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新型コロナ肺炎に対する免疫調整薬の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は夏季の休診期間のためクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ肺炎に対する免疫調整療養の有効性.jpg
JAMA誌に2023年7月10日ウェブ掲載された、
新型コロナ肺炎の予後に与える、
免疫調整薬の有効性についての論文です。

新型コロナウイルス感染症はその流行の当初から、
その主な合併症である肺炎の中に、
急激に呼吸不全に移行するような、
重症化のリスクが高い事例のあることが指摘されています。

重症化肺炎の生命予後の改善には、
ステロイド(通常デキサメサゾンの使用)に一定の有効性が確認されていて、
このことからは、
肺炎の重症化はウイルスそのものの増殖によるのではなく、
炎症性サイトカインなどの反応性の増加が、
その主因ではないかと想定されます。

実際に炎症性サイトカインのIL6を抑制する薬剤の使用により、
重症の新型コロナ肺炎の予後が改善したとする報告もあります。

近年炎症性腸疾患や関節リウマチなどの治療薬として、
免疫系に関わる物質や機能を、
主に抑制することによって調整する薬剤が複数開発され、
実際に治療に活用されています。

そうした免疫を調整する薬剤の使用により、
新型コロナ肺炎の予後改善が得られるのでしょうか?

今回の臨床研究は、
アメリカのNIH(アメリカ国立衛生研究所)の主導で施行されたもので、
2020年から2021年の時期に18歳以上で新型コロナ肺炎に罹患した、
トータル1971名の患者を、
発症14日以内にくじ引きで複数の群に分けると、
3種類の免疫調整剤もしくは偽薬を、
ステロイドと抗ウイルス剤のレムデシビルの通常治療に上乗せして、
その後の経過を比較検証しています。

使用されている免疫調整剤は、
抗ヒトTNF-αモノクローナル抗体で、
炎症性腸疾患などに使用されているインフリマキシブ、
Tリンパ球の機能を抑制する薬剤であるアバタセプト、
単核球やマクロファージの機能を抑制するセニクリビロックの、
3種類の薬剤です。

発症28日までの予後や死亡リスクなどを指標して比較した結果、
偽薬と比較して、
今回の3種類の免疫調整薬の使用は、
新型コロナ肺炎の予後に、
明確な影響を与えていませんでした。

現時点では新型コロナが軽症化して、
重症の事例の比率が少なくなっているため、
今後更なるデータが提供される可能性は低そうですが、
また新たな変異株の出現により、
重症化が増加する可能性も否定は出来ず、
今後に繋がる知見であることは間違いがありません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」(2023年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
岸部露伴.jpg
少し前ですが、
NHKで放映された「岸辺露伴」のドラマの映画版が公開されました。

これは実際にルーヴル美術館の依頼で創作された、
彩色の特別版単行本が原作で、
長編映画にするにはやや淡泊な内容のために、
人物を増やすなど少し改変して映像化されています。

テレビから続投の、
高橋一生さんと飯豊まりえさんのコンビがとても良く、
原作とは雰囲気は全く違うのですが、
別個のリアリティを獲得しています。
ただ、原作の「スタンド」の可視化が、
ドラマでも映画でも省略されているので、
主人公の持つ能力の意味合いが、
不明瞭になってしまっているきらいがあります。

実際のルーヴル美術館で撮影されている点は、
とても贅沢で良いのですが、
映画としてはもう少し、
映画ならではの見せ場が欲しいと思いました。

基本的にイメージ重視の作品なので、
元のドラマのファンの方以外には、
あまりお勧めは出来ませんが、
ドラマや原作の予備知識のある方には、
まずまず楽しめる仕上がりにはなっていたように思います。
映像は美しいです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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ゴキブリコンビナート第37回公演「痙攣!瘡蓋定食」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
痙攣!瘡蓋定食.jpg
日本に残る最後のアングラ、
ゴキブリコンビナートの新作公演が、
先日まで川口某所で上演されました。

