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新型コロナウイルスワクチン接種後の血栓塞栓症リスクと感染との比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワクチンの血栓症リスクの感染との比較.jpg
British Medical Journal誌に、
2021年8月26日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスワクチンの合併症としての、
血栓塞栓症のリスクと、
実際の感染との比較を行なった論文です。

新型コロナウイルスワクチンの有用性は、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のmRNAワクチンと、
アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンについては、
精度の高い臨床試験と実際の臨床データにおいて、
現時点ではほぼ確立したといって良いと思います。

ただ、頻度は少ないものの幾つか因果関係の否定出来ない、
有害事象や副反応も報告されており、
中でも問題視されているものの1つが、
特にアストラゼネカ社ワクチンで多いとされる、
血栓塞栓症です。

今回のデータはイギリスにおいて、
29121633回のファイザー・ビオンテック社およびアストラゼネカ社の、
新型コロナウイルスワクチンの初回接種後の副反応を解析し、
1758095名の新型コロナウイルス感染者のデータと比較した、
国レベルの大規模なものです。

その結果、
アストラゼネカ社ワクチン初回接種後8から14日の、
血小板減少症の発症リスクは、
1.33倍(95%CI:1.19から1.47)有意に増加していました。
一方で新型コロナウイルス感染確認後8から14日の、
同様のリスクは5.27倍(95%CI:4.34 から6.40)でした。

またアストラゼネカ社ワクチン初回接種後8から14日の、
静脈血栓塞栓症の発症リスクは、
1.10倍(95%CI:1.02から1.18)有意に増加していました。
一方で新型コロナウイルス感染確認後8から14日の、
同様のリスクは13.86倍(95%CI:12.76から15.05)でした。

ここまではファイザー・ビオンテック社ワクチンでは、
リスクの有意な増加は見られていません。

ファイザー・ビオンテック社ワクチン初回接種後15から21日の、
動脈血栓塞栓症の発症リスクは、
1.06倍(95%CI:1.01から1.10)有意に増加していました。
一方で新型コロナウイルス感染発症後15から21日の、
同様のリスクは2.02倍(95%CI:1.82から2.24)でした。

また、脳静脈洞塞栓症の発症リスクが、
アストラゼネカ社ワクチン初回接種後8から14日で、
4.01倍(95%CI:2.08から7.71)、
ファイザー・ビオンテック社ワクチン初回接種後15から21日で、
3.58倍(95%CI:1.39から9.27)、
いずれも有意に認められました。
一方で実際の新型コロナウイルス感染時には、
診断(検査施行)時点で115.70倍のリスク増加が見られています。

脳梗塞(虚血性梗塞)の発症リスクは、
ファイザー・ビオンテック社ワクチン初回接種後15から21日で、
1.12倍(95%CI:1.04から1.20)有意に認められましたが、
それ以外の期間では有意な増加はなく、
実際の新型コロナウイルス感染時には、
診断(検査施行)時点で23.55倍のリスク増加が見られています。

心筋梗塞の発症リスクについては、
ワクチン接種後のいずれの期間、どちらのワクチンにおいても、
有意な増加はありませんでした。

このように、
新型コロナワクチン接種後に、
一時的に血栓塞栓症の発症リスクが増加することは、
その時期にもよりますが、
今回の大規模な検証においても確認されています。

確かに血小板減少症と静脈血栓塞栓症に関しては、
アストラゼネカ社ワクチンでのリスク増加が、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンを上回っていますが、
動脈血栓症など、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンにおいても、
リスク増加が病態によっては認められています。

これらはいずれも新型コロナウイルス感染症の合併症としても、
見られる所見で、
遺伝子検査施行とワクチン接種を基準時とした今回の検証では、
同じ時期でも差はそれほどないようにも思えますが、
実際には検査施行時点で合併症は確認されることが多く、
トータルでは数十倍から時に100倍以上、
実際の感染時の方がそのリスクは増加していました。

