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「流浪の月」(李相日監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
流浪の月.jpg
凪良ゆうさんによるベストセラー小説で、
本屋大賞受賞作でもある「流浪の月」が、
「悪人」などの李相日監督により映画化され今公開中です。

世間からは、
ロリコン男と監禁された被害者の少女、
というレッテルを張られた2人が、
絶望的に強く惹かれ合うという物語で、
原作は愛や恋や血縁という結びつきではない、
それでいて強く惹かれ合う2人の、
新しい関係性を描いた作品ですが、
映画版は矢張り2人の結びつきは「愛」である、
というニュアンスの強いものになっています。

これはまあ、結構好みの分かれる映画だと思います。

昔の東欧やロシアの映画に近いようなタッチなんですね。
僕が一番似ているなと思ったのはタルコフスキーで、
執拗に登場する流れる水の表現とか、
草や光の感じ、
ラス前で母親と息子が対峙するところなど、
「鏡」を強く想起させるような感じがありました。

ただ、タルコフスキーの神秘主義はないんですね。
あるのは徹底した象徴主義。
李さんの映画を全て観ている訳ではないのですが、
「悪人」と比べると「怒り」という映画は、
かなり象徴性が強くなっている表現ですよね。
今回の映画はそれが更に強くなっているという印象で、
台詞や説明は最小限度に切り詰められ、
2人の主人公の間にあるものとその心理の揺れを、
徹底して映像化することに力が注がれている作品です。

僕はタルコフスキーは大好きなので、
この映画もとても好きです。

原作を読んでから映画を観たのですが、
この作品は意図的に省略が多いので、
原作を先に読むことをお勧めします。
そうでないと、意味が分からないところが多いと思います。

たとえば、半ばくらいのところで、
急に広瀬すずさん演じる主人公が、
松坂桃李さん演じる青年の隣に住んでいるんですね。
これは原作では恋人から暴力を受けて、
職場の友人に相談して、
夜逃げ屋を頼んで密かに引っ越しをするんですね。
それでなるべく見つからない場所をと思って引っ越し先を探すのですが、
松坂さんのマンションの隣の部屋が空いているのを、
不動産屋さんで見つけてしまうと、
もうどうにも止められなくなって、
これじゃDV男にバレると理性では分かっていながら、
衝動的に部屋を借りてしまうんですね。
それで最初は松坂さんに隠れるようにして暮らしているのですが、
これも衝動的に様子を窺いたくなって、
それであの映画のベランダのシーンになるのです。

その説明を全て、
映画はバッサリ切っているんですね。
多分撮影はしていた可能性はあるのですが、
編集段階では全て切ってしまっているのです。

それから柄本明さんが、
アンティークショップの主人として出て来るのですが、
1シーンだけの出演で、
何故出演しているのか意味不明なんですね。
これは原作では松坂さんが店を閉めて、
ビルも予定通りで取り壊しになり、
主人公2人もその地を離れるというところで、
3人で話をするところがあるんですね。
その場面のために柄本明さんの役はある、
と言ってもいいくらいなのですが、
その場面をまたバッサリ切っているんですね。
多分これは撮影されたのだと思うのですね。
そうでないと柄本さんをキャスティングはしない、
というように思うからです。
でも、監督は後半を主人公2人だけの場面で、
構成したくなったのだと思うんですね。
それでその場面をカットしたのだと思うのですが、
柄本さんの場面を残さない訳にはいかないので、
前半のみを残して、
それが結果として不自然な登場となってしまったのだと思います。

そんな訳でこの映画は、
2人の主人公の10年以上の間隔を置いた2回の逃避行を、
徹底して象徴的に描くことのために、
ストーリーの流れや辻褄など多くの部分を犠牲にして成り立っている、
かなり特異な作品で、
その分観客を選ぶようなところがあるのですが、
それをしっかり吞み込んだ上でスクリーンに対峙すれば、
その象徴的な表現の純度は非常に高く、
特に中段暴行を受けた広瀬さんが松本の街を彷徨い、
子供返りして松坂さんの元を訪れると、
それが子供の時の最初の出逢いと、
同じ構図になって現れるところや、
ラストの生死の狭間を潜り抜けるような、
道行にも似た旅立ちの場面の流麗さは、
タルコフスキー作品にも引けを取らない映画表現に、
昇華していたように思います。

