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トマトの中高年における降圧効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トマトの降圧効果.jpg
European Journal of Preventive Cardiology誌に、
2023年11月24日付で掲載された、
トマトの健康効果についての論文です。

トマトは世界中で最も広く食べられている野菜の1つで、
そのままでも、付け合わせやソースの材料としても、
その使用は多岐に渡っています。

トマトは組成的には大部分は水分ですが、
カルシウムや亜鉛などの微量元素や、
A、Cなどのビタミン類などを多く含み、
その赤さの主成分であるカロテノイドのリコピンは、
強い抗酸化作用を持ち、
動脈硬化の進行予防などにその効果が期待されています。
またリコピンは血圧を上げるホルモンの産生を、
抑制するような働きも報告されていて、
このことからは、
血圧の高い中高年の方などの健康管理に、
適した野菜であることが示唆されます。

それでは、毎日トマトを摂ることにより、
どの程度の血圧への影響があるのでしょうか?

今回の研究はスペインにおいて、
動脈硬化性疾患のリスクの高い、
55歳から80歳の男性と60歳から80歳の女性、
トータル7056名の一般住民を3年間観察した、
健康調査のデータを活用して、
毎日のトマトの摂取量と血圧との関連を検証しています。
登録の時点でそのうちの82.5%高血圧がありました。

観察の結果、
登録時に高血圧のない人での解析では
トマトを1日110グラムを超えて摂取
(トマト1個は通常150から200グラム)
していた人は、
1日44グラム未満と摂取の少ない人と比較して、
高血圧の発症リスクが36%(95%CI:0.51から0.89)、
有意に低下していました。

高血圧の患者さんにおいては、
トマトの摂取量と血圧値との間に、
それほどクリアな関係は認められませんでしたが、
トマトの摂取量が1日44から82グラムの人では、
44グラム未満の人と比較して、
拡張期血圧が0.65mmHg有意に低下していました。

このように、トマトだけで血圧が安心、
というほどの効果はなさそうですが、
血圧が少し高めの人は、
1日半個以上のトマトを食べることで、
一定の予防効果が期待出来、
動脈硬化の進行も予防される可能性があるとすれば、
健康法の基準は充分満たしていると言って良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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帯状疱疹不活化ワクチンの実地臨床での有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
帯状疱疹不活化ワクチンの実際の有効性.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2024年1月9日付で掲載された、
帯状疱疹予防ワクチンの有効性についての論文です。

帯状疱疹の予防ワクチンとして、
現状最も有効性が高いと考えられているのが、
遺伝子工学的手法を活用して作られた、
シングリックスという名称の不活化ワクチンです。

その効果は臨床試験のデータにおいては、
97%の高い予防効果が確認されています。

ただ、これは敢くまで臨床試験のデータであって、
実際にこのワクチンを一般の不特定多数の人に使用した場合に、
同じ有効性が確認されている、
という訳ではありません。

今回の研究は、
アメリカの医療保険の大規模なデータを活用して、
実地臨床でのシングリックスの帯状疱疹予防効果を、
検証しているものです。

トータルで200万人近い一般住民データを解析したところ、
シングリックス1回接種の累積の有効性は64%、
2回接種の累積の有効性は76%でした。
シングリックスを1回のみ接種した場合、
1年以内の有効率は70%でしたが、
2年目には45%に低下し、
3年目は48%、
3年目以降では52%と算出されました。

2回接種を施行した場合、
接種後1年以内の有効率は79%、
2年目の有効率は75%、
3年目と4年間は73%でした。

このように、
帯状疱疹予防ワクチンの有効性は、
臨床試験のデータよりは低いものの、
高いレベルで保たれていました。
その一方でワクチンを1回のみ接種すると、
その有効性は1年でかなり低下していて、
このワクチンは2回接種を必ず行うことが、
必要であることが確認されたと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脳死臓器移植時の甲状腺ホルモン使用の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前緒午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺ホルモンの心臓移植への効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年11月30日付で掲載された、
脳死ドナーへの甲状腺ホルモン剤の使用についての論文です。

脳死の患者からの心臓移植において、
臓器の生着を阻害する要因として知られているのは、
脳死患者の血行動態の不安定さや心機能障害です。
海外で脳死と診断されて移植の適応となった事例のうち、
実際に移植活用されるものは半数以下に過ぎない、
という報告もあります。

