報告も散見され、
そのうちの1つが今回ご紹介する帯状疱疹の発症です。

クリニックに関して言いますと、
ワクチン接種からそれほど時間の経たない時期に、
帯状疱疹を発症したケースが3例ほどありました。
ただ、帯状疱疹の発症自体最近増えているという印象はあり、
当然ワクチン接種前に発症することも多いので、
ワクチン接種後に増えているのかどうか、
と言う点については、
クリニックレベルの事例では、
何とも言えないというのが実際です。

ある患者さんはワクチン接種後1週間程度で帯状疱疹を発症し、
皮膚科を受診したところ、
「ああ、ワクチンを打ってから出たんでしょ。最近多いのよね」
と言われたとのことでした。

ただ、その皮膚科の先生が、
どのくらいの実証的なデータを元にして、
そうした発言をされたのかは分かりません。

今回のレビューは2021年の時点で、
それまでの主だった臨床報告をまとめて解説したものです。

解析の時点で12編の論文が発表されていて、
91名の患者が新型コロナワクチン接種後に帯状疱疹を発症しています。

このうち13%に当たる12名は、
関節リウマチなどの自己免疫疾患に罹患していて、
10%に当たる9名は免疫抑制剤を使用していました。
ワクチン接種後平均で5.8日で帯状疱疹は発症していました。

現状大規模な疫学データや臨床試験のレベルでは、
有意な帯状疱疹事例の増加は見られていません。
そうしたことはあり得るのですが、
そのリスクを議論するほどの頻度ではないようです。
mRNAワクチンなど特定のワクチンのみで増加している、
ということであればその意味合いは変わって来ますが、
今のところそうではなく、
不活化ワクチンやウイルスベクターワクチンでも、
同じように報告が見られています。

ただ、インフルエンザなど他のワクチンでは、
殆どそうした報告は見られませんから、
何らか新型コロナウイルスワクチンに、
関連する可能性はありそうです。

それでは、仮にこうした現象があるとして、
そのメカニズムはどのように考えられるのでしょうか?

通常帯状疱疹は、水痘ウイルスの再活性化により起こる、
というように説明されます。
そのため、ウイルスに対する細胞性免疫が、
低下したり、免疫系全体が抑制されているような状況で、
生じやすいと考えられます。

しかし、新型コロナウイルスワクチンを接種すると、
細胞性免疫は賦活される筈ですから、
それで帯状疱疹が増えるのは矛盾しているように思われます。

ここで1つの解釈としては、
新型コロナワクチンで誘導される免疫は、
帯状疱疹を抑制しているものとは異なるので、
新型コロナウイルスに関わる免疫系は賦活化される一方で、
それ以外の免疫系は一時的に抑制されるのではないか、
という推論も成り立たないではありません。
ワクチン接種後1週間程度で生じるという経過は、
その時点ではまだ免疫系の刺激は完成されておらず、
一時的に細胞性免疫の低下が起こるのでは、
という推測も出来ます。

ただ、いずれにしてもそれらの説明は推測の域を出ず、
それを証明するようなデータが、
基礎的なものであれ存在するということもないようです。

従って、現状この問題を重視する必要はないのですが、
ワクチン接種後1週間程度の間に、
帯状疱疹が発症しやすい、という可能性はあるので、
ワクチンを接種される方は、
その間には大事な予定を入れないなど、
注意はしておいた方が安心、
という言い方は出来そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナの経過と抗原検査の陽性率比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日は祝日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19のPCRと抗原比較.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年4月29日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症診断に使用されている、
抗原検査キットの精度についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の診断のスタンダードは、
RT-PCR検査であることは間違いがありませんが、
ウイルス抗原の一部に反応する迅速抗原検査キットは、
5から15分程度でその場で結果の判明するという簡便さから、
医療機関のみならず、自宅などでも広く使用されています。

現状厚労省も、
抗原検査のみでの診断を認めていますし、
医療機関においても、
流行状況などからその可能性が高い時には、
抗原検査のみで診断して届け出をしています。

ただ、RT-PCR検査はウイルス遺伝子の一部を、
増幅して検出するので、
ごく微量の遺伝子断片でも診断が可能ですが、
抗原検査は一定のウイルス量がないと、
反応が検出されないという特徴があります。

つまり、流行している地域で特徴的な症状があって、
抗原検査で明確に陽性反応があれば、
新型コロナウイルス感染症に罹患していると言って、
ほぼ問題はありませんが、
ぼんやりと陽性ラインが見えるような弱陽性は、
他のウイルス抗原による偽陽性も否定は出来ませんし、
軽症の感染や無症状の感染の場合、
検体の採取が適切でない場合、
感染の時期によって局所のウイルス量が少ない場合などでは、
結果が陰性であっても感染の可能性は否定は出来ないのです。

