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「ザ・ウェルキン」(作ルーシー・カークランド 演出加藤拓也) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ザ・ウェルキン.jpg
イギリスの若手劇作家ルーシー・カークランドの戯曲を、
今心境著しい加藤拓也さんが演出した舞台が、
今渋谷のシアターコクーンで上演されています。

これはなかなか面白いですよ。

陪審員が評決に至る議論をするという、
所謂陪審員ものなのですが、
舞台が18世紀で陪審員は全員女性なんですね。

なんでそんなことがあり得るのかと言うと、
一度男のみの陪審員が死刑を決めたのですが、
その後で少女を殺してバラバラにした罪で裁かれた、
被告の若い女性が、
自分は妊娠していると言うのですね。
そうなると法律的には子供の命を同時に奪うことになるので、
その時点では死刑が執行出来なくなるのです。
それで、今度は女性のみの陪審員が、
被告が本当に妊娠しているかどうかを、
裁くというお話になっているのです。

なるほど、と思わず膝を打つような、
斬新でユニークな設定ですよね。

完全な男社会の中で起こった悲劇と、
それに女性はどう抗うべきかを描いたドラマですが、
男性は舞台には殆ど登場せず、
女性の価値観や人生観がぶつかる中で、
その背後にある男社会の影が、
そこを通して見えて来るという作劇になっています。

エロスと暴力がかなり過激に生々しく描かれていて、
ラストの壮絶かつ救いのない展開は、
マクドナーを思い起こしました。
トータルにもマクドナーに似たムードがあり、
僕はマクドナーは大好物なので、
この作品の世界にもすんなり入り込むことが出来ました。

時代考証にも注意が払われていて、
表現の時代を感じさせるレトリックが魅力です。
登場人物が隠していた秘密が、
議論の中で露わになってゆくのですが、
その独白もストレートなものではなくて、
悪魔や魔女が登場するような表現の中に、
真実が混ぜ合わされるのですね。
面白いなと思いました。

キャストは秘密を持つ助産師を吉田羊さんが、
被告の女性を大原櫻子さんが演じます。
大原さんの体当たり的な芝居が見事で、
彼女の代表作と言って良い出来栄えです。
吉田羊さんも頑張っていましたが、
彼女の役はかなり難役で、
多分かなり力強い強烈な個性がないと、
説得力を持たないように思いました。
所謂「鉄の女」というニュアンスなんですね。
残念ながら吉田さんの芝居にそこまでの迫力はなく、
そのためやや作品世界がピンボケとなったきらいはありました。
どうでしょうか?
今なら松雪泰子さんなら、
この凄みを出せるような気がします。
10年くらい前の片桐はいりさんでも、
面白かったように思いました。

加藤拓也さんの演出は、
以前の「友達」などかなりの変化球で心配したのですが、
今回は時代を意識した比較的オーソドックスなもので、
そこに色々なパターンで、
悪魔的な闇の世界を表現して、
作品のおどろおどろしさもかなり良く出ていたと思います。
オープニングの蝋燭の光りに血が浮かぶ、
というのも印象的ですし、
権力者の女性が闇の天使のように登場する辺りも斬新でした。
マクドナーを演出した、
長塚圭史さんの仕事にも似た感覚ですね。
ラストも悲劇直前の暗転で、
手堅くまとめていたという印象でした。

本来はもっとエロスの要素もある戯曲だと思いますが、
被告を演じるのは大原さんですし、
どうしてもそうした表現は抑え目なものにはなります。
ただ、それでも演技と演出でカヴァーして、
かなり日本の演劇上演としては、
頑張っていた方だと思いました。

そんな訳で、
かなり複雑な構成のお芝居なので、
観客としてはピントを合わせにくい面はあるのですが、
日本の演劇とはまるで肌合いの違う意欲作で、
内容は間違いなく面白く、
役者もまずまず、演出もなかなか冴えていましたから、
本格的なお芝居のお好きな方であれば、
観て損はない作品ではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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