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ヒスタミン産生腸内細菌と過敏性腸症候群との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒスタミンによる腹痛.jpg
Science Translational Medicine誌に、
2022年7月27日掲載された、
過敏性腸症候群における腹痛と、
ヒスタミンを産生する腸内細菌との関連についての論文です。

過敏性腸症候群には多くのパターンがありますが、
その1つとして食後に強い腹痛が生じるタイプがあります。

この腹痛の原因には幾つかの仮設があり、
自律神経系のアンバランスによる腸管の過剰な収縮が、
主に想定されることが多いのですが、
それ以外の可能性として、
上記論文の著者らが注目しているのが、
腸管内で腸内細菌から産生されるヒスタミンの関与です。

ヒスタミン食中毒という食中毒の一種があり、
これは腐敗した魚などを食べることにより、
アミノ酸のヒスチジンが細菌によって分解され、
ヒスタミンが過剰に産生されることにより起こります。
この時ヒスタミンが増加することにより、
腸管は過剰に収縮して腹痛が起こるのです。

それと同様のことが、
過敏性腸症候群における腹痛の際にも、
起きているのではないか、というのが、
上記論文の著者らの仮説で、
この研究以前に、
虫歯の原因となるショ糖や果糖などの、
所謂「発酵性糖質」を制限することにより、
過敏性腸症候群の腹痛が減り、
それが尿中へのヒスタミン量の減少と、
相関しているというデータを出しています。

今回の研究では発酵性糖質の摂取による腸内細菌叢の変化が、
腹痛に影響を与えるメカニズムを検証する目的で、
無菌状態のネズミに過敏性腸症候群の患者の腸内細菌叢を移植し、
その動態を検証しています。
患者の腸内細菌想を移植されたネズミは、
内臓の知覚過敏が亢進して、
ヒスタミンを遊離する肥満細胞が活性化し、
実際に大量のヒスタミンが産生されていましたが、
こうしたネズミに発酵性糖質を減らした餌を投与すると、
内臓の知覚過敏とヒスタミンを産生する肥満細胞の集積が減少しました。

ヒスタミン産生菌の主体として同定されたのは、
Klebsiella aerogenes という細菌で、
ヒスチジンをヒスタミンに変換する酵素を持ち、
ヒスタミンの4型受容体をブロックすることにより、
そのヒスタミンの過剰産生は抑制されることも確認されました。

つまり、発酵性糖質を多く摂ることにより、
腸内細菌叢が変化してヒスタミン産生菌が増え、
それがヒスタミン食中毒に似通ったメカニズムで、
大腸を収縮させ腹痛を生じさせたのではないか、
というメカニズムが推測されたのです。

従って、この病態を改善させるには、
ヒスタミンの産生をブロックするような薬剤が、
有効な可能性があり、
また発酵性糖質を控えることは、
腸内細菌叢を変化させることによって、
症状を改善させる効果のあることが示唆されました。

ヒスタミンと過敏性腸症候群の腹痛とが関連している、
という考え方は非常に興味深く、
こうした研究の積み重ねで、
実際の症状の改善に結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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皮膚抵抗を利用した血圧測定システム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動や検診などで都内を廻る予定です。
昨日は27名のRT-PCR検査も施行しているので、
夕方からはまだエンドレスの電話掛けと届け出の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
デジタルタトゥーの血圧測定.jpg
Nature Nanotechnology誌に、
2022年6月20日ウェブ掲載された、
皮膚に貼るだけで持続的に血圧を測定可能な、
新しい計測システムについての論文です。

血圧測定というのは、
20世紀初頭以降に普及して、
兵士の健康管理などに活用され、
第二次大戦後には世界中で測定されることにより、
高血圧の管理と治療に幅広く使用されました。
その上昇と低下はいずれも身体の危険な状態を示すサインとなります。

このように広く普及して、
医療や健康管理に欠くことの出来ない指標となった血圧ですが、
その測定法については大きな課題があります。

初期の血圧測定は、
動脈の脈波をそのまま測定していたのですが、
それは血管にセンサーを挿入するような方法で、
とても一般に普及可能なものではありませんでした。
その後マンシェットという布を巻き付け、
水銀を利用して聴診器により、
血管から発せられるコロトコフ音という音を聴取することにより、
血圧を簡単に測定する方法が開発され、
水銀は毒性の問題から今は非使用ですが、
原理はそのままに今も活用されています。