こうした内容は医学的にはほぼ常識として、
捉えられていますが、
その根拠となるデータはパンデミックの初期に取られたもので、
今とは検査キット自体の性能も違っていますし、
ワクチンの接種や無症状感染などとの関連も検討されていません。

従って、
今一般に使用されているような抗原検査キットを使用し、
実際にあり得る状況でRT-PCR検査と比較したデータが、
一般臨床においては重要なのです。

今回の検証はアメリカにおいて、
新型コロナウイルス感染症とRT-PCR検査で診断され、
15日間連続して抗原迅速検査を施行し、
経過中に1回以上の鼻腔RT-PCR検査と、
ウイルス培養検査を施行したトータル225名のデータを解析したもので、
3044件の抗原迅速試験と、642件のRT-PCR検査が施行されています。

その結果はこちらをご覧下さい。
COVID-19のPCRと抗原比較の図.jpg
図の黒いラインはRT-PCR検査の陽性率で、
オレンジのラインが抗原検査の陽性率、
青いラインがウイルス培養の陽性率を示しています。

トータルの抗原迅速検査の感度は、
50%(95%CI:45から55%)と算出されます。

発症日の0日で見ると、
抗原迅速試験の陽性率は30%程度しかありません。
それが症状出現数日後には、
RT-PCR検査とかなり近い陽性率になっています。
そのピークは症状出現0日として4日目で、
陽性率は77%(95%CI:69 から83%)に達しています。

つまり、抗原検査の結果が信頼出来るのは、
症状出現後2日目から5日目くらいまでで、
それ以外の時期においては、
陰性であっても感染を否定する根拠にはなり得ない、
ということが分かります。

ここから病初期5日以内に限って、
1から2日間隔で2回の抗原検査を行うことは、
その感度を高めるために最も有効性が高い、
と言うことが出来ます。
この場合2回とも陰性であれば、
感染はかなり否定的だと言うことが出来るからです。

それでは次にこちらをご覧下さい。
COVID-19の抗原陽性率と症状の有無の図.jpg
この図のグレイのラインは有症状の感染の場合の、
抗原検査陽性率を示し、
オレンジのラインは無症状感染の場合の、
陽性率の推移を示しています。
有症状感染と比較して、
無症状感染では抗原検査の感度はより低く、
無症状の感染を抗原検査のみで否定することは、
殆ど無意味に近いということが分かります。

最後にこちらをご覧下さい。
COVID-19の抗原陽性率とワクチン接種.jpg
こちらはワクチン接種者と未接種者のデータです。

黒いラインはワクチン未接種者の抗原検査陽性率を示し、
青いラインはワクチン接種者のそれを示しています。
ワクチン接種者は未接種者と比較して、
抗原検査の陽性率が低いことが分かります。

このように、
抗原検査には一定の有効性があり、
診断における重要なツールの1つですが、
その感度はRT-PCR検査よりは低く、
その感度が高いのは症状出現数日後から数日くらいの時期のみなので、
発症初期に数回の検査を数日間隔で繰り返すなど、
検査のプロトコールを工夫し、
かつ無症状感染には使用しないなど、
条件付きの対応が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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慢性難治性咳嗽と脳機能との関係性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は誤診や診療の過誤なく、
1日を終えることが出来るでしょうか?
何かを求めてお出でになった患者さんに、
それを提供することが出来るでしょうか?
その意味でのミスマッチを最小限度に抑えることが出来るでしょうか?

発熱外来以降、患者さんには怒られ、
スタッフは態度が悪いと罵倒され、
行政には翻弄され、大病院には虫けらの如く扱われ、
近隣や同じビルの方には煙たがられ、
多分診療を始めてから最も不毛で空しい日々が続いていますが、
それでも、これまではこれまでとして、
未来は決まっているものではないのですから、
少なくとも今日1日の診療においては、
完璧に近いものを目指しつつ、
今日出来る精いっぱい(根本宗子さん的表現です)を心に誓って、
今から診療に当たろうとは思っています。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
慢性の咳と脳との関連.jpg
Chest Journal誌に、
2022年4月29日ウェブ掲載された、
慢性の咳症状に対する脳の関与を検証した論文です。

