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「プロミシング・ヤング・ウーマン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
これから8月13日までクリニックは夏季の休診となります。
受診予定の方はご注意下さい。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
プロミシングヤングウーマン.jpg
2020年製作のアメリカ映画で、
今年の米国アカデミー賞では脚本賞を受賞しています。

これは結構複雑な趣向の作品で、
雰囲気はポップでアメコミヒーロー映画のようなスタイルなのですが、
中身はかなりドロドロしています。

女主人公の復讐ものですが、
敵は特定の男というよりも、
自分達の社会的優位を保ち、
互いにかばい合う、男達の社会と、
それに迎合する女性を含めた、
トータルな男性優位社会のシステムそのもの、
というところが特徴です。

特異なのが前半の主人公の描き方で、
将来有望な医学生であったのに退学し、
コーヒーショップでアルバイトをしながら、
恋人はおろか交友関係自体を全く持つことなく、
高齢の両親に寄生するように生活。
夜になると女目当てのどうしようもない男が集まる、
バーやクラブなどに出没して、
泥酔した風を装って、わざわざ男の家に連れ込まれ、
そこでしらふであることをカミングアウトして、
男を狼狽させるのを日課としている、
という塩梅です。

その生活を主人公は少しも後悔したり、
恥じたりする様子がなく、
むしろ真面目に仕事をしたり、勉強したり、
友達を作ったり、
恋をしたり、家庭を作ったりすることを、
何か恥ずべきことのように考えている風があるのです。

要するに主人公は、
男優位社会を憎んでいて、
そこに迎合するような行為全てを拒否しているのですね。
そうすると結果的に、
社会集団に所属することは困難なので、
こうして一匹狼のような生活を送っているのです。

ただ、その後主人公の前に、
かつての医学生時代の同級生の男性が出現すると、
その意志は存外簡単に揺らいでしまいます。
主人公はその男性を愛するようになる一方で、
彼から聞いたかつての「敵」の動静から、
復讐への強い意志が生まれ、
その実行に向けて動き出すのです。

その後物語は二転三転しますが、
何となく読めてしまう展開ではあるので、
それほど盛り上がりは感じませんでした。
ラストも何となく消化不良の感じです。
ただ、この映画は観る立場によっても、
かなり興味のあり方が違う作品だと思うので、
何処を面白いと感じ何処を詰まらないと感じるかは、
かなり千差万別ではないかと思いました。

個人的には前半の主人公の生き方自体が、
とても面白く感じたので、
それが簡単に揺らいでしまうような後半は、
あまり面白いとは感じませんでした。

ただ、繰り返しになりますが、
観る立場によって感想は大きく変わる作品ではあると思います。

そんな訳でそれほど乗らなかったのですが、
僕が絶賛したら、それこそおかしなことだと思いますし、
今のアメリカ映画の1つの流れを代表する作品として、
観て損はない1本だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「1秒先の彼女」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1秒先の彼女.jpg
2020年製作の台湾映画です。
時間テーマのファンタジーと恋愛ドラマの融合という触れ込みで、
こうしたものは昔から大好物なので、
楽しみにしていたのですが、
アッと言う間にロードショーが終わりそうだったので、
慌てて劇場に足を運びました。

これなかなかいいですよ。

2020年製作と書かれているのですが、
70年代から80年代くらいのテイストなんですね。
多分意図的なものだと思うのですが、
とてもノスタルジックで、
日本で言えば昭和の気分です。
庶民の生活に幻想が同居していて、
そう「鎌倉ものがたり」みたいな感じですね。

タイムリープものとか、
時間テーマSFのように予告を観た時は思っていたのですが、
そうではないんですね。
両親を失った孤独な青年が、
1日だけ異世界に紛れ込む話です。
1人の女性に対する思いだけが、
その青年の生を支えているのですが、
現実ではほぼ成就することのない切ないその思いが、
幻想の1日のみ成就しかける、
という切ないお話しです。

時間の帳尻合わせで止まる1日がある、
という説明になっているのですが、
それだと色々と説明の付かないことが多すぎるのですね。
結局異常な現象を体験したのは、
その青年だけなのですから、
1日のみ死の世界に踏み込んで、
そこから本当に生還したのかしなかったのかは、
観客の判断に任せるというのが、
この作品の後半の意味合いなのではないかと個人的には思いました。

だって、女性の父親が出て来るのですが、
明らかに死んでいるでしょ。
その父親が生の世界と死の世界の狭間で娘に会って、
それからお坊さんのスクーターで死の世界に帰ってゆく、
それが出会う筈のない2人が出会う、
七夕の日の奇跡ということなのではないでしょうか?