役者は広瀬さんの体当たり的な演技も、
最早円熟の芸に達したような松坂さんの受けのみの芝居も素晴らしく、
趣里さんも良い仕事をしていたと思います。
横浜流星さんは正直損な役回りで、
キャスティングする側の悪意のようなものを少し感じました。
この役は他の役者さんでも良かったのではないかしら、
正直そんな風に感じました。

数日で一生を駆け抜けるような、
絶望的で燃え尽きるような愛、
2人以外の全ては敵で、
ひたすら愛し合うしか術はない、
みたいな映画が僕はとても好きで、
「ドクトル・ジバゴ」がそうでしょ。
「リービング・ラスベガス」もそんな映画だったですよね。
この作品は原作はハッピーエンドで、
映画版もそれを匂わせてはいるんですが、
基本的にはこうした「燃え尽き系」の作品ですよね。

それもね、最も官能的な瞬間が、
唇に付いたケチャップを拭うだけの行為なんですよね。
それがね、何か物凄く切ないですよね。
原作にも同じ表現はあるのですが、
ハッピーエンドですし、
そんなにそのこと自体が切なくはないのですね。
でも映画は切ないよね。
この青年の心の中の最大の高揚と官能が、
その些細な瞬間にしかないというところがね、
とても悲しくて切なくて、
それでいてとても愛おしく感じるのです。

そんな訳で、
一生心に残るような映画と思う人がいる一方、
何だこりゃ、ダラダラした描写が続くだけで、
訳も分からんし眠くなったぞ、
という人も沢山いるだろう映画なので、
これは合うな、と思う方のみ映画館に足をお運びください。
多分原作は先に読まないとストーリーは良く分かりません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対するアンドロゲン抑制療法の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
朝から保育園の健診があり、
そこから老人ホームの診療に廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19に対するアンドロゲン抑制療法.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年4月19日ウェブ掲載された、
男性ホルモンを抑制することの、
新型コロナウイルス感染症への有効性についての論文です。

新型コロナウイルス感染症の治療には、
多くの薬剤が使用されていますが、
一定の有効性はあるものの、
決定打のような治療法は開発されていません。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
人間の身体の細胞にある、
ACE2という受容体に結合することにより感染します。
その後にもう1つのステップがあり、
コロナウイルスに特徴的な表面の突起(スパイク)が、
感染細胞にあるセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)という酵素により、
変化(プライミング)を受け、
それにより細胞内に侵入することが出来ると考えられています。

このACE2とTMPRSS2と同じように、
人間の肺の上皮細胞に発現しているのが、
男性ホルモンであるアンドロゲンの受容体です。

アンドロゲンはTMPRSS2と相互に刺激する関係にあり、
アンドロゲンによりTMPRSS2の発現は増加します。

この知見からは、
新型コロナウイルス感染症の罹患時に、
アンドロゲンを抑制することによって、
その予後が改善するという可能性が示唆されます。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
18歳以上で新型コロナウイルス感染症に罹患し、
人工呼吸器は必要ないけれど、入院治療の適応と診断された男性患者を、
72時間以内にくじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の治療に上乗せして、
アンドロゲンを抑制するデガレリクスを使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
その予後を比較検証しています。

このデガレリクスは、
前立腺癌の治療薬として日本でも使用されている薬剤で、
ゴナドトロピンを抑制することにより、
強力にアンドロゲンを低下させる注射薬で、
今回は240㎎を皮下注射で使用しています。

試験は早期に中止されていますが、
96名の患者が解析されていて、
そのうちの62名はデガレリクス群に、
34名は偽薬群に割り付けられています。
その結果、治療開始後15日の時点で、
生命予後を含む患者の予後には、
明確な差は認められませんでした。

今回の臨床試験は大変興味深い試みでしたが、
少なくとも明確な差は両群で認められず、
現時点で推奨される治療とは言えません。
ただ、例数が少ないなど限界もあるため、
今後こうした治療の試みが、
意外に奏功するような報告が得られるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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夜勤を含む交代勤務と健康リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
シフト制勤務と生命予後.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年5月4日ウェブ掲載された、
夜勤を含む交代制勤務が健康に与える影響についての論文です。

夜勤と昼勤、早出、遅出などを不規則に繰り返す、
交代制勤務は、
医学的には健康面での悪影響が指摘されています。

夜勤を含む交代制勤務は、
正常なホルモンなどによる日内リズムを乱し、
睡眠障害や他の精神疾患、
認知機能低下、慢性内臓疾患などのリスクを高め、
生命予後にも悪影響を与えることが、
これまでの疫学研究などにより報告されています。
WHOの専門部会は、
発癌のリスクにもなり得るという報告もしています。