以前も一度上演場所になった幹線道路沿いの、
スタジオとして使用されている倉庫で、
70分ほどのゴキブリコンビナート流ミュージカルの上演です。
隣に歴史のあるパチンコ店があって、
ネオンサインがとても怪しげで良い雰囲気です。
昔の「悪魔のモーテル」などのスプラッター映画の舞台のようで、
うっかり入ると出られれなくなるような怖さのある、
良い意味で「殺伐とした」場所です。

今回は猛暑の中での上演で、
午後3時からだったのですが、
勿論エアコンなどない空間を密閉しているので、
「熱中症製造工場」のような凄まじい環境での観劇でした。

具合が悪くなって途中で運び出される方もいましたが、
僕自身も正直30分くらいで酸欠のような状態となり、
意識が飛ばないように最後まで何とか耐えた、
という感じでした。
後半で糞便の臭いがするスプレーが撒かれるのですね。
あれはきつかったよね。
幾ら危険でも汚くても、それはそれでOKなのですが、
意識が飛びそうな準熱中症状態で、
臭いにおいを嗅がされるのが、
どれだけ辛いか身に沁みました。

あれだけでは今後は止めて欲しいと思います。

それでもスタッフは終始客の状態を目配りしていて、
速やかに個別対応しているのはさすがでした。
大きな問題なく無事公演は終了したようですから、
それはもう何よりだったと思います。

今回の作品はほぼほぼいつも通りのテイストであったのですが、
ここ最近ではかなり内容的にも、
演出的にも尖っていたと思いました。
奔流の如く観客の上に水は降り注ぎ、
大きな花火もほぼ客席に向けられていました。
ラストシーンの血肉をおかずにした凄まじい食事風景は、
ちょっと正視に耐えがたい凄味がありましたが、
そこまでの4人のメインキャラの人生のあり様が、
ラストの修羅場に結実していると言う点に、
Drエクアドルさんの劇作の冴えが感じられたのです。

最近のゴキブリコンビナートの作品の中では、
大好物の密室の迷路演劇を除外すれば、
最も見応えのあった1本で、
最近は足を運ぶのも少し疲れ気味ではあったのですが、
次回も是非参加したいと思いました。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脂肪分解に働くサイトカインについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
IL-15の脂肪融解作用.jpg
Am J Physiol Endocrinol Metab誌に、
2015年4月28日付で掲載された、
IL-15(インターロイキン15)という興味深いサイトカインについての論文です。

運動に脂肪を分解させる効果のあることは、
運動の健康効果としてほぼ確立されている事項ですが、
そのメカニズムにはまだ不明の点が残っています。

サイトカインというのは、
細胞から分泌される生理活性物質の総称ですが、
運動することで骨格筋が収縮することにより、
骨格筋の細胞から複数のサイトカインが分泌され、
それが血液を介してホルモンのように運ばれると、
脂肪細胞などに影響を与えることが、
最近の研究により明らかとなっています。

上記文献において対象となっているのは、
そのうちのIL-15(インターロイキン15)というサイトカインの働きです。

IL-15は脂肪細胞を分解する働きを持つサイトカインです。

このサイトカインは骨格筋細胞から分泌され、
血液を介して脂肪組織に働き、
脂肪を分解する作用があります。
その一方でこのサイトカインは皮下の脂肪組織からも分泌され、
その局所でも脂肪を分解する働きを持つことが、
今回の人間での実験で示されています。

痩せている人と太っている人との比較では、
太っている人の皮下脂肪からより多くのIL15が分泌されていて、
運動することにより、
皮下脂肪からのIL15の分泌が増加することも確認されました。

この現象からは、
皮下脂肪が増加すると、
身体はそれを減らすために、
脂肪分解を促進するサイトカインを分泌し、
そのバランスを取ろうとしていることが想定されます。
運動は筋肉からのIL15の分泌を増加させると共に、
直接的に脂肪細胞のIL15の分泌も増加させ、
それが運動が脂肪分解に役立つ、
1つの理由であると考えられるのです。