脳死により甲状腺ホルモンが低下すると、
心筋細胞のエネルギーが枯渇し、
ショックに至るという理論があります。

そのため欧米では、
脳死ドナーの前処置として甲状腺ホルモンの使用が、
経験的に行われています。
ただ、その根拠となるような、
精度の高い臨床データは乏しいのが実際です。

そこで今回の研究では、
アメリカの複数の専門施設において、
血行動態が不安定で心臓移植の候補となっている、
852例の脳死患者を、
脳死判定から24時間以内にくじ引きで2つの群に分けると、
一方は静注の甲状腺ホルモン製剤レボチロキシンを、
時間30μgで12時間以上継続し、
もう一方は生理食塩水を同様に投与して、
心臓移植の成功率を比較検証しています。

その結果、甲状腺ホルモンを使用してもしなくても、
その後の心臓移植の生着率には、
有意な差は認められませんでした。

脳死心臓移植における移植ドナーへの甲状腺ホルモンの使用は、
現時点で科学的根拠は明確なものではないと、
そう考えておいた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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集束超音波による血液脳関門開放技術の認知症治療応用の可能性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
超音波による血液脳関門無効化.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2024年1月4日付で掲載された、
血液脳関門を開放するという特殊な治療の、
有効性を検証した論文です。

血液脳関門というのは、
特定の成分以外は脳の血管から脳の神経細胞の中に、
移行することがないような仕組みのことで、
この仕組みがあるために、
脳に有害な物質が侵入することを防いでいるのですが、
その一方で脳に作用することが必要な薬剤が開発されても、
有効に作用させることが難しい、
という問題があります。

通常の薬剤は飲み薬でも注射薬でも、
血液濃度を上げることによって、
その作用を表すものだからです。

たとえば、薬を注射して、
血液濃度の高いタイミングのみ、
血液脳関門の働きを落とすことが出来れば、
効果的に薬剤を脳に送り込むことが出来る理屈です。

しかし、そんな都合の良い方法があるのでしょうか?

そこで考案されたのが、
超音波が組織に泡を発生させる働きを利用して、
MRI検査のガイドの元、
脳の特定の部位に集束させた超音波を照射。
微小な泡の効果で物理的に血液脳関門を広げる、
という方法です。

今回の実験的な研究では、
アルツハイマー病の治療薬であるアデュカヌマブを、
3名のアルツハイマー病の患者に対して、
集束超音波による血液脳関門開放術を活用して、
注射のタイミングで超音波を脳の片側に照射し、
脳への薬剤の移行とその効果を比較検証しています。

アデュカヌマブはアミロイドβの抗体製剤で、
脳へ移行することにより、
異常なアミロイドβ蛋白に結合して、
それを排除する働きを持っているのです。

6か月の治療を継続したところ、
アミロイドβの沈着量の指標であるSUVRは、
超音波照射部位で32%低下し、
照射していない部位とは明らかな差を示していました。

これはまだ実験的な結果に過ぎませんが、
今後この手法を活用することにより、
認知症治療薬の効果を、
これまでより格段に高めることが可能となるかも知れません。

ただ、一時的にせよ、
脳が多くの有害な物質に対して、
無防備になるというリスクもあり、
今後その安全性も含めて、
検証の結果を慎重に見極めたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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三谷幸喜「オデッサ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
オデッサ.jpg
三谷幸喜さんの新作「オデッサ」が、
今ホリプロステージとしての舞台で上演されています。

その東京芸術劇場での公演に足を運びました。

これは1時間45分ほどのキャストは3人のみの1幕劇です。

舞台は1999年のアメリカの田舎町オデッサに設定されていて、
宮澤エマさんが日系アメリカ人の警察官を、
迫田孝也さんが現地の老人を殺した容疑で、
重要参考人として聴取を受ける、
英語の全く話せない日本人男性を演じ、
主役と言って良い柿澤勇人さんは、
日本人の通訳がいないオデッサで、
地元で働いていた、
日本語と英語を話せる青年を演じます。

宮澤さんの依頼で、
柿澤さんは迫田さんの聴取の通訳をするのですが、
良かれと思った柿澤さんの暴走をきっかけとして、
事件は意外な方向に転がり始めます。

三谷さんとしては久しぶりの新作で、
かなり力を入れて書かれていることが分かります。

三谷さんの演劇好きが伝わって来る感じで、
ミステリーや刑事ドラマのニュアンスもありますし、
結構つかさんの「熱海殺人事件」を意識している感じもあり、
また言語とアイデンティティの関係を追求しているのは、
明らかに井上ひさしさんの名作「雨」が意識されていますよね。

