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妊娠中の新型コロナウイルスワクチンの安全性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠中のワクチン接種.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年4月21日ウェブ掲載された、
妊娠中の新型コロナウイルスワクチンの安全性についての論文です。

妊娠中のワクチン接種の安全性というのは、
非常に微妙な問題で、
簡単にその善し悪しが明言出来るようなものではありませんが、
何故か最近のメディアでは、
「妊娠中のワクチン接種を断られた」というような、
妊娠されている女性の声が、
頻繁に取り上げられていて、
ワクチンの接種をしない医療従事者や行政の担当者を、
非難する意見が「正義」として紹介されています。

それを受けてということなのか、
日本産婦人科学会も8月14日に「妊産婦のみなさまへ」、
という声明を出していて、
そこには妊娠の時期に関わらず、
ファイザー・ビオンテック社もしくはモデルナ社の、
新型コロナウイルスワクチンの接種を、
強く推奨するものになっています。

ただ、実際にそこで根拠として引用されているのは、
査読を受けた論文としては今回ご紹介するものだけで、
それ以外はアメリカなどの関係機関の提言のみです。

上記論文は2020年12月14日から2021年2月28日に、
妊娠中でワクチン接種を受けた、
トータル35619名の妊娠経過と副反応の有無を検証した、
アメリカの疫学データで、
それによると接種部位の痛みは妊婦の方がより多い傾向があった一方、
頭痛、筋肉痛、寒気、発熱については、
妊婦の方が少ない傾向が見られています。

妊娠の経過を観察した3958名中、
全妊娠経過が判明しているのは827名で、
そのうちの13.9%に当たる115名は、
死産もしくは流産になっていて、
86.1%に当たる712名は出産しています。
流産した104名のうち大多数の96名は、
妊娠13週未満での流産でした。
一方で出産した712名のうち大多数の700名は、
妊娠28週以降に初回のワクチンを接種していました。

今回のデータでは、
実際にコントロールと妊婦のワクチン接種後の予後を、
比較している訳ではありませんが、
通常の妊娠経過との比較において、
妊娠中のワクチン接種は、
明確な悪影響を来してはいないと判断されています。

ただ、出産した事例の多くは妊娠の比較的後期に接種されていて、
妊娠初期の接種が流早産の増加や胎児奇形の増加に繋がっていないと、
明確に言い切ることは難しいと思います。

上記の論文においても、
この知見で妊娠中のワクチン接種の安全性が実証された、
というようなことは書かれていません。
それは敢くまで検討中の事項なのです。

現時点での個人的な考えとしては、
妊娠中の新型コロナウイルスワクチンの接種は、
出産直前や妊娠早期(12週前)以外であれば、
本人の意思により接種可としていますが、
妊娠12週前や出産直前では、
場合により妊娠経過に影響を与えるリスクが高いと判断して、
産婦人科担当医の許可を求める方針としています。

妊娠中のワクチン接種は、
それ以外の条件での接種と、
そのリスクにおいて同じとは言い切れないと思うのですね。

従って、通常のワクチン接種とは、
矢張り分けて考えるべきではないかと考えます。
集団接種会場でたとえば問診の内科医が、
その場でその可否を判断せよ、というのは、
無理筋ではないかと個人的には思います。
産婦人科学会もワクチン推奨の提言を出すのであれば、
産科主治医がワクチンを許可する旨の文書を作って、
それを集団接種時に添付するような仕組みを作って欲しいと思います。
そうした具体的な取り組みがあれば、
混乱は防げるのではないでしょうか?

これはまた別の試みですが、
たとえば品川区では、
妊娠されている女性専用の接種機会が、
設けられるようになっています。
それほど日数は多くないのですが、
産婦人科医が問診を行なうという態勢になっているようです。

出来ればこうした機会をより多くして頂いて、
妊娠された女性が、
安心してワクチン接種を受けて頂くような、
そうした取り組みに繋げて頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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