ただ、そうしたデータの多くは比較的短期間のもので、
長期の夜勤を含む交代勤務が、
その後の健康にどのような影響を与えるのかについては、
データは限られているのが実際です。

今回の研究はこうした交代勤務の職種として代表格でもある、
看護師の大規模出来学データを活用して、
夜勤を含む交代勤務の長期の影響を検証しています。

対象は46318名の女性看護師で、
24年という長期の健康観察を施行し、
70歳の時点で明確な記憶障害や身体障害がなく、
多くの慢性病にも罹患していない状態を健康な加齢として、
その頻度を比較検証しています。

その結果、
夜勤を含む交代勤務をしていない看護師に比較して、
10年以上そうした勤務をしていると、
健康な加齢の比率が21%(95%CI:0.69から0.91)有意に低下していました
それより短い勤務でもそうした傾向は認められましたが、
統計的には有意ではありませんでした。
ここで認知機能低下も健康な加齢の除外要素として検討すると、
10年以上の夜勤を含む交代勤務は、
健康な加齢の比率を27%(95%CI:0.60から0.89)、
有意に低下させていました。

このように、
短期的な影響ばかりでなく、
夜勤を含む交代勤務は、
健康長寿の阻害要因ともなっている可能性があり、
今後こうした勤務をどのように考え、
その健康への悪影響を、
どのようにして修正するべきなのか、
より深い議論が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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治療中の甲状腺機能と心血管疾患の生命予後との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺の治療と心血管疾患死亡リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年5月12日ウェブ掲載された、
甲状腺ホルモン剤による治療と、
心血管疾患の生命予後との関連を検証した論文です。

甲状腺ホルモン製剤(通常はT4製剤)は、
主に甲状腺機能低下症の治療として用いられる薬剤で、
それ以外に甲状腺腫瘍の増大を抑えるために、
TSH抑制のために使用されることもあります。

甲状腺ホルモン製剤を内服中の患者さんは、
甲状腺機能の指標であるTSHの数値が基準値内のこともあり、
薬が不足していたり、飲み忘れがあったりすると、
甲状腺機能低下(TSH高値)となることもあり、
また薬が多すぎたり、もともとTSHを抑制する目的で使用されていると、
甲状腺機能更新(TSH低値)となることもあります。

一般的に甲状腺機能低下症も、
甲状腺機能亢進症も、
正常な甲状腺機能を持つ人と比較すると、
心血管疾患のリスクが増加すると考えられていて、
それを裏打ちするようなデータも存在しています。

それでは、
甲状腺ホルモン製剤を使用中の患者さんでも、
治療中の甲状腺機能によって、
心血管疾患のリスクには差があるのでしょうか?

今回の研究では、
アメリカの退役軍人の医療保険データを活用して、
甲状腺ホルモン製剤を使用中の患者さんの甲状腺機能と、
心血管疾患による死亡リスクとの関連を検証しています。
観察期間の中間値は4年で、年齢の中間値は67歳、
大多数は男性です。

18歳以上で甲状腺ホルモン製剤を使用している、
トータル705307名のデータを解析したところ、
甲状腺機能の指標であるTSHが0.5から5.5mIU/Lの基準値である場合と比較して、
0.1未満と医原性甲状腺機能亢進症の状態にあると、
心血管疾患による死亡リスクは、
1.39倍(95%CI:1.32から1.47)有意に増加していました。
一方でTSHが20を超えるという甲状腺機能低下症の状態では、
心血管疾患による死亡リスクは、
2.67倍(95%CI:2.55から2.80)こちらも有意に増加していました。

このように
甲状腺機能が治療により極端に機能低下や機能亢進に振れると、
それ自体が心血管疾患の死亡リスクを増加させる要因になるので、
甲状腺ホルモン製剤使用時の甲状腺機能は、
基準値をそれほど逸脱しない範囲に、
留めることが重要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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インフルエンザワクチンと心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療となります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
インフルエンザワクチンと心血管疾患リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年4月29日ウェブ掲載された、
季節性インフルエンザワクチンの接種と、
心血管疾患リスクとの関連についての論文です。