何より全ての観客に面白く観て欲しい、
1人も置いてけぼりにはしたくない、
という強いサービス精神が感じられ、
小劇場を見慣れている観客には、
ややくどいなあ、そこまで丁寧にゆっくりやらなくても、
と思えるような部分もあります。

でも、それが三谷幸喜さんのお芝居ですよね。

これは割とオーソドックスな推理劇なんですね。

なので、鑑賞予定の方は予備知識なく鑑賞されるのが吉です。

以下ネタバレはありませんが、
何となく匂わせるような記述はありますので、
これ以降は是非鑑賞予定の方は鑑賞後にお読み下さい。

よろしいでしょうか?

それでは先に進みます。

三谷さんは古畑任三郎という、
推理ドラマの傑作シリーズを書いていますが、
演劇作品で本格的な推理劇というのは、
それほど多くありません。
多分オーソドックスなものは殆どないですよね。

今回はかなり純粋な推理劇に近いものになっていて、
犯人を示す伏線の隠し方や、
最後に犯人に罠を掛けるところなど、
古畑任三郎(更には元ネタの刑事コロンボ)を、
彷彿とさせる部分があります。

推理劇としては、あまりにオーソドックスなので、
ミステリー好きの方なら、
大半はこうした流れになるのだろうな、
と先読み出来てしまうようなところがありますし、
実際に物語はその通りに進んで行きます。

その点はちょっと物足りない部分ではあります。

ただ、この作品は単純な推理劇ではなくて、
言語とコミュニケーションの問題がテーマとなっていて、
それが複合的に提示されるという面白みがあります。

三谷さんらしくその辺りの仕掛けは非常に精妙で、
日本語も標準語と鹿児島の方言が対比されますし、
英語しか理解できない人物と、
日本語しか理解できない人物、
両方とも表層的な理解はできるけれど、
真に理解できているかは微妙という人物が、
同じ場所で対話を行うとどうなるのか、
という思考実験的な知的興奮があります。

それを活かすための演出も、
いつもながらとても念が入っていて、
英語を話す人物が2人だけの時は、
翻訳劇のように日本語で台詞が話され、
英語と日本語の飛び交う場面では、
両方の言語が入り混じりながら、
背景に大きく字幕が登場し、
その字幕も色々と演技をして場面を盛り上げます。

ただ、今回それが大成功であったのかと言うと、
ちょっと微妙な感じではありました。

まず、設定に無理があると思うのですね。

最初の設定として迫田さんの役柄は、
英語を全く解さないのに、
1人でアメリカを旅している、
ということになっているんですね。

1999年にそれはちょっとあり得ないでしょ。

少しは分かるけれど複雑なニュアンスは分からない、
ということなら納得なのですが、
一言も分からないというのは、
幾ら何でも無理矢理な設定と感じました。

鹿児島の方言もそれほど標準語と差がなく聞こえるので、
これもあまり有効に機能している、
という感じがありません。

たとえば、架空の東欧かアジアなどの国を舞台にして、
全く意味不明の言語と標準語、そして津軽方言が登場する、
というような設定にした方が、
作品の意図はより明確になったような気がします。
英語と日本人との関係が重要ということであるのなら、
もっとリアルな設定にして、
片言で理解した気になっていて、
実は全く別の内容だった、というような展開であった方が、
より説得力があったのではないでしょうか?

勿論三谷さんほどの人ですから、
そんなことは百も承知の上で、
色々試行錯誤はした上で、
こうした作品になったのだと思うのですが、
それが何故なのかは、
是非聞いてみたいという気がします。

それから、シンプルな生演奏が伴奏になっていて、
効果音のように機能しています。
まあ井上ひさしさんのお芝居から導入された、
いつもの手口ですが、
今回に関しては、
あまり有効でなかったように思うのです。

大声でキャストがオチの台詞を言って、
客席の笑いを待つ間があって、
それから音効が合いの手みたいに鳴る、
というようなリズムで進むんですね。

何と言うのかな、
吉本新喜劇みたいな間合いなんですね。
そこで起こる笑いが作品の主題であるのなら、
それで良いのだと思いますが、
この作品は基本的には推理劇で、
笑いの要素はアクセント程度のものなのに、
そこでいちいち笑いを待って、
チャンチャンみたいな音効を入れるのは、
全体のテンポを悪くするだけで、
あまり良い演出ではないように思いました。

今回の芝居は、もっとシャープに、
ストイックに展開させるべきではなかったのでしょうか?

