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脳卒中の年代別の増減について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脳卒中の若年化.jpg
JAMA誌に2022年8月9日掲載された、
脳卒中の年齢層毎の罹患率についての論文です。

イギリスとアメリカの統計では、
2010年以降35から50歳という若い年齢層における、
死亡率の増加が指摘されています。
大腸癌の罹患率は若年層で増加しており、
これはこの年齢における肥満の増加や運動不足、
不健康な食事などが原因ではないかと考えられています。

もしこうした生活習慣が、
若い年齢での病気の増加を促進しているとすると、
こちらも生活習慣が深く関連している、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患についても、
同様の関連があることが想定されます。
このうち脳卒中に関しては、
55歳未満の年齢層における罹患率の増加を、
指摘するような報告はあるものの、
データの信頼性はそれほど高いものではありませんでした。

そこで今回の検証ではイギリスにおいて、
94567名の一般住民を対象とし、
2002年から2010年の時期と、2010年から2018年の時期において、
年齢と脳卒中の罹患率との関連を比較検証しています。

その結果、
2002年から2010年の時期と比較して、
2010年から2018年においては、
55歳未満の若年発症の脳卒中の罹患率は、
1.67倍(95%CI:1.31から2.14)有意に増加していた一方で、
55歳以上の年齢で発症した脳卒中の罹患率は、
逆に0.85倍(95%CI:0.78から0.92)と有意に減少していました。
この若年層における脳卒中の罹患率の増加は、
性別は脳卒中の重症度、脳梗塞のタイプとは関連せず、
一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる一過性の症状についても、
1.87倍(95%CI:1.36から2.57)と有意な増加が認められました。
一方で心筋梗塞など他の心血管疾患については、
同様の若年層における増加は認められませんでした。

この若年層における脳卒中の増加が、
どのような原因で生じているのかは、
今回の検証では明確ではありませんが、
今後もこうした傾向が持続するとすれば、
その動向には注意を払う必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスワクチンの種類と副反応の差(フランスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アデノウイルスベクターワクチンの副反応.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2022年8月23日ウェブ掲載された、
新型コロナワクチンの血管系の副反応についての論文です。

新型コロナウイルスワクチンの使用により、
接種後に心血管疾患や血栓性疾患のリスクが増加する、
という指摘は主にワクチン接種開始初期に見られましたが、
その後の報告により、
少なくともファイザー・ビオンテック社とモデルナ社の、
2種類のmRNAワクチンについては、
少なくとも75歳以上の年齢層において、
心血管疾患などのリスク増加は認められない、
という見解が一般的です。

ただ、それ以外の製法の異なるワクチンや、
年齢が75歳より若い場合の影響については、
まだデータが乏しいのが実際です。

今回の研究はフランスにおいて、
2020年の12月27日から2021年の7月20日までの間に、
肺塞栓症、急性心筋梗塞、出血性もしくは虚血性梗塞のいずれかを発症した、
年齢が75歳未満のトータル73325件のケースを解析した大規模なもので、
新型コロナワクチンの接種と疾患発症との関連を検証しています。

その結果、
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のワクチンについては、
接種と疾患発症との間に明確な関連は認められなかった一方で、
アデノウイルスベクターワクチンであるアストロゼネカ社ワクチンでは、
ワクチン接種後2週目の急性心筋梗塞の発症リスクが、
接種と無関係な時期の1.29倍(95%CI:1.11から1.51)、
同様の条件での肺塞栓症の発症リスクが、
1.41倍(95%CI:1.13から1.75)それぞれ有意に増加していました。

また同じアデノウイルスベクターワクチンであるヤンセン製ワクチンの、
初回接種後2週目の急性心筋梗塞発症リスクは、
接種と無関係な時期の1.75倍(95%CI:1.16から2.62)、
こちらも増加している可能性が示唆されました。

このように、
年齢が18から74歳でアデノウイルスベクターワクチンを接種することは、
急性心筋梗塞や肺塞栓症の発症リスクを増加させる可能性を否定出来ず、
今後更なる検証が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの血栓症リスクの違い [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナとインフルエンザの血栓症リスク.jpg
JAMA誌に2022年8月16日掲載された、
新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの、
急性期の血栓症リスクを、
動脈系と静脈系に分けて比較した論文です。

新型コロナウイルス感染症の罹患後3か月程度の時期には、
全身の血栓症のリスクが増加することが知られています。
その中には動脈系の血栓症である、
心筋梗塞や虚血性梗塞と、
静脈系の血栓症である、
深部静脈血栓症や肺塞栓症が含まれています。

