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「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは年末年始の休診中です。

今年1年お読み頂ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ファンタスティックビースト.jpg
ハリー・ポッターの新シリーズとして、
2016年に公開された「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」の続編が、
今ロードショー公開されています。

全部で5部作の2作目に当たるという構想であるようです。

このシリーズは前作がとても良くて、
本家のハリー・ポッターより個人的には好印象でした。
次々と出て来る不思議動物がなかなか良く出来ていましたし、
物語もなかなか綺麗にまとまっていました。

それで今回の続編も、
とても楽しみにしていたのですが、
いかにもシリーズ物の繋ぎ作品という感じで、
登場人物ばかりゴチャゴチャと出て来て、
面倒くさい設定があるので、
お話は分かりにくいですし、
大した展開なく次に続くという感じに終わってしまうので、
とてもガッカリしました。

こういうものは、
1作ずつ映画として公開する以上、
1作毎の盛り上がりと、
一定の完結性がありながら、
次に続くという感じにならないといけないと思うのです。

今回の作品は本当の繋ぎという感じで、
この作品のみの盛り上がりという点が希薄です。
ビジュアル的にはなかなか凄いことをしているのですが、
「凄いな」と思っていると、すぐに終わってしまう感じで、
見せ場が連鎖してゆくというところがありません。
とても勿体ないと思いました。

前作は、小さく始まって、
意外に物語が後半大きく膨らんで行くのが良かったのですが、
今回は最初に悪い魔法使いの脱獄という、
なかなかの大盛り上がりで始まるので、
どうしてもそれ以上のものをその後に期待してしまうのですが、
実際にはその後ダラダラ人物紹介ばかりが続き、
肝心の主役は気持ちがまだ定まらずに右往左往、
という感じになるので、
構成の失敗であったように思いました。

そんな訳で駄目なスター・ウォーズと同じような、
シリーズ中だるみ、内輪受け的な作品で、
期待が大きかっただけに、
脱力した気分で劇場を後にすることになりました。

キャストは良かったので次には期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「魔界転生」(2018年堤幸彦演出舞台) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは本日から年末年始の休診に入っています。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら、
魔界転生.jpg
山田風太郎の忍法時代劇の傑作「魔界転生」が、
日本テレビ開局65年記念舞台として、
マキノノゾミさんの脚本で堤幸彦さん演出で上演されました。

もう公演は終わっていますが、
その本年11月の明治座の公演に足を運びました。

これは高校生の時に原作を読みました。
山田風太郎さんは多彩な作品を書かれていて、
ミステリーの「十三角関係」などはとても好きなのですが、
忍法帳としてはこの「魔界転生」が抜群で、
とてもワクワクと読んだことを今でも覚えています。

これは柳生十兵衛を主人公にして、
彼がその全盛期の違う宮本武蔵や父親の柳生但馬守宗矩と、
それぞれの全盛期の状態で対決する、
という架空対戦ものなのですね。
それを成立させるために、
女体を借りて復活するという魔界転生という妖術を用い、
史上最強の剣豪軍団と我らが十兵衛の血湧き肉躍る戦いが描かれるのです。

1981年と2003年に映画化されていて、
1981年版はテレビで見ましたが、
正直原作の良さは殆ど打ち消されたような、
深作欣二風アクション映画になっていました。

今回の舞台版は、
どちらかと言えば原作より映画を原作としている印象で、
時代の違う剣豪が魔界転生でリセットされ、
最盛期の力で勝負する、
という基本設定の部分があやふやになっていました。

今回の舞台は端的に言えば、
劇団☆新感線の上演する舞台の世界を、
堤幸彦さんが職人芸で再現するという感じの代物で、
格別新しい趣向はなく、
テレビの番宣などで盛んに取り上げられていた、
3D映像とのコラボという代物は、
目を細めればそう見えるかな、
と言うレベルのお寒い仕掛けでした。

キャストはなかなか豪華で、
主役の十兵衛役の上川隆也さんは、
堂々とヒーローを演じていてなかなかですし、
天草四郎の溝端淳平さんも頑張っています。
そして何より素晴らしいのが、
柳生但馬を演じた松平健さんで、
上川さんと松平さんの対決が、
芝居としては全編のクライマックスです。

全体に新感線の同じような作品と比較すると、
テンポはまったりとしていて、
メリハリやスピード感には乏しいのですが、
それが却って見やすいという感じはします。
松平健さんに今以上のテンポを要求すれば、
その良さを殺してしまうと思いますし、
これが随所に配慮した、
大人の演出と言えるのかも知れません。