キャストは3人とも勿論好演でしたが、
特に迫田さんの七変化は素晴らしかったと思います。
正直中段はかなりぼんやりしてしまいましたが、
後半の迫田さんの芝居で一気に覚醒させられました。

そんな訳で期待が大きかっただけに、
やや落胆を感じた今回のお芝居でしたが、
ホリプロのことですから再演もあると思うので、
よりブラッシュアップされて、
この作品が変貌する姿に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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MRI検査への金属製品持ち込みの危険について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
MRI危険調査.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年21日付で掲載された、
MRI検査時に磁性体を持ち込むリスクについての論文です。

一応きちんと論文の体裁は整っているのですが、
この雑誌の恒例のクリスマス特集の論文で、
通常は決して掲載されることはない、
ジョークに近い話題を取り上げています。
その点はご理解の上お読み下さい。

MRI検査は磁気を利用した画像検査で、
そのため、検査器具周囲には強力な磁場が発生します。

従って磁石に吸い寄せられる性質を持つ物品を、
その加速度が生じる地点に置くと、
機器の中央部に向かって、
その物体は加速度を持って飛んで行きます。

それが他の物に当たれば、
損傷する危険がありますし、
体に激突すれば怪我や骨折などの原因ともなります。

確か医療関係者が書いたミステリーで、
それを利用して凶器を飛ばしてMRI検査場で殺害する、
というようなトリックがありましたね。

それでは、実際にどの程度の威力があるのでしょうか?

それを個別に真面目に検証したのが今回の論文です。

こちらをご覧下さい。
MRI危険調査画像.jpg
これは今回の実験の仕組みを示したものです。

MRI検査装置の中心に向かって透明チューブを設置して、
そこに磁性体を投げ込むと、
それが装置の中心に向かって飛んで行きます。
中央部には人体に模したゲルが置かれていて、
そこにどれだけめり込んだかで、
人体への危険を計測するのです。

当該医学誌のサイトを見ると、
実際の実験画像も見ることが出来ます。

その結果人体を模したゲルを穴を開けたのは、
ナイフ、スプーン、フォーク、硬貨で、
特にナイフは表面から5.5センチめり込んでいました。
勿論確実な殺傷能力はありませんが、
ミステリーのトリックとしては、
「あり」だと思える結果です。
また小さなビスケット缶は、
骨折の可能性のある衝撃を与えることが確認されました。

このように磁性体のMRI検査の持ち込みにはリスクがあり、
そのために検査前には慎重にチェックが行われているのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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聴力低下の健康影響と補聴器の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
健診などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
聴力低下と補聴器の有効性.jpg
The Lancet Healthy Longevity誌に、
2024年1月付で掲載された、
補聴器の健康効果についての論文です。

聴力の低下は非常に一般的な頻度の高い健康障害です。

聴神経腫瘍など、
特殊な病気に伴うものもありますが、
その多くは加齢に伴う難聴や、
騒音などに伴う難聴です。

テレビの音を大きくしないと聞き取れなくなったり、
会話を理解し難くなったりすることは、
多くの方が年齢に伴って経験することです。

その意味では、
特に加齢に伴う聴力の低下は、
自然な加齢現象として、
あまり病気のようには捉えない方も多いと思います。

しかし、最近の報告によれば、
一定レベル以上の聴力の低下は、
認知症やうつ病などのリスクを増加させ、
総死亡のリスクも増加させると報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34967895/

この意味では、聴力低下はそれ自体が病気であって、
治療が必要だということになります。

一般的な聴力低下の治療補聴器の使用です。
適切に補聴器を使用することにより、
多くの聴力低下の患者さんにおいて、
日常生活における不都合の多くを、
軽減することが可能です。