従って、現状市中感染の状態にある場合には、
副反応として一定の血栓症リスクがあっても、
ワクチン接種を優先させることは妥当であると、
そう考えて良いと思います。

その一方で副反応のリスクについては、
より丁寧にアップデイトしつつ、
接種予定者には伝える必要がありますし、
接種後のフォローにも慎重を期する必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フィネレノン.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年8月28日ウェブ掲載された、
新規の降圧剤の、
2型糖尿病を合併する腎臓病患者への、
有効性を検証した論文です。

慢性腎臓病は高血圧や糖尿病とも合併しやすく、
心血管疾患である脳梗塞や心筋梗塞も、
合併しやすい状態であると考えられています。

ただ、一定レベル以上腎機能が低下すると、
多くの高血圧の治療薬が、
慎重投与や使用禁忌となります。
特にレニン・アンジオテンシン系と呼ばれるホルモン経路を、
抑制するタイプの治療薬は、
その性質上血液のカリウムを上昇させるリスクがあり、
腎機能低下自体が進行した場合には高カリウム血症を合併するので、
使用することが難しいという欠点がありました。

レニン・アンジオテンシン系の終点には、
ミネラルコルチコイドのアルドステロンがあり、
ミネラルコルチコイド受容体を介して、
ナトリウムと水分の貯留を来たし、
その結果として血圧は上昇します。

ミネラルコルチコイド受容体の過剰な刺激は、
2型糖尿病において炎症や線維化を誘発し、
それが糖尿病における心血管疾患リスクの増加に、
繋がっているという側面があります。

その点から言うと、
より積極的にミネラルコルチコイド受容体刺激を、
抑制する必要性が高いのですが、
高カリウム血症のリスクのため、
それが困難であるというジレンマがありました。

今回対象となっているフィネレノンは、
非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。

つまり、ミネラルコルチコイド受容体の刺激をブロックすることで、
その過剰刺激を抑制する作用の薬剤なのです。

こうした薬の歴史は古く、
スピロノラクトンという薬が利尿剤として、
以前は広く使用されていました。
ただ、ステロイド骨格を持っていて、
女性化乳房など、ホルモン系の副作用や有害事象が多い、
という欠点がありました。

このフィネレノンは、
先に日本では発売されているエサキセレノンと並んで、
第三世代のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれ、
ステロイド骨格を持たないので、
ホルモン系などの有害事象は起こしにくい、
という利点があります。
また、アルドステロンそのものによる受容体刺激以外の、
ミネラルコルチコイド受容体の活性化も抑制すると想定され、
従来の同種の薬剤よりも、
心血管疾患リスクの低減に有効性が高い、
という可能性が示唆されています。

今回の臨床試験においては、
慢性腎障害を合併している2型糖尿病の患者、
トータル7437名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はフィネレノンを通常治療に上乗せで使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で3.4年の経過観察を行なっています。

対象となっている患者は、
尿中アルブミンが30から300mg/g・creatinine未満で、
推計糸球体濾過量が25から90mL/min/1.73㎡もしくは、
尿中アルブミンが300から5000mg/g・creatinine未満で、
推計糸球体濾過量が60mL/min/1.73㎡以上のいずれかとなっています。

その結果、
観察期間中の心血管疾患による死亡と、
心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院を併せたリスクは、
偽薬と比較してフィネレノンの使用により、
13%(95%CI:0.76から0.98)有意に低下していました。
その主な原因は心不全による入院の抑制によるもので、
29%(95%CI:0.56から0.90)の低下が認められました。

トータルな有害事象には両群で有意な差はありませんでしたが、
高カリウム血症による投薬の中止は、
偽薬群では0.4%であった一方で、
フィネレノン群では1.2%となっていました。

このように、
条件面ではまだ慎重な使用が必要な側面もあるのですが、
通常治療に上乗せして、
比較的幅広い2型糖尿病に合併した慢性腎臓病の患者さんに、
有効性が確認された意味合いは大きく、
今後の臨床データの集積に、
期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大パルコ人4 マジロックオペラ 「愛が世界を救います(ただし屁が出ます)」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
大パルコ人4.jpg
宮藤官九郎さんの新作が、
今渋谷のパルコ劇場で上演されています。

