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ビタミンB6/B12の過剰摂取と骨折リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビタミンBと骨折リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2019年5月10日ウェブ掲載された、
ビタミンB群の摂取量と骨折リスクとの関連を検証した論文です。

ビタミン剤というのはサプリメントの代表格で、
多くのビタミン剤を含む、
所謂「マルチビタミン」以外に、
個々のビタミンの製剤が、
単独もしくは他のミネラルなどと組み合わされて、
それぞれに健康効果を謳った商品として販売されています。

ビタミンやミネラルのような成分は、
勿論身体に必須の栄養素ではあるので、
不足すれば深刻な健康への悪影響があることは間違いがありません。
ただ、そのような高度な欠乏は、
普通に食事が摂れているような状態では、
生じることは非常に稀です。
そして、サプリメントを使用している人の殆どは、
そうした欠乏などはない人であると思います。

高度の欠乏がない場合に、
ビタミンやミネラルのサプリメントが、
健康に明確に有効であるとする根拠は、
実際には殆どないのです。

それでも、悪影響がないものであれば、
そうした商品が存在すること自体は、
問題はないという言い方も出来ます。

ビタミンやミネラルのサプリメントの中で、
その安全性が最も高いと考えられているのが、
ビタミンBやビタミンCの水溶性ビタミンです。

脂溶性ビタミンは過剰に摂取されれば身体に蓄積されますが、
水溶性ビタミンは尿から速やかに排泄されるので、
通常は蓄積はされないと考えられるからです。

しかし、それは事実なのでしょうか?

先行する臨床データの二次解析において、
ビタミンB6とB12の標準必要量を超える摂取により、
閉経後女性の大腿骨頸部骨折のリスクが増加した、
という結果が報告されています。

今回の研究では、
アメリカの女性看護師を長期間健康観察した、
Nurses’ Health Studyという有名な疫学研究のデータを活用して、
ビタミンB6とB12の、
食事とサプリメントを併せた摂取量と、
長期の大腿骨頸部骨折リスクとの関連を検証しています。

閉経後女性75864名が対象となり、
観察期間中にその中の2304名が大腿骨頸部骨折を罹患しています。
食事調査のデータでは、
平均のビタミンB6摂取量は1日3.6㎎で、
平均のビタミンB12摂取量は1日12.1μgでした。

ビタミンB6の摂取量が2㎎未満と少ない群と比較して、
35㎎以上と最も多い群では、
大腿骨頸部骨折のリスクが1.29倍(95%CI:1.04から1.59)
有意に増加していました。

ビタミンB12 の摂取量が5μg未満と少ない群と比較して、
30μg以上と最も多い群では、
大腿骨頸部骨折のリスクが1.25倍(95%CI:0.98から1.58)と、
こちらは有意ではないものの増加する傾向を示しました。

2つのビタミンの摂取量の組み合わせにおいて、
ビタミンB6が1日2㎎未満、B12が10μg未満と比較して、
ビタミンB6が35㎎以上、B12が20μg以上であると、
大腿骨頸部骨折のリスクは最も高く、
1.47倍(95%CI:1.15から1.89)有意に増加していました。

ビタミンB6の摂取上限量は、
1日40から45㎎程度に設定されていますから、
必ずしも過剰と言える量でなくても、
その使用により骨折リスクが増加していることは、
かなりショッキングなデータです。

それでは、仮にビタミンB6とB12(主にB6)の過剰摂取により、
大腿骨頸部骨折のリスクが増加するのが事実であるとして、
そこにはどのようなメカニズムが考えられるでしょうか?

上記文献の著者らの考察では、
ビタミンB6の過剰摂取で神経症が生じるという報告があることより、
神経障害によるしびれなどの症状により、
ふらつきから転倒のリスクが増加した、
という可能性が指摘されています。
また、ビタミンB群自体が、
骨代謝に影響して骨量を減少させるというメカニズムを、
示唆するような基礎データも存在しています。

いずれにしてもサプリメントの殆どには、
明確に健康に良いとする根拠はなく、
その過剰摂取には思わぬリスクが隠れている可能性があるので、
その摂取は慎重に判断する必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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