ただ、実際には特に加齢による聴力低下の患者さんでは、
機器を装着する煩わしさもあって、
その使用継続の比率は、
それほど高くはないと報告されています。

ここで問題なのは、
補聴器を継続的に使用することにより、
聴力低下の患者さんにおける予後の悪化、
特に死亡リスクの増加が改善されるのかどうか、
という点です。

実はそれを示す信頼のおけるデータは、
あまりないのが現実です。

そこで今回の研究では、
アメリカで一般住民9885名を対象とした、
継続的健康調査のデータを活用することで、
聴力低下に対する補聴器の使用が、
生命予後に与える影響を検証しています。

ここでの聴力低下は、
会話レベルの周波数で25デシベル以上の低下と定義されています。

対象年齢は20歳以上の男女で、
年齢の平均値は48.6歳です。
中間値で10.4年の観察期間中に、
そのうちの14.7%の罹患率で聴力低下が発症、
トータルな死亡率は13.2%でした。

聴力低下と診断された人のうち、
継続的に補聴器を使用していたのは12.7%に過ぎず、
聴力低下のない人と比較した、
聴力低下の人の観察期間中の総死亡のリスクは、
他の関連する因子を補正した結果として、
40%(95%CI:1.21から1.62)有意に増加していました。

ここで継続的に補聴器を使用していた人は、
聴力低下があっても使用していなかった人と比較して、
他の因子を補正した死亡リスクが、
24%(95%CI:0.60から0.95)有意に低下していました。
その一方で補聴器の継続的でない使用は、
不使用の場合と有意な違いがありませんでした。

このように継続的な補聴器の使用は、
その後の健康寿命の維持に有効な可能性があり、
今後こうしたデータを積み重ねることにより、
補聴器の適切な使用の有効性が、
確認されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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サイアザイド系利尿薬の低ナトリウム血症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サイアザイド系利尿薬の低ナトリウム血症.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2023年12月19日付で掲載された、
降圧利尿剤の有害事象についての論文です。

サイアザイド系利尿薬は最も歴史があり、
かつその有効性が実証されている血圧降下剤です。

その主作用は過剰なナトリウム(塩分)を排泄することで、
塩分過多の食生活を送っている現代人にとっては、
その調整をする意味でも、
その使用は理に適っています。

過剰な使用は脱水症を来すので、
通常その血圧降下剤としての使用は少量で行います。

そのため降圧作用はマイルドで、
単剤では充分な降圧が得られないことが多く、
そうしたケースでは他のメカニズムの降圧剤と、
併用することがしばしば行われています。

特に好まれているのが、
ARBという血圧を上昇させるホルモン系を抑制するタイプの薬と、
サイアザイド系利尿剤との併用で、
これは相乗効果のあることが確認されているため、
合剤も複数発売されています。

サイアザイド系利尿薬は、
少量で使用する場合には基本的に安全な薬ですが、
幾つかの有害事象も報告されています。

そのうちの1つが低ナトリウム血症です。

これは元々血液のナトリウムを排泄する作用のある薬ですから、
当然血液のナトリウム濃度の低下するリスクがあるのですが、
その影響は通常量の使用では、
かなり稀なものと考えられています。

ただ、特に高齢者に使用する場合や、
ARBとの併用を行う場合には、
その影響が大きくなる可能性も否定は出来ません。

それでは実地の臨床において、
サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症は、
どのくらいの頻度で生じているのでしょうか?

今回の研究は国民総背番号制を取っているデンマークにおいて、
サイアザイド系利尿薬を新規に開始した高血圧の患者さんを、
それを含まない治療を施行している高血圧の患者さんと比較して、
開始後2年に発症した低ナトリウム血症の頻度を、
比較検証しているものです。

対象は40歳以上の高血圧症患者で、
サイアザイド系利尿薬(bendroflumethiazide)を使用した37786名を、
カルシウム拮抗薬を使用した44963名と比較。
またARBとサイアザイド系利尿薬の合剤を使用している11943名を、
ARB単剤で治療している85784名と比較しています。
低ナトリウム血症は血液のナトリウム濃度が、
130mmol/L未満として定義しています。

その結果、
2年間の集計として、
サイアザイド系利尿薬使用群の3.83%、
ARBとサイアザイド系利尿剤合剤使用群の3.51%で、
低ナトリウム血症が発症していました。
これは、これまでの臨床試験などによる報告より、
頻度の高い結果です。

カルシウム拮抗薬使用群と比較した場合、
サイアザイド系利尿剤使用群の低ナトリウム血症のリスクは、
1.35%(95%CI:1.04から1.66)多くなり、
ARB単剤と比較した場合の、
サイアザイド系利尿剤との合剤の低ナトリウム血症のリスクも、
1.38%(95%CI:1.01から1.75)有意に高くなっていました。

