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認知症の精神症状に対するピマバンセリンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ピマバンセリンの認知症への効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2021年7月22日掲載された、
認知症に伴う精神症状に対して、
パーキンソン病の治療薬を使用した、
臨床試験の結果についての論文です。

認知症が進行すると、
そのタイプにもより違いはありますが、
被害妄想や幻覚、幻視、せん妄など、
多彩な精神症状が出現します。

ある報告によると、その頻度は研究により様々で、
幻覚は15から50%の認知症の患者さんに発症し、
妄想は10から70%に発症するとされています。

アメリカの精神科学会の現行のガイドラインでは、
こうした精神症状には心理療法などの非薬物療法が第一選択で、
それが無効の場合に限って、
抗精神病薬などによる薬物療法が検討される、
とされています。

ただ、実際にはアメリカにおいても、
主に非定型抗精神病薬というタイプの薬剤が、
適応外処方として多く使用されているのが実態であるようです。

この現象は日本でも違いはなく、
健康保険上は統合失調症や双極性障害などの適応しかない薬剤が、
認知症の精神症状に対して使用されています。

問題は認知症の精神症状に対して、
精度の高い臨床試験でその有効性の示されている薬剤が、
存在しないということにあるのです。

今回の臨床試験では、
認知症の精神症状に対して、
パーキンソン病の精神症状に対して使用されている、
ピマバンセリン(pimavanserin 日本未発売)を使用して、
その有効性を検証しています。

ピマバンセリンは、
ドパミン受容体と共に、
幻覚や妄想の発症に関わっているとされる
セロトニン2A受容体に、
逆作動薬・拮抗薬として作用する薬で、
パーキンソン病に伴う精神症状がその適応です。
ドパミン受容体に殆ど作用しないので、
パーキンソン症状を悪化させないことが最大の利点です。

ただ、この薬剤が認知症の精神症状に対して、
同じように効果があるのかについては、
まだ不明です。

今回の臨床試験は、
794名の精神症状を伴う複数のタイプの認知症の患者さんを登録し、
まず精神療法など非薬物療法を行なった上で、
精神症状の改善が認められない392名の患者に、
ピマバンセリンを1日20から34㎎で12週間継続。
その結果、使用継続した351名中、
精神症状が規定の尺度で30%以上改善した217名を、
今度はくじ引きで2つの群に分けると、
一方はピマバンセリンをそのまま継続し、
もう一方は偽薬に切り替えて、
26週の経過観察を行なっています。

精神症状のある認知症の患者さんに対して、
偽薬を使用して最初から治療しない、
という行為は問題があるので、
治療を行なって有効性のある事例に対して、
薬の中止による影響を見る、
という複雑な手法を取っているのです。

12週の治療後、
幻覚や妄想の程度を示す指標は、
平均で75.2%という改善を示していました。
そして、半数で薬を分からないように中止したところ、
精神症状の再発はピマバンセリン使用群の13%で認められた一方、
偽薬群では28%で認められていて、
ピマバンセリンは精神症状の再発を、
83%(95%CI:0.17から0.73)有意に抑制していました。

偽薬との観察期間中に、
抗精神病薬では多い有害事象である、
運動障害やパーキンソン症状の有意な増加はなく、
2%を超えて見られた有害事象は、
頭痛、尿路感染症、不安、めまい、意欲低下、無症状性QT延長、便秘、高血圧で、
いずれも概ね軽症でした。

今回の試験は途中で規定の有効性が示されたため、
予定より早期に中止されています。

非常に画期的な有効性と言って良い結果ですが、
対象となっている患者は、
特定の認知症ではなく、多くのタイプの認知症の寄せ集めで、
個別の認知症のみで解析すると、
症例数も少なく有意な差は認められなくなります。

従って、
今後より症例数を多く、
かつ個別のタイプの認知症に対しての、
有効性や安全性が確認される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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