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聴力低下の健康影響と補聴器の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
健診などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
聴力低下と補聴器の有効性.jpg
The Lancet Healthy Longevity誌に、
2024年1月付で掲載された、
補聴器の健康効果についての論文です。

聴力の低下は非常に一般的な頻度の高い健康障害です。

聴神経腫瘍など、
特殊な病気に伴うものもありますが、
その多くは加齢に伴う難聴や、
騒音などに伴う難聴です。

テレビの音を大きくしないと聞き取れなくなったり、
会話を理解し難くなったりすることは、
多くの方が年齢に伴って経験することです。

その意味では、
特に加齢に伴う聴力の低下は、
自然な加齢現象として、
あまり病気のようには捉えない方も多いと思います。

しかし、最近の報告によれば、
一定レベル以上の聴力の低下は、
認知症やうつ病などのリスクを増加させ、
総死亡のリスクも増加させると報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34967895/

この意味では、聴力低下はそれ自体が病気であって、
治療が必要だということになります。

一般的な聴力低下の治療補聴器の使用です。
適切に補聴器を使用することにより、
多くの聴力低下の患者さんにおいて、
日常生活における不都合の多くを、
軽減することが可能です。

ただ、実際には特に加齢による聴力低下の患者さんでは、
機器を装着する煩わしさもあって、
その使用継続の比率は、
それほど高くはないと報告されています。

ここで問題なのは、
補聴器を継続的に使用することにより、
聴力低下の患者さんにおける予後の悪化、
特に死亡リスクの増加が改善されるのかどうか、
という点です。

実はそれを示す信頼のおけるデータは、
あまりないのが現実です。

そこで今回の研究では、
アメリカで一般住民9885名を対象とした、
継続的健康調査のデータを活用することで、
聴力低下に対する補聴器の使用が、
生命予後に与える影響を検証しています。

ここでの聴力低下は、
会話レベルの周波数で25デシベル以上の低下と定義されています。

対象年齢は20歳以上の男女で、
年齢の平均値は48.6歳です。
中間値で10.4年の観察期間中に、
そのうちの14.7%の罹患率で聴力低下が発症、
トータルな死亡率は13.2%でした。

聴力低下と診断された人のうち、
継続的に補聴器を使用していたのは12.7%に過ぎず、
聴力低下のない人と比較した、
聴力低下の人の観察期間中の総死亡のリスクは、
他の関連する因子を補正した結果として、
40%(95%CI:1.21から1.62)有意に増加していました。

ここで継続的に補聴器を使用していた人は、
聴力低下があっても使用していなかった人と比較して、
他の因子を補正した死亡リスクが、
24%(95%CI:0.60から0.95)有意に低下していました。
その一方で補聴器の継続的でない使用は、
不使用の場合と有意な違いがありませんでした。

このように継続的な補聴器の使用は、
その後の健康寿命の維持に有効な可能性があり、
今後こうしたデータを積み重ねることにより、
補聴器の適切な使用の有効性が、
確認されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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