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思春期の脂肪肝炎に対する砂糖制限の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
砂糖制限と脂肪肝炎.png
2019年のJAMA誌に掲載された、
食事の砂糖の制限が、
思春期の非アルコール性脂肪肝炎に与える影響についての論文です。

脂肪肝が侮れない、
という話は、
皆さんも最近しばしばお聞きになることだと思います。

脂肪肝というのは、
肝臓に中性脂肪が過剰に貯留した状態のことで、
肥満や糖尿病とは密接な関係があります。

脂肪肝の一番の原因はお酒です。

ただ、最近ではお酒を飲まない人の脂肪肝が、
実は結構多く、
悪化すると肝硬変や肝臓癌のリスクにもなることが明らかになり、
非アルコール性脂肪性肝疾患
(non-alcoholic fatty liver disease)
という特別な名称で呼ばれています。
これを略してNAFLDです。

この非アルコール性脂肪性肝疾患が進行し、
肝機能の悪化を来したものを、
非アルコール性脂肪肝炎
(non-alcoholic steatohepatitis)
と呼びます。
これを略してNASHです。

最近特に欧米で問題となっているのは、
子供のNAFLDです。
上記文献の記載によれば、
アメリカでは小児で最も多い肝臓病は、
このNAFLDであるようです。

子供の脂肪性肝疾患の治療は、
食事療法を柱とした生活改善ですが、
ガイドラインでは特定のダイエットが、
特に推奨されているということはありません。
これはその裏打ちとなる根拠があまりないからです。

その1つの候補として挙げられているのが、
砂糖を制限するというシンプルなダイエットです。

砂糖を多く含むジュースや清涼飲料水、
ケーキやお菓子などを沢山摂ることで、
脂肪性肝疾患が進行することは、
複数の疫学データで確認されています。

ただ、それでは砂糖を制限することで脂肪性肝疾患が改善するのか、
という点については、
お子さんにおいてはあまり実証的なデータがありません。

そこで今回の研究では、
年齢が11歳から16歳の少年で、
非アルコール性脂肪肝炎の診断されている40名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の食事を行い、
もう一方は砂糖のカロリーを総カロリーの3%未満になるように、
砂糖の制限を行って、
8週間の治療の結果を比較検証しています。

その結果、
MRI検査による脂肪肝炎の程度や、
血液検査による肝機能の数値は、
通常のダイエットと比較して砂糖制限において、
有意な改善を認めました。

これはまだ少数例の検討に過ぎないので、
これで砂糖制限が脂肪肝炎に有効であるとは言い切れませんが、
その可能性が認められた意義は大きく、
今後のより厳密な検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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揚げ物の健康リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
揚げ物の健康リスクについて.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
フライドチキンなどの揚げ物の、
健康への影響についての論文です。

フライや天ぷらなどの揚げ物が、
健康に良くないというのは、
誰でも何となくそうかな、とは思うところです。

衣や油により高カロリーになりますし、
高温の油により食品の一部が変性して、
終末糖化産物やトランス脂肪酸など、
健康に有害な物質が産生されるという指摘もあります。

ただ、それに関する実証的で信頼のおける臨床データが、
そう多くあるという訳ではありません。

つまり、揚げ物の健康への害というのは、
多分に推測の部分が多いのです。

今回の研究はアメリカにおいて、
閉経後の50から79歳の女性、
トータル106966名を長期間観察した臨床データを活用して、
食事調査による揚げ物の摂取頻度と、
生命予後との関連を検証しています。

対象となっている揚げ物は、
フライドチキンとフライドフィッシュや牡蠣などのフライ、
フライドポテトなどが主です。

揚げ物を殆ど摂らない場合と比較して、
毎日1回は食べている人は、
総死亡のリスクが8%(95%Ci: 1.01から1.16)有意に増加していました。

これをフライドチキンのみで見てみると、
週1回食べているだけで、食べない場合と比較して、
総死亡のリスクが13%(95%CI: 1.07から1.19)、
心血管疾患による死亡のリスクが12%(95%CI: 1.02から1.23)、
それぞれ有意に増加していました。

