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降圧剤シルニジピンの心不全改善の可能性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
シルニジピンの心不全改善の可能性.jpg
2018年のScience Signaling誌に掲載された、
慢性心不全における心臓の変化と、
ある種の降圧剤の治療効果についての論文です。

自然科学研究機構生理学研究所と九州大学の研究グループによる研究です。

心臓を栄養する冠状動脈が詰まる急性心筋梗塞になると、
その後に心臓の機能が低下する心不全が高率に発症します。

これは単純に血流が途絶えて死んだ心筋細胞のみによる現象としては、
説明出来ない点が多く、
その周辺の死んではいない多くの細胞に、
その機能を低下させるような変化が、
起こっていることが想定されています。

それでは、その変化とはどういったものでしょうか?

その1つの仮説は、
心筋細胞の中にある、
ミトコンドリアという細胞小器官の異常です。

ミトコンドリアは、
細胞内でのエネルギー産生に必須の小器官で、
それ以外にも細胞内の多くの機能に関わっています。

そのため、ミトコンドリアが正常の機能を失うと、
その細胞自体の機能も低下してしまいます。

ミトコンドリアは細胞の中で、
融合と分裂を繰り返しています。
この融合と分裂を繰り返すことが、
ミトコンドリアが正常に働く上で、
重要な機能の1つであることが分かっています。

ミトコンドリアの分裂において、
大きな役割を果たしている物質が、
ダイナミン様タンパク質(Drp1)です。
Drp1がリング状の複合体を形成し、
それがミトコンドリアの膜を刃物のように切断し、
それがミトコンドリアの分裂に繋がると考えられています。

そして、
心筋細胞が心筋梗塞により低酸素状態になると、
このDrp1が過剰に活性化して、
ミトコンドリアの分裂が過剰に進行し、
それが心不全の大きな要因となることを、
上記文献ではネズミの実験で詳細に実証しています。

更に上記文献においては、
このDrp1の活性化を抑制するような薬剤を、
主に常用されている降圧剤で多数検証したところ、
カルシウム拮抗薬の1つであるシルジニピン(商品名アテレックなど)が、
Drp1の作用を抑制して、
実験的な心筋梗塞後の心機能を改善することを、
これもネズミの実験で実証しています。
ただ、使用されているシルジニピンの用量は、
体重換算で人間の常用量の50倍という高用量ですから、
まだ臨床的に応用出来る、
というようなレベルの知見ではないようです。

その実用性はともかくとして、
心不全の原因の一端がミトコンドリアの機能異常にある、
という知見は非常に興味深く、
今後の更なる知見の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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MRI検査の予期せぬ異常所見について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2018-11-27.png
2018 年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
MRI検査の予期せぬ異常所見についての論文です。

たとえばふらつきなどの症状があり、
脳梗塞などの可能性を疑って、
頭部のMRI検査を行うと、
脳動脈瘤など当初の予想とは別個の、
無視できない異常所見が見つかることがしばしばあります。

こうしたケースは実際には多くありますし、
臨床上も大きな問題になることがあります。

患者さんによっては、
何も異常がないことを期待して、
安心のために受けた検査で、
予想外の異常が見つかるので、
それが大きなストレスとなり、
病気自体ではなく、
ストレスによって体調を崩すという事態も、
経験することがあります。

たとえば脳の検査で予想外の脳動脈瘤が見つかると、
それが小さいものであれば通常は経過観察となり、
患者さんは不安を抱えたまま、
検査を繰り返すという事態になります。

こうしたケースでは、
「こんなことなら検査を受けない方が良かったのに」
というような愚痴を、
患者さんからお聞きすることもあります。

また、原因不明の腹痛のために上腹部のMRI検査を施行して、
膵臓の嚢胞性の腫瘍が見つかることも良くあります。
嚢胞性の膵腫瘍は悪性の可能性も否定は出来ないということで、
経過観察の方針となることが多いのですが、
これも患者さんにとってはかなりのストレスになります。
診断が早期に明確になって白黒が付けば、
「偶然にせよ早く見つかって良かった」ということになるのですが、
往々にして、
「悪性の可能性は高くはないのですぐに手術などは必要ないが、
良性とは言い切れないので経過は慎重にみていく必要がある」
というような判断になることがあり、
そうした場合にはストレスばかりが増えて、
患者さんにとっては良かったと思えない、
というケースが多いのです。

それでは実際に他の目的で行なったMRI検査で、
予期せぬ異常所見が見つかるということはどの程度あり、
そのうちのどの程度が確定診断されるのでしょうか?