この映画は2部構成で、
前半は本当に70年代くらいの、
香港コメディ映画みたいな感じなんですね。
正直ちょっと引いてしまうような感じもあるのですが、
後半の青年のパートでは抒情的な部分が持ち上がって来て、
水没しかけた夕暮れの道(おそらく生の世界と死の世界の狭間)を、
延々とバスが走ってゆくカットなど、
意味もなく涙がこみ上げるような、
心に残るものを持っています。

死の世界に入るとヒロインは人形のように動かなくなるのですが、
青年はそこで自分の妄執を実現させようとするのですね。
でも最後の最後になって、
唇にキスをすることも出来ず、額にキスをしただけで、
その場を去って行きます。
悲しいですよね。
でも、ネットの感想などを読むと、
青年の行為がストーカーのようで気分が悪くなった、
というようなものが多いんですね。
もうそういう、倫理的に正しい内容でないと受け付けない、
という方が多いのですね。
確かにそうなんですよ。
この青年はまともではないのです。
だって、家族を全て失って、
1人の女性への妄執以外に、
生きる意味を見失っているのですから、
そんな人がまともである訳はありません。
本人もまともでないことが分かっているから、
個人的な交流に踏み込むこともせず、
見守るだけの人生を続けているんですね。
それでも最後に勇気を振り絞って彼女を助けようと奮闘して、
そのご褒美として、
密かな行為に及んだのだと思います。

いずれにしても、
今欧米の映画からも、
韓国映画や中国映画、日本映画からも失われてしまった、
かつての庶民派映画の牧歌的なムードが懐かしい、
とても愛すべき映画で、
勿論、主人公が倫理的に正しい行動をしないと認められない、
というような方にはお勧めは出来ませんが、
こっそり1人でノスタルジックな気分に浸るにはお勧めの映画です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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スマホアプリを用いた腰痛セルフマネージメントの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
腰痛に対するウェアラブル端末医療.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年8月2日ウェブ掲載された、
スマートフォンなどを用いたセルフケアの、
腰痛に対する有効性を検証した論文です。

背中や腰の痛みは非常に一般的な症状で、
ぎっくり腰では動けなくなって、
日常生活にも大きな影響があります。

その中には確かに、椎間板ヘルニアなどの腰椎疾患や、
圧迫骨折や骨腫瘍など、
専門的な検査や治療が必要とされる病気もありますが、
多くは筋肉の疲労やストレスなど、
様々な一般的要因が集まったもので、
特定の病気という性質のものではありません。

その治療にも定まったものはなく、
リラクゼーションや運動、規則正しい生活など、
一般的な生活習慣の改善が、
有用であるという複数のデータが存在しています。

ただ、医療機関において、
そうした生活指導を継続して経過をみることは、
慌ただしい通常の外来診療においては非常に困難で、
結果として湿布や痛み止めで経過をみるだけ、
という状態になりがちです。

最近スマホなどの進歩により、
自分で自分の健康や状態を管理する、
セルフマネージメントの考え方が広まり、
スマホアプリとウェアラブル端末(腕時計など)を連携して、
健康管理や生活改善をサポートするシステムが、
複数開発され利用されています。

全ての病気にこうした方法が向くという訳ではありませんが、
原因不明の腰痛などは、
セルフマネジメントの効果が期待出来る分野であることは、
間違いがありません。

そこで今回の研究ではデンマークとノルウェーにおいて、
プライマリケアでの腰痛の患者さんを登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の指導をクリニックにて行うのみとし、
もう一方はそれに加えて、
ウェアラブル端末とスマホを用いた、
セルフマネージメントシステムを導入して、
3か月の経過観察を行なっています。

腰痛については、
RMDQ(もしくはRDQ)スコアという指標を用いて、
その日常生活への障害の程度を数値化しています。
その日本語版がこちらです。
腰痛スコア.jpg
この24の質問の「はい」の数を合計したものがスコアで、
それが高いほど腰痛の程度が重い、
というように判断されるのです。

セルフマネージメントの仕組みはこちら。
セルフマネージメントの仕組み.jpg
コンピューターに入力された問診などの情報から、
その人にとっての適切な生活改善プログラムが作成され、
それがスマホに表示されます。
その達成率はウェアラブル端末の情報なども利用して評価され、
フィードバックされると言う仕組みです。