また、魚や貝のフライのみで見ても、
週1回食べているだけで、食べない場合と比較して、
総死亡のリスクが7%(95%CI: 1.03から1.12)、
心血管疾患による死亡のリスクが13%(95%CI: 1.04から1.22)、
それぞれ有意に増加していました。

癌による死亡に関しては、
揚げ物トータルでも個別の揚げ物で見ても、
有意な関連は認められませんでした。

このように、
閉経後の女性に限った検証として、
揚げ物、特にフライドチキンや魚・貝のフライを食べる習慣は、
生命予後に若干の悪影響を与える可能性があるようです。

揚げ物は、
矢張りなるべく控えた方が健康には良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーやお茶の糖代謝に対する効果(2018年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーとお茶の糖代謝に対する効果.jpg
2018年のNutrients誌に掲載された、
コーヒーやお茶の糖尿病予防効果についてのメタ解析の論文です。

コーヒーやお茶に糖尿病の予防効果がありそうだ、
というのは、
これまでに複数の疫学研究で報告されている事項です。

ただ、それでは実際にコーヒーやお茶が、
空腹時血糖や食後血糖の低下作用を持っているのか、
というような詳細については、
あまり精度の高いデータが得られているとは言えません。

今回の研究は、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析した、
所謂メタ解析の論文ですが、
コーヒーやお茶の具体的な血糖降下作用の有無を検証しています。

その結果、
メタ解析で有意な結果が得られたのは、
緑茶による空腹時血糖の低下効果のみで、
コーヒーや紅茶では同様の有効性は確認出来ませんでした。

この緑茶による空腹時血糖低下作用は、
平均年齢55歳未満もしくはアジア人種においてのみ有意で、
糖尿病のない集団でのみ有意でした。

コーヒーやお茶に血糖低下作用があるという報告は、
以前から沢山あるのですが、
実際には個々のデータはそう信頼性の高いものではなく、
現時点で明確であると言えるのは、
糖尿病のない対象での、
緑茶の空腹時血糖低下作用のみであるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血液脳関門の異常と認知症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血液脳関門と認知症.jpg
これは2019年のNature Medicine誌のレターですが、
血液脳関門の異常が認知症の原因の1つなのではないか、
ということを検証した興味深い報告です。

アルツハイマー型認知症の原因としては、
アミロイドβという異常タンパク質がまず沈着して、
老人斑と呼ばれる構造を形成。
それが毒性を持つので、神経細胞の中にあるタウ蛋白という成分が、
異常にリン酸化して凝集し、
それが蓄積することで細胞の死に結び付く、
という考え方が一般的です。

ただ、この仮説に基づいて、
アミロイドβの沈着を阻止するような薬剤や、
タウ蛋白の凝集を阻害するような薬剤が、
次々と開発されて臨床試験に供されたものの、
結果的には認知症の予防や治癒には成功していない、
という問題があります。

このことからアミロイドβの蓄積やタウ蛋白の凝集は、
アルツハイマー型認知症の原因そのものではなく、
1つの結果を見ているだけなのではないか、
という考え方が議論されるようになっています。

そこで最近注目されている所見の1つが、
血液脳関門の異常です。

血液脳関門というのは、
全身の血管と脳との物質の交換を制限する機能です。

脳は人間全体の機能において、
最も大切な役割を果たしているので、
他の身体の組織と同じように、
血管で栄養はされているのですが、
血管の成分がそのまま脳に移行しないように、
独立した制御をしているのです。

この仕組みで重要なのは、
脳の微小血管側の内皮細胞と、
その外側にある周皮細胞(ペリサイト)です。

認知症においてはこの血液脳関門の障害が、
高頻度に見られることが報告されています。
ただ、どちらかと言えばそれはアミロイドβの蓄積やタウ蛋白の凝集に、
伴う二次的な変化のように考えられていました。