新型コロナの蔭に隠れている感じがありますが、
季節性インフルエンザワクチンの接種が、
毎年行われています。

今のワクチンはスプリットワクチンと呼ばれる不活化ワクチンで、
感染そのものを予防する効果は、
それほど高いものではないのですが、
集団免疫と重症化予防の観点からは、
一定の有効性があるとする評価が一般的です。

ただ、この数年は新型コロナの流行により、
その感染は非常に低いレベルで推移しているので、
それでも毎年の接種が必要なのか、
と言う点については、
こうした状況が今後も続くのであれば、
議論の必要はあるように思います。

最近指摘されることの多い知見として、
インフルエンザ感染と急性冠症候群などの心血管疾患との間には、
一定の関連があり、
インフルエンザ感染の予防により、
心血管疾患のリスクも低減出来るのでは、
という考え方があります。

今回の研究は2020年から2021年という、
最近の期間に施行された臨床試験のデータを、
まとめて解析したメタ解析の手法により、
この問題の検証を行っているものです。

その2年間に発表された、6つの介入試験に含まれる、
トータル9001名の臨床データをまとめて解析したところ、
インフルエンザワクチンの接種は、
心血管疾患の発症リスクを、
34%(95%CI:0.53から0.83)有意に低下させていました。
特に急性冠症候群に絞ってみると、
そのリスクを45%(95%CI:0.41から0.75)有意に低下させていました。

このように、
インフルエンザワクチンによる免疫刺激は、
その後の心血管疾患のリスクに影響を与えている可能性があり、
そのメカニズムや因果関係を含めて、
今後より詳細な検証する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「シン・ウルトラマン」(ネタばれ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
シンウルトラマン.jpg
「シン・ゴジラ」に続くシリーズ(?)、
と言って良いのかどうか分かりませんが、
庵野秀明さんによる過去の偉大な特撮アイコンの、
リニューアル映画第二弾として、
「シン・ウルトラマン」が今公開されています。

これは期待半分、不安半分で観に行ったのですが、
正直微妙な感じでした。

前半20分くらいは抜群なんですよね。
ただ、そこで期待が膨らみすぎるので、
途中から停滞気味になりオヤオヤという感じで、
後半になるとCGが科学の解説動画レベルでしょ、
それで嗚呼…と脱力するような感じになって、
何かモヤモヤしたまま終わってしまいました。

以下、若干のネタばれを含みますので、
鑑賞予定の方はご注意下さい。

これ、前半は抜群ですし、ビックリもするので、
後半はガックリとしますが、
予備知識なく鑑賞することをお勧めします。

よろしいでしょうか?

それでは先に進みます。

前半のダイジェストは凄いですし、
ウルトラマン登場までの段取りも凄いですよね。
ただ、ザラブ星人の辺りから、
特殊効果もかなりチープになりますし、
物語的にも青臭い議論調になって、
勿論それがかつての円谷特撮ドラマであった訳ですが、
ちょっとそれをそのままやられてもな、
というようなつらさがあるのですね。
ラストはゼットンが宇宙空間に最終兵器として出現するのですが、
もうモロに解説動画のレベルなのですね。
あれは、映画として公開出来るレベルじゃないのではないかしら。
後半は正直「もう止めて」という感じで、
薄目で見ているしかありませんでした。

総じてちょっと無理があったんですね。

「シン・ゴジラ」の良さは、
ほぼ全てを役所の会議だけで構成して、
CGカットも徹底して切り詰めたのが良かったんですね。
内容も一種の災害シュミレーションなので、
そうした構成で無理がなかったんですね。

それがウルトラマンになると、
どうしてもドラマがないといけないし、
ヒーロー物なので、
ヒーローの葛藤がないといけなくなるでしょ。
そうなると「シン・ゴジラ」の手口は使えなくなるんですね。

最後は「人類は滅ぼすべき存在なのか?」
と言う議論になるんですね。
勿論昔からそうで、
「いや違う、人間には生きる値打ちがあるのだ」
ということになるのですが、
僕は小さい頃に見ていた時も、
その時からあまり賛同出来なかったんですね。
だって、神様や地球外生物や高次元の世界から見れば、
人間みたいな生き物は酷いことばかりするし、
絶滅させた方が良いと思うのが当然でしょ。
それが嫌だと思うのは、
自分もその愚劣な人間の1人なので、
自分や自分の周りの世界が、
絶滅するのが嫌だ、怖い、というだけのことでしょ。