ただ、この方法には幾つか問題があります。

まずコロトコフ音が何なのか、
完全には解明されていません。
それがほぼ動脈にセンサーを入れて測定した、
血圧の上下に一致していることは事実ですが、
原理が不明なものを使い続けていてそれで良いのか、
という疑問は残ります。

また、マンシェットに加圧して腕を締め上げ、
一度阻血してから解放するという方法は、
結構ストレスの掛かるもので、
人によっては強い痛みを感じて、
施行すること自体で血圧が上昇してしまい、
正確な血圧の測定になっていないのではないか、
という疑問が生じます。

更にこの方法は一度測定を行うと、
少しインターバルを置かないと再測定出来ないので、
血圧自体は連続しているものですが、
連続して測定することが難しい、
という欠点もあります。

近年アップルウォッチのような端末では、
着けているだけで血圧が測定され数値が表示されます。
これは光センサーにより測定する方法で、
聴診法とは全く別の仕組みですが、
端末のずれにより簡単に数値が変動してしまうなど、
少なくとも医療で使用可能な精度を持っているものではありません。

それでは、
より簡単でストレスがなく、
連続使用が可能で正確な血圧測定法はないのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
デジタルタトゥーの仕組み.jpg
これが今回紹介されている、
新しい血圧測定の仕組みです。

バイオインピーダンス・タトゥーという言い方がされていますが、
バーコードのようなシールを手首に貼り付け、
そこのセンサーで皮膚の抵抗を測定することにより、
手首の動脈の動脈波を再現するのです。

これまでの多くの血圧測定法は、
聴診法と測定値を一致させていたのですが、
今回の方法は動脈波の波形と一致させています。
動脈波の波形はメカニズムも明確ですから、
この方式の方が理に適っているという気がします。

この方法では一回のシールの装着により、
300分(5時間)以上の血圧が連続的に測定可能で、
実際の複数の被験者を利用した測定でも、
高い精度が確認されました。

これはまだ研究段階の成果ですが、
今後こうした動脈波を簡便に測定する方法が、
従来の血圧測定に取って変わることは、
間違いのない流れであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症情報(2022年7月28日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日はクリニック周辺の感染症情報です。

クリニック周辺でも新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。

ここ数日はクリニックでも、
連日20件を超えるRT-PCR検査を施行していまして、
それ以外に事例によっては抗原検査を施行したり、
自宅で採取して頂いた検体を持って来て頂いて検査もしていますが、
それでも多くの方に対応困難と、
お断りをしないといけない状態が続いています。

RT-PCR検査の結果報告も相変わらず遅れ気味で、
翌日の深夜になることはさすがに前回以降はありませんが、
午後6時は廻ることが殆どで、
それから20名を超える患者さんに1人ずつ電話をして説明し、
それからネットの専用システムを使用して、
保健所に届け出を出すと、
概ね夜の9時は廻ってしまい、
他の仕事も山積みなのですが、
疲弊してしまって手がまわらない状況です。

感染リスクの観点から、
近隣の方に限って受診をして頂くことを、
基本的な方針としていますが、
先日も荒川区で近隣全ての医療機関に対応を断られた、
という家族の方が、
お見えになって家族で検査を施行しました。
家族5人全員陽性です。

ゲノム解析の結果が3週遅れくらいで戻って来るのですが、
それを見ると、
確かにこの1から2週間はBA.5主体の感染の可能性が高いのですが、
それ以前の時期は、
7月初旬でもまだBA.2の亜型が感染の主体で、
BA.5は散見される程度、というような現状です。
この辺りは報道されているような情報とは、
かなりの乖離があるという印象です。

行政の対応も迷走している感じがあって、
先週に濃厚接触者の隔離期間を7日から5日に短縮し、
しかも2日目と3日目に抗原検査を施行して、
結果が陰性であれば3日目から解除、
という方針が報道されましたが、
その通達がメールで送信されたのは7月23日のことで、
そこには「7月22日から運用される」と記載されていました。