この問題を検証した大規模で信頼のおけるデータというのは、
実はあまり存在していません。

そこで今回の研究では、
これまでの臨床データをまとめて解析する、
システマティック・レビューとメタ解析の手法で、
この問題の現時点までの検証を行っています。

32の研究のトータルで27643名のデータを、
まとめて解析した結果として、
他の目的でのMRI検査で偶然に見つかった、
深刻な病気の可能性のある所見は、
脳から全身のMRI検査のトータルでは、
3.9%(95%CI: 0.4から27.1)に認められ、
脳のMRIでは1.4%(95%CI: 1.0から2.1)、
胸部のMRIでは1.3%(95%CI: 0.2から8.1)、
腹部MRIでは1.9%(95%CI: 0.3から12.0)に認められました。

この場合の深刻な病気の可能性のある所見というのは、
たとえば脳であれば、脳腫瘍、脳動脈瘤、脳梗塞、
などが含まれていて、
胸部や腹部においては癌の疑いのある腫瘍や、
大動脈瘤などが含まれています。
そして、予め規定された異常所見以外のものは、
分類不能の異常所見となっています。

この分類不能の所見を含めて、
深刻な異常の疑いが否定出来ない所見を全て含めると、
脳から全身のMRIのトータルでは、
12.8%(95%CI: 3.9から34.3)に異常が認められ、
脳MRIでは1.7%(95%CI: 1.1から2.6)、
胸部MRIでは3.0%(95%CI: 0.8から11.3)、
腹部MRIでは4.5%(95%CI: 1.5から12.9)に、
それぞれ頻度は増加していました。

この所見のうち、
精査により実際に深刻な病気が診断されたのは、
確認出来た243例中の48例、
20.5%に過ぎませんでした。

このように別の目的で施行されたMRI検査により、
予期せぬ重篤な可能性のある異常所見が発見される頻度は、
無視出来ないほど高く、
しかし実際にはそのうちで、
明確に診断される事例はごく少数です。

最近報道されたように、
別の目的で施行された検査の場合、
予期せぬ重篤な所見はスルーされやすいというリスクもあり、
この問題は今後より詳細な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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スポーツの種類と長生きへの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スポーツの種類と生命予後.jpg
2018年のMayo Clin Proc.誌に掲載された、
運動の種類と余命延長効果(長生きの効果)との関連についての論文です。

定期的な運動の習慣を持つことが、
虚血性心疾患のリスクも総死亡のリスクも、
いずれも低下させる効果のあることは、
これまでの多くの疫学データにおいて、
ほぼ確立された事実です。

その信頼性の高いデータの1つとして発表されているのが、
コペンハーゲン市心臓研究と題されたデンマークの大規模疫学データです。

ここではおよそ2万人の男女を長期間観察した結果として、
ウォーキングやジョギング、サイクリングに、
総死亡を低下させるような効果があることが報告されています。

その中でジョギングをしている1098名を、
12年間経過観察したデータを見ると、
ただ、闇雲に運動を多くすれば良いということではなく、
通常かゆっくりしたペースでの、
週に3日を超えない回数で、
1週間に1から2.4時間くらいのジョギングが、
最も死亡リスクを低下させていて、
よりハードなトレーニングは、
むしろ死亡リスクの増加に繋がっていました。

つまり、運動をしない生活も、
ハードにトレーニングをする生活も、
健康で長生きという観点から見ると、
いずれも少し問題がありそう、
という興味深い結果です。

適度な運動が長生きに結び付く、
ということは分かりました。

それではどんなスポーツをするのかによっても、
この長生きの効果には差があるのでしょうか?

これまでのデータは、
概ねジョギングやサイクリング、
歩行などの効果をみたものでした。
その同じ時間を他のスポーツをすることで、
その効果には違いがあるのでしょうか?