映画では「光の国」が地球を無くしてしまおうとして、
最終兵器のゼットンを宇宙空間に解き放つのですね。
それをウルトラマンは、
「いや、人間は生かすべき存在だと私は信じる」とかと言って、
それに抗うのですが、
この映画はシュミレーションと議論だけでドラマがないので、
そこに説得力が全くないのですね。

マーベルの「エターナルズ」という映画が昨年あって、
高次の存在の異星人みたいなものが、
最終兵器を覚醒させて人間を滅ぼそうとするのですね。
それを元々異星人の仲間のヒーローが、
阻止しようとするグループと、
上司に従って滅ぼそうとするグループに分かれて戦うので、
モロ今回の「シン・ウルトラマン」と構造は同じなのですが、
そこでの「人間を救おう」というロジックは、
人間を愛するようになったので、その人を救うために戦う、
というような非常に個人主義的なものなんですね。
でも、それが割と説得力を持って感じられるのは、
そこにドラマがあるからなんですね。
勿論CGのレベルも全然違うのですが、
何よりドラマの熱量が違うんですね。

結局こうしたお話は、
こうでないと成立しないんですね。

論理で言うと、
「人間は滅ぼされて当然」ということに、
どう考えてもなってしまうので、
それを乗り越えるには、
ドラマのパッションと熱量しかないんですね。

でも、「シン・ウルトラマン」は技巧的に、
ドラマを封印している作品なので、
余程斬新なロジックがないと、
とても成立しないと思うのですが、
それがないままに禁じ手のドラマに突っ込んで、
見事に玉砕してしまった、
というのが今回の作品であったように思います。

そんな訳で個人的にはかなりガッカリの作品だったのですが、
もう少し時間を掛けて、
出来れば後半のCGカットは作り直し、
ロジックも一捻りした、
完全版を作って欲しいと無理は承知で願っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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高齢者の高血圧治療はどのくらい続ければ効果があるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高齢者の血圧コントロールの有効期間.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年5月9日ウェブ掲載された、
高齢者の降圧治療の心血管疾患予防効果と、
その発現までの治療期間を検証した論文です。

「高血圧の薬を飲むと、
死ぬまで止められないのですよね」
というような話は、
特にお薬を飲むことに抵抗のある患者さんからは、
よく聞かれる質問です。

僕は一応「薬の始め方・止め方」という本も書いているので、
「そんなことはありませんよ」というお話はするのですが、
勿論1か月程度の降圧治療に、
それほどの効果のないことは間違いがありません。

高血圧には、
上の血圧が200mmHgを超えるような、
すぐにでも下げないと、
脳卒中などのリスクがある、
もしくはもう起こっている可能性がある、
というような緊急を要するような状況もありますが、
多くの高血圧はそこまでの緊急性はなく、
生活改善と共に、降圧剤を使用して血圧コントロールをするのは、
主に脳卒中や心筋梗塞などの、
将来的な心血管疾患の予防のためです。

この心血管疾患の予防のためには、
ある程度の期間の血圧コントロールの継続が必要です。

通常心血管疾患の発症リスクを、
その後5年で算出することが多いのは、
概ね5年は血圧コントロールの継続が、
そのためには必要であることを意味しています。

特に治療の継続期間が問題となるのは、
患者が高齢者である場合で、
たとえば持病があって、
その後5年以内に亡くなる可能性が高いということになると、
その時点からの降圧剤の使用は、
必ずしも必要性があるとは言えなくなります。

今回の研究はこれまでの6つの精度の高い臨床試験に含まれる、
降圧治療を施行した60歳以上の27414名のデータを、
その観点からまとめて解析したものです。

その結果、
収縮期血圧が140mmHg未満を目標として、
降圧治療を施行すると、
心血管疾患の発症リスクを、
トータルでは21%(95%CI:0.71から0.81)、
有意に低下させていました。

これを治療開始後からの期間で解析すると、
500人の治療当たり1人の心血管疾患を減少させるためには、
平均で9.1ヶ月(95%CI:4.0から20.6)が必要で、
これを200人に1人とするには19.1ヶ月(95%CI:10.9から34.2)、
100人に1人とするには34.4ヶ月(95%CI:22.7から59.8)、
が必要と算出されました。

このように、
60歳以上での収縮血圧140mmHg未満を目指す降圧治療は、
予測される余命が3年以上ある患者には適している可能性がありますが、
余命が1年未満と想定されるような場合には、
あまり意味のない可能性が高いと考えられました。