その時点ではまだ運用されていないのに、
報道が先行されると、
一般の方は「もう決定された」という理解をされるので、
そうした質問をされますし、
運用が施行された後にしか、
正式な説明は届かないのですから、
いつものことですが、
現場を無視したやり方にはうんざりします。

専門家会議の方も言われているように、
この短縮の規定は非常に疑問で、
現行のオミクロン株の潜伏期は概ね2から3日程度ですが、
家族内感染のケースでは、
当然後からの接触感染というような事例もあり、
5日目を超えて発症する、
というケースが稀ではありません。

そもそも変異株が変われば、
潜伏期も変わるのがこの病気の特徴で、
今のオミクロン株の潜伏期の短さの方が特殊とも言えます。
いつ新たな変異にシフトするか予想も出来ず、
潜伏期がより長くなってしまえば、
この規定は何の意味もなくなってしまいます。
その時に迅速に変更がなされるのでしょうか?
今のグズグズの体制では、
とてもそうしたことが出来るとは思えません。

それでも日々やれることをやるしかありませんし、
本日も気を引き締めて、
診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病の血圧目標値は? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病の高血圧目標値は?.jpg
the Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2022年7月22日ウェブ掲載された、
2型糖尿病に合併した高血圧の治療方針についての論文です。

2型糖尿病はそれ自体が動脈硬化の大きなリスクで、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患も高い頻度で発症します。
高血圧も心血管疾患のリスクで、
そのため2型糖尿病に合併した高血圧は、
より高い心血管疾患のリスクであると考えられています。

そこで通常の高血圧治療と比較して、
2 型糖尿病の患者さんではより軽症の段階から治療を開始し、
その降圧目標も、
通常より低く設定することが推奨されて来ました。

ただ、最近それに対して否定的な見解も、
大規模な臨床試験結果で得られています。
厳格な血圧コントロールを2型糖尿病の患者に施行しても、
心血管疾患のリスク低下は、
通常コントロールに勝ることはなかったのです。

今回の研究はこれまでの介入試験の結果を,
まとめて解析したメタ解析ですが、
51の臨床研究に含まれる358533名の患者データをまとめて解析したところ、
中間値で4.2年の観察期間において、
高血圧の患者が収縮期血圧を5mmHg低下させることにより、
2型糖尿病でない場合には心血管疾患の相対リスクは、
11%(95%CI:0.87から0.92)有意に低下していた一方で、
2型糖尿病の患者では、
相対リスクの低下は6%(95%CI:0.91から0.98)の低下に留まっていました。

つまり、2型糖尿病の患者では、
そうでない場合より、
高血圧の治療による心血管疾患の予防効果が、
得られにくいという結果です。

この糖尿病の有無による高血圧治療の予防効果の差は、
治療前の血圧値や降圧剤の違いにより影響はされていませんでした。

ただ、これを絶対リスクで比較した場合には、
有意な差は認められませんでした。

この結果の判断は微妙ですが、
糖尿病では降圧治療による心血管疾患の予防効果は弱いことが、
間違いのない事実であれば、
矢張り糖尿病のある場合とない場合で、
降圧治療の目標ややり方も、
自ずと違うことが適切であると考えられます。

今後こうした知見を基にして、
糖尿病における降圧治療の基準が、
再検討されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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サル痘の臨床症状のまとめ(世界528例の検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

昨日は色々とやることがありながら、
疲れ切って早く寝てしましました。
今日は踏ん張りたいと思っていますが…

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サル痘論文.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年7月21日ウェブ掲載された、
日本でも患者が報告された「サル痘」の、
500例以上の世界の事例をまとめた論文です。

サル痘はポックスウイルス科のDNAウイルスである、
サル痘ウイルスによる感染症で、
サルやウサギ、リスなどのウイルスを保有する動物との接触により、
人間に感染すると考えられています。
その人間への感染は1970年にアフリカのコンゴで初めて確認されました。
その後アフリカでの散発的な流行はあったのですが、
その地域に留まったもので推移していました。

