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北村想「シラの恋文」(寺十吾演出 シスカンパニー公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
シラの恋文.jpg北村想さんの新作が、
今日本青年館ホールで上演されています、

北村想さんと演出の寺十吾さんのコラボは、
2013年の「グッドバイ」から中断はありながらも続いていて、
今回が多分8回目になるかと思います。
僕は初回の「グットバイ」にとても感銘を受けて、
そのうちの8作品は観ています。
昨年の「ケンジトシ」はチケットが取れませんでした。
当初はシアタートラムでの公演でしたが、
途中から人気者を主役に配するようになり、
次第に箱(劇場)が大きくなっています。

当初は古典文学作品を、
北村さんの視点で読み直す、
という感じのシリーズだったのですが、
途中からはもうあまり原作とは関連がなくなり、
昔の北村さんの劇団時代の作品に、
近い雰囲気のものになってきています。

今回の作品は主役に草彅剛さんを迎えて、
一応「シラノ・ド・ベルジュラック」が下敷きになっていますが、
舞台は近未来のサナトリウムに設定され、
剣劇もあるし落語もあるし、
胡散臭い活劇から時空を超えたラブロマンスと、
北村さんのかなり集大成的な作品となっています。
それでいてモチーフとなった「シラノ」の、
恋文代筆という趣向はそのまま残し、
もう1つのモチーフの「魔の山」の、
死と生とを知性で嚙み砕くような感じも、
しっかり残している、
という辺りに北村さんの円熟味を感じます。

このシリーズの準レギュラーと言えるのは、
段田安則さんで、
段田さんが出演する時の方が出来が良いのですが、
今回はサナトリウムの院長として、
実際にはシラノの役を振られているので、
そこは北村さんの段田さんへのご褒美であったように、
個人的には感じました。

寺十吾(じつなしさとる)さんの演出は、
いつも素晴らしくて、
僕はこの人が演出というだけで、
その芝居は観る価値があると思うくらい信頼しているのですが、
今回も素晴らしい腕の冴えを見せていて、
小説風の原作の長いト書きは全てナレーションにし、
ホリゾントをキャンバスに見立てて、
色々な風景の移ろいを繊細かつユーモラスに映し出しています。
それでいて、
主人公2人が出逢った瞬間に運命の人と感じる場面は、
音効とサスライトを徹底してアングラ的に仰々しく使用して、
超自然的な瞬間を盛り上げているのがさすがでした。

総じて映像には今の技術を使用しながら、
それをアナログな雰囲気に落とし込んで、
アングラ演出の手作り感の魅力も、
十全に活かしている点が素晴らしく、
最後のアングラ演出家と言っても、
過言ではないように思います。

キャストも非常に贅沢な布陣で、
草彅さんの自然体の魅力は、
ちょっと他に真似の出来ないものですし、
段田安則さん、鈴木浩介さん、田山涼成さんと手練れが周りを固めます。
特筆するべきは落語家を演じた宮下雄也さんで、
その外連味たっぷりの芝居は、
作品に話芸としての筋を通した感じがありました。

内容もさすが北村さんという感じで、
今回は北村想ワールド全開なのですね。
非常にふわふわした世界なので、
こうしたものだと思って観ないと、
しんどくなってしまうかも知れません。
正直僕自身も北村さんの作品は、
1980年代初頭から接してはいたのですが、
当時は「寿歌」にしても「碧い彗星の一夜」にしても、
あまり良いと思えませんでした。
当時はもっと力を入れまくったお芝居が、
時代の主流だったからなんですね。

開眼したのは「グットバイ」で、
それ以降は北村想さんの作品の見方が変わりました。
その世界は唯一無二で、
他の誰とも似ていないのです。
ただ、その作品の出来にはかなりムラが大きくて、
極限まで詰まらないような作品も結構あるのです。

今回は非常に素晴らしかったのですが、
一点後半になると、
中華大国(作品自体にある表現です)と北朝鮮らしき国が、
日本に侵略して来るという展開になっていて、
そうした設定というのは、
余程の覚悟がないとしてはいけないように、
個人的には考えているので、
ちょっと頭を抱えてしまいました。

北村さんにそこまでの覚悟があったとは思えませんし、
こうした台詞を発する、
役者さんにも気の毒だと思います。
結果としてこの展開は「魔の山」をやろうとした、
というだけのことだと思うので、
近未来の設定などにはせず、
大正時代や昭和初期のサナトリウムに舞台を設定すれば、
それで済んだことではないでしょうか?

そんな訳でこれさえなければ、
北村想さんの集大成的傑作と、
素直に言えた作品であったのですが、
最後は少しモヤモヤとしてしまいました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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