次にこちらをご覧ください。
ウェアラブル1.jpg
1日の歩数や決められた運動量など表示されています。

それでは次はこちらを。
ウェアラブル2.jpg
期間ごとの達成率がこのように表示されています。

対象者は全体で461名で、
こうした運動などのセルフマネージメントプログラムを活用して、
3か月のトライアルを行なったところ、
通常指導のみの場合と比較して、
RMDQスコアは0.79点(95%CI:0.06から1.51)有意に改善していて、
少なくとも4点改善した比率は、
通常指導が39%であった一方、
プログラム使用群では52%でした。

このように、
それほど顕著とは言えないと思いますが、
セルフマネージメントプログラムは、
通常の診察室のみでの指導と比較して、
一定の有効性が確認されました。

勿論こうしたアプローチは、
全ての健康状態で同様に可能なものではありませんが、
今後分野によってはこうしたITの使用が、
健康管理の主流となることは間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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認知症の精神症状に対するピマバンセリンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ピマバンセリンの認知症への効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年7月22日掲載された、
認知症に伴う精神症状に対して、
パーキンソン病の治療薬を使用した、
臨床試験の結果についての論文です。

認知症が進行すると、
そのタイプにもより違いはありますが、
被害妄想や幻覚、幻視、せん妄など、
多彩な精神症状が出現します。

ある報告によると、その頻度は研究により様々で、
幻覚は15から50%の認知症の患者さんに発症し、
妄想は10から70%に発症するとされています。

アメリカの精神科学会の現行のガイドラインでは、
こうした精神症状には心理療法などの非薬物療法が第一選択で、
それが無効の場合に限って、
抗精神病薬などによる薬物療法が検討される、
とされています。

ただ、実際にはアメリカにおいても、
主に非定型抗精神病薬というタイプの薬剤が、
適応外処方として多く使用されているのが実態であるようです。

この現象は日本でも違いはなく、
健康保険上は統合失調症や双極性障害などの適応しかない薬剤が、
認知症の精神症状に対して使用されています。

問題は認知症の精神症状に対して、
精度の高い臨床試験でその有効性の示されている薬剤が、
存在しないということにあるのです。

今回の臨床試験では、
認知症の精神症状に対して、
パーキンソン病の精神症状に対して使用されている、
ピマバンセリン(pimavanserin 日本未発売)を使用して、
その有効性を検証しています。

ピマバンセリンは、
ドパミン受容体と共に、
幻覚や妄想の発症に関わっているとされる
セロトニン2A受容体に、
逆作動薬・拮抗薬として作用する薬で、
パーキンソン病に伴う精神症状がその適応です。
ドパミン受容体に殆ど作用しないので、
パーキンソン症状を悪化させないことが最大の利点です。

ただ、この薬剤が認知症の精神症状に対して、
同じように効果があるのかについては、
まだ不明です。

今回の臨床試験は、
794名の精神症状を伴う複数のタイプの認知症の患者さんを登録し、
まず精神療法など非薬物療法を行なった上で、
精神症状の改善が認められない392名の患者に、
ピマバンセリンを1日20から34㎎で12週間継続。
その結果、使用継続した351名中、
精神症状が規定の尺度で30%以上改善した217名を、
今度はくじ引きで2つの群に分けると、
一方はピマバンセリンをそのまま継続し、
もう一方は偽薬に切り替えて、
26週の経過観察を行なっています。

精神症状のある認知症の患者さんに対して、
偽薬を使用して最初から治療しない、
という行為は問題があるので、
治療を行なって有効性のある事例に対して、
薬の中止による影響を見る、
という複雑な手法を取っているのです。

12週の治療後、
幻覚や妄想の程度を示す指標は、
平均で75.2%という改善を示していました。
そして、半数で薬を分からないように中止したところ、
精神症状の再発はピマバンセリン使用群の13%で認められた一方、
偽薬群では28%で認められていて、
ピマバンセリンは精神症状の再発を、
83%(95%CI:0.17から0.73)有意に抑制していました。

偽薬との観察期間中に、
抗精神病薬では多い有害事象である、
運動障害やパーキンソン症状の有意な増加はなく、
2%を超えて見られた有害事象は、
頭痛、尿路感染症、不安、めまい、意欲低下、無症状性QT延長、便秘、高血圧で、
いずれも概ね軽症でした。