撲滅された天然痘と類似性があり、
その免疫に一定の有効性があると考えられています。

それが、2022年5月以降に西ヨーロッパ全域、
北米のカナダ、アメリカ、南アメリカ、オーストラリアで、
人間から人間への感染が急速に拡大。
WHOが非常事態宣言をするまでに至りました。

日本でも感染事例が確認されたという報道もありました。

今回の論文では、
5大陸16か国で診断された、
トータル528のサル痘確定診断事例をまとめています。

事例の98%はゲイかバイセクシャルの男性で、
75%が白人種、41%はHIVの感染者です。
年齢の中間値は38歳です。

事例の95%では水疱瘡のような水疱性の湿疹があり、
73%は肛門及び性器に病変を持ち、41%では口腔などの粘膜に病変があります。

論文には複数の画像が掲載されています。
このブログは一般向けのものですので、
差しさわりのないと思われるもののみご紹介します。
詳細は原文をご参照下さい。
こちらです。
サル痘画像.jpg
黒人男性の事例ですが、
性交渉でおそらく感染が成立してから、
4日後に性器周辺に水疱性の湿疹が出現。
梅毒が疑われペニシリンが投与されるも改善せず。
湿疹は複数に増加し、
びらんとなり、その部位から採取した検体の遺伝子検査により、
サル痘と診断がなされています。

湿疹に引き続いて、発熱や関節痛、頭痛、
全身のリンパ節腫脹などが認められます。
発熱は62%の事例で報告されています。
29%は他の性行為感染症を併発していました。

感染機会が確認されいる23事例において、
潜伏期の中間値は7日で95%は3から20日に分布しています。
精液の遺伝子検査を施行した32例中29例において、
サル痘遺伝子が検出されています。
入院は主に疼痛などの症状によるもので、
今回の事例中に死亡事例はありません。

このように、
症状は違いますが感染形態としては、
サル痘はHIV感染症とかなり似通った性質があり、
特定はまだされていませんが、
性交渉により感染する可能性が高いようです。

特に性器や肛門周辺に初発する水疱病変については、
先入観を持つことなく、
この病気の可能性も常に想定する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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サウナと運動の健康効果(フィンランドの臨床研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今週は色々な意味で、
気合を入れて未来を拓くための1週間にしたいと思っています。

何とかなるように、精一杯踏ん張ります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サウナの健康効果.jpg
American Journal of Physiology誌に、
2022年7月4日掲載された、
運動とサウナを組み合わせた健康効果についての論文です。

入浴は世界中において、
古くから好まれている生活習慣で、
皮膚などの清潔を保つと共に、
その温熱効果により気分をリラックスし、
血流を一時的にせよ高めるという効果があります。

より長期的に入浴習慣に健康面での効果があるかどうか、
と言う点については、
現時点であまり明確なことが分かっていません。

一部には体温を上昇させることにより、
ヒートショックプロテインを増やし、
免疫を活性化させる、
というような知見もありますが、
それは仮説の域を出ないように思います。

入浴法により健康効果に違いがあるのではないか、
という見解も以前からあります。

日本で行われているような、
首まで熱い湯に浸かる全身浴は、
血圧や脈拍に与える影響が大きく、
入浴中の突然死に繋がるリスクが高い、
という側面があるからです。

フィンランドはサウナ発症の地で、
比較的低温のサウナが一般的な入浴法として普及しています。

サウナというのは湯船に浸からないために、
純粋の温熱効果のみが得られるので、
全身浴と比較してより健康に利する可能性があるのです。

実際これまでに大規模なフィンランドの観察研究において、
サウナの心血管疾患予防効果や肺炎予防効果などが認められ、
論文化されています。

今回の研究は矢張りフィンランドにおいて、
年齢が30から64歳で運動は1週間に30分未満しかしておらず、
高コレステロールやコレステロール上昇など、
1つ以上の心血管疾患リスクのある一般住民47名を、
くじ引きで3つの群に分けると、
第1群は通常の生活を続け、
第2群は週に3回の1時間の運動を指導され、
第3群は運動後に15分のサウナ浴を併用して、
8週間持続した前後で、
体組成や心肺機能、血圧やコレステロールなどのチェックを施行します。