今回の検証は早期認知機能障害を持つ高齢者161名を対象として、
髄液検査や機能性MRI検査、PET検査などを施行し、
アミロイドβの蓄積やタウ蛋白の凝集と、
認知機能及び血液脳関門の異常との関連を検証しています。

血液脳関門の異常については、
髄液中の可溶性PDGF受容体βの増加と、
造影MRI検査によって検証されています。

可溶性PDGF受容体というのは、
脳血管関門の周皮細胞に多く発現していて、
その障害時に血管新生などに働きます。
このためこの受容体が髄液中で増加することは、
間接的に血液脳関門の障害の指標なのです。

今回の検証において、
髄液中の可溶性PDGF受容体βは、
認知機能の低下と一致して増加しており、
脳のアミロイドβの蓄積やタウ蛋白の凝集とは、
独立した現象であることが確認されました。

まだこの血液脳関門の異常が、
アルツハイマー型認知症の原因であるとは断定出来ませんが、
この所見の意義が以前想定されているより大きなものであることは、
最近の知見によりほぼ間違いがなく、
今後の知見の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「サスペリア」(2018年ルカ・グァダニーノ監督版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
サスペリア.jpg
「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督が、
何と1977年のダリオ・アルジェントのホラークラシック
「サスペリア」をリクリエーション版として再映画化しました。

その日本公開の初日に足を運びました。

「サスペリア」は日本ロードショー公開時に、
最初に中学時代を過ごした水戸の小さな映画館で観て、
それから渋谷のパルコにあった映画館で、
「サーカム・サウンド」という特殊音響版を観ました。

サーカム・サウンドというのは、
要するに5チャンネルくらいのサラウンドのことで、
劇場に複数のスピーカーを特設して、
音効と効果音を大音響で流すというものでした。

当時は結構話題になりましたが、
実際にはノイズのような音が大きいだけ、
という印象のものでした。
水戸の映画館で普通の2チャンネルで観た方が、
却って作品のサスペンスは素直に感じられたように記憶しています。

「決してひとりでは見ないで下さい」
という宣伝コピーが非常に有名で、
かなりのスマッシュヒットとなりました。

アメリカ映画にはない独特のムードがあり、
こけおどしが多くて内容は意味不明のところもありましたが、
強烈な色彩と音効には魅了されました。
秘密の部屋の扉が、すっと開く辺りのワクワク感は、
古典的な怪奇映画の技術に、
裏打ちされていることを感じさせました。

この時点で僕にとってダリオ・アルジェントは謎の監督であったのですが、
実は戦後のイタリア怪奇映画には、
ジャーロという独特の猟奇残酷映画の系譜があり、
その後ビデオの時代となって多くのジャーロが、
ソフト化されるようになると、
その全貌が徐々に明らかになっていったのです。

「サスペリア」は日本においては、
イタリア怪奇映画の後にも先にも唯一のヒット作で、
魔女を扱った怪奇映画の、
数少ない成功作でもあります。

魔女物というのは、
古くから欧米では怪奇映画の定番の1つなのですが、
裸の女性が黒ミサで踊るような、
要するにエロチックな描写が売り物なので、
内容はチープで他愛のないことが殆どです。
唯一アルジェントの師匠とも言えるマリオ・バーバが、
1960年に制作した「血塗られた墓標」が、
格調高い魔女物映画として知られていますが、
この作品は吸血鬼映画のバリエーションで、
典型的な魔女物ではありませんでした。

「サスペリア」の新しさは、
この古めかしい魔女物怪奇映画を、
少女が集うバレエ学校を舞台にして、
リクリエーションしたことにあって、
定番の黒ミサの場面はなく、
当時としては全く新しい異様な世界を、
作り上げたことにあったのです。