今回の試験は途中で規定の有効性が示されたため、
予定より早期に中止されています。

非常に画期的な有効性と言って良い結果ですが、
対象となっている患者は、
特定の認知症ではなく、多くのタイプの認知症の寄せ集めで、
個別の認知症のみで解析すると、
症例数も少なく有意な差は認められなくなります。

従って、
今後より症例数を多く、
かつ個別のタイプの認知症に対しての、
有効性や安全性が確認される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチン1回目アレルギー発症事例の対応について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワクチン接種後アレルギーの対応.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年7月26日ウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナウイルスmRNAワクチン1回目接種後に、
アレルギー反応が発症した事例の対応についての内容です。

ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のmRNAワクチンの接種後には、
2%程度で蕁麻疹などのアレルギー反応が認められ、
1万人に2.5人を越えない程度の頻度で、
全身性のアレルギー反応である、
アナフィラキシーが起こると報告されています。

アナフィラキシー以外の蕁麻疹などのアレルギー反応については、
特に2回目の接種を中止したり延期する必要はないと考えられていますが、
発熱などの副反応については、
1回目より2回目の接種後の方が、
強くなることが指摘されていて、
アレルギー反応の増強についても、
危惧する意見があって不思議はありません。

今回の検証はアメリカの複数施設において、
ファイザー・ビオンテック社もしくはモデルナ社のワクチン初回接種後に、
4時間以内にアナフィラキシーを含む急性のアレルギー反応を来した、
189名のその後の経過を調査したものです。

アレルギー反応を来した189名中、
実に86%に当たる163名が女性で、
平均年齢は43歳(SD14)でした。
ワクチンの種別はモデルナ社が69%に当たる130名で、
ファイザー・ビオンテック社が31%に当たる59名でした。

アレルギー反応の内訳は、
発赤や湿疹が28%、ふらつきや眩暈が26%、
かゆみが24%、咽頭違和感が22%、蕁麻疹が21%、
喘鳴や呼吸困難が21%、17%に当たる32名がアナフィラキシーでした。

このうち84%に当たる159名は、
通常通り2回目の接種も施行されました。
接種前の抗ヒスタミン剤の使用は、
30%に当たる47名で施行されました。
19名のアナフィラキシー発症者を含む159名の2回目接種後、
アレルギー反応が同様に認められたのは、
20%に当たる32名のみで、
いずれも軽症もしくは中等症で、
全ての事例で問題なく接種が行われました。

このように、
1回目の急性アレルギー反応は、
必ずしもワクチン含有成分に対する、
即時型アレルギー反応ではない場合も多く、
アレルギー反応であっても、
非特異的なもので、
抗ヒスタミン剤などの事前使用で、
予防可能な場合も多いと考えられます。

アメリカのCDCは、
ファイザー・ビオンテック社もしくはモデルナ社ワクチンの初回接種で、
アレルギー反応が認められた事例において、
2回目にジョンソンアンドジョンソンのワクチンを、
使用可能という判断をしていますが、
それは必ずしも適切な判断ではないのではないかと、
上記レターの著者は記載しています。

そうは言っても、
全ての副反応やアレルギーのメカニズムが、
明かになってはいない現状で、
初回での強いアレルギー症状があった事例でも、
同じワクチンを2回目に使用するという判断は、
臨床的にはなかなか難しいところですが、
新型コロナワクチンによるアナフィラキシーが、
全て2回目の刺激でより増強する、
という性質のものではないことは確かで、
今後より詳細な検証が必要な事項ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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閉経後乳癌術後ホルモン療法の持続期間について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
乳癌に対するホルモン抑制療法の期間.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年7月29日掲載された、
乳癌術後のホルモン療法の持続期間についての論文です。

乳癌は治療の進歩により、
その予後が格段に改善した癌の1つです。

ただ、その治療についてはまだ方針の、
明確に定まっていない事項もあります。

その1つが、外科治療後のホルモン抑制療法を、
どのくらいの期間継続するべきか、
という問題です。

癌細胞がエストロゲンなどの、
女性ホルモンの受容体を持っている乳癌では、
女性ホルモンの合成や分泌を抑制する薬を使用することにより、
その再発が予防されることが分かっています。

閉経後では女性ホルモン分泌は、
卵巣からではなく副腎から行われるので、
その抑制にはアロマターゼ阻害剤と呼ばれる、
エストロゲン合成酵素の阻害剤を使用することが,
現在では一般的です。

ただ、この薬を長期使用することにより、
閉経後の骨粗鬆症はより進行し、
骨折などのリスクが増加することが知られています。

そこで問題はどのくらいの期間、
ホルモン療法を持続するのが良いのか、
という点にあります。

これまでの知見により、
術後5年間ホルモン療法を施行することについては、
そのメリットは有害事象を上回ると考えられ、
その使用が推奨されています。

それでは5年でホルモン療法を中止するべきでしょうか?