これは一応シリーズ物の第4弾で、
2044年に戦争で人口が100分の1に減少した渋谷の、
10年後を描いた物語です。

2044年に戦争を予知しながら、
それを防ぐことの出来なかった、
「屁」で予知するという恥ずかしい能力のエスパーが、
他のいずれも恥ずかしい能力のエスパーと協力して、
渋谷の再度の破滅を、
阻止しようという趣向になっています。

如何にも「ロックオペラ」らしい素材で、
どうこう言うほどのものではないのですが、
昔「全否定」を売りにしていたロックバンドのリーダーが、
それに染まって全てを否定することしかしない若者に、
「全肯定」の新曲を届けるという設定には、
クドカンの今の時代に向けた、
真摯なメッセージも詰まっています。

主役は能年玲奈さんと村上虹郎さんというフレッシュなコンビで、
そこにいつものキャラの濃い面々が絡みます。
生演奏も楽しく、
最後は声を出せないのが残念ですが、
祝祭的な気分が劇場に溢れました。

僕は舞台の能年さんは大好きなのですが、
前回の松尾スズキさんの舞台の方が、
彼女の特質は活かしているように感じました。
もっと無茶ぶりしても応えられる人だと思いますし、
性別を超越した雰囲気を出せる人なのですが、
今回はとても大人しい芝居をさせていて、
弾けた感じがあまりなかったのが少し残念でした。
意外にクドカンとは相性は良くないのかも知れません。
前回、松尾さんは、
お手伝いさんを孕ませてそのまま逃げ出した、
田舎の大金持ちのどら息子を、
能年さんに演じさせていて、
こうしたところは、
松尾さんのセンスの凄さを改めて感じました。

今回のお芝居はとても楽しかったのですが、
少し残念なことがありました。

8月27日の夜に観劇したのですが、
渡辺えりさんが客席に来ていて、
終演してから、
「密を避けるため規制退場になりますので、そのままお席でお待ち下さい」
という最近ではいつものアナウンスが流れたのですが、
それを完全に無視して、
そそくさと最初に会場を出て行かれてしまったのです。

釣られて退場したお客さんも少しいましたが、
大多数の他のお客さんは、
真面目に規制退場の指示を待っていました。

正直とてもショックを受けました。

渡辺さんは演劇人でしょ。
劇場の「規制退場」のことは、
勿論百も承知の筈ですよね。

それで何故守らないんですか?

自分は忙しくて一刻も早く帰りたいので守らないけれど、
一般の観客の方は守ってね、ということなのかしら。

とてもモヤモヤした気分で劇場を後にしました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「オールド」(M・ナイト・シャマラン監督新作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
オールド.jpg
20年前に意外性のあるスリラーで一世を風靡した、
M・ナイト・シャマラン監督の脚本・監督による新作が、
今ロードショー公開されています。

シャマラン監督は、
「シックス・センス」から「アンブレイカブル」、
「サイン」までは結構気合いを入れて観ていて、
個人的には「アンブレイカブル」を最も評価しています。
「サイン」は思わせぶり自体はピークの感じがありましたが、
期待とは真逆のラストには相当ガッカリしました。
次の「ヴィレッジ」は典型的な1アイデアのネタ物でしたが、
かなり月並みなネタで演出も安っぽく、
その後は何を目指したのか分からないような、
レベルの低い作品が続きました。

そんな訳で、今回も、
あまり期待はしていませんでした。
ただ、予告編は、
1日で50年年を取る脱出不能のビーチ、
といういつもながら魅力的なもので、
どうせ大したことはないのだろうな、
と思いながらも、
騙されてつい観てしまいました。

その結果は…

今回はそう悪くなかったですよ。

今のシャマラン監督の技量としては、
上から目線で失礼ですが、
相当頑張った感じじゃないかしら。

ただ、初期の絶好調の頃と比較すると、
演出は明らかにB級なんですよね。
もう露骨にB級スリラーという感じ。
それから、急に年を取ってしまった夫婦の会話などに、
ちょっとメッセージを入れたり、
人間ドラマにしようとしたりしているんですね。
言いたいことは分かるのですが、
この映画でそんなことをすると、
却って間抜けになるだけなのに、
という感じを強く持ちました。