そうした検証は、
あまりこれまで単独の疫学データとしては、
行なわれて来ませんでした。

そこで今回の検証では、
8577名を最大で25年間観察し、
ほぼ運動習慣のない座ることの多い生活と比較して、
様々な種類のスポーツや運動習慣の、
総死亡リスクに対する影響を比較しています。

その結果、
運動習慣のない生活と比較して、
テニスは9.7年、バトミントンが6.2年、サッカーが4.7年、
サイクリングが3.7年、水泳が3.4年、ジョギングが3.2年、
美容体操が3.1年、スポーツジムが1.5年、
それぞれ平均余命の延長効果が認められました。
スポーツにより施行している時間にはかなりの差がありますが、
平均では週に7時間程度となっていました。

このデータはデンマークのもので、
取り上げられているスポーツにもかなりの地域性があります。

ただ、興味深いことに、
これまで検証されていたジョギングより、
遥かにテニスやバトミントンの方が、
同じ時間でより多くの余命延長効果を挙げています。
その一方でスポーツジムで定期的に運動をしても、
ジョギングより遥かに少ない効果しか、
健康面では得られていません。

この違いをどう考えるべきでしょうか?

1人で筋力や持久力を付けるようなタイプの運動、
自分をいじめて限界を高めようとするような運動は、
どうやら長生きというような目標に向けては、
あまり大きなメリットがないようです。
相手がいて楽しみでするようなスポーツが、
上手く機能すればより健康面では有効であるようです。

勿論運動やスポーツの魅力は、
単純に長生きのためではないですから、
これでスポーツの優劣を決めるような考えは誤りですが、
スポーツの健康への影響が、
意外にこれまで想定されていたこととは異なる、
と言う今回の知見は非常に興味深く、
今後の知見の積み重ねに期待したいと思います。

こういうデータは馬鹿にされる方もいるのですが、
実は非常に興味深く、
勿論「テニスが長生きに効く!」というような、
テレビのバラエティのような切り口の愚は避けるべきですが、
スポーツと健康との関係という、
古くて新しく意外に深い世界に繋がる、
大きな道しるべとしての値打ちを持つものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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降圧治療時の腎機能低下をどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SPRINT試験と腎機能低下.jpg
2018年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
降圧剤治療と腎機能低下との関連についての論文です。

有名なSPRINT試験のサブ解析のデータです。

慢性腎臓病は心血管疾患のリスクになり、
透析が必要な腎不全へと進行するリスクが高く、
生命予後にも大きな影響を与える病気です。

高血圧も心血管疾患の大きなリスクであり、
そのため慢性腎臓病の進行予防のためにも、
血圧を適正なレベルに保つことが、
重要であると考えられています。

ただ、それでは目標とする血圧をどのレベルにするべきか、
という点については、
未だ結論に至っていません。

KDIGOという国際的な慢性腎臓病のガイドラインでは、
尿中アルブミンが30mg/g cr未満の場合には、
降圧目標は140/90mmHg未満を、
尿中アルブミンが30mg/g cr以上の場合には、
130/80mmHg未満を、
血圧の目標値と定めています。
それとは別個にヨーロッパの降圧ガイドラインでは、
慢性腎臓病の降圧目標値は140/90未満 と定められていて、
特に尿タンパクによる区分けはありません。

2015年に発表されたSPRINT試験では、
慢性腎臓病を含む集団において、
収縮期血圧が140mmHg未満を目指す通常のコントロールと、
120mmHg未満を目指すより厳密なコントロールを比較して、
より厳密なコントロールを行った方が、
心血管疾患のリスクも総死亡のリスクも低下した、
という結果が報告され非常な注目を集めました。

その一方でより厳密な降圧において、
急性の腎障害のリスクは増加しており、
慢性腎臓病の患者さんのみの解析では、
全体と同等の傾向はあるものの有意にはならなかったので、
本当に慢性腎臓病においてもより厳密な降圧が、
患者さんの予後に良い影響を及ぼすかどうかは、
結論が出ていません。

SPRINT試験においての一番の問題は、
急性の腎障害や腎不全が、
強化コントロール群で多く発症していることで、
元々腎障害のない患者さんで、
eGFRという腎機能の指標が、
降圧により30%以上低下して、
慢性腎臓病の基準に達するリスクは、
強化コントロール群で通常コントロール群の3.49倍(2.44から5.10)
有意に増加していました。

