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GLP-1アナログの膵臓癌リスク(2023年イスラエルの疫学データ) [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
GLP1アナログの膵癌リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年1月4日付で掲載された、
糖尿病治療薬の膵癌リスクについての論文です。

GLP-1アナログは、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。

もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。

GLP-1アナログが2型糖尿病の治療薬として、
有用な薬であることは間違いがありませんが、
その一方で吐き気などの消化器系の有害事象は多く、
胆石症や膵炎、膵癌などのリスクを増加させることを、
示唆するようなデータが報告されています。

このうち最も問題となるのは膵癌ですが、
これについては初期の臨床データや症例報告において、
そのリスク増加を指摘する報告があったものの、
その後のより大規模な疫学データやメタ解析においては、
概ねそのリスク増加は否定されています。

ただ、これまでの臨床データは規模の小さなものが多く、
その観察期間も5年以下と癌のリスクを云々するには短期間の者が多いので、
より大規模で長期の実臨床のデータが求められていました。

今回の研究はイスラエルにおいて、
医療保険の臨床データを解析したもので、
2009年から2017年の期間において、
21歳から89歳の年齢で2型糖尿病に罹患して治療を受けた、
トータル543595名を対象として、
7年を超える長期の経過観察を行っています。
全体の6.1%に当たる33377名がGLP-1アナログを使用し、
19.7%に当たる106849名がインスリンを使用していました。
観察期間において1665名が膵癌と診断され、
他の膵癌のリスクを補正した結果として、
インスリン治療と比較してGLP-1アナログの使用は、
有意な膵癌リスクの増加を認めませんでした。

データはより長期の観察が必要と考えられますが、
現状7年程度の観察期間において、
GLP-1アナログの使用は、
2型糖尿病の患者さんにおける膵癌リスクを、
増加させるという根拠は乏しいと、
そう考えて良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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