ただ、インフルエンザのような他の流行性ウイルス感染症においても、
そうした指摘はあり、
実際にインフルエンザなどの場合と比較して、
血栓症のリスクにどのような差があるのか、
というような点については、
あまり明確な知見がありませんでした。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
新型コロナウイルス感染症で入院した85637名と、
季節性インフルエンザに感染して入院した8269名の、
入院後90日以内の血栓症の発症リスクを、
新型コロナではワクチン導入前と導入後に分け、
血栓症は動脈系(急性心筋梗塞と虚血性梗塞)と、
静脈系(深部静脈血栓症と肺塞栓症)とに分けて、
その違いを比較検証しています。

その結果、
動脈系の血栓症リスクには新型コロナとインフルエンザとの間に、
有意な差は認められませんでしたが、
静脈系の血栓症リスクについては、
インフルエンザと比較して新型コロナウイルス感染症では、
新型コロナワクチン導入前で1.60倍(95%CI:1.43から1.79)、
ワクチン導入後で1.89倍(95%CI:1.68から2.12)、
それぞれ有意に増加していました。

このように、
新型コロナウイルス感染症は季節性インフルエンザと比較して、
罹患後3か月以内の急性期に、
特に静脈系の血栓症のリスクがより高く認められていて、
こうした違いの理由は現時点では不明ですが、
両者の感染症の罹患後には、
その違いも意識した管理が今後は必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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NODA・MAP第25回公演 『Q』:A Night At The Kabuki(2022年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
Q.jpg
2019年に初演され、
クイーンの「ボヘミアンラプソディー」を使用して、
話題となった舞台が、
今回イギリス公演が決まったことより、
初演と同じメンバーで再演されました。

海外ツアーのため再演というのは、
蜷川幸雄さんの演出作品で良く行われていたことで、
海外への発信という意味では、
野田さんが蜷川さんの衣鉢を継いだ、
という感じがあります。

松たか子さん、広瀬すずさんを初めとして、
非常に豪華なメンバーで、
初演と同じ10人がそのまま集まったというだけで、
勿論仮押さえはあったのでしょうが、
野田さんの影響力の強さを感じさせる座組です。

初演は勿論観ているのですが、
正直あまり感心しませんでした。
次の「フェイクスピア」が野田さんの芝居の中でも、
屈指の傑作でしたから、
余計その思いは強くなります。

ただ、題名に「KABUKI」と入れたり、
クイーンの楽曲を使用したりと、
両方ともそれほど内容に強い関連のあるものではないので、
こうして再演も海外ツアーも決定したところを見れば、
野田さんの企画の勝利と言って良いようには思います。

再演のタイミングも結果的には良くて、
源平合戦を一応の「世界」として作られているので、
大河ドラマの「鎌倉殿の13人」とリンクする部分がありますし、
何より戦争で引き裂かれた恋人たちというテーマが、
今のウクライナの状況ともリンクしているのが、
さすがの予見性と見識だなあと、
感心する思いもありました。

演出は最近の作品はかなり遊眠社時代に寄せていて、
少年と少女とおもちゃという、
初期遊眠社のギミックがそのまま登場しますし、
ワルキューレが登場したり、
親子のトラウマが核になって、
違う親子を同じ役者が演じたりする趣向も、
以前から観ていた身としては懐かしい思いがします。

ただ、内容はNODA・MAP以降の、
時間が一方向に流れる年代記的なドラマになっていて、
前半は舞台は源平盛衰記に寄せながら、
ロミオとジュリエットをほぼそのままに再現し、
後半は原作とは違って生き残ってしまった2人が、
今度は戦争に翻弄されて死を迎えるまでが描かれるので、
野田さんの作品の中でも、
かなり長いなあ、という印象を持ちます。

初演の感想でも書いたのですが、
主役2人の青年期と中年期を、
それぞれ2人の役者さんに演じさせるのですね。
それがどうも中途半端な印象があって、
少なくとも松たか子さんに関しては、
青年期と中年期の両方を普通に演じられると思うのですね。
それが出来るのが映像ならぬ演劇の妙味であると思うのに、
役柄を2つに割ってしまっているので、
とても勿体ない感じがして仕方がありません。
若い2人はいつまでも若いままですし、
中年の2人はいつまでも中年もままなので、
時間軸が常に一方向にしか流れておらず、
野田さんの芝居に特徴的な時空を無視した跳躍感のようなものが、
結果として封印されてしまった感じが否めません。

そんな訳で個人的には失敗作だと感じる本作ですが、
舞台面は常に華やかで、華のある役者の競演も楽しく、
野田さんもかつての当たり役の1つであった「おばさん役」を、
楽しそうに演じていましたから、
まずは楽しく元は取った、
という気分で劇場を後にすることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ジョーダン・ピール監督「ノープ」(ネタばれ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ノープ.jpg
アリ・アスター監督と並んで、
世界のホラーを牽引する鬼才ジョーダン・ピール監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

これまでの「ゲット・アウト」も「アス」も傑作で、
ブラックバーンの小説を思わせるような、
SFスリラーの世界が極めて僕好みで大好きなのですが、
製作に関わった昨年の「キャンディマン」は、
オヤオヤという感じのチープな内容だったので、
今回は期待半分不安半分という感じでの鑑賞となりました。