これはやや極端で機械的な分析なので、
個別の事例によって判断される必要がありますが、
降圧剤による治療というものは、
その患者さんの今後の人生を必要な因子として考慮に入れた上で、
その継続を考える必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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食事時間制限ダイエットの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
食事時間制限の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年4月21日掲載された、
食事時間を制限するダイエットの有効性についての論文です。

肥満は心血管疾患など多くの病気のリスクとなり、
体重を適切に減らすことにより、
そのリスクの低減に繋がることも分かっています。

そのため、多くの減量法が開発されていますが、
科学的にその効果が立証されているものは、
実際にはあまり多くはありません。

摂取カロリーを制限する低カロリーのダイエットは、
その数少ない長期の有効性の確認されている減量法ですが、
その1年継続後の有効性は、
臨床試験においては体重の5%未満の低下にとどまっていて、
リバウンドも多いのが実際です。

そこでカロリー制限に組み合わせるダイエット介入として、
今回検討されているのが、
食事を摂る時間を制限するという方法です。
「夜食べると太る」というのは、
一般にも広く言われていることですが、
代謝の低下する夜間帯にカロリーを摂取し、
それから寝てしまうことは、
理屈から考えても、
体重増加の要因とはなりそうです。

ただ、実際にその影響が、
科学的に実証されているとは言えないのです。

今回の研究は中国において、
年齢は18から75歳、BMIが28から45で、
内臓疾患などはない139名をくじ引きで2つの群に分けると、
男性は1日1500から1800キロカロリー、
女性は1日1200から1500キロカロリーの低カロリーダイエットを施行すると共に、
一方の群では朝8じから午後4時までに食事の時間を制限し、
もう一方は特に食事時間の制限は行わずに、
12か月の経過観察を行っています。

その結果、
1年の時点での平均の体重減少は、
食事時間制限群で-8.0キログラム(95%CI:-9.6から-6.4)であったのに対して、
食事時間制限未実施群では-6.3キログラム(95%CI:-7.8から-4.7)で、
この差は検査の規定上、
有意なものではありませんでした。

つまり、夜は食べないような制限を加えても、
低カロリーダイエットの有効性には、
あまり差は見られなかった、と言う結果です。

この問題は簡単に結論が出るものではなく、
今後も検証が必要と考えられますが、
夜食べないダイエットの減量効果に限った有効性は、
現状科学的に確認されたものではない、
というように捉えておいて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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スタチンに上乗せしたコレステロール降下剤の予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチン以外のコレステロール降下療法の有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年5月4日ウェブ掲載された、
スタチン以外のコレステロール降下剤による、
心血管疾患予防効果についての論文です。

スタチンというのはコレステロールの合成酵素の阻害剤で、
強力にLDLコレステロールを低下させる作用を持ち、
コレステロールの合成抑制以外に、抗炎症作用など、
動脈硬化性疾患の、
進行を抑制するような働きを併せ持ち、
特に心筋梗塞などの心血管疾患の再発予防においては、
欠かせない治療薬となっています。

スタチンの心血管疾患予防に関する有効性は、
多くの精度の高い臨床研究により実証されています。

ただ、スタチンを充分量使用しても、
目的となるLDLコレステロール値を達成出来ない場合や、
副作用や有害事象などにより、
スタチンを使用出来ないケースでは、
上乗せもしくは単独で、
エゼチミブというコレステロール吸収の阻害剤や、
PCSK9阻害剤という、
LDL受容体に結合して安定化させるという、
別個のメカニズムを持つ注射薬が、
健康保険でも適応となり使用されています。

しかし、実地臨床において、
エゼチミブやPCSK9阻害剤に、
スタチン単独と比較して、
どれだけの有効性があるのかについては、
まだデータは限られたものしかありません。
この場合の有効性というのは、
コレステロールを下げる力ではなく、
心血管疾患の予防効果のことです。

今回の研究では、
これまでの臨床研究のデータをまとめて解析して比較する、
ネットワークメタ解析と言う手法で、
この問題の検証を行っています。

これまでに行われたエゼチミブとPCSK9阻害剤の介入試験の中で、
500人以上の患者を6か月以上観察した、
14の臨床研究に含まれる、
トータルで83660名のデータをまとめて解析したところ、
スタチンへのエゼチミブの上乗せは、
心筋梗塞の相対リスクを13%(95%CI:0.80から0.94)、
脳卒中の相対リスクを18%(95%CI:0.71から0.96)、
有意に低下させていました。
つまり、一定の予防効果は付加されるという結果です。
ただ、総死亡や心血管疾患による死亡のリスクについては、
有意な低下は認められませんでした。