その結果、
運動のみの群でも心肺機能は向上し、
体脂肪は減少しましたが、
血圧やコレステロールの低下は確認されませんでした。
その一方で運動とサウナの併用群では、
心肺機能の向上はより大きく、
血圧とコレステロールは低下を示していました。

これはまだ短期間の少人数での検証ですから、
これをもってサウナと運動の併用が動脈硬化の予防に有効、
とまでは言えませんが、
通常の入浴では得られないような健康効果が、
運動とサウナ浴との併用で認められたことは非常に興味深く、
今後より詳細な検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ゴキブリコンビナート「こえだめアンダンテ」(ネタバレ注意) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
昨日遺伝子検査を受けた方の結果説明と届け出などの対応は、
結果が出次第行う予定です。
今日は実家の秦野に少し帰ります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
こえだめアンダンテ.jpg
診療と発熱外来で疲弊していて、
殆ど予定はキャンセルしていたのですが、
日本に残る最後のアングラ、ゴキブリコンビナートが、
久しぶりの「順路演劇」を上演すると聞き、
「これだけは何があっても駆けつけねば」
と思って、予定をやりくりして、
下北沢のライブハウスに足を運びました。

「順路演劇」というのは、
迷路のような中に観客が入り、
そこで演劇を体験するという、
お化け屋敷のようなリアル脱出ゲームのようなスタイルのお芝居で、
その昔寺山修司の天井桟敷が、
日本では限定的にその要素を持ったお芝居を上演し、
海外では本格的な迷路演劇が上演された、
というように記録されています。
ただ、実際にはどのようなものであったのか、
あまり定かではありません。

2015年の2月に今は無きタイニーアリスという小劇場で、
「ゴキブリハートカクテル」という順路演劇が上演され、
それが僕にとってのゴキブリコンビナートとの初対面でしたが、
非常に素晴らしくワクワクする体験で感銘を受けました。

その後はしばらくこうした順路演劇の公演はなかったので、
内心残念に思っていたのですが、
今回久しぶりに復活すると聞いて、
居ても立ってもいられない気分になったのです。

今回もとても良かったですよ。

スケール感からすると、
「ゴキブリハートカクテル」の方が上かな、
というようには思うのですが、
少し段取りの悪さはあったものの、
いつもの出演者の皆さんが、
ミニマルな迷宮世界の中で本当に生き生きと躍動していました。
キャストの全てが人間ならざる異形を演じ、
その世界の中に入り込んで、
目の前でその世界を体感するという喜び。
これこそが演劇の原体験であると感じました。

以下少しネタバレがあります。
この作品は絶対に予備知識なく体験した方が良いので、
鑑賞(体験)予定の方は体験後にお読み下さい。

よろしいでしょうか?

今回は2人一組で10分おきに入場する、
という形式です。

「ゴキブリハートカクテル」の時は、
妻と2人で体験したのですが、
妻は危うく怪我をしそうになってしまったので、
今回は僕1人で参戦しました。
おひとり様の若い女性の方がいて、
2人でペアを組んで中に入りました。

村を襲う鬼を退治するというミッションに挑むのですが、
途中で2人ははぐれてしまい、
1人ずつの冒険の旅の後で、
再会して最後のミッションに挑戦する、
という筋立てになっています。
まあいろんなものを掛けられたりするのだろうな、
という覚悟はしていて、
ポンチョも持参はしていたのですが、
裸足で入れと指示され、
ずぶずぶの沼を這いまわるのはかなり過酷で、
想像していたよりグチョグチョになりました。
ただ、最後に休憩場所が用意されているなど、
配慮はなかなかきめ細やかです。

戦う武器として巨大な男性シンボルを渡されるのですが、
それを最後に次の客に手渡すという段取りになっていて、
その武器が循環して観客の冒険のバトンになっている、
という点が巧緻な仕掛けです。
ミッションをクリアする毎にカードを集めて、
それが揃うと鬼を退治する切り札になるという趣向は、
脱出ゲームのパターンですが、
登場する怪物たちや異形との掛け合いが楽しく、
メインは水の貯められた沼の部屋で、
膝まで水につかり、途中から雨も降る中、
本当にずぶ濡れになりながらアイテムを探す羽目になります。