ただ、この腎機能の低下が、
降圧に伴う腎血流量の低下によるものなのか、
それとも腎臓組織自体の障害によるものなのかは、
明確ではありません。

今回の検証においては、
SPRINT試験における162例の経過中の慢性腎障害の事例を、
年齢などをマッチさせた腎障害を発症していない162例と比較して、
登録時と試験開始後1年における、
尿中の腎障害や尿細管障害のマーカーとの関連を検証しています。

その結果強化血圧治療群において、
糸球体濾過量の数値は低下していても、
腎臓障害や尿細管障害を示すマーカーは、
むしろ改善傾向を示していて、
血圧を強化コントロールすることによる腎機能の低下は、
腎実質や尿細管の障害によるものではなく、
腎血流の低下によるものの可能性が高いことが示唆されました。

これは敢くまで治療後1年までのデータなので、
腎血流の低下が持続することで、
結果的に腎実質の障害を招くことも、
可能性としては否定出来ませんが、
降圧治療による腎機能の低下を、
クレアチニンから推算する糸球体濾過量のみで判断することは、
その本質を見誤る可能性もありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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妊娠初期のβブロッカー使用の安全性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
βブロッカーの妊娠中の安全性.jpg
2018年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
βブロッカーという降圧剤の、
妊娠中の使用の安全性についての論文です。

妊娠高血圧症は、
母体と胎児の双方に影響を与える大きな問題です。

そのために妊娠中の高血圧症に対しては、
降圧剤の使用が考慮されます。

ただ、妊娠中の薬剤の使用は、
胎児の成長に影響を与える可能性が否定出来ません。

βブロッカーというタイプの降圧剤は、
妊娠高血圧に対して、
世界的には最も広く使用されている薬です。

日本においては禁忌ではありませんが、
積極的な推奨ではありません。
リスクを考慮した上でその使用は慎重に判断するべき、
というニュアンスの添付文書の記載となっています。

βブロッカーは胎盤を通じて、
母体に移行することが分かっています。
また、胎児の発育遅延の可能性を指摘する報告もあります。

ただ、現状それほど明確に、
βブロッカーの妊娠中の使用と、
胎児の奇形などの異常との関連が証明されたことはありません。

今回のデータは北欧の5カ国とアメリカにおいて、
北欧5カ国では2310825件、
アメリカでは1358708件の妊娠事例の、
大規模な疫学データを活用したもので、
そのうち北欧で3577件、アメリカで14900件では、
妊娠高血圧症を合併しており、
北欧のデータの19.1%に当たる682件と、
アメリカのデータの11.2%に当たる1668件では、
βブロッカーを妊娠初期に使用していました。

その結果、
妊娠中のβブロッカーの使用と胎児の奇形や予後との間には、
有意な関連は認められませんでした。

今回のデータはこの分野では最も大規模なもので、
βブロッカーが妊娠中の高血圧症治療の選択肢として、
有用である可能性を示唆するものです。

こうしたデータが蓄積されることにより、
妊娠中の高血圧治療の指針が、
より整備されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ナイツ独演会「ワッショイ」でないことだけは確か [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ナイツ.jpg
ナイツの独演会に足を運びました。

ナイツにはそれほど興味はなかったのですが、
最近レセプト作業をしている時に、
you tubeで唐先生の状況劇場時代の音声と、
ナイツの漫才のまとめ音源を、
交互に聞きながらエンドレスでやっているので、
だんだんと好きになって来ました。

まとめて聞いていると、
お馴染みの「ヤホー漫才」以外にも、
色々なバリエーションがあって、
シュールなものからベタな楽屋落ち、
技巧的に練り上げられたミステリー的なものまで、
とても面白くかつ完成度が高いのです。
塙さんの奇想とボケも良いのですが、
土屋さんがとても良い仕事をしています。
歌も物まね芝居も抜群の完成度です。

それで今回は是非と思い舞台に足を運びました。

漫才の独演会というのは、
あまり行ったことはなかったのですが、
ナイツが漫才を7本披露し、
その合間にゲストがネタを披露してメリハリを作ります。
途中には土屋さんが演歌のオリジナルの新曲を歌う、
という企画があり、
最後にはお楽しみとして、
塙さんが出演した刑事ドラマのパロディ芝居が付きます。

