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乳製品の種別毎の健康影響(アメリカの大規模疫学データとメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ミルクと健康.jpg
2018年のClinical Nutrition誌に掲載された、
乳製品の健康影響についての論文です。

乳製品の健康への影響という問題については、
これまでに相反するデータがあり、
まだ結論に至ってはいません。

乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、
リンやビタミンDも含んでいるため、
骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、
最近の疫学データにおいては、
乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、
明確に低下するというような結果は得られていません。

一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、
脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、
その摂取によりコレステロールが増加した、
というようなデータもあります。
このため心血管疾患の予防という観点からは、
現行のガイドラインにおいて、
その摂取の一定の制限が推奨されています。

チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、
生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、
認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、
というような報告もあります。

2018年のLancet誌に掲載された、
世界5大陸で13万人以上を解析した大規模疫学データでは、
乳製品の摂取量が多い群では未摂取と比較して、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、心不全を併せたリスクが、
16%(95%CI: 0.75から0.94)有意に低下していました。
総死亡のリスクも17%(95%CI: 0.72から0.96)と有意に低下し、
心血管疾患による死亡のリスクは14%(95%CI:0.58から1.01)、
有意ではないものの低下する傾向を示しました。

牛乳とヨーグルトの摂取量が多いほど、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、
心不全を併せたリスクは低下していましたが、
チーズの摂取ではそうした有意な低下は認められませんでした。

この乳製品の摂取による心血管疾患予防効果は、
主に欧米以外の発展途上国において強く認められました。
つまり、栄養状態が悪く、乳製品の摂取量が少ない地域で、
そうした傾向が強く認められていて、
こうした地域においては、
高率良くカロリーと脂質、蛋白質を摂取出来る乳製品が、
健康の維持に有用であったという可能性を示唆しています。

今回の研究はアメリカで24474名を対象とした大規模疫学データと、
これまでの636726名の臨床データのメタ解析とを行ったもので、
特に乳製品ごとの違いに注目しています。

まずアメリカ成人の疫学データにおいては、
牛乳やチーズを含む乳製品の摂取量が最も多い群では、
最も少ない群と比較して、
総死亡のリスクが2%(95%CI: 0.95から0.99)、
わずかながら有意に低下していました。
チーズのみの摂取量でみると、
これも多い群は少ない群と比較して、
総死亡のリスクが8%(95%CI: 0.87から0.97)
これも有意に低下していました。

牛乳のみの摂取は、
脳卒中などの脳血管疾患による死亡リスクが、
7%(95%CI: 0.91から0.96)有意に低下していましたが、
その一方で心血管疾患による死亡リスクは、
4%(95%CI: 1.02から1.06)こちらは有意に増加していました。

これまでのデータのメタ解析においては、
チーズやヨーグルトなどの発酵乳の摂取が多い群では、
少ない群と比較して、
総死亡のリスクが3%(95%CI: 0.96から0.99)有意に低下している一方、
牛乳の摂取では、
心血管疾患の死亡リスクが4%(95%CI: 1.01から1.05)
こちらは有意に増加していました。

このように、
どうやらヨーグルトやチーズの発酵乳については、
トータルに生命予後に良い影響を与えることが、
ほぼ確実である一方で、
牛乳を多く摂取することは、
生命予後に悪い影響を与える可能性が否定出来ないようです。

こうした結果は、
これまでの大規模疫学データとも、
ほぼ一致しているもので、
勿論その差は軽微なものなので、
気にしすぎる必要はありませんが、
乳製品の内容によってその健康影響には差がある、
という知見は、
押さえて置く必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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