よく脂肪を燃焼させるにはどれだけのカロリーが必要、
というような説明がありますが、
それが敢くまで定常状態での話で、
実際には運動時には、
直接的に脂肪分解に働くサイトカインなどの働きもあり、
運動の効能はかなり複雑で多岐に渡るものであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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人工甘味料の健康リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
人工甘味料の体重への影響.jpg
CMAJ誌に2017年7月17日付で掲載された、
人工甘味料の健康影響についてのメタ解析の論文です。

ゼロカロリーのダイエット飲料の、
身体への影響については様々な意見があります。
その一部は以前何度か記事にもしましたし、
本にも書きました。

最近ではWHOに属する国際癌研究機関(IARC)が、
人工甘味料として広く使用されているアスパルテームに、
発癌性が否定出来ないとする、
安全性の検証結果を公表して報道もされました。

ただ、これは区分のグループ2Bという、
「人に対して発癌性のある可能性がある」という括りのもので、
4種類ある発癌性区分の下から2番目のものです。
同様の区分の中には300種類以上の物質が含まれていて、
漬物なども一緒に入っています。

従って、改めて過剰な使用に注意喚起したという側面はあるものの、
危険をあまり煽るような報道は、
適切ではないように思います。

今日はこの人工甘味料の様々なリスクについて、
まとめておきたいと思います。

人工甘味料は、
高価な砂糖の代用として開発された、
サッカリンがその始まりで、
その後アミノ酸の一種であるアスパルテームや、
スクラロースなど、
多くの「代用砂糖」が開発されました。

これはそもそもは高価な砂糖の代用品として、
商品価格を下げることが目的で、
サッカリンと言えば安かろう悪かろうという、
どちらかと言えば悪いイメージしかなかったのですが、
カロリーのないことを逆手に取って、
ダイエット目的や健康に良いというイメージで、
急速に普及することになったのです。

サッカリンには発癌性の危惧があって、
今でも使用はされていますが、
その後開発されたアスパルテームやスクラロースの方が、
今では主に使用されています。
普及しているダイエットコーラでも、
使用されているのはアスパルテームやスクラロースが主です。

砂糖の入っているコーラを飲んでいた人が、
それを人工甘味料の入ったダイエットコーラに変えれば、
摂取カロリーは減り、
特に肥満の方や糖尿病の傾向のあるような方では、
より健康にメリットがあるように、
普通に考えればそう思えます。

しかし、人工甘味料の使用により、
体重が減少して血糖コントロールにも良い影響が見られた、
という臨床データがある一方で、
むしろ体重が増加して糖尿病の発症リスクも増加した、
というような相反するデータも得られています。

人工甘味料が舌の甘味受容体に結合することにより、
身体が反応してインスリンを分泌し、
それが空腹感を増強するため、
結果として過食が誘発されるのでは、
という仮説があります。

今回の研究は論文発表の時点までの、
7つの介入試験データと30の疫学研究データを、
まとめて解析したメタ解析です。

介入試験に含まれる1003名のデータをまとめて解析したところ、
人工甘味料の使用は、
体格の指標であるBMIに明確な影響を与えていませんでした。
要するに、
ダイエットに対して有効でも無効でもない、という結果です。

一方で疫学研究に含まれる、
405907名のデータをまとめて解析した結果では、
人工甘味料の使用は若干のBMIの増加と関連が認められました。
また複数の疫学データにおいて、
人工甘味料による肥満や糖尿病、心血管疾患リスクの増加が認められました。

このように、
人工甘味料は健康に無害とは言えず、
そのリスクはいずれも軽微なものではあるので、
必要以上に忌避する必要はありませんが、
そのダイエット目的などの過剰な使用は、
慎重に考える必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチン交互接種の有効性(北欧の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は在宅診療などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナワクチンの交互接種の差.jpg
British Medical Journal誌に2023年7月掲載された、
新型コロナワクチンの追加接種における、
交互接種の有効性についての論文です。

新型コロナワクチンは、
初回の2回の接種においては、
同一のワクチンを使用することが求められていますが、
3回目以降の追加接種(ブースター接種)については、
別の種類のワクチンを接種することも認められています。
これを交互接種と呼んでいます。