漫才も作家さんが書いたものが3本に、
ナイツ自身のオリジナルが4本で、
内容にも幅があり堪能出来ました。
欲を言えば伏線を張り巡らしたマニアックなものも、
生で聴きたかったな、というようには思いました。

いずれにしてもとても楽しい2時間を過ごすことが出来ました。

これからも藝を磨いて頑張って欲しいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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悪い芝居「メロメロたち」(2018年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
メロメロたち.jpg
関西で活躍する劇団、悪い芝居の「メロメロたち」を、
池袋のシアターウエストで観て来ました。

この劇団は初見です。

テイストとしては、
「劇団鹿殺し」や「柿喰う客」に似ています。
バンド演奏と演劇のリミックスのようなスタイルで、
やや荒んでいて退廃的で暴力に満ちた、
架空の戦中と戦後における、
音楽に生きた少年少女の姿を綴ります。

舞台は日本が東と西に分かれて、
内戦を続けているという世界で、
東日本出身のはぐれロックバンドが、
西日本で成功を収めるのですが、
そのカリスマボーカリストが、
ファンの少女にライブ中に焼き殺され、
戦後にバンドと少女の再生が描かれます。

破れかぶれのような、
なかなか面白いストーリーだと思うのですが、
バンド演奏の轟音とお芝居のパートが、
あまり綺麗に融合しているという感じではなく、
音楽自体も多くが楽曲の途中で中断されるという構成で、
2つが上手く噛み合わず、
むしろお互いをつぶし合っているように、
個人的には感じました。

それが意図的なものであることは分かるのですが、
矢張り音楽パートと芝居の部分を、
もっと明確に分けて表現した方が、
よりストーリーを深く観客に伝えることが、
出来たのではないかと思いました。
楽曲も悪くないので、
細切れにしか表現されないのは残念に思いました。

日本での内戦という設定は、
そこに何かを込めたかったのかしら、
とは思うのですが、
あまり有効には機能しておらず、
このままなら、別に戦争という設定は、
なくても成立するし、
その方が内容もすっきりするのでは、
というように感じました。

舞台効果としては、
バンドの音以外の要素が弱いと感じました。
少女がライブ中にロックスターを焼き殺す、
というのは相当に衝撃的な場面の筈ですが、
実際には舞台が照明で真っ赤になるだけの処理なので、
これは演劇としてはあまりに詰まらない、
というように思いました。

キャストは主人公の少女を演じた、
you tuberの渡邊みなさんがとても面白く、
ラストの関西弁の独白から歌に入るところは、
とても素敵で他にない個性を感じました。

それだけに、
もっとそこに的を絞って、
盛り上がるような展開にして欲しかったな、
というようには感じました。

まあでも、
僕のような観客は、
あまり対象としていないお芝居だと思うので、
アウェイの感想としてスルーして頂ければと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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東野圭吾「人魚の眠る家」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
人魚の眠る家.jpg
東野圭吾さんはまだ地味なミステリー作家であった時代の、
「鳥人計画」や「ブルータスの心臓」、
屈折した青春ミステリーの「魔球」などが好きで、
この辺りはまだブレイクする前に、
まとめ読みをしています。

その後はしばらくご無沙汰だったのですが、
「秘密」にビックリしてとてもとても感動して、
読み終えた時の二子玉川のケンタッキーの店内の雰囲気や、
曇天の夕暮れの空の色、寒さの感触まで今もリアルに覚えています。

それからの活躍は皆さんご存じの通りで、
あまりに多作過ぎるので、
作品の出来不出来が激しくて、
オヤオヤという感じのものも多いのですが、
語り口は極めて巧みでスイスイ抵抗なく読めてしまうので、
ちょっと時間が空いて読書という時には、
安心して手が伸ばせるので読んでしまいます。

個人的には「秘密」が抜群で、
次に「手紙」が凄いと思いますが、
前述の初期作も良いと思いますし、
最近では映画化もされた(最近はほとんどされていますが)
「祈りの幕が下りる時」が、
清張さんの「砂の器」を換骨奪胎して、
ミステリーと人間ドラマの案配が巧みな快作でした。
森博嗣さんのパクリとして始まったガリレオシリーズも、
長編はどれも粒揃いで読み応えがあります。