そんな訳であまり乗れない観劇だったのですが、
それなりにプロの仕事を感じて、
劇場を後にすることは出来たのでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年末をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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M&Oplays プロデュース「ロミオとジュリエット」(宮藤官九郎演出) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中のみ外来を開ける予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
ロミオとジュリエットクドカン.jpg
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を、
三宅弘城さんと森川葵さんというコンビで主役を務め、
宮藤官九郎さんが演出した舞台に、
先日足を運びました。

公演はもう終わっています。

「ロミオとジュリエット」はシェイクスピアの作品の中では、
展開的にドラマチックで青春物としての魅力もあるので、
日本での上演頻度は高く、
また非常に読み替えのような風変わりな演出が、
多いという演目ではないかと思います。

最近の藤田貴大さんが演出した舞台では、
原作の場面をバラバラにして入れ替え、
同じ場面を繰り返すという得意の手法を、
大胆に取り入れて、
それでいて原作の台詞はほぼ変えていないという、
特殊な演出がされていました。

蜷川幸雄さんも複数の演出の舞台を上演していますが、
かなり自由度の高い舞台になっていました。

翻案としては「ウェストサイドストーリー」など、
数限りなくありますし、
最も一般に馴染みのあるシェイクスピアの物語、
という言い方をして間違いはないと思います。

さて、今回のクドカン版ですが、
相当変わったことをしてくるのかと思いの外、
かなり原作そのものを再現した、
まっとうな舞台で、
勿論ギャグもあるのですが、
原作を解体するような性質のものではなく、
かなり穏当に始まり穏当に終わった、
という感じの作品になっていました。

主役に三宅弘城さんを起用した意味も、
あまり明確ではありませんでしたし、
それほど伸び伸びと芝居をしていた感じでもありません。
セットも紙芝居のようで安っぽく、
これといった見せ場もなく終わってしまった、
個人的にはかなりガッカリの舞台でした。

こんな保守的な仕上がりになるのであれば、
どうしてこうしたキャストと演出でやろうと思ったのか、
正直最後まで良く分からないままに劇場を後にしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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癌患者の静脈血栓塞栓症に対するアピキサバンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アピキサバンの癌に対する効果.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
癌の患者さんの合併症の予防のために、
経口の抗凝固剤を使用する臨床試験の結果についての論文です。

深部静脈血栓塞栓症というのは、
足などの末梢の静脈の流れが悪くなることにより生じた血の塊(血栓)が、
肺などの血管に詰まって肺梗塞などを起こす病気です。

エコノミークラス症候群と言われることがあるように、
長時間同じ姿勢を取っていたり、
身体が不自由で寝ていることが多い生活をしていると、
発症しやすいことが知られています。

そして、それ以外に発症リスクが高いのが、癌の患者さんです。

癌の患者さんでは生活も不自由になることが多い上に、
癌自体が血栓症のリスクになります。

ただ、こうした患者さんでは出血のリスクも高いので、
予防のために血を固めにくくする薬を使用することは、
患者さんの予後を必ずしも良くするとは限りません。
そのために現行のガイドラインにおいて、
癌の患者さんにおける抗凝固療法は、
明確に推奨はされて来ませんでした。

今回の臨床研究は最近使用されている抗凝固剤のうち、
出血系の合併症の少ない薬と評価されているアピキサバン(エリキュース)を、
血栓症のリスクの高い癌患者さんに使用して、
その予防効果を検証しているものです。

抗癌剤を使用中で静脈血栓症のリスクの高い癌の患者さん、
トータル574名を患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方にはアピキサバンを1回2.5mgという低用量で1日2回使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
180日間を超える経過観察を施行しています。
(intention to treat 解析)

その結果、
偽薬群の静脈血栓症発症率が、
275名中28例の10.2%であったのに対して、
アピキサバン群では288名中12例の4.2%で、
アピキサバンの使用により静脈血栓症のリスクは、
59%(95%CI: 0.26 から0.65)有意に低下していました。
治療期間において、
重篤な出血系の合併症はアピキサバン群で6例(2.1%)発症したのに対して、
偽薬群では3例(1.1%)の発症に留まっていて、
これは有意ではないものの、
矢張り出血のリスクは2倍程度に上昇することが示唆されました。
生命予後には両群で差はありませんでした。