交互接種はワクチンの供給不足などのために、
止むを得ず行われた側面がありましたが、
その後のアメリカなどにおける解析により、
交互接種を行った方が同種のワクチンを追加接種した場合より、
抗体価の上昇が大きい、
というようなデータが発表されて注目を集めました。

ただ、実際に交互接種を行った方が、
同種接種より重症化予防効果が高いのか、
というような点については,
まだあまり明確なことが分かっていません。

今回の疫学データは、
北欧のデンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンのもので、
アストラゼネカ社などのウイルスベクターワクチン、
もしくはファイザー・ビオンテック社もしくはモデルナ社のmRNAワクチンを、
初回接種として2回接種し、
追加接種として、様々な組み合わせの接種を行った、
一般住民のデータを解析したものです。

1086418名がアストラゼネカワクチン2回接種後に、
2種類のうちどちらかのmRNAワクチンを追加接種し、
2505093名はどちらかのmRNAワクチンを2回接種後に、
もう一方のmRNAワクチンを交互接種していました。

2回の初回接種のみと比較した時、
アストラゼネカワクチン後のmRNAワクチン交互接種により、
新型コロナによる入院のリスクは82.7%、
死亡リスクは95.9%、
それぞれ有意に低下していました。
またmRNAワクチン同士の交互接種により、
新型コロナによる入院のリスクは81.5%、
死亡リスクは87.5%、
こちらも有意に低下していました。

同種ワクチンによる追加接種は、
2回の初期接種のみと比較して、
新型コロナによる入院のリスクを76.5%以上、
死亡のリスクを84.1%以上、
有意に低下させていました。

そこで同種ワクチンによる3回接種と比較して、
交互接種の予防効果を見てみると、
入院リスクはアストラゼネカワクチン後のmRNAワクチンで27.2%、
mRNAワクチン同士の組み合わせでは23.3%、
それぞれ有意に低下していました。
また死亡リスクについても、
アストラゼネカワクチン後のmRNAワクチンで21.7%、
mRNAワクチン同士の組み合わせでは18.4%、
こちらも有意に低下していました。

このように、
今回の臨床的検証においても、
同種のワクチンによる追加接種よりも、
複数のワクチンを併用する交互接種の方が、
その重症化予防においてより有効であることが示されました。

新型コロナのワクチンの交互接種が有効であることは、
どうやら間違いのない事実であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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週1回投与インスリン イコデクの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
インスリンインコデクの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年7月27日付で掲載された、
週1回の注射で治療可能が新規インスリン製剤の、
第3a相臨床試験結果についての論文です。

インスリン イコデクというのは、
ノボノルディスク社が開発した新しいインスリン注射製剤です。

これまでのインスリン製剤は、
持続性と言われるタイプのものでも、
1日1回の皮下注射が必要でした。
しかし、このインスリン イコデクは、
その構造に変化を加えることにより、
週に1回注射をするだけで、
継続的に安定した血糖コントロールを得られる、
というタイプの薬剤です。

たとえば毎日10単位の持続型インスリンを、
皮下注で使用している患者さんでは、
1週間に一度70単位を注射することにより、
ほぼ同等の効果が得られるというのです。

場合により100単位を超えるインスリンを、
一気に注射するというのは、
単純にそれを聞くと、
重症の低血糖を起こさないのだろうかと、
ちょっと怖い感じもします。

実際にはどうなのでしょうか?

今回の第3a相臨床試験においては、
2型糖尿病の患者さんトータル492名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は毎日1回の持続型インスリンを継続し、
もう一方はインスリン イコデクを週1回注射継続して、
78週に渡る長期の血糖コントロールを比較しています。
その結果、
安定した血糖コントロールを維持出来た時間は、
従来の持続型インスリンよりイコデクの方が、
より長くなっていました。
重症低血糖などの有害事象のリスクについては、
両者で明確な差は認められませんでした。

このように、
現状の臨床試験結果から判断する限り、
週1回のイコデクには毎日1回の持続型インスリンと、
同等以上の有効性と同等の安全性があり、
今後インスリン治療の基礎分泌の補充に対しては、
週1回の製剤が主流となる時代が、
もうそこまで来ているような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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