これね、1アイデアなんですが、
「アンブレイカブル」に近い感じなんですね。
超常現象が起こるビーチがあるのですが、
その謎自体は結局は解明はされないのです。
仕掛けはそれとは別のところにあるんですね。
こういうセンスは、
イギリスのブラックバーンという作家が得意にしていたもので、
1980年代くらいのホラースリラーには、
結構こうした趣向のものがありましたね。
一歩間違うとだだの「ガッカリ」になってしまうので、
その処理は難しいのですが、
今回はまあまあではないかと感じました。
ただ、超常現象の謎に一定の理屈を付けていて、
それがあまり辻褄が合っていない感じなのが、
少し残念には感じました。

そんな訳でシャマラン監督としては頑張った1本で、
こうしたSFスリラーのようなジャンルのお好きな方なら、
観て損はないと思います。

ただ、今こうしたジャンルは、
ジョーダン・ピールとアリ・アスターという天才がいるでしょ。
今回のテーマでも、その2人が監督したら、
数段レベルの上の作品になったことは容易に想像が出来ます。
シャマラン監督にはない、
確固たる作家性とビジュアルイメージの独創性があるからですね。
そうした意味では、
残念ですがシャマラン監督の時代は去ったな、
ということはつくづく感じる作品ではありました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ファイザー・ビオンテック社ワクチンの副反応(イスラエルの大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療に午前中は廻り、
午後は産業医活動に充てる予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ファイザーワクチン副反応のまとめ.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年8月25日ウェブ掲載された、
イスラエル発、現在最新の、
ファイザー・ビオンテック社新型コロナワクチンの、
副反応の頻度についてのまとめです。

イスラエルでワクチン接種を受けた884828名を、
その時点では未接種の884828名とマッチングさせて、
各種の副反応の発症頻度を比較しています。

その結果、有害事象で最もリスクが高かったのは心筋炎で、
未接種と比較して発症リスクは3.24倍(95%CI:1.55から12.44)となり、
10万人当たり2.7件の頻度で過剰発症が見られていました。
ただ、実際に新型コロナウイルス感染症に罹患した場合の同様の発症リスクは、
18.28倍と算出され、過剰発症は10万人当たり11.0件です。

それ以外に多かったのはリンパ節炎で、
発症リスクは2.43倍(95%CI:2.05から2.78)、
過剰発症は10万人当たり78.4件、
虫垂炎の発症リスクが1.40倍(95%CI:1.02から2.01)、
過剰発症は10万人当たり5.0件、
帯状疱疹の発症リスクが1.43倍(95%CI:1.20から1.73)、
過剰発症は10万人当たり15.8件となっています。
それ以外に頻度は少なく因果関係は不明ですが、
心外膜炎、深部静脈血栓症、肺塞栓症、血小板減少症、
急性心筋梗塞、脳内出血の報告は上がっています。

ファイザー・ビオンテック社の新型コロナワクチンが、
トータルに見て安全性が高く、
有効性も短期的には非常に高いことは、
間違いのない事実ですが、
その接種後に炎症性の変化が全身的に見られる可能性がある、
という事実は、これまでのワクチンとは異なる特徴として、
常に押さえておく必要がありそうです。

クリニックでも、
帯状疱疹の発症事例は2例、
全身性のリンパ節炎が3例、
痛風発作3例、
深部静脈血栓症の疑い1例などを経験しており、
心筋炎を診断した事例はありませんが、
胸部痛や息切れなどの症状のあるケースでは、
トロポニンの測定や心電図などで、
その可能性の検証はしています。

今後も注意深く観察は行いつつ、
接種された方が不安を強めることがないように、
慎重な説明を心がけたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺機能と腎機能との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺と腎機能.jpg
the Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌に、
2021年6月1日ウェブ掲載された、
甲状腺機能と腎機能との関連についての論文です。