このように、
静脈血栓症のリスクの高い癌の患者さんにおいて、
アピキサバンの少量継続使用によって、
そのリスクが低下することはほぼ間違いがありません。
ただ、出血系の合併症が少なからず増加し、
生命予後には差はないという今回の結果を見ると、
その使用は症例を選んで検討することが妥当であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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フィンランドサウナの心血管疾患予防効果(前向きコホート研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サウナの心疾患予防効果.jpg
2018年のBMC Medicine誌に掲載された、
サウナの健康効果についての論文です。

入浴は世界中において、
古くから好まれている生活習慣で、
皮膚などの清潔を保つと共に、
その温熱効果により気分をリラックスし、
血流を一時的にせよ高めるという効果があります。

より長期的に入浴習慣に健康面での効果があるかどうか、
と言う点については、
現時点であまり明確なことが分かっていません。

一部には体温を上昇させることにより、
ヒートショックプロテインを増やし、
免疫を活性化させる、
というような知見もありますが、
それは仮説の域を出ないように思います。

入浴法により健康効果に違いがあるのではないか、
という見解も以前からあります。

日本で行われているような、
首まで熱い湯に浸かる全身浴は、
血圧や脈拍に与える影響が大きく、
入浴中の突然死に繋がるリスクが高い、
という側面があるからです。

フィンランドはサウナ発症の地で、
比較的低温のサウナが一般的な入浴法として普及しています。

サウナというのは湯船に浸からないために、
純粋の温熱効果のみが得られるので、
全身浴と比較してより健康に利する可能性があるのです。

実際これまでに大規模なフィンランドの観察研究において、
サウナの心血管疾患予防効果や肺炎予防効果などが認められ、
過去にブログ記事にもしています。

ただ、これは観察研究ですから、
例数は多くてもそれほど精度の高いものではありません。

今回の研究は一定の住民を登録して、
10年以上の長期の観察を行ったもので、
この分野ではこれまでにあまりなかったタイプの臨床研究です。

フィンランドにおいて、
一般住民1688人を登録し、
登録の時点でのサウナの利用頻度を聞き取りすると、
その後中間値で15年間の経過観察を行っています。

その結果、
心血管疾患の死亡リスクは、
サウナの使用頻度が高いほど低い、
という一定の相関が認められました。

週に1回のサウナ習慣と比較して、
2から3回のサウナ習慣のある住民は、
29%(95%CI: 0.52から0.98)、
4から7回のサウナ習慣のある住民は、
70%(95%CI: 0.14から0.64)、
それぞれ有意に心血管疾患による死亡リスクが低下していました。

これはサウナ習慣がかなり一般的な、
フィンランドに限ったデータで、
運動の健康効果に近いものを、
見ているという可能性もあります。

ただ、前向きコホート研究において、
入浴の健康効果がここまで明確に証明されたことはこれまでになく、
今後は他の入浴法との差についても、
科学的な検証が進むことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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一過性脳虚血発作と軽症脳卒中に対する抗血小板剤の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
TIAと軽症脳卒中の抗血小板療法.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
軽症脳卒中後の抗血小板剤の2剤併用療法の効果についての、
メタ解析の論文です。

一時的に言葉が出なくなる、手に力が入らなくなる、
などの症状が出現して改善する、
一過性脳虚血発作と、
虚血性脳卒中と診断されるも軽症で、
退院の時点では全く後遺症はないか、
あっても軽微で日常生活には制限は生じない
(modified Rankin Scaleという指標で0か1)
軽症虚血性脳卒中においては、
後遺症はないか軽微であっても、
その後より重篤な脳卒中に進行したり、
再発して予後の悪化するリスクが、
高いことが知られています。

そのため予後の改善目的で抗血小板剤による治療が行われます。

こうした場合に最も多く使用されているのは、
低用量のアスピリンで、
それ以外にクロピドグレルやシロスタゾールも使用されています。

一方でこうした場合の予後改善には、
単剤の抗血小板剤では不充分で、
2種類の抗血小板剤を併用する必要があるのではないか、
という意見があり、
アメリカの専門家のガイドラインの1つでは、
弱い推奨として、
アスピリンとクロピドグレルを発作後24時間以内に開始し、
それを21日間継続する、
という治療法が記載されています。

