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癌患者の静脈血栓塞栓症に対するアピキサバンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アピキサバンの癌に対する効果.jpg
2018年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
癌の患者さんの合併症の予防のために、
経口の抗凝固剤を使用する臨床試験の結果についての論文です。

深部静脈血栓塞栓症というのは、
足などの末梢の静脈の流れが悪くなることにより生じた血の塊(血栓)が、
肺などの血管に詰まって肺梗塞などを起こす病気です。

エコノミークラス症候群と言われることがあるように、
長時間同じ姿勢を取っていたり、
身体が不自由で寝ていることが多い生活をしていると、
発症しやすいことが知られています。

そして、それ以外に発症リスクが高いのが、癌の患者さんです。

癌の患者さんでは生活も不自由になることが多い上に、
癌自体が血栓症のリスクになります。

ただ、こうした患者さんでは出血のリスクも高いので、
予防のために血を固めにくくする薬を使用することは、
患者さんの予後を必ずしも良くするとは限りません。
そのために現行のガイドラインにおいて、
癌の患者さんにおける抗凝固療法は、
明確に推奨はされて来ませんでした。

今回の臨床研究は最近使用されている抗凝固剤のうち、
出血系の合併症の少ない薬と評価されているアピキサバン(エリキュース)を、
血栓症のリスクの高い癌患者さんに使用して、
その予防効果を検証しているものです。

抗癌剤を使用中で静脈血栓症のリスクの高い癌の患者さん、
トータル574名を患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方にはアピキサバンを1回2.5mgという低用量で1日2回使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
180日間を超える経過観察を施行しています。
(intention to treat 解析)

その結果、
偽薬群の静脈血栓症発症率が、
275名中28例の10.2%であったのに対して、
アピキサバン群では288名中12例の4.2%で、
アピキサバンの使用により静脈血栓症のリスクは、
59%(95%CI: 0.26 から0.65)有意に低下していました。
治療期間において、
重篤な出血系の合併症はアピキサバン群で6例(2.1%)発症したのに対して、
偽薬群では3例(1.1%)の発症に留まっていて、
これは有意ではないものの、
矢張り出血のリスクは2倍程度に上昇することが示唆されました。
生命予後には両群で差はありませんでした。

このように、
静脈血栓症のリスクの高い癌の患者さんにおいて、
アピキサバンの少量継続使用によって、
そのリスクが低下することはほぼ間違いがありません。
ただ、出血系の合併症が少なからず増加し、
生命予後には差はないという今回の結果を見ると、
その使用は症例を選んで検討することが妥当であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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