ラストには怪物の独白があって、
そこで哀愁漂う音効がラジカセから流れます。
前回も感じたのですが、
こうしたところの旅の終わりの哀愁のようなものが、
この作品を単なる脱出ゲームを超えた、
「体感演劇」にしているのですね。
アングラ演劇の神髄に触れた思いがしました。

控え目に言って、最高です。

今のゴキブリコンビナートは、
こうしたお芝居が合っていると思うのですね。

大空間のお芝居も確かに良いのですが、
全方向に大声を上げて、という感じになるので、
役者さんもかなりしんどそうですし、
お客のこちら側も、
遠巻きに見るような感じになって、
それほどの臨場感を感じないのですね。

その点今回のような順路演劇は、
本当に目の前で自分を相手に役者さんが芝居をしてくれるので、
真の意味で体感的ですし、
とても贅沢な感じがします。
演技も声を張り上げたりする必要がないので、
台詞も自然で無理がないのですね。
観客も役者さんも自然体で向き合えるというのが、
順路演劇の本当の魅力です。
最後は主催のDrエクアドルさんに、
即席の演技指導までしてもらえるのですから、
これ以上のご褒美はありません。

そんな訳で語り出したらなかなか止まらない感じなのですが、
キャスト、スタッフのご苦労は並大抵のものではないと思いますが、
是非次回も巡回演劇の、
傑作を見せて欲しいと、
切に願ってやみません。

疲弊した日常の中で、
少しだけ元気をもらいました。

ありがとうございます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症情報(2022年7月23日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日はクリニック周囲の感染症情報です。

オミクロン株の急激な感染拡大により、
クリニックも目一杯、限界に近い日々が続いています。

一番困るのが提携している大手検査会社の対応の不安定さで、
もう最初の流行時からRT-PCR検査をお願いしていて、
報告ミスや報告遅延など、
多くのトラブルをどうにか乗り越えては来たのですが、
今週の火曜日に検体採取して提出した検査結果が、
通常は翌日の夕方には届く筈のところ、
5時を過ぎても届く気配がありません。
それで検査会社の営業所に問い合わせると、
「今日は前日の2倍の量の検体が提出されているため、
結果は午後9時以降に遅れる予定です」
という愕然とするような答えです。

確かに以前にも何度も同じようなことはあったのですが、
その度に「より迅速に対応できる体制を整えます」
というようなお返事はもらっていたので、
さすがに同じようなことは起こらないだろう、
というように思っていたのですが、
その考えは甘かったのです。

患者さんには、
「翌日の夕方にはご連絡します」
というようにお話はしてしまっていたのですね。
「今日は結果が届くのが遅れる見込みです」
というような先触れがあれば、
勿論そうした説明をするのですが、
前日まではそうした気配は全くなかったので、
同じに説明するしかないですよね。

それで夜の9時というのはさすがにあり得ません。

それで検査をした21人の患者さん全員に、
その時点で電話をしたのですね。
「大変申し訳ありませんが、検査結果が遅れています。
夜9時以降になる予定ですが夜遅くに電話をしても構いませんか?」
というようにお話をして、
全員の方から同意を得たので、
それで一旦は少し気持ちが落ち着きました。

それが午後6時過ぎのことです。

その後食事をしたり雑用をしたりして夜の9時を待ちましたが、
検査結果の届くサイトを開いても、
届く気配がありません。
ようやく午後9時30分くらいに動きがあり、
2名の検査結果が確認出来ました。

でも何故2名だけなのでしょうか?