もう少し詳細な解析として、
患者を心血管疾患の発症リスクが低い群から高い群に分け、
絶対リスクとして、
患者1000人当たり心筋梗塞が12人、
脳卒中が10人の患者発症を抑制した場合に、
上乗せ効果があるとして解析すると、
今後5年間の心血管疾患発症リスクが、
中間値で24%に達するような超高リスク群では、
スタチンへのPCSK9阻害剤の上乗せは、
心筋梗塞のリスクを患者1000人当たり16人減らし、
脳卒中のリスクを21人減少させましたが、
エゼチミブは脳卒中のリスクは14人減らしたものの、
心筋梗塞のリスクは11人で基準には達していませんでした。

今後5年間の心血管疾患発症リスクが、
15%を超える高リスク群での解析では、
スタチンへのPCSK9阻害剤の上乗せは、
心筋梗塞のリスクを患者1000人当たり12人減らし、
脳卒中のリスクは16人減少させましたが、
エゼチミブは脳卒中のリスクは11人減らしたものの、
心筋梗塞のリスクは8人減少で基準には達していませんでした。

そして患者の大多数を占める、
中等度リスク群から低リスク群においては、
スタチンへのPCSK9阻害剤やエゼチミブの上乗せは、
明確な予後の改善には結びついていませんでした。

このように、
スタチンの使用で充分なコレステロール降下が得られない場合、
PCSK9阻害剤やエゼチミブの上乗せは、
一定の心筋梗塞や脳卒中発症抑制効果が望めますが、
生命予後には影響を与えず、
抑制効果自体も、
今後5年の心血管疾患リスクが15%以上という、
高リスク群に限って認められていました。

矢張り、スタチンと他のコレステロール降下剤とは、
同列に考えるべきではなく、
上乗せでの使用は高リスクの患者に限って有効性があると、
そう考えておいた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「神州無頼街」(劇団☆新幹線) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日ですが終日レセプト作業で、
午後には昨日のRT-PCR検査の結果説明もする予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
新感線舞台2022.jpg
王道いのうえ歌舞伎の最新作として、
コロナのため延期になった「神州無頼街」が、
今池袋のブリリアホールで上演されています。

メインは福士蒼汰さんと宮野真守さんで、
対する悪役を高嶋政宏さんと松雪泰子さんが演じ、
周辺をお馴染みの新感線メンバーが固めるという布陣です。
古田新太さん、橋本じゅんさん、高田聖子さんは出演しません。

内容は幕末を舞台にして、
それぞれ出自に謎を秘めた、
福士蒼汰さんと宮野真守さんがタッグを組み、
超自然的な力を持つ、
謎のヤクザ組織に戦いを挑むというお話です。

プロット的には「髑髏城の七人」に近い設定で、
敵の設定には、僕の大好きな「蛮幽鬼」のテイストも入っています。

安定した仕上がりで悪くなかったのですが、
悪役の設定がとても魅力的なのに、
清水の次郎長と対決するヤクザ組織というのが、
ちょっとスケールが小さいのが物足りなく感じます。
国家転覆を目論むというほどではなく、
何がしたいのか良く分からないままに自滅してしまう、
というような感じもあります。

キャストでは松雪泰子さんが迫力十分で、
とても良かったのですが、
高嶋政宏さんはビジュアルの迫力は充分あるものの、
かなり抜けた感じの役作りで、
強い筈なのにあまり強さも感じません。
新感線の悪役は残虐な力強さとコミカルな部分のバランスが肝要ですが、
その辺りの勘所がまだ掴めていないように感じました。

主役2人は頑張っていたと思いますが、
大舞台での押し出しには、
見栄を切るにもまだためらうような感じがあり、
もっと振り切って欲しいな、というようには思いました。

そんな訳で悪役の造形などに魅力はあるものの、
新感線としてはやや小粒な感じは否めない作品で、
舞台の求心力はそれほど強くないのは残念には感じました。

ただ、コロナからの試運転という感じもあるのだと思いますし、
今後またパワー全開の娯楽大作を、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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