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SGLT2阻害剤の有害事象(一般臨床の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤の有害事象.png
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
今最も注目されている糖尿病の飲み薬の、
有害事象や副作用について解析した論文です。

2型糖尿病の治療において、
最近注目を集めている新薬が、
SGLT2阻害剤です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させる薬です。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されます。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く異なるメカニズムを持っているのです。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないようにも思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。
こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
これまでに殆ど存在していなかったからです。

2015年のNew England…誌に発表された論文は、
ブログでもご紹介したことがあります。
エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)というSGLT2阻害剤の、
3年間の臨床データを解析したものですが、
偽薬と比較して総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下していました。

2017年の同じNew England…誌には、
今度はカナグリフロジン(商品名カナグル)という、
また別のSGLT2阻害剤の臨床データが報告されています。
ここでは心血管疾患のリスクの高い2型糖尿病の患者さんに、
これも3.5年以上の長期間の観察を行なったところ、
偽薬と比較して心血管疾患による死亡と急性心筋梗塞と脳卒中を併せたリスクを、
14%有意に低下させていました。
ただ、この結果はエンパグリフロジンと比較すると、
少し見劣りがする上に、
臨床試験において糖尿病性壊疽による下肢切断のリスクと、
骨折のリスクが、
カナグリフロジン群で高かった、
という気になるデータも報告されています。

アメリカのFDAの有害事象の登録システムにおいては、
SGLT2阻害剤の使用により、
糖尿病性ケトアシドーシスや急性腎障害、
重篤な尿路感染症、静脈血栓塞栓症、
急性膵炎などが関連する事象として報告されていて、
そうしたリスクの増加が否定出来ません。

こうした有害事象と薬剤との関連を検証するために、
特定の集団に対する臨床試験が複数行われていますが、
重篤な有害事象は頻度としては多くはないので、
通常の臨床試験のレベルでは、
その検証は困難なのが実際です。

今回の疫学データは、
国民総背番号制を取っているスウェーデンとデンマークのもので、
SGLT2阻害剤を新規に開始した17213名を、
年齢などをマッチさせたGLP1阻害剤の新規使用者17213名と比較して、
7つの重篤な有害事象のリスクを比較検証しています。

この場合の7つの有害事象というのは、
糖尿病性壊疽による下肢切断、骨折、急性膵炎、急性腎障害、
重篤な尿路感染症、糖尿病性ケトアシドーシス、
そして静脈血栓塞栓症です。

2 型糖尿病の治療薬としては、
最近心血管疾患の予後を改善する可能性があるとして、
SGLt2阻害剤とともに取り上げられることが多いのが、
インクレチン関連薬のGLP1アナログですから、
対照としてGLP1アナログを使用しているのです。

使用されているSGLT2阻害剤は、
61%がダパグリフロジン(フォシーガ)、
38%がエンパグリフロジン、
1%がカナグリフロジンとなっています。

解析の結果、
糖尿病性壊疽による下肢切断のリスクは、
SGLT2阻害剤ではGLP1アナログと比較して、
2.32倍(95%CI: 1.37から1.91)有意に増加していました。
罹患率はGLP1アナログが患者1000人当り1.1件に対して、
SGLT2阻害剤では2.7件です。
糖尿病ケトアシドーシスのリスクも、
2.14倍(95%CI: 1.01から4.52)
有意に増加していましたが、
それ以外の5つの有害事象については、
有意なリスクの差はありませんでした。

下肢切断のリスクについては、
下肢の動脈硬化や狭窄などがある場合に、
そのリスクが高くなることが想定され、
サブ解析では実際にそうした傾向は認められましたが、
そうしたリスクの高い事例を除いても、
矢張りそうした傾向は有意に認められていました。

このように今回の検証においても、
糖尿病性壊疽による下肢切断のリスクは、
SGLT2全般において高くなっていて、
今回のデータはダパグリフロジンが主体ですから、
これがトータルなSGLT2阻害剤の傾向であるとは、
まだ断定は出来ませんが、
カナグリフロジンのデータとも併せて考えると、
そのリスクが高まった、
というようには言えそうです。

現状の考え方としては、
SGLT2阻害剤の使用に際し、
下肢の閉塞性動脈硬化症が疑われる事例や、
インスリンの欠乏が高度であるような事例においては、
その使用をより慎重に考慮する必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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