取り急ぎ検査会社に連絡を入れてみると、
驚愕の答えが返って来ました。
提出した21検体のうち、2検体のみ先のグループで検査をして、
順調に結果は出たのですが、
次の19検体を測定器に掛けたところ、
増殖不良の不具合があって、
信頼のおける結果が得られなかったので、
今再検査に入っている、と言うのです。

PCR検査など今ではほぼほぼ全自動で、
稀に再検査が掛かることはありますが、
19検体全てが再検査などと言うことは、
俄かには信じがたい事態です。

それでは再検査の結果はいつ頃出るのかと聞くと、
「明日の10時以降になります」という、
これも驚愕の答えです。

そもそも夕方までには出る筈で、
その旨前日に患者さんには説明をしているのです。
それが検査がパンク状態で9時になるというので、
全ての患者さんにその旨連絡をしているのです。
それをまた、明日になりますと連絡しなければいけないのです。

検査会社の不手際と段取りの悪さを、
どうして僕がしりぬぐいして、
何度も謝りの電話をしなければいけないのでしょうか?

とても理不尽で納得がゆきません。

明日になるなどと言うのは申し訳が立たないと、
検査会社に猛抗議して、
その後再検査の結果は深夜の3時には出ます、
という確約をもらいました。

深夜の3時?

呆然としましたが仕方がありません。
それで午後の10時から患者さん19人に再び電話をして、
大変申し訳がないのだけれど、
再検査になったので夜中から早朝にしか結果が出ません、
明日の朝7時から順次連絡をするとお話をしました。
中には10時にならないと起床しない、
という方もいたので、
その方には時間をずらしてご連絡をすることにしました。

それから仮眠をとって、
深夜3時の連絡を待ちました。
本当に深夜に結果が出るのか、
とても信用が出来なかったからです。

それでも3時過ぎには結果が確認されました。
全員陽性です!

それで翌日の7時から順次電話をして、
10時過ぎに最後の方に連絡をして、
その日のドタバタは何とか終わりました。

その後はどうにか翌日の午後6時までには、
結果が出る状態が続いていますが、
いつ何が起こるのかは分かりません。

毎日毎日、
検査希望の電話を受け、
出来るものはお受けして、
もう無理であればお断りをし、
態度が悪いとお叱りを受け、
診察をして検査をして、
段取りが悪いとまたお叱りを受け、
結果を待って電話を掛け、
陽性者(現状は殆ど全員)の届け出を出し、
その仕事を全て通常の診療の合間に行っているので、
目まぐるしく時が過ぎてゆきます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナの再感染はどのくらい危険なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

施設や学校、保育園などでは、
今は毎週のように職員や入所者、
学生や園児などの感染者が出て、
その都度隔離し検査をし経過をみるという、
エンドレスで疲弊する状況が続いています。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナ再感染のリスク.jpg
これはResearch Squareという、
まだ査読前の論文を公開しているサイトに、
2022年6月17日にポスティングされた論文です。

内容はしっかりしたものですが、
まだ他の専門家による検証などは、
されていないと言う点には注意が必要です。

今オミクロン株の亜種の感染が猛威を振るっていますが、
そこでこれまでになく多いのが、
以前既に新型コロナウイルス感染症に罹っている人が、
再度感染してしまう再感染です。

今回の流行においては、
昨年のデルタ株以前の時期に感染した人は勿論、
今年の初めにオミクロンのBA.1株に感染した人も、
今再度感染しているという状況が見られています。
現状流行しているウイルスには、
これまでの感染による人間の免疫を、
かなり回避してしまう性質があるようなのです。

それでは、初感染と再感染で、
その合併症や予後に何か違いはあるのでしょうか?

今回の検証はアメリカの退役軍人の健康データベースを活用して、
初感染の257427名を、
2回以上の感染の38926名と、
感染していない5396855名と比較して、
その感染後半年の時点の予後を、
検証しているものです。
初回と2回目の感染の間隔の中央値は79日で、
2回の感染事例が多いですが、
中には4回以上の再感染の事例も報告されています。
2020年3月1日から2021年9月4日の初感染を起点として、
調査がされているので、
デルタ株の流行期までの期間が設定されています。

初感染時と比較して再感染時には、
その後6か月の総死亡のリスクは、
2.14倍(95%CI:1.97から2.33)有意に増加していました。
また入院のリスクにいても、
2.98倍(95%CI:2.83から3.12)有意に増加していました。
心血管疾患などの内臓疾患についても、
再感染時にはその発症や悪化が、
より多く認められていました。
ワクチン接種の回数と予後との間には、
明確な差は認められませんでした。