これまでに3つの精度の高い臨床試験が、
アスピリン単独と併用療法を比較しています。
アメリカのみで行われた比較的小規模な試験と、
アメリカとヨーロッパ、オーストラリアなどで行われた大規模臨床試験、
そして中国で行われた大規模臨床試験です。

今回の研究はその3つの臨床試験を併せて解析したメタ解析で、
この問題の現時点での一定の結論を導くことを目的としています。

トータルで10447名の臨床データをまとめて解析した結果として、
一過性脳虚血発作と軽症虚血性脳卒中発症後24時間以内に、
クロピドグレルとアスピリンを併用すると、
アスピリンの単独使用と比較して、
総死亡のリスクには有意な影響を与えずに、
非致死性脳卒中再発のリスクが、
30%(95%CI: 0.61から0.80)有意に低下していました。
ただ、中等度もしくは重度の頭蓋内以外の出血のリスクは、
1.71倍(95%CI: 0.92 から3.20)
と有意ではないものの増加する傾向を示しました。
併用療法とアスピリン単独との差は、
開始後10日から明確になり、
21日間を超える使用では有用でないと推測されました。

要するに、
一過性脳虚血発作もしくは軽症虚血性脳卒中発症後、
24時間以内にアスピリンとクロピドグレルの投与を開始すると、
アスピリン単独の場合と比較して、
患者さん1000人当り20人の脳卒中の再発を予防可能です。
その一方で同じ1000人当り2人には、
中等度以上の出血系の合併症がそのために発症します。
この効果を得るためには10日以上の使用が必要である一方、
21日以上の併用には意味がないと考えられます。

これまでの臨床試験においては、
クロピドグレルの用量は1日75ミリグラムから600ミリグラムと、
かなりの幅があり、
その使用法も初期量のみ多くするなど試験により様々です。

今回の検証により、
一定期間の併用療法の効果は、
ほぼ確認をされたと言って良いので、
今後その用量や期間を含めて、
適切なガイドラインが、
日本を含めて作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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乳製品の種別毎の健康影響(アメリカの大規模疫学データとメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ミルクと健康.jpg
2018年のClinical Nutrition誌に掲載された、
乳製品の健康影響についての論文です。

乳製品の健康への影響という問題については、
これまでに相反するデータがあり、
まだ結論に至ってはいません。

乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、
リンやビタミンDも含んでいるため、
骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、
最近の疫学データにおいては、
乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、
明確に低下するというような結果は得られていません。

一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、
脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、
その摂取によりコレステロールが増加した、
というようなデータもあります。
このため心血管疾患の予防という観点からは、
現行のガイドラインにおいて、
その摂取の一定の制限が推奨されています。

チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、
生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、
認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、
というような報告もあります。

2018年のLancet誌に掲載された、
世界5大陸で13万人以上を解析した大規模疫学データでは、
乳製品の摂取量が多い群では未摂取と比較して、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、心不全を併せたリスクが、
16%(95%CI: 0.75から0.94)有意に低下していました。
総死亡のリスクも17%(95%CI: 0.72から0.96)と有意に低下し、
心血管疾患による死亡のリスクは14%(95%CI:0.58から1.01)、
有意ではないものの低下する傾向を示しました。

牛乳とヨーグルトの摂取量が多いほど、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、
心不全を併せたリスクは低下していましたが、
チーズの摂取ではそうした有意な低下は認められませんでした。

この乳製品の摂取による心血管疾患予防効果は、
主に欧米以外の発展途上国において強く認められました。
つまり、栄養状態が悪く、乳製品の摂取量が少ない地域で、
そうした傾向が強く認められていて、
こうした地域においては、
高率良くカロリーと脂質、蛋白質を摂取出来る乳製品が、
健康の維持に有用であったという可能性を示唆しています。

今回の研究はアメリカで24474名を対象とした大規模疫学データと、
これまでの636726名の臨床データのメタ解析とを行ったもので、
特に乳製品ごとの違いに注目しています。

まずアメリカ成人の疫学データにおいては、
牛乳やチーズを含む乳製品の摂取量が最も多い群では、
最も少ない群と比較して、
総死亡のリスクが2%(95%CI: 0.95から0.99)、
わずかながら有意に低下していました。
チーズのみの摂取量でみると、
これも多い群は少ない群と比較して、
総死亡のリスクが8%(95%CI: 0.87から0.97)
これも有意に低下していました。