長引く咳というのは非常に一般的な症状で、
8週間以上持続する咳を慢性咳嗽と言いますが、
その頻度は人口の5から10%に達するという報告もあるほどです。

咳というのは、
気道に侵入した異物を速やかに排出するため、
延髄の咳中枢からの指令により、
声門の閉鎖や呼吸筋の収縮などが連動して起こる一種の反射で、
慢性の咳の多くは、
何らかの原因によりその反射が敏感になり、
少しの刺激、場合によっては刺激がないのに、
咳反射が起こってしまうことがその本質ではないかと考えられています。

その原因の1つは、
気道にある咳受容体が敏感になることで、
アレルギー性の咳と呼ばれるものは、
気道のアレルギー性の炎症が起こって、
それが咳受容体の感受性を亢進させることによって起こる、
というように説明されます。

そして、それ以外に原因として考えられるのが、
咳中枢やそれより上位の大脳皮質中枢の関与です。

つまり、咳は脳から来ているのではないか、
という考え方です。

確かに不安による発作の症状の1つとして、
咳発作が見られることがあります。
また、慢性の咳というのは非常にストレスなものですから、
それが不安を高め、結果として咳の閾値を低下させる、
というメカニズムも推測されます。

ただ、こうした咳と脳機能との関連の詳細は、
これまでにあまり分かっていませんでした。

今回の研究は韓国において、
慢性難治性咳嗽の患者15名と、
年齢などをマッチングさせたボランティア15名に、
機能性MRI検査を施行し、
脳の形態や機能と慢性咳嗽との関連を比較検証しているものです。

その結果、
慢性咳嗽患者は左前頭葉の灰白質容積が減少しており、
左前頭葉と頭頂葉との機能的な結合が強い傾向が認められました。
この左前頭葉の萎縮は咳の持続期間が長いほど強く、
左前頭葉と頭頂葉との結合の強さは、
咳が生活に与える影響の強さと関連していました。

このように、
慢性の咳は脳の形態や機能に関連があり、
それが咳の原因ではないにしても、
その持続や増悪の要因となっていると思われます。
従って、慢性難治性咳嗽の治療には、
心理療法的なアプローチや心療内科的なアプローチが、
今後は重要となると共に、
脳機能の回復に繋がるような、
治療についても検討される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ感染に伴うデング熱減少について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプトなど事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
デング熱と新型コロナ.jpg
the Lancet Infectious Diseases誌に、
2022年3月2日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の流行が、
他のウイルス感染に与える影響についての論文です。

新型コロナの流行以来、
日本でもインフルエンザの冬の流行がめっきりなくなりました。

勿論コロナ重視の診療体制や検査体制で、
検査自体が減っている影響もない訳ではありませんが、
クリニックで検査をしていても、
ほぼほぼ陽性は出ませんし、
保育園や学校などでの流行や学級閉鎖もありませんから、
減少していること自体は間違いがありません。

これは世界的にも同様の傾向があり、
毎年のように流行を繰り返していたウイルス感染症が、
新型コロナの流行以降激減したという報告が多くあります。
その1つが今回のテーマであるデング熱です。

デング熱は、
蚊が媒介する熱帯から亜熱帯の出血熱の一種ですが、
日本脳炎などと比較すればその病状は軽く、
重症化も比較的稀な感染症です。
日本でも最近その流行が確認されています。

特別な治療はなく、
一旦流行するとその媒介する蚊の根絶は、
現実的には困難で、
ワクチンの開発なども進められてはいますが、
現状は決め手には欠けているのが実際です。

このデング熱も新型コロナの流行以降、
発生が減少していることが確認されています。

今回の研究はWHOなどのデータを基にして、
デング熱の減少とその原因を検証しているものです。

南東アジアと南アフリカのデング熱流行国23か国のデータを解析したところ、
2020年3月からデング熱の罹患率は激減し、
2019年には408万件から2020年には228万件と、
44.1%の減少が見られています。

その理由を天候などの要素も含めて解析したところ、
新型コロナの流行に伴う、
学校の閉鎖や地域をまたぐ移動の制限が、
最も強く影響をしていることが確認されました。
推計では、新型コロナによる感染対策の影響で、
年間72万件のデング熱が予防されたと計算されました。

要するに新型コロナで取られたような、
人間の行動を抑制するような対策により、
他の感染力の高いウイルス感染も、
抑止することが可能となるという結果です。

ただ、勿論移動せず接触を持たないことが、
人間にとって正しいあり方ということではなく、
今回の特殊な状況を科学的に解析することにより、
今後の多くの感染症の流行に対して、
わたし達はより実証的な予防法を、
社会活動とのバランスも考えた上で、
構築する下支えとなるデータを得ることが出来た、
というようにかんがえるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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