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難治性脳腫瘍に対する腫瘍溶解性ウイルスの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は介護保険の審査会などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
腫瘍溶解性ウイルスの有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年6月30日掲載された、
難治性の小児脳腫瘍に対する、
新しい治療法の有効性についての論文です。

小児の脳腫瘍である、
びまん性橋グリオーマ(diffuse intrinsic pontine glioma (DIPG) )は、
脳腫瘍の中でも難治性で予後が悪いことで知られています。
病状にもよりますが、
診断から1年生存することは困難と報告されています。

この腫瘍は脳幹という、
生命維持に必要不可欠な部位に発症するため、
手術をすることが出来ません。
抗癌剤もその有効性が確認されたものはありません。
唯一、一定の有効性があるのは放射線療法で、
現状第一選択の治療となっています。
ただ、その有効性は一時的なもので、
生命予後を大きく改善するには至っていません。

最近こうした難治性の悪性腫瘍に対して、
腫瘍溶解性ウイルスという、
特殊なウイルスを注入するという治療が、
国内外で試みられています。

腫瘍溶解性ウイルスというのは、
ヘルペスウイルスやアデノウイルスなど、
人間に感染する一般的なウイルスの遺伝子を改変作られた、
腫瘍細胞のみに特異的に感染するウイルスのことです。

このウイルスを腫瘍に注入すると、
正常な細胞には感染せず、
腫瘍細胞のみに感染してそこで増殖し、
腫瘍細胞を細胞死させてしまうと共に、
身体の腫瘍に対する免疫を活性化させます。
一種の免疫療法なのですが、
間接的なものではなく、
直接腫瘍の細胞に感染して死滅させる、
という非常に強力かつ直接的な方法なのです。

この腫瘍溶解性ウイルスによる治療は、
2015年に難治性皮膚癌のメラノーマに対して、
ヘルペスウイルスを土台にして作成されたウイルスが使用開始され、
一定の有効性が確認されています。

日本では2021年6月に、
矢張りヘルペスウイルスをもとにした腫瘍溶解性ウイルスが、
悪性神経膠腫の治療薬として認可され、
その使用が限定的に開始されています。

今回のデータは、
アデノウイルスをベースにした、
DNX-2401という腫瘍溶解性ウイルスの、
難治性小児脳腫瘍である、
びまん性橋グリオーマに対する臨床試験データです。

スペインの単独施設において、
1から18歳で診断されたびまん性橋グリオーマの事例、
トータル12例を対象として、
1回のみ腫瘍に直接ウイルスを注入し、
その生命予後を検証しているものです。

事例の平均年齢は9歳で、
12例中殆どの11例では、
放射線治療が併用されています。
コントロールは設けられていません。
治療後観察期間の中央値は17.8か月で、
有害事象は頭痛、吐き気、嘔吐、全身倦怠感が多く、
1例では片麻痺、1例では四肢不全麻痺が、
合併症として認められています。

12名中9名ではMRI検査による腫瘍の縮小あり。
8名は観察期間中の病勢が安定していました。
生存期間の中央値は17.8か月で、
1名は38か月の病状進行のない生存を確認されています。

この病気での1年を超える生存が困難であることを考えれば、
かなり治療の有効性に期待の持てる結果です。
ただ、実際には長期生存の事例は多くはなく、
麻痺などの有害事象も発生していますから、
充分な効果とは言い難い面もあります。

今後より検証を重ね、
この難治性の脳腫瘍の予後に、
確実な有効性が見られるような報告を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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