牛乳のみの摂取は、
脳卒中などの脳血管疾患による死亡リスクが、
7%(95%CI: 0.91から0.96)有意に低下していましたが、
その一方で心血管疾患による死亡リスクは、
4%(95%CI: 1.02から1.06)こちらは有意に増加していました。

これまでのデータのメタ解析においては、
チーズやヨーグルトなどの発酵乳の摂取が多い群では、
少ない群と比較して、
総死亡のリスクが3%(95%CI: 0.96から0.99)有意に低下している一方、
牛乳の摂取では、
心血管疾患の死亡リスクが4%(95%CI: 1.01から1.05)
こちらは有意に増加していました。

このように、
どうやらヨーグルトやチーズの発酵乳については、
トータルに生命予後に良い影響を与えることが、
ほぼ確実である一方で、
牛乳を多く摂取することは、
生命予後に悪い影響を与える可能性が否定出来ないようです。

こうした結果は、
これまでの大規模疫学データとも、
ほぼ一致しているもので、
勿論その差は軽微なものなので、
気にしすぎる必要はありませんが、
乳製品の内容によってその健康影響には差がある、
という知見は、
押さえて置く必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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城山羊の会「埋める女」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
埋める女.jpg
大好きな城山羊の会の新作公演に足を運びました。
しばらく公演の予定はないとのことで、
とても残念ですが、
またいつかの再開を期待したいと思います。

今回のお芝居は、
コーエン兄弟の映画みたいな味わいで、
何処までが真面目で、何処までがリアルなのか分からない、
手探りのような快感に満ちたドラマが展開し、
闇の中に1人置き去りにされるようなラストが待っています。

主役はトラック運転手の岩谷健司さんで、
彼が客席を向いて観客に向かって1人語りをする、
というスタイルで始まります。
その後も随所で観客を意識するようなやり取りがあり、
これは一体どういうことなのかしらと思っていると、
主人公に降りかかった災難から、
それがラストに繋がるという趣向です。
観劇後に、結局観客の僕達は、
何に見立てられていたのかしらと、
頭をひねって不思議な気分になるのです。

途中でいつものように、
偏執狂的なキャラの岡部たかしさんが入って来ると、
城山羊の会ワールドがいつものペースで展開されます。
適度なエロチックさと、
何かが隠された隠微な感じ、
適度な不条理のスパイス、
現代社会の構造を巧みに捉えたディテールなど、
そのひねった魅力は健在です。

後半の急展開が暴力を梃子にしているという点が、
ちょっと引っかかりはあるところです。
「自己紹介読本」の素晴らしさは、
それがエロスのみで成立した楽しさでした。

今回は最後までその独特の不条理とエロスと暴力が貫徹された、
城山羊の会のクオリティの高い標準作であった、
という印象です。

この世界にしばらく浸れないというのはとても残念ですが、
またの機会を待ちたいと思います。

またいつか素敵なお芝居を見せて下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「アリー スター誕生」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アリー スター誕生.jpg
「スター誕生」のリメイクとして、
レディ・ガガが新人歌手を、
ブラッドリー・クーパーが彼女を見いだす、
カントリーロックのスターを演じて、
製作と監督も兼任した映画が、
今ロードショー公開されています。

その初日に劇場に足を運びました。
観客は20人くらいだったと思います。

「スター誕生」は、
1937年から何度も映画化されている、
アメリカ映画の古典的なプロットで、
元々は映画スターの話ですが、
1976年のバーバラ・ストライサンド版で、
音楽業界の話としてリメイクされ、
今回の映画は基本的にはその1976年版のリメイクです。
ただ、そのプロットの内容や構成などは、
オリジナルの1937年版にかなり忠実になっています。

その業界の大物の手によって、
名もない新人の少女が見いだされてスターになるのですが、
2人が結婚した後で、
元々アルコール依存症であった大物は没落し、
むしろスターの少女の足を引っ張る存在となってしまいます。

ちょっとあざといけれど巧みに構成されたプロットで、
男女の機微と力関係、そして純粋な愛情が、
華やかなショービジネスの世界と連動しているのが上手いのです。
オリジナルの当初から、
アルコール依存症という社会問題を取り入れ、
最後は少女がスターとして自立する、
という誰もが納得するラストに着地しています。

ただ、少女の自立とか、何を今更という感じもあるので、
古めかしく感じて違和感のある方もあるかも知れません。
「権力者の男が自分が好きになった少女をスターにする」
というお話自体が、
今の社会では反発を感じる部分もあるように思います。

