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0期乳癌の長期予後(検診以外で診断された事例の解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
0期乳がんの長期予後.jpg
British Medical Journal誌に2024年1月24日付で掲載された、
非浸潤性乳管癌(0期乳癌)の長期予後についての論文です。

非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ)というのは、
乳癌の細胞が乳管の中に留まっていて、
その周囲には広がっていない(浸潤していない)状態のことで、
臨床的な分類では0期という最も初期の乳癌です。

この非浸潤性乳管癌は、
以前は発見されることが少なかったのですが、
乳癌検診の導入後、
微細石灰化などの所見をきっかけとして、
診断される機会が増え、
その対応が問題となっています。

現状非浸潤性乳管癌に対しては、
手術治療が行われることが一般的です。
それは乳癌検診で見つかった非浸潤性乳管癌の長期予後を検証すると、
浸潤性乳癌に進行するリスクが、
一般住民の2倍以上に増加していた、
というデータが存在しているからです。
https://www.bmj.com/content/384/bmj-2023-075498

ただ、実際には乳癌検診以外で、
非浸潤性乳管癌が診断されるケースもしばしばあり、
上記のデータにはそうした事例が含まれていない、
という欠点がありました。

そこで今回の研究ではイギリスにおいて、
国レベルの癌登録のデータを活用し、
1990年から2018年の間に乳癌検診以外で診断された、
非浸潤性乳管癌の事例、
トータル27549例の予後を検証しています。

事例によっては20年を超える、
2018年末までの観察期間において、
検診以外で診断された非浸潤性乳管癌が、
その後に浸潤性乳癌に進行するリスクは、
一般住民の浸潤性乳管癌発症リスクと比較して、
4.21倍(95%CI:4.07から4.35)有意に増加していました。
また累積の乳癌による死亡のリスクも、
一般住民の平均的死亡リスクと比較して、
3.83倍(95%CI:3.59から4.09)有意に増加していました。
この非浸潤性乳管癌の浸潤性乳癌と乳癌による死亡リスクの増加は、
少なくとも診断後25年に渡り認められました。

乳房の部分切除は放射線治療の併用の有無に関わらず、
乳房の全切除と比較すると、
その後の浸潤性乳癌のリスクを高めていました。
ただ、累積の死亡リスクに関して比較すると、
両者の治療法の有意な差は認められませんでした。

このように今回の大規模な検証において、
非浸潤性乳管癌と検診以外で診断された事例は、
検診で診断された事例と比較しても、
その後の浸潤性乳癌のリスクや、
乳癌による死亡リスクが高くなっていました。

その長期予後を考えると、
診断の時点では最も早期の癌であっても、
積極的に治療することが重要と考えられます。
その治療の選択肢としては、
現時点では乳房全切除の方が、
浸潤性乳癌の予防のためには有効性が高そうですが、
より保存的な治療と比較して、
長期の生命予後には差がない点から考えると、
保存的治療も検討には値すると思われます。
今後こうしたデータにより、
その治療ガイドラインが、
よりアップデートされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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