慢性腎障害では甲状腺機能低下の頻度が高く、
腎機能低下の程度が高いほど、
甲状腺機能低下の発症率も高い、
という事実が知られています。

また、甲状腺機能低下症は、
心血管疾患の多くとも関連が深く、
慢性腎臓病の進行のリスク因子で、
透析患者の生命予後とも関連が深い、
というデータがあります。

このように甲状腺機能低下と腎機能低下との間には、
密接な関連があることは間違いがないのですが、
そのメカニズムについてはあまり確かなことが分かっていません。

今回の研究は、
心血管疾患と腎機能などとの関連を検証した、
疫学研究のデータを活用して、
甲状腺機能と腎血流量との関連を比較検証しているものです。

年齢18歳以上でTSHが0.4から5.5mIU/Lと、
甲状腺機能が正常範囲の789名を解析したところ、
TSHと腎血流量との間には逆相関が認められました。
つまり、甲状腺機能が低下しているほど、
腎血流量も低下しているという関連が認められたのです。
この相関は食事の塩分が通常でも、
塩分制限食でも同様に認められました。
一方で遊離甲状腺ホルモン値や、
甲状腺ホルモンの組織での利用を反映する、
脱ヨウ素酵素の遺伝子多型は、
そうした関連を示していませんでした。

このように今回の検証では、
TSHと腎血流量との間には負の関連があり、
それは甲状腺ホルモン自体やその利用率とは、
直接的な関連は認められませんでした。

甲状腺機能と腎機能とに関連のあることは事実ですが、
そのメカニズムについては、
まだ検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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妊娠中の抗精神病薬の使用と発達障害リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後はクリニックで別件の仕事の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
抗精神薬の妊娠中の使用と発達障害リスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年8月16日ウェブ掲載された、
妊娠中の抗精神病薬の使用が、
早産や発達障害と関連するかどうかを検証した、
香港の疫学データです。

抗精神病薬は統合失調症の治療薬ですが、
それ以外にも双極性障害や難治性のうつ病、
認知症の周辺症状などにも、
その使用は拡大しています。

妊娠中にはこうした薬剤の使用は、
なるべく控えることが前提となりますが、
実際には中止は困難で継続しているケースも、
かなり多いのが実際だと思います。

この妊娠中の抗精神病薬の使用と、
関連のある可能性がこれまでの臨床データから指摘されているのは、
早産や低出生体重児(正確にはSGA児)、
そして注意欠陥多動性障害と自閉症スペクトラムです。

ただ、これまでの報告では、
若干の影響があったというものから、
特に関連が見られなかったというものまで様々で、
特定の傾向が見られると断定出来るようなものはありません。

今回の研究は香港において、
注意欠陥多動性障害の解析には、
333749の母親とその子供のペアを、
自閉症スペクトラムと早産、SGA児の解析には、
411251の母親と子供のペアを用いて、
その解析を行なっています。
その結果、妊娠中の抗精神病薬の使用と、
お子さんの注意欠陥多動性障害、自閉症スペクトラム、
SGA児との間には有意な関連はなく、
早産児のみそのリスクが1.40倍(95%CI:1.13から1.73)、
有意に増加していました。

ただ、これを妊娠中以外の時期の、
抗精神病薬の使用と比較した場合、
また一卵性の双子で解析した場合には、
早産児のリスクについても、
有意差はなくなっていました。

このように、
今回の検証においては、
妊娠中の抗精神病薬の使用と、
お子さんの早産やSGA児、
注意欠陥多動性障害や自閉症スペクトラムの、
お子さんでの発症との間には、
明確な関連は認められませんでした。

今後この問題は更なる検証が必要ですが、
現時点で早産や発達障害と、
妊娠中の抗精神病薬の使用との間には、
明確な関連は証明されていないと、
そう考えて良いようには思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス接種後の副反応と有効性との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナワクチン後の症状と有効性.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2021年8月16日ウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナワクチン接種後の、
発熱などの副反応の強さと、
ワクチンの有効性との関連についての知見です。

新型コロナワクチンについて良く聞かれる質問は、
ワクチンを打った後の接種部位の腫れや発熱などの副反応の強さと、
ワクチンの効果との間には関係があるのか、
ということです。

副反応が強いことは誰でも嫌なものですし、
それが怖いからとワクチンを打たないと言われる方も多いのですが、
その一方でワクチンを打っても何の副反応もないと、
「これで本当に効いているのだろうか?」と不安になる方も多いのです。

実際のところはどうなのでしょうか?