また、このサイアザイド系利尿剤による低ナトリウム血症は、
高齢であるほど、併発する病気が多いほどリスクは増加していました。

特に開始後1か月以内の発症リスクが高く、
サイアザイド系利尿薬単独使用群で3.56倍(95%CI:2.76から4.60)、
ARB併用群で4.25倍(95%CI:3.23から5.59)、
それぞれカルシウム拮抗薬使用群、ARB単独使用群と比較して、
そのリスク増加が認められました。

このように従来指摘されるより、
低ナトリウム血症のリスクは実際には高く、
サイアザイド系利尿薬の使用開始特に1か月においては、
倦怠感や転倒、意識レベル低下などの症状に留意し、
定期的な血液ナトリウム濃度のチェックを施行することが、
重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
トークトゥーミー.jpg
これは年末に公開されたホラーで、
アメリカで大ヒットしたオーストラリア映画です。

謎の手の作り物を握って、
特定の言葉を発すると、
死者が一時的に憑依するという設定があって、
それが麻薬のように悪い学生の遊びで使われている、
というのが如何にも現代的な趣向です。

ある取り決めを守っていれば、
それほどの危険はないのですが、
こうしたお話の常で、
取り決めは破られてしまうので、
大変な事態が出来してしまいます。

格別新しいという感じはないのですが、
主役の女子高生が、
関わる人を不幸に巻き込む、
かなり強烈な「困ったちゃん」に設定されていて、
皆放っておけばいいのに構ってしまうので、
それでどんどん状況が悪化する、
という段取りがなかなか巧みに出来ていて、
オープニングは分かり難くてちょっとイライラしますが、
後は楽しく鑑賞することが出来ました。
95分という上映時間も手頃で、
それでいて短過ぎるという感じはありません。

少しどぎつい描写もあるので、
万人向けではありませんが、
こうしたジャンル物のお好きな方には、
観て損はない1本だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「サンクスギビング」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
サンクスギビング.jpg
イーライ・ロス監督による新作ホラー映画が、
2023年の年末から公開されています。

これは仮面を付けた殺人鬼によって、
アメリカの田舎町の住民が次々と殺されるという、
1980年代くらいに大流行した、
低予算ホラー映画をリスペクトしつつ、
現代に合わせてリニューアルした作品で、
これといった目新しさはないのですが、
平均点以上の仕上がりにはなっていて、
ホラー映画のファンには、
まずは楽しめる作品になっていたと思います。

こうした殺人鬼物は、
1978年の「ハロウィン」という作品が、
今思うとパイオニアで、
マスクを被った殺人鬼の正体が、
その素顔を含めて最後まで分からない、
ある意味人間かどうかすら分からない、
という点が、公開当時観た時には、
拍子抜けに感じてガッカリした覚えがあるのですが、
今思うとかなり画期的であったのです。
脅かしの技巧という点では、
続編の「ハロウィン2」が、
非常に完成度が高く、
今観ても見ごたえがあります。

1980年には有名な「13日の金曜日」が公開され、
その後シリーズ化されますが、
最初は仮面の殺人鬼は登場せず、
そのパターンが確立するのは3作目以降です。
この作品も仮面の殺人鬼の正体は基本的には不明なのですが、
実は影響された別の人物が犯人、
というような犯人捜しを交えた作品も含まれています。

今回の作品と最も似ている過去作としては、
1980年に「プロムナイト」というカナダ映画があって、
ちょっと青春映画的な切なさを持った作品でした。
過去の惨劇が現代の殺人のきっかけとなっている、という点、
仮面の殺人鬼の正体が最後には明かされると言う点、
ある関係性を持つ若者の集団が、
次々と復讐のために殺されると言う点など、
多くの共通点のある作品です。

今回の映画は殺人シーンのバリエーションに工夫があり、
犯人の設定は、
途中の段取りではかなり無理のある感じもするのですが、
もう続編の製作も決まったようですし、
ひょっとすると続編で、
その辺りが伏線として回収される可能性もあります。

悪趣味であることは間違いがないので、
好みは分かれると思いますが、
こうしたジャンル物のお好きな方には、
ホラーへの愛と情熱を感じられる良作として、
お薦めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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