術後20年は乳癌再発のリスクは減少しない、
という報告もあり、その点を重視すれば、
10年、場合によっては20年薬を継続することも選択肢の1つです。

しかし、本当にそれが患者さんにとって、
メリットのあることなのでしょうか?

今回の臨床研究はオーストリアの複数施設において、
閉経後乳癌で治療を受け、再発の所見はなく、
その後5年間のホルモン療法(タモキシフェンもしくはアロマターゼ阻害剤)を受けた、
80歳以下の3484名を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はその後2年間、
アロマターゼ阻害剤であるアナストロゾールを継続し、
もう一方はその後5年間継続して、
10年の時点での予後を比較しています。
つまり、トータルで7年のホルモン療法と、
10年のホルモン療法を比較したということになります。

その結果、乳癌の再発やそれによる死亡、総死亡のリスクにおいても、
7年のホルモン療法と10年のホルモン療法との間で、
有意な差は認められませんでした。
その一方で臨床的な骨折の発症は、
7年のホルモン療法では4.7%に認められたのに対して、
10年のホルモン療法では6.3%に認められ、
10年のホルモン療法は7年と比較して、
骨折リスクを1.35倍(95%CI:1.00から1.84)有意に増加させていた、
という結果でした。

つまり、10年のホルモン療法は7年のホルモン療法と比べて、
トータルに患者さんにメリットがあるとは考えにくい、
ということになります。

ただ、これは個々の患者さんで、
その再発のリスクには差がある筈で、
癌の組織所見や血液中の微細な癌由来遺伝子の検出、
遺伝子多型の解析などにより、
ある程度科学的に再発リスクを階層化することが、
可能となっていることを考えると、
そうした知見をより系統化することによって、
個々の患者さんにとっての、
最適なホルモン療法持続期間を、
割り出すことが可能となるかも知れません。

従って、現状今回の知見のみで、
ホルモン療法の持続期間を決定することは出来ませんが、
個々のリスクの違いを考えることなく、
10年継続することは賢明な判断ではない、
ということは明らかになったと言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症軽症例に対するアジスロマイシンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アジスロマイシンの新型コロナに対する効果.jpg
JAMA誌に2021年7月16日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する、
抗菌剤のアジスロマイシンの有効性を検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症の、
デルタ株主体の感染が日本で猛威を振るっています。

この感染症についてはその流行当初から、
多くの薬剤がその治療薬や予防薬の候補として、
臨床試験が行われたり、適応外治療が試みられたりしましたが、
今のところ重症の事例における、
ステロイド剤と抗ウイルス剤のレムデシビルのみが、
治療薬として世界的に認められていて、
抗体カクテル療法は微妙なところで、
一定の有効性は確認されているものの、
どのような対象に使用するべきか、
まだ明確ではないのが現状かと思います。

マクロライド系抗菌剤であるアジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)は、
抗菌作用以外に免疫調整作用があると報告されていて、
それが新型コロナウイルス感染症に、
一定の有効性があるのではと指摘されている薬です。

これまでに幾つかの臨床試験が行われていますが、
その結果はあまり明確なものではなく、
特にヒドロキシクロロキンと併用されることが多かったので、
単剤での有効性はまだ明確にはなっていない、
という部分がありました。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
遺伝子検査もしくは抗原検査で新型コロナウイルス感染症と診断され、
登録の時点では入院はしていない、
診断から1週間以内で18歳以上の263名を対象とし、
くじ引きで2つの群に2対1で分けると、
171名はアジスロマイシン1.2グラムを1回投与し、
92名は偽薬を同じように投与して、
その後の経過を比較検証しています。