アルジェント監督は超自然を扱った怪奇映画が、
実はあまり得意ではなく、
この映画は彼のキャリアの中で、
超自然を扱って唯一成功した作品だと思います。

さて、その「サスペリア」のリメイクである本作ですが、
舞台はオリジナル公開の1977年の、
まだ東西に分断されたベルリンに設定され、
152分というホラー映画とは思えない長尺となっています。

主人公の少女の名前がスージー・バニオンであったり、
彼女がそこで遭遇する事件のアウトライン自体は、
オリジナルとほぼ一致しているのですが、
原作のバレエ学校はピナ・バウシュの舞踊団を明らかにモデルにした、
モダン・ダンスのカンパニーに変更され、
東西に分断されたベルリンの風景や、
ドイツ赤軍によるハイジャック事件が背景として描かれ、
ホラー以外の要素がかなり大きな作品になっています。
カウンセラーのクレンペラー博士という、
オリジナルには登場しない人物が、
もう1人の主役として活躍し、
むしろ全体の狂言回しとなっています。

こういう得体の知れない謎めいた映画が、
僕は基本的には嫌いではないので、
物語の中段までは結構ワクワクしながら観ていました。

全体のタッチはアルジェントではなく、
ロマン・ポランスキーに似ていますよね。
前半でスージーが悪夢を見るところなど、
「ローズマリーの赤ちゃん」や「マクベス」の、
悪夢の場面にとても良く似ています。

僕はポランスキーも大好きなので、
ははあ、要するにこれは、
アルジェントのポランスキー風リクリエーションなのね、
というように思ったのですが、
後半からクライマックスに至って、
その僕の期待はかなり裏切られました。

クライマックスは裸の女性が乱舞する黒ミサになるのですが、
これが何の創意もない、
昔の魔女物の再現なので、
とてもとても落胆しました。

前述のようにオリジナルの「サスペリア」の創意は、
魔女物の黒ミサをリニューアルした点にあったと思っているので、
「これをやったら意味がないじゃん」
と思ったのです。

この作品はトータルに「変な映画」ではあるのですが、
怖かったりドキドキしたりはまるでしないですよね。
ポランスキー作品も藝術性や変態性、過剰さに満ちていながら、
その根っこのところでは、
しっかりとホラー映画にもなっています。
そのポイントは何かと言えば、
常に主人公が「恐怖している」というところではないかと思います。

その一方でこの映画では、
主人公2人は最初から淡々としていて、
何かに恐怖するという感じがなく、
クライマックスに至っては誰も恐怖を感じる主体がなく、
ただ、血みどろの場面が様式的に繰り広げられるだけ、
という趣向になってしまっています。

これで本当に良いのでしょうか?

また、意味ありげなガジェットや社会背景が、
色々と散りばめられているのですから、
それがもう少し連鎖して、
予想外のつながりや風景のような物が見えて来てもいいでしょ、
そうしたものが何もありませんよね。
それにもガッカリしました。

何かがナチスの暗喩であるとか、
女性の解放がどうたらとか、
フリーメースンがどうしたとか、
そうした蘊蓄を読み取るだけで映画が楽しめるという方であれば、
それで良いのかも知れませんが、
僕はリクリエーションされた新しい感覚のホラーが観たかったので、
この作品にはとてもガッカリしました。

役者はティルダ・スウィントンの怪演がもの凄くて、
これは確かに一見の価値があります。
1人3役は全く分かりませんでしたが、
あそこまでするなら、
何処かでベリベリとメイクを剥がして、
正体を見せて欲しかったですよね。
それでなければ、あそこまで凝った趣向に何の意味があったのか、
はなはだ疑問に感じました。

そんな訳でとても楽しみにしていたのですが、
観終わってガッカリして、
寒空の中次の仕事に向かったのでした。

鬼が出るか蛇が出るかと思って見ていたら、
結局何も出て来ませんでした、
という感じの映画でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「夜明け」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
夜明け.jpg
是枝監督と西川美和監督の下で助監督を務めた、
広瀬奈々子監督の初監督作品で、
脚本も広瀬監督が執筆しています。