東野さんは端的に言えば「理系脳の悪意の人」で、
相当歪んだ倫理観をお持ちだと思います。
(悪口ではありません)
初期作ではそれが生々しい感じで出ていて、
そのために読者を選ぶ感じがあったのですが、
「秘密」はその屈折した人間観の奥底にある、
秘められた無垢な情念のようなものが、
初めて露になった観じがあって、
それ以降は理知と感情との相克が、
物語の骨格を作るようになりました。
初期は単純な勧善懲悪的なストーリーは、
決して書かなかったのですが、
ベストセラー作家となって以降は、
そうした穏当な作品がむしろ多くなって行きます。
ただ、そうなっても人間や社会を見据える視線は、
独特で屈折したダークな面を保っています。

この「人魚の眠る家」は映画化に併せて読んだのですが、
まだ時間がなくて映画は観ていません。
多分見ないままに終わる可能性が高そうです。

この作品は前半はなかなか読み応えがありました。

脳死と臓器移植の問題を扱っているのですが、
東野さんの見方は例によってかなりシニカルで、
その情緒を廃した怜悧な感じが作者ならではという感じがします。
2つの異なった考え方の対立を、
論理で徹底して詰める辺りが凄いですね。
途中にひねりを入れて、
アイラ・レヴィンの「死の接吻」を思わせる、
予想の付かない展開にもワクワクします。

この辺りワンテーマを掘り下げるという点では、
「手紙」を彷彿とさせますし、
横隔膜ペーシングや筋肉への電気刺激など、
今ある技術を利用して、
現実より少し進んだ絵を描いてみせるという、
SFにはならない科学応用というのも、
「鳥人計画」辺りに近いスタンスです。

ただ、クライマックスからラストに掛けては、
子供をだしにしたお涙頂戴的な感じになり、
ラストは如何にも予定調和的なもので、
夢と子供で決着させるという安易さには、
ちょっと落胆する感じがありました。
昔のもっと悪意に満ちた東野さんであれば、
母親の行為はもっととんでもない方向に、
シフトしたのではないかと思いますし、
万人向けで現実の医療にも寛容なラストなど、
決して選択はしなかったのではないか、
というように思いました。

映画は観ていませんが、
この原作通りにするのだとすると、
おそらく尻すぼみの印象になるように推測され、
何となく足が向かないというのが正直なところです。

映画が観られましたら、また感想は書きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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朝食抜きのリスクとそのメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午後は5時で診療受付を終了させて頂きます。
受診予定の方はご注意下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
朝食抜き生活の代謝異常のメカニズム.jpg
2018年のPLOS ONE誌に掲載された、
朝食抜きの食生活による代謝異常のメカニズムを検証した、
動物実験の論文です。
名古屋大学の研究グループによる研究です。

「朝食を抜くと太る」というのは、
比較的良く聞く食生活の常識的意見です。

そのために、
1日3食をしっかり摂るという食生活が推奨されます。

しかし、そこにはどれほどの科学的根拠があるのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
朝食抜き生活のリスク.jpg
最初の論文にも引用されている知見ですが、
2013年のPublic Health Nutrition誌に掲載されたものです。
スウェーデンにおける16歳の年齢から27年という、
長期間の疫学データを活用して、
16歳時の朝食抜きの食生活が、
43歳時の肥満やメタボリックシンドロームと、
どのような関連があるのかを検証したものです。

その結果、朝食を食べないことは、
中年期のメタボリックシンドロームのリスクを、
1.68倍(95%CI: 1.01から2.78)、
中心性肥満のリスクを1.71倍(95%CI: 1.00から2.92)、
空腹時血糖のリスクを1.75倍(95%CI: 1.01から3.02)、
それぞれ相関は弱いものの有意に増加していました。

このように、朝食抜きの食生活は、
肥満やメタボの誘因になるというデータはあるのですが、
時間がかなり経ってから影響する、
というようなやや回りくどいもので、
差が付いていると言っても、
かなり微妙な差というレベルです。

最初にご紹介した論文は、
朝食抜きがメタボになるということを、
事実として前提とした上でのネズミの実験ですが、
朝活動してからすぐに食事を摂ることと比較して、
4時間後に餌を与えることで朝食抜きを再現すると、
体内時計が狂って脂質代謝が乱れ、
食事の時の体温上昇も低下していた、
という結論になっています。