こうしたデータより論文の著者らは、
新型コロナウイルス感染症の再感染は、
初感染時より再感染で患者の受けるダメージはより大きく、
予後も悪化しているので、
今後の対策として再感染予防がより重要である、
とまとめています。

ただ、本当にこのデータからそう言えるかはちょっと疑問です。

調査時期には初期のウイルス株から、
より感染力が高く重症化リスクも高いとされるデルタ株に、
切り替わった時期が重なっていますから、
再感染が重症化しやすいのではなく、
デルタ株が重症化しやすかった、
という可能性が否定できません。
それほど厳密に時期を分けて、
データが検証されているとは言えないからです。

また再感染までの期間が非常に短いことも疑問です。
中間値が3か月未満ということになると、
治癒した後も遺伝子検査の陽性が、
3か月程度続くことは稀ではないので、
再感染ではなく持続的な遺伝子検査の陽性事例が、
そこに混同されている可能性も否定は出来ません。

従って、この問題はより厳密な検証が、
なされる必要があると思いますが、
いずれにしてもこれだけこの病気が、
再感染を繰り返すことが分かった以上、
再感染のリスクの検証が急務であることは、
間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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生後3か月からのアレルギー食物摂取の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
3か月からのアレルギー食物暴露の効果.jpg
Lancet誌に2022年6月25日掲載された、
生後3か月からアレルギーを生じやすい食物を、
早期に与える予防法の有効性についての論文です。

食物アレルギーは近年急増しているアレルギー疾患です。
欧米では牛乳、卵、小麦、ピーナツが食物アレルギーの主要なアレルゲンで、
特にピーナツや木の実は自然に耐性を獲得しにくく、
病状が固定化しやすいと考えられています。

一度食物アレルギーを発症しても、
そのアレルゲンを極少量ずつ投与すると、
徐々に耐性が獲得されて、
そのアレルゲンを含む食品を、
食べられるようになることがあります。

乳児期の早期、
たとえば生後3から4か月くらいの時期に、
そうしたアレルゲンに慣れることにより、
将来の食物アレルギーを予防できるのでは、
という考え方があり、
実際に4か月齢での臨床試験で、
一定の有効性が報告されています。

今回の臨床試験はノルウェーとスウェーデンの専門施設において、
妊娠中に対象者の登録を行い、
2397名の新生児を4つの群に分けると、
第1群の597名は何も対策を施行せず、
第2群の575名はアトピー性皮膚炎の予防に有効とされる、
皮膚への保湿剤の使用のみを施行し、
第3群の642名は生後3か月の時点から、
ピーナツバター、牛乳、小麦のおかゆ、スクランブルエッグを、
少量母親の指からかスプーンで少量投与し、
それを少なくとも週に4日投与することを継続、
第4群の583名は皮膚への保湿剤と食品の早期投与を併用します。

その結果、
生後3歳(36か月)の時点での食物アレルギーは、
44名の対象者で認められ、
第1群では596名の2.3%に当たる14名、
第2群では574名の3.0%に当たる17名、
第3群では641名の0.9%に当たる6名、
第4群では583名の1.2%に当たる7名でした。

ピーナツアレルギーは32名に、卵アレルギーは12名に、
牛乳アレルギーは4名に認められています。

ここから、
皮膚の外用療法には明らかな食物アレルギーの予防効果は認められませんでしたが、
食物の早期投与は、
60%(95%CI:0.2から0.8)3歳の時点での食物アレルギーの発症を、
有意に抑制する効果が認められました。

これにより、
全ての赤ちゃんに3か月の時点での食物摂取を試みることにより、
63名に試みて1名の食物アレルギーの発症を、
抑止可能と推計されました。

この予防法の有効性は、
今回の検証でほぼ確認されたと言って良いと思いますが、
その安全性はこの人数の検証では、
実証されたとは言い切れず、
今後どのような対象者に、
どのようにこの予防法を使用するべきなのか、
より詳細で厳密な検証が必要であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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