地方都市で木工所を経営している小林薫演じる初老の男は、
自動車事故で妻と息子を失った過去があるのですが、
ある日柳楽優弥演じる謎の若者が河原で倒れているのを助けます。

若者は自分が誰であるのかを語りませんが、
自分の息子のシンイチという名前を名乗ったことから、
初老の男はそこに自分の死んだ息子の姿を重ね、
彼を自分の木工所で見習いとして働かせると、
その危うい関係に深く囚われてしまいます。

互いに孤独な疑似親子のような2人の男が触れ合うという、
昔から良くある設定のドラマなのですが、
柳楽さんの役柄が自分の罪を感じながらも、
何か全てが他人事のような不気味で得体の知れないところがあり、
それが今の若者の1つの側面を、
リアルに活写している点が見どころです。

トータルにはあまりに暗くて痛々しく、
夢も希望もないラストに帰着するので、
あまり好きなタイプのお話ではないのですが、
主役2人の芝居を含めて、
そのディテールには見るべき点がありました。

演出はどちらかといえば無雑作で素朴な感じで、
それが狙いであるのかも知れませんが、
あまり好みではありませんでした。

ラストは是枝さんや西川さんと同じく、
ある瞬間でなで切りにするように終わるのですが、
その前に夜明けや涙や主人公の走る場面が、
ダラダラと長く続くので、
あまりシャープな印象になっていません。
巻頭で小林さんが柳楽さんを見つけるところは、
結構長いワンカットになっているのですが、
見つける寸前でカットを割っているので、
これじゃ意味ないじゃん、と感じました。

地味で暗い映画ですが、
繊細な心理をディテールで積み重ねる辺りは面白く、
如何にも日本映画らしい日本映画として、
昔のATG映画などのお好きな方でしたら、
そのリニューアル版としてお薦めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脳内ヒスタミン上昇による記憶呼び戻し効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには行く予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メリスロンの記憶への効果.jpg
2019年のBiological Psychiatry誌に掲載された、
脳内のヒスタミン濃度を上昇させることにより、
一旦覚えて忘れてしまった物の記憶を、
呼び戻すことに成功したという、
非常に興味深い研究結果をまとめた論文です。

北海道大学や京都大学、東京大学の研究チームによるもので、
医療ニュースなどで最近最も話題になっている知見です。

ふとしたきっかけで、
それまですっかり忘れていたような記憶を、
思い出すことがあるのは、
皆さんが誰でも経験していることだと思います。

人間のそれまでの生涯において、
蓄積された大量の記憶という情報には、
損傷を受けたものや、
完全に消去や削除されたものも勿論あると思いますが、
その一方で一旦は完全に忘れてしまい、
思い出そうとしても自力では不可能であるのに、
実はしっかりと保存はされていて、
きっかけさえあれば、
思い出すことが出来るものも多いのです。

それでは、この記憶を呼び戻すきっかけとは、
一体どのようなものなのでしょうか?

これまでにグアンファシンなど一部の薬剤や電気刺激、
経鼻インスリンやオキシトシンなどに、
記憶の再生を促すような効果が報告されています。

今回上記文献の筆者らが注目したのは、
脳内の神経伝達物質であるヒスタミンです。

ヒスタミンには複数の受容体があって、
それぞれ別個の働きをもっています。
H1受容体は蕁麻疹や鼻炎などの反応を促進し、
H2受容体は胃酸分泌を促進する作用があります。
このため蕁麻疹や鼻炎に対しては、
H1受容体の拮抗薬が治療薬として使用され、
胃潰瘍や胃炎では、
H2受容体の拮抗薬が治療薬として使用されています。