新型コロナウイルス感染症の既往があると、
ワクチンの全身的な副反応が強く出ることは、
ほぼ明確な事実であると認められています。

ただ、それ以外のことはあまり分かっていません。

今回のデータは、
ファイザー・ビオンテック社もしくはモデルナ社の、
mRNAワクチンの2回目の接種と14日以上経過した時点で、
アメリカの医療従事者954名に調査した結果をまとめたものですが、
明確な副反応は1回接種後には5%に、
2回目接種後には43%に認められました。
副反応のリスクは、
ファイザー・ビオンテック社ワクチンより、
モデルナ社ワクチンで高い傾向がありました。

新型コロナウイルス感染症の既往があると、
1回目接種後の副反応は強く認められましたが、
2回目についてはむしろ副反応はは少なくなっていました。

その副反応には関わらす、
954名中99.9%に当たる953名で、
スパイク蛋白に対する中和抗体が検出されていて、
ワクチンの有効性と副反応との間には、
何ら関連はないことが確認されました。

このようにワクチン接種後の副反応には、
かなりの個人差が認められますが、
それはワクチンの有効性とは関連のない可能性が高く、
それを気に掛ける必要はほぼないと、
そう考えて大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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小児の年齢と新型コロナウイルス家族内感染リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナウイルス感染症の小児感染伝播.jpg
JAMA Pediatrics誌に2021年8月16日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の、
小児への家族内感染リスクを年齢毎に比較した論文です。

新型コロナウイルス感染症は大人と比較して、
小児の感染事例が少なく、重症化も少ない、
という特徴が当初から認められていました。

欧米ではロックダウンが何度も行なわれましたが、
これは結果的に家族内以外の感染機会を減少させる、
という政策でした。

そこに一定の有効性があったのは、
家族内の小児への感染が、
それほど高い頻度では起こらなかった点も、
大きかったように思われます。

パンデミックの初期には学校は休校となりましたが、
その後のロックダウンでは、
概ね学校はそのまま通学を可能とすることが通常でした。

これも学校や保育園などでの、
子供同士の感染は稀にしか起こらない、
ということが想定されていたからです。

この見解は今でも基本的には変わっていませんが、
変異株特にデルタ株の流行以降、
日本においても明らかに小児の感染事例は増えており、
保育園などの集団感染事例も多く報告されています。

それでは、小児の年齢毎の感染リスクには、
どのような違いがあるのでしょうか?

今回の研究はカナダのオンタリオ州において、
18歳未満の新型コロナウイルス感染症の感染者が発生した家族を登録し、
そこから17歳未満の小児への家族内感染のリスクを、
その年齢毎に比較検証しています。
研究は2020年6月1日から12月31日までの間に施行されていますから、
まだ変異株が主体のものではないと思います。

トータルで6280の感染者が発生した家族が登録され、
そのうちの27.3%に当たる1717家族で家族内の二次感染が発症していました。
ここで14から17歳の小児と比較して、
9から13歳の年齢層では家族内で感染するリスクには、
有意な差はありませんでしたが、
4から8歳の感染リスクは1.40倍(95%CI:1.18から1.67)、
0から3歳の感染リスクは最も高く1.43倍(95%CI:1.17から1.75)、
有意に増加していました。

このように、
トータルな小児の家族内感染リスクは、
高いものではありませんが、
年齢で見ると0から3歳の低年齢で、
最も高いものになっていました。

現状日本で流行の主体となっているデルタ株は、
今回のデータより感染力が高いと想定され、
クリニックで経験した事例でも、
多くのケースで家族全員の感染が認められています。

今後危惧されているのは、
小さなお子さんへの感染が拡大して、
保育園や学校での集団感染に結び付く事態で、
今後慎重にその兆候を注視する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症情報(2021年8月21日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

先週はかなりバタバタでした。

8月19日はRT-PCR検査を17件施行して、
15件は唾液で2件は鼻咽腔から採取しました。
結果は8件が陽性でした。
これでもかなりお断わりしていて、
15分毎に1件の検査を入れているのですが、
どうしてもずれ込んでしまうのと、
途中で発熱の患者さんが飛び込みで見えるので、
これは検査も必要だ、ということになると、
それでまた予定がくるってしまうのですね。