その結果、治療開始後14日の時点での治癒率は、
アジスロマイシン群と偽薬群で有意な差はなく、
21日の時点でも入院率についても有意な差はありませんでした。

このように、
新型コロナウイルス感染症の初期に、
アジスロマイシンを使用しても、
その予後には今回の臨床試験においても、
明確な違いは認められませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「竜とそばかすの姫」(細田守監督新作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
ただ、昨日も夜の12時まで仕事でしたし、
今日も昨日のRT-PCR検査の結果を大量に連絡しないといけないし、
もう何かちょっとなあ、という感じではあります。

先週のゲノム解析の結果が帰って来ると、
全てデルタ株の感染でした。
まあ、そういうことなのね、という感じです。

皆さんも感染対策にはくれぐれもご注意下さい。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
竜とそばかすの姫.jpg
細田守監督の最新作が、
今鳴り物入りで公開されています。
ただ、映画館は僕の行った時はガラガラで、
数人しかお客さんはいませんでした。
これは前作の「未来のミライ」の時もそうでしたね。

細田監督の作品は、
「サマーウォーズ」と「おおかみこどもの雨と雪」は、
とても面白かったし感銘を受けました。
前作の「未来のミライ」は、
金持ちの子供の生活を延々と見せられるという、
どうしてこんなものを作ったのかしら、
と監督に問い質したくなるような、
巻頭数分で頭を抱えるような作品でした。

そんな訳で正直今回もあまり期待はしていませんでした。

予告編を見ると「サマーウォーズ」の焼き直しの感じで、
今更仮想世界もないよね、という気もしました。

でも、今回は個人的にはとても良かったですね。

鑑賞後の気分は「おおかみこどもの雨と雪」を観た時と、
結構似た感じの余韻がありました。

これね、相当頭を絞り、お金も掛けて、
丁寧に作られた映画ですよね。
基本ラインとして、ディズニー・ピクサーのアニメ映画のパターンというか、
感動のツボを意識して作られた映画ですね。
女性の自立みたいなものを核にして、
家族の喪失と再生とをファンタジーとして描く趣向とか、
「正義の味方の王子様」的キャラが、
実は悪党で、狂暴な悪党の方が善玉というのも、
最近の流行を意識しているのだと思います。

世界中が参加する仮想空間で、
日本語の歌が大ヒットというのも変な話なのですが、
これも英語圏での公開なら、
全部英語に吹き替えるつもりだと思うんですね。
基本的に世界中で理解される映画にしようという意図があって、
キャラクターも練られているのだと思うのですね。
日本人の感じる個性というか、
性格の傾向のようなものが、
あまり深堀されていないのも、
意図的なものだと思います。

ただ、その中で、
主人公の少女が死んだ母親の心を理解出来ないでいて、
自分自身が何かを犠牲にしようとした時に、
初めてそれを理解するという肝の部分を、
台詞なしで表現していますよね。
ここは作り手としては、
分からない人には分からなくてもいい、
というような微妙な表現を取っているんですね。
この点に今回の作品で僕は一番感銘を受けました。

妻を失い、しっかりと子供に向き合うことが出来ない、
対象的な2人の父親が出て来るでしょ。
実はこの2人は鏡の表裏のような関係なんですね。
現実の世界と仮想現実の世界との対比があって、
それと同時に仮想現実から結ばれた、
現実の2つの家族の対比があるんですね。

主人公が血を流すことによって、
2人の父親が共に救われるというのが、
この作品の最も奥にあるテーマで、
細田監督が相当の覚悟を持って、
この作品を作り上げたということが分かります。

DVを安易に取り上げて何の解決も示していない、
というような批判が多くあるんですね。
でも、それはちょっと違うと個人的には思います。
これはね、主人公のお父さんが堕ちたかも知れない、
ダークサイドを描いているんですよ。
それを主人公が救うという話なんです。
だから、あれであの家族は救われたんです。
それをリアルなDVの話として捉えると、
非現実的、ということになるのですが、
そうではないのだと思います。

色々と完成されていない部分のある映画だとは思うんですね。
監督が本当に作りたいものを作るという目標と、
世界で売れる映画にするという2つの目標を、
両立させようとしたところにほころびがあるのですね。
でも、この意欲は凄いと思いますし、
新しい映画を作ろうという執念のようなものを感じました。

いずれにしても、
細田監督にして初めて成し遂げられた、
これまでの全てのアニメ映画を乗り越えようとした、
全体映画的な発想の大作で、
ディテールには「おやおや」というところもあるのですが、
トータルにはとても感動的な力作だったと思います。

好き嫌いはありますが、
個人的にはとてもお勧めです。
映像も美しくて見応えがあります。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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