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サイアザイド系利尿薬の低ナトリウム血症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サイアザイド系利尿薬の低ナトリウム血症.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2023年12月19日付で掲載された、
降圧利尿剤の有害事象についての論文です。

サイアザイド系利尿薬は最も歴史があり、
かつその有効性が実証されている血圧降下剤です。

その主作用は過剰なナトリウム(塩分)を排泄することで、
塩分過多の食生活を送っている現代人にとっては、
その調整をする意味でも、
その使用は理に適っています。

過剰な使用は脱水症を来すので、
通常その血圧降下剤としての使用は少量で行います。

そのため降圧作用はマイルドで、
単剤では充分な降圧が得られないことが多く、
そうしたケースでは他のメカニズムの降圧剤と、
併用することがしばしば行われています。

特に好まれているのが、
ARBという血圧を上昇させるホルモン系を抑制するタイプの薬と、
サイアザイド系利尿剤との併用で、
これは相乗効果のあることが確認されているため、
合剤も複数発売されています。

サイアザイド系利尿薬は、
少量で使用する場合には基本的に安全な薬ですが、
幾つかの有害事象も報告されています。

そのうちの1つが低ナトリウム血症です。

これは元々血液のナトリウムを排泄する作用のある薬ですから、
当然血液のナトリウム濃度の低下するリスクがあるのですが、
その影響は通常量の使用では、
かなり稀なものと考えられています。

ただ、特に高齢者に使用する場合や、
ARBとの併用を行う場合には、
その影響が大きくなる可能性も否定は出来ません。

それでは実地の臨床において、
サイアザイド系利尿薬による低ナトリウム血症は、
どのくらいの頻度で生じているのでしょうか?

今回の研究は国民総背番号制を取っているデンマークにおいて、
サイアザイド系利尿薬を新規に開始した高血圧の患者さんを、
それを含まない治療を施行している高血圧の患者さんと比較して、
開始後2年に発症した低ナトリウム血症の頻度を、
比較検証しているものです。

対象は40歳以上の高血圧症患者で、
サイアザイド系利尿薬(bendroflumethiazide)を使用した37786名を、
カルシウム拮抗薬を使用した44963名と比較。
またARBとサイアザイド系利尿薬の合剤を使用している11943名を、
ARB単剤で治療している85784名と比較しています。
低ナトリウム血症は血液のナトリウム濃度が、
130mmol/L未満として定義しています。

その結果、
2年間の集計として、
サイアザイド系利尿薬使用群の3.83%、
ARBとサイアザイド系利尿剤合剤使用群の3.51%で、
低ナトリウム血症が発症していました。
これは、これまでの臨床試験などによる報告より、
頻度の高い結果です。

カルシウム拮抗薬使用群と比較した場合、
サイアザイド系利尿剤使用群の低ナトリウム血症のリスクは、
1.35%(95%CI:1.04から1.66)多くなり、
ARB単剤と比較した場合の、
サイアザイド系利尿剤との合剤の低ナトリウム血症のリスクも、
1.38%(95%CI:1.01から1.75)有意に高くなっていました。

また、このサイアザイド系利尿剤による低ナトリウム血症は、
高齢であるほど、併発する病気が多いほどリスクは増加していました。

特に開始後1か月以内の発症リスクが高く、
サイアザイド系利尿薬単独使用群で3.56倍(95%CI:2.76から4.60)、
ARB併用群で4.25倍(95%CI:3.23から5.59)、
それぞれカルシウム拮抗薬使用群、ARB単独使用群と比較して、
そのリスク増加が認められました。

このように従来指摘されるより、
低ナトリウム血症のリスクは実際には高く、
サイアザイド系利尿薬の使用開始特に1か月においては、
倦怠感や転倒、意識レベル低下などの症状に留意し、
定期的な血液ナトリウム濃度のチェックを施行することが、
重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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