通常の受診の患者さんとは、
絶対にクロスさせないという方針でやっていて、
木曜日は診療の終わりが1時間以上押しました。

翌日は休診日なのですが、
そうも言っていられないので、
午後から検査を待って結果が出次第で、
患者さんに連絡を入れました。
8件が陽性で本人に連絡をした後で、
今度は保健所にファックスをして電話で連絡を入れます。

千葉の事例では、
最初の報告で「妊娠」が情報としてなかった、
という報道がされていて、
医療機関の責任のように言われてしまうので、
妊娠の有無は慎重に聞き取りを行いました。

これだけ陽性例が多いと時間が掛かり、
結局トータルで1時間半くらいは掛かってしまいました。

そのうちの1件は、
濃厚接触者で既に保健所の関与もあったという状況もあるのですが、
結果連絡の時点で入院となっていました。
発症から5日目くらい。
RT-PCR検査で受診された時には、
酸素飽和度は97%で少し息苦しい、
という程度であったのですが、
その夜から急激に呼吸困難が悪化したようです。

矢張りこの病気は怖いな、と思う一方で、
デルタ株主体になってから
(8月の検体については、判明分は全てデルタ株です)、
家族は小児を含めてほぼほぼ全て感染してしまうので、
軽症の方については、陽性と伝えても、
「ふーん、そうか」というくらいの反応しかありません。
こうした患者間の大きな差異が、
これも感染を広げる一因となっているような気がします。

近隣の小児科のクリニックなのですが、
発熱の2歳のお子さんを診察して、
コロナの疑いは否定出来ないけれど、
唾液の検査しかしていないので、
他所のクリニックで鼻腔の検査をしてもらいなさい、
という指示をしたそうです。
ご家族からかかりつけでそう言われたので、
PCR検査を鼻腔からして欲しい、
というお電話がありました。

紹介状も何もないのですよ。

ちょっと酷いですよね。

全く初診の方で、
通常であればなるべくお受けしているのですが、
さすがに今週は再診の患者さんや、
保健所などから検査依頼の患者さんで、
もう手一杯の状態であったのでお断わりしました。

小児科のクリニックなのですから、
鼻腔からの検体採取は、
インフルエンザなどではいつもしている筈でしょ。

出来ない訳はないのですが、
やらないのですね。

それは感染のリスクが高いのでやりたくない、
ということなのだと思うのですが、
それを紹介状もなしにこちらに振って来るのは、
あまりに失礼ではないでしょうか?

僕だってリスクのあることはやりたくないのです。
でも、必要だから仕方なくやっているのですから、
応分のリスクは分け合うべきだと思いますし、
必要な検査であれば、
区のPCRセンターを含めて、
きちんと紹介をするべきではないでしょうか?

小児科のクリニックは、
結構大学からのパートの先生で、
廻しているところがあるのですね。
そうしたところでは、
パートの先生に感染をさせてしまうと、
大学にも飛び火することになりますから責任問題でしょ。
それが大きいのかな、というようには思います。

クリニックでも土曜日にパートの先生に、
今は時々入って頂いているのですが、
基本的に検体採取など感染リスクのある行為は、
その先生ではなく僕がやっていますし、
感染が周辺で拡大している時には、
万一のことがあるといけないと思い、
お休みをしてもらっています。

パートで廻しているクリニックでも、
絶対院長なりオーナーなりがいる筈ですから、
仮にパートの医師に感染リスクを負わせたくない、
ということでしたら、
責任者がするべきことではないでしょうか?

そんな風に思いました。

東京都内のホテルに滞在していた舞台俳優という方が、
今日から地方で公演があるので新感線に乗るのだけれど、
少し熱があって風邪症状のあるので心配、
と言うので、
受診して頂いて抗原検査をすると、
すぐに陽性と確認されました。
この方はそれでも検査をしてくれたので良かったのですが、
お仕事で国内を移動していて、
「このくらいの風邪症状ならいいか」
と思っている方が、
実際には感染を広げているのだと思います。

そんなこんなで疲弊はしますし、
先の見えない状況ですが、
ある程度リスクを取りつつ、
少しでも早く、見通しが付く状態になることを、
期待はしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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