一方で脳内のヒスタミンは覚醒アミンとも呼ばれ、
人間が目を覚まして意識を集中させる際に、
大きな役割を果たしています。
そのためH1受容体の拮抗薬は眠気の原因となり、
H2受容体の拮抗薬は高齢者などでは不穏などの原因となります。

脳内のヒスタミンはH1受容体とH3受容体とで主に調整されていて、
H3受容体が刺激されると、
神経末端からのヒスタミンの遊離が阻害されるので、
この受容体についてはむしろ阻害されることにより、
脳のヒスタミン濃度は上昇するのです。

それでは、H3受容体の拮抗薬により、
記憶の再生は促進されるのでしょうか?

今回の研究においては、
主にネズミの実験によって、
H3受容体拮抗薬の投与により、
一旦 忘却した記憶が再生されることと、
その時に脳内ヒスタミン濃度が上昇することを確認しています。

脳内ヒスタミンの上昇はともかくとして、
どうやって記憶の呼び戻し効果をネズミで検証したのか、
興味深いところですが、
これはネズミが最初に出会ったものに対しては、
近づいてその臭いを嗅ぐという習性があり、
その記憶は概ね3日で失われることを活用して、
物を入れ替えてその反応を見た上で、
今度はH3受容体の拮抗薬を投与し、
その直後に同じ試験を繰り返して反応の違いを見ているのです。

その結果、
前回の記憶から3日以上過ぎて、
通常では新しい物としての反応を示していても、
H3受容体拮抗薬の使用後には、
その反応が前に接したもののそれに変化する、
ということを確認しています。

最後に人間のボランティアで同様の試験が行われています。

38名のボランティアに複数の写真を見せ、
1週間後に覚えている写真を確認する試験をします。
2つの群に分け、
一方ではH3 受容体拮抗薬であるベタヒスチンメシル酸塩を使用し、
もう一方では偽薬を使用して、
その30分後に確認の試験を行って、
記憶の呼び戻し能に差があるかどうかを検証しています。

結果、
薬剤使用群において、
ネズミの実験ほど明確ではないものの、
一定の記憶呼び覚まし促進効果が確認されました。

使用された薬剤はめまいなどの治療薬として使用されているもので、
商品名はメリスロンなどです。
非常に一般的な薬ですが、
使用量は通常1回量が12ミリグラムであるところ、
その9倍の108ミリグラムが1回で使用されています。

こうした論文においては、
人間のデータは一種のおまけのようなもので、
検証の主体は動物実験です。
人間のデータは動物実験で実証された現象が、
人間でも成り立つ可能性がある、
ということのために行われているもので、
人間においてその有効性を確認して、
臨床応用に繋げるような研究とは違う点に注意が必要です。

一過性に記憶の機能を促進する方法は、
経鼻インスリンなどこれまでにも複数報告はあり、
今回の現象もその1つとして、
認識するべきもののように思います。

こうした現象があること自体はほぼ間違いがなく、
今後は認知症を含めて、
この現象をどのように臨床応用するのか、
今後の課題であるように思います。

一時的な記憶再生の促進は、
どうやら薬剤でも可能であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アルツハイマー型認知症の最も早期の症状は何か?(J-ADNI研究の解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルツハイマー型認知症の最も早期の症状は何か?.jpg
2018年のAlzheimer's & Dementia誌に掲載された、
日本の疫学データを元にして、
アルツハイマー型認知症の最も初期の兆候について検証した論文です。

これも昨日の論文と同じ、
認知症の早期診断を確立する目的で施行された、
J-ADNIという疫学研究の解析結果です。

どうやらこのように、
小出しで多くの論文を量産する方針のようです。

昨日の論文では認知機能低下のない対象者と、
軽度認知機能障害のある対象者、
そしてアルツハイマー型認知症と臨床的に診断されている対象者の、
3群の経過を2から3年経過観察した結果を、
アメリカで行われたADNI研究と比較した結果がまとめられていました。