ただ、データを見るとその差はかなり微妙な感じです。

要するに「朝ごはんを食べないと不健康で太る」というのは、
そうしたデータも確かにあるのですが、
それほど科学的に実証された現象とまでは言えず、
そのメカニズムもそれほど明確ではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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若い時の高血圧が生命予後に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
若年高血圧の予後への影響.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
40歳未満の高血圧の予後を検証した論文です。

2017年のアメリカの高血圧のガイドライン(ACC/AHAガイドライン)において、
高血圧の基準はそれまでの140/90mmHgから、
130/90mmHgに引き下げられました。

具体的には、
収縮期血圧が120mmHg未満で拡張期血圧が80mmHg未満が正常血圧となり、
収縮期血圧が120から129で、拡張期血圧が80から89(どちらかを満たす)は血圧上昇、
収縮期血圧が130から139で、拡張期血圧が85から89(どちらかを満たす)がステージ1高血圧、
従来の高血圧の基準である、
収縮期血圧が140以上で、拡張期血圧が90以上(どちらかを満たす)は、
ステージ2高血圧とされたのです。

ステージ1高血圧でその後10年の心血管疾患リスクが、
10%を超えると試算された場合には、
降圧剤を含む積極的な治療が適応となります。

ただ、これは原則として、
年齢が40から79歳に適応される基準です。

高血圧を治療するかどうかは、
その後の心血管疾患リスクの試算を元にして判断されるのですが、
その試算は元々40歳から79歳にしか適応されないからです。

それでは、40歳未満でステージ1の高血圧の基準を満たす時には、
どのような指標で治療の可否を判断するべきなのでしょうか?

特に信頼のおける指標はない、
というのが実状です。

何故指標が存在しないかと言えば、
40歳未満の高血圧の予後が、
はっきりと分かっていないからです。

そこで今回の研究では、
アメリカの4つの都市において、
18から30歳のアフリカ系及び白人のアメリカ人トータル5115名を登録し、
30年経過観察するという大規模な疫学データを活用して、
40歳未満の時点での血圧値が、
その後に与える影響を検証しています。

その結果、
正常血圧は53%で、
血圧上昇が9.2%、
ステージ1高血圧が24.6%、
ステージ2高血圧が13.2%でした。

中間値で18.8年の経過観察において、
正常血圧群と比較して、
心血管疾患の発症リスクは、
血圧上昇群で1.67倍(95%CI: 1.01から2.77)、
ステージ1高血圧群で1.75倍(95%CI: 1.22から2.53)、
ステージ2高血圧群で3.49倍(95%CI: 2.42から5.05)、
それぞれ有意に増加していました。

こちらをご覧下さい。
若年高血圧の予後への影響の図.jpg
同様に総死亡のリスクを血圧値群ごとに図示したものです。

この場合血圧上昇群とステージ1高血圧では、
正常血圧と比較して有意なリスクの増加はありませんでしたが、
ステージ2高血圧では明確なリスクの増加が認められました。

このように今回のデータにおいて、
40歳未満という年齢においても、
血圧が正常を上回ると、
軽度であっても心血管疾患のリスクは増加しています。
ただ、そのリスクが明確となるのは、
矢張りステージ2の高血圧からでした。

今回のデータにおいては、
血圧測定は特に資格のないスタッフによっても行われていて、
全体のほぼ半数には血圧上昇がある、
という結果になっています。
この比率はあまりに高すぎるという気もします。
掲載誌の解説記事には、
自律神経の緊張や白衣高血圧のような病態が、
血圧値に影響した可能性が指摘されています。

今回の検証において、
40歳未満の年齢層においても、
血圧上昇には一定のリスクがあることが確認されました。
ただ、これは治療の有効性を確認したものではないので、
そうした対象者にどのような対応するべきかは、
まだ明確な方針がないという点には注意が必要です。

こうした検証は今後も行われる必要があると思いますが、
現状40歳未満の年齢においても、
特にステージ2の高血圧の基準を満たす場合には、
明確な心血管疾患のリスクの増加があることを想定して、
対応を検討する必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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