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非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フィネレノン.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年8月28日ウェブ掲載された、
新規の降圧剤の、
2型糖尿病を合併する腎臓病患者への、
有効性を検証した論文です。

慢性腎臓病は高血圧や糖尿病とも合併しやすく、
心血管疾患である脳梗塞や心筋梗塞も、
合併しやすい状態であると考えられています。

ただ、一定レベル以上腎機能が低下すると、
多くの高血圧の治療薬が、
慎重投与や使用禁忌となります。
特にレニン・アンジオテンシン系と呼ばれるホルモン経路を、
抑制するタイプの治療薬は、
その性質上血液のカリウムを上昇させるリスクがあり、
腎機能低下自体が進行した場合には高カリウム血症を合併するので、
使用することが難しいという欠点がありました。

レニン・アンジオテンシン系の終点には、
ミネラルコルチコイドのアルドステロンがあり、
ミネラルコルチコイド受容体を介して、
ナトリウムと水分の貯留を来たし、
その結果として血圧は上昇します。

ミネラルコルチコイド受容体の過剰な刺激は、
2型糖尿病において炎症や線維化を誘発し、
それが糖尿病における心血管疾患リスクの増加に、
繋がっているという側面があります。

その点から言うと、
より積極的にミネラルコルチコイド受容体刺激を、
抑制する必要性が高いのですが、
高カリウム血症のリスクのため、
それが困難であるというジレンマがありました。

今回対象となっているフィネレノンは、
非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。

つまり、ミネラルコルチコイド受容体の刺激をブロックすることで、
その過剰刺激を抑制する作用の薬剤なのです。

こうした薬の歴史は古く、
スピロノラクトンという薬が利尿剤として、
以前は広く使用されていました。
ただ、ステロイド骨格を持っていて、
女性化乳房など、ホルモン系の副作用や有害事象が多い、
という欠点がありました。

このフィネレノンは、
先に日本では発売されているエサキセレノンと並んで、
第三世代のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれ、
ステロイド骨格を持たないので、
ホルモン系などの有害事象は起こしにくい、
という利点があります。
また、アルドステロンそのものによる受容体刺激以外の、
ミネラルコルチコイド受容体の活性化も抑制すると想定され、
従来の同種の薬剤よりも、
心血管疾患リスクの低減に有効性が高い、
という可能性が示唆されています。

今回の臨床試験においては、
慢性腎障害を合併している2型糖尿病の患者、
トータル7437名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はフィネレノンを通常治療に上乗せで使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で3.4年の経過観察を行なっています。

対象となっている患者は、
尿中アルブミンが30から300mg/g・creatinine未満で、
推計糸球体濾過量が25から90mL/min/1.73㎡もしくは、
尿中アルブミンが300から5000mg/g・creatinine未満で、
推計糸球体濾過量が60mL/min/1.73㎡以上のいずれかとなっています。

その結果、
観察期間中の心血管疾患による死亡と、
心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院を併せたリスクは、
偽薬と比較してフィネレノンの使用により、
13%(95%CI:0.76から0.98)有意に低下していました。
その主な原因は心不全による入院の抑制によるもので、
29%(95%CI:0.56から0.90)の低下が認められました。

トータルな有害事象には両群で有意な差はありませんでしたが、
高カリウム血症による投薬の中止は、
偽薬群では0.4%であった一方で、
フィネレノン群では1.2%となっていました。

このように、
条件面ではまだ慎重な使用が必要な側面もあるのですが、
通常治療に上乗せして、
比較的幅広い2型糖尿病に合併した慢性腎臓病の患者さんに、
有効性が確認された意味合いは大きく、
今後の臨床データの集積に、
期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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