この辺りをより現代に合わせて作り替える、
という考え方もあったと思うのですが、
今回の映画はオリジナルの良さをリスペクトして、
ほぼ忠実に再現するという方法を取っています。

個人的にはそれで正解だったように思います。

良くも悪くもこれがアメリカ映画だ、
と開き直ったような感じがあり、
スター誕生のアメリカンドリームに、
心浮き立つような気分になるからです。

主役の少女(?)を演じたレディ・ガガは、
最初にトイレで1人芝居みたいなことをやっていて、
それがへたくそなので、
「こりゃ駄目じゃん」という感じになるのですが、
さすがに歌の場面になると抜群のオーラがありますし、
基本的に自分自身と重なるような役柄なので、
説得力のある演技になっています。
途中のデュエットも良かったですし、
ラストの歌唱も素敵でしたね。

対する大物歌手役のブラッドリー・クーパーは、
文字通りの熱演で素晴らしい芝居でした。
歌も悪くなかったですし、
後半は彼の1人舞台の感じもありました。

総じてこれぞアメリカ映画というテイストの作品で、
演出など技術的にも優れていましたし、
楽曲も良かったですから、
古いアメリカ恋愛映画のお好きな方でしたら、
とても楽しめると思います。

なかなかお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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唐十郎「腰巻お仙 振り袖火事の巻」(2018年小林七緖演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が外来を担当し、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
腰巻お仙.jpg
流山児事務所の小劇場過去の名作上演の一環として、
唐先生の初期作の「腰巻お仙 振り袖火事の巻」が、
唐組などとは全く肌合いの違う、
小林七緖さんの演出で、
先日早稲田の地下の小劇場で上演されました。

この芝居は1969年の年初に新宿中央公園で無許可上演された事件が、
あまりにも有名ですが、
内容的には佐藤信さんの一連の鼠小僧次郎吉や、
喜劇昭和の時代といった革命演劇にとても近いスタイルで、
ディテールには主人公が耳を切られたり、
少女が軍服や赤い腰巻姿などに変身を繰り返したりと、
如何にも唐先生という部分はあるのですが、
全体の構成はその後の紅テントのお芝居よりも、
その後の黒テントのお芝居に相似している印象です。

唐先生のロマン主義的なスタイルが完成するのは、
矢張り「少女仮面」や「少女都市」くらいの頃からで、
「吸血姫」ともなれば、
もうまごう事なき唐芝居の大作なのですが、
1968年から1969年初頭辺りの作品になると、
黒テントの革命演劇と、
見分けるのは難しい感じの世界観となっています。

今回の芝居の演出は、
それ自体黒テントの芝居に近いスタイルで、
そこに天野天街さんのテイストが、
散りばめられているという感じですが、
このお芝居に関しては、
その後の紅テントのスタイルで上演するよりも、
黒テントスタイルの方が合っている、
という感じが強くしました。

オープニングに幕がバンと落ちて、
インパクトのある場面が現れる呼吸も良いですし、
オリジナルの劇中歌も、
「ある夕方のこと…」というテーマ曲は、
なかなか素敵でした。
曲の感じも状況劇場というより、
林光さんによる黒テントという感じでしたね。

今回の上演は概ね原作戯曲に忠実ですが、
オープニングとエンディングに、
特別出演格の大久保鷹さんと主人公の少女による、
「現在から1969年を再定義する」的なパートが創作で入り、
犬が紙芝居で笛吹童子を解説する、
という入れ事が付け加わっています。
また、初演で四谷シモン演じたおつたの台詞は、
少しアレンジが加えられています。

こうした改変はあまり好みではありませんが、
現代の観客に今回の上演の意味合いを、
理解してもらうという面では、
やむを得ないものかなと感じました。
それほど原作を壊す感じにはなっていなかったのが幸いでした。

キャストもなかなかで、
初演で麿さんが演じたドクターともなると、
さすがに普通に演じては役不足で詰まらないのですが、
主役の少年少女の2人は、
雰囲気のある芝居で素敵でした。
大久保鷹さんの自由な芝居も嬉しいところです。
黒テントだとご町内の三人組に当たる3人の堕胎児役の3人が、
なかなかしっかりと芝居をしていたので、
それで全体はぎゅっと引き締まった感じでした。
今回の功労者だと思います。

そんな訳で結構楽しむことの出来た、
地下小劇場らしいお芝居でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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