今日ご紹介する論文では、
60歳以上で認知機能が登録時に正常の154名のうち、
検査でアミロイドβの蓄積の有無の検査が施行された84名のみを対象として、
登録時から3年後までに定期的に行われた認知機能検査と、
アミロイドβの蓄積の有無やアポEε4遺伝子の変異などとの関連を検証しています。

その結果、
昨日の論文にもあったように、
認知機能正常で検査を受けた84名中、
22.6%に当たる19名が検査でアミロイドβの蓄積を認めました。
つまり、臨床的には正常でも、
2割以上の人はもう水面下では認知症への変化が、
既に始まっているということになります。

それでは、
通常より早期のアルツハイマー型認知症を、
臨床的検査で推測することは出来ないのでしょうか?

今回の検証においては、
アミロイドβの蓄積は、
アポEε4遺伝子型の保有者で、
有意に多く認められました。

登録時の認知機能にはアミロイドβ蓄積の有無で、
特に変化は認められませんでしたが、
MMSEなどの認知機能検査を繰り返し行った時の学習効果は、
アミロイドβ蓄積群で低下が。認められました。

更に脳脊髄液中のリン酸化タウ蛋白が増加していた事例においては、
増加していなかった事例と比較して、
関連のある言葉(たとえば「あ」から始まる言葉)を、
1分間でなるべく沢山思い出す試験や、
特定の時間を指した、時計の文字盤を描く試験、
鉛筆で順番に数字を繋いで行く試験などの、
遂行機能の試験の学習効果も低下していました。

今回の検証は例数は十数名と少数なので、
これで確証的なことをいうのは、
難しいという気がしますが、
同じ遂行機能の試験を繰り返した場合の学習効果の低下が、
最も早期のアルツハイマー型認知症の臨床所見である、
という指摘はなかなか興味深く、
この点に特化したより詳細で例数の多い検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アルツハイマー型認知症の進行と地域差(J-ADNI研究解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
J-ADNIの解析論文.jpg
2018年のAlzheimer's & Dementia誌に掲載された。
まだ症状が出る前の脳への異常蛋白の沈着や、
その後の認知症への進行速度を、
日米で比較した日本の研究チームによる論文です。

これはJ-ADNIと呼ばれる、
アルツハイマー型認知症の早期診断を確立するための、
疫学研究のデータを活用したものです。

アメリカで同様の目的で行われた、
ANDIという臨床研究があり、
その日本版として国の支援の元に開始されたものです。

ただ、ご記憶の方もいるかと思いますが、
データの不適切な使用やねつ造が告発される、
という騒動があり、
結果的にはねつ造はなかった、
という結論が第三者委員会から発表されたようですが、
ちょっと後味の悪い、
曰く付きという感じになった研究です。

全国38の専門施設が参加し、
登録の時点で60歳以上の、
通常の認知症の検査では異常のない154名と、
軽度認知機能障害234名、
そしてアルツハイマー型認知症と診断された149名を、
2から3年間経過観察したものです。

このうちの異常のない83名と軽度認知障害の112名、
アルツハイマー型認知症の83名については、
脳へのアミロイドβの沈着の有無を、
アミロイドPETや髄液の検査により診断したところ、
アルツハイマー型認知症群の88%に当たる73名、
軽度認知機能障害群の67%に当たる75名、
そして異常のない群でもその23%に当たる19名に、
アミロイドβの異常な脳への沈着が認められました。

つまり、
認知症の症状の出る遙かに前から、
脳への異常蛋白の沈着が始まっている、
というのは以前から指摘はされていましたが、
今回の厳密な検証において、
実際に異常のない群でも23%において、
認知症の前段階の異常が既に認められていた、
ということになります。

ただ、アメリカで行われたADNI研究においては、
異常のない群におけるアミロイドβ沈着の比率は、
44%とかなりの開きがありました。
一方で軽度認知機能障害やアルツハイマー型認知症群では、
その比率は日本とアメリカとで大きな差はありませんでした。

また観察期間中における、
異常なしから軽度認知機能障害、そこから更にアルツハイマー型認知症、
という進行のペースについては、
日本とアメリカとのデータで大きな差は認められませんでした。

つまり、認知症の進行のスピードについては、
日本とアメリカとの間で大きな差は見られないようです。

それでは、
何故異常なし群においてのみ、
アミロイドβの陽性率に大きな差があるのでしょうか?

