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アルツハイマー型認知症の進行と地域差(J-ADNI研究解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
J-ADNIの解析論文.jpg
2018年のAlzheimer's & Dementia誌に掲載された。
まだ症状が出る前の脳への異常蛋白の沈着や、
その後の認知症への進行速度を、
日米で比較した日本の研究チームによる論文です。

これはJ-ADNIと呼ばれる、
アルツハイマー型認知症の早期診断を確立するための、
疫学研究のデータを活用したものです。

アメリカで同様の目的で行われた、
ANDIという臨床研究があり、
その日本版として国の支援の元に開始されたものです。

ただ、ご記憶の方もいるかと思いますが、
データの不適切な使用やねつ造が告発される、
という騒動があり、
結果的にはねつ造はなかった、
という結論が第三者委員会から発表されたようですが、
ちょっと後味の悪い、
曰く付きという感じになった研究です。

全国38の専門施設が参加し、
登録の時点で60歳以上の、
通常の認知症の検査では異常のない154名と、
軽度認知機能障害234名、
そしてアルツハイマー型認知症と診断された149名を、
2から3年間経過観察したものです。

このうちの異常のない83名と軽度認知障害の112名、
アルツハイマー型認知症の83名については、
脳へのアミロイドβの沈着の有無を、
アミロイドPETや髄液の検査により診断したところ、
アルツハイマー型認知症群の88%に当たる73名、
軽度認知機能障害群の67%に当たる75名、
そして異常のない群でもその23%に当たる19名に、
アミロイドβの異常な脳への沈着が認められました。

つまり、
認知症の症状の出る遙かに前から、
脳への異常蛋白の沈着が始まっている、
というのは以前から指摘はされていましたが、
今回の厳密な検証において、
実際に異常のない群でも23%において、
認知症の前段階の異常が既に認められていた、
ということになります。

ただ、アメリカで行われたADNI研究においては、
異常のない群におけるアミロイドβ沈着の比率は、
44%とかなりの開きがありました。
一方で軽度認知機能障害やアルツハイマー型認知症群では、
その比率は日本とアメリカとで大きな差はありませんでした。

また観察期間中における、
異常なしから軽度認知機能障害、そこから更にアルツハイマー型認知症、
という進行のペースについては、
日本とアメリカとのデータで大きな差は認められませんでした。

つまり、認知症の進行のスピードについては、
日本とアメリカとの間で大きな差は見られないようです。

それでは、
何故異常なし群においてのみ、
アミロイドβの陽性率に大きな差があるのでしょうか?

上記文献におおいては、
日本の研究の方が対象者の年齢がやや若く、
教育レベルも高い対象者が多かったことが、
こうした結果になったのではないかと推察しています。

いずれにしても、
これまで言われてはいてもあまり実証的なデータがなかった、
まだ症状の出る前の脳への異常蛋白の沈着の比率や、
その後の進行の経過が、
数値として確認された意義は大きく、
今後の更なる検証にも期待をしたいと思います。

ただ、正直データがかなりの寄せ集めで統一が取れておらず、
症例数も充分とは言えないので、
微妙なところのある研究ではあります。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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