上記文献におおいては、
日本の研究の方が対象者の年齢がやや若く、
教育レベルも高い対象者が多かったことが、
こうした結果になったのではないかと推察しています。

いずれにしても、
これまで言われてはいてもあまり実証的なデータがなかった、
まだ症状の出る前の脳への異常蛋白の沈着の比率や、
その後の進行の経過が、
数値として確認された意義は大きく、
今後の更なる検証にも期待をしたいと思います。

ただ、正直データがかなりの寄せ集めで統一が取れておらず、
症例数も充分とは言えないので、
微妙なところのある研究ではあります。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大腸内視鏡検査はどのくらいの間隔でするべきか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大腸ファイバーの至適間隔.jpg
2018年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
大腸癌検診の至適間隔についての論文です。

最近国立がん研究センターが、
日本の癌統計を発表しましたが、
それによると男女トータルで最も多く診断された癌は大腸癌で、
その生涯(0から74歳)累積の罹患率は4.7%となっていました。

上記文献の記載では、
アメリカの癌を原因とする死亡で、
2番目に多いのが大腸癌である、
となっています。

このように国内外を問わず多い癌である大腸癌ですが、
その多くは腺腫性のポリープから段階的に癌になるので、
早期発見と早期治療により、
その予後を改善することが明らかになっている癌でもあります。

つまり、
癌検診が有効であることが証明されている癌なのです。

概ねこれまでに、
便潜血検査と症状などの問診の検査を行って、
所見があれば大腸内視鏡検査を施行する、という方法と、
最初から標準的なリスクのある一般住民に、
1回だけ大腸内視鏡検査を施行して、
その結果によりその後の方針を決定する、
という方法があります。

日本においては通常この前者による方法が行われていて、
アメリカなどでは、
後者の方法がより広く施行されています。

ただ、問題となる事項の1つは、
1回大腸内視鏡検査を行って、
特にポリープなどの異常が見つからなかった場合、
その後の内視鏡検査はどのくらいの間隔で行うべきなのか、
ということです。

通常日本においては、
5年に1回くらいが勧められることが多いと思います。
一方でアメリカのガイドラインでは、
10年に一度というのが1つの指標として記載されています。
欧米ではより間隔を空けても良いのではないか、
という意見も多くあります。

現状そのうちのどれが良いのかを、
実証的に示すようなデータは限られているのです。

そこで今回の研究では、
アメリカの大手健康保険会社である、
カイザー・パーマネント社の医療データを活用して、
カリフォルニア州において年齢がから50から75歳で、
大腸癌やポリープ、炎症性腸疾患の既往がなく、
家族歴もない1251318名を対象として、
大腸内視鏡検査を施行していない場合と、
1回施行して結果が所見なしであった場合の、
長期予後を比較検証しています。

その結果、
大腸内視鏡検査を1回施行して、
その結果が所見なしであると、
検査をしなかった場合と比較して、
内視鏡検査後10年の時点で、
大腸癌になるリスクを46%(95%CI: 0.31から0.94)、
大腸癌により死亡するリスクを88%(95%CI: 0.02から0.82)、
それぞれ有意に低下させる効果が確認されました。

年数が経てば経つほど、
そのリスクの差は当然縮まってゆくので、
現状のアメリカのガイドラインにおける、
10年という検査間隔の目安は、
一定の妥当性があると判断されたのです。

日本においても、
今後癌検診の内容や検査間隔においては、
より科学的な検証が行われる必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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