シャマラン監督も「シックスセンス」、「アンブレイカブル」と、
独特の世界観の力作を続けて期待したのですが、
エイリアンを扱った「サイン」が、
思わせぶりだけの失敗作でとてもガッカリしたのですね。
今回も何となく異星人ものみたいな予告ですし、
シャマランの二の舞になるのではないかしら、
という不安があったのです。

でも、さすがジョーダン・ピール、
今回もなかなかの力作で、
シャマランよりは数段格上であることは、
間違いないと感じました。

ただ、前作の「アス」が大傑作であったので、
どうしてもちょっと落ちる感じはあるのですね。
今回は前2作と比べると通常の娯楽大作という感じがあって、
その枠は崩さずに作られているので、
その点の物足りなさがあるんですね。
後半はパニック大作みたいな感じになりますしね。
そうなると、その割には大したことないな、
という印象をどうしても持ってしまうんですね。
パニック映画はスケール感の勝負ですから、
予算もそこまでではないと思いますし、
後半でボルテージが下がるという感じがあるのです。

ただ、それでも監督の凄みは充分感じられる仕上がりになっていて、
特に悪夢の正体が分かるまでの、
前半の不気味さと捉えどころのない感じは、
さすが、という思いがしてスクリーンに惹き付けられました。

映像表現もリアルでありながらシュールでもあって、
高い美意識を感じさせますし、
中途半端な真似事をしない唯一無二な感じが、
とても素晴らしいと思います。

以下少し内容に触れます。
この映画は予備知識なく観た方が絶対に良いので、
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読み下さい。

これ、ベースは明らかに「ジョーズ」なんですね。
パニック映画を再構成した内容になっています。
ただ、そのベースに「動物を飼って芸を仕込む」という、
如何にも人間らしい行為、
それは差別意識や残酷さを多分に含んだ行為なのですが、
その行為の裏にある感情があるんですね。

これまでの2作でも、
差別や科学や宗教という、
人間ならではの行為の裏にある、
曖昧で不気味な物をテーマとしてきたジョーダン・ピールですが、
今回も動物を飼うという行為の中に、
そうした人間の本質的に持つ不気味さと残虐さのようなものを、
裏テーマとして描いているのです。

主人公は馬を飼って調教をしている黒人で、
他にアジア人の謎の男が、
かつてはテレビに出演していた類人猿が、
自分の意図を汲んで人殺しをしたのに味をしめ、
今は宇宙から飛来した謎の人食い生物を調教して、
馬を食べさせるショーをしているんですね。

しかし、類人猿が暴走したように、
結局人食い生物を調教することは出来ずに、
男は殺され、空飛ぶ人食い生物が暴走して村を襲うのです。

動物を調教するという行為の裏にある不気味さと差別感情を、
重層的に描くのが、
さすがジョーダン・ピールですよね。

暴力的な衝動も差別感情も、
ある意味とても人間らしい感情なんですね。
だから、口では「戦争反対!」とか「差別をなくせ!」と言っていても、
戦争も差別もなくならないのは当たり前で、
それは人間でなくなれ、と言っているのとかなり近いことで、
僕達が戦争のない世界や差別のない世界を想像すると、
何か無機的で人間味のない世界しかイメージ出来ないのもそのためなのです。

最初に類人猿の殺人を小出しに見せて、
怪物の体内をチラリと見せて、
それから急に何かが空から降って来て、
主人公の父親が殺される場面を見せるんですね。
後から繋がるお話の断片をバラバラに見せて、
それが全て別種の怖さを秘めているんですね。
上手いですよね。
「ジョーズ」の恐怖は海でしたが、
今回は空で、空は無防備でしょ、
いきなりコインが降って来て、
眼球を直撃して死に至るのです。

生理的な怖さを感じさせますし、
そうしたエピソードの裏に、
極めて人間らしい残酷な感情が潜んでいる、
というのがこの作品の面白さです。

恐怖の正体が明らかになると、
後半はパニック映画のパターンになるので、
正直少しありきたり感があります。
ただ、映像はクオリティが高く維持されていて、
最後まで緩みなく展開されるので、
まずはそう失望することなく、
最後まで鑑賞することが出来ました。

いずれにしても、
今年最も興奮して鑑賞した1本で、
ジョーダン・ピール監督の今後にも、
ますます目が離せなくなりました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症予防における運動の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療や産業医活動で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の重症化と運動.jpg
British Journal of Sports Medicine誌に、
2022年8月22日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症に対する運動習慣の有効性についての論文です。

適度な運動習慣は免疫力を高め、
トータルな体力も増強しますから、
それが感染症に対しても予防的に働くことは、
その理屈から言えば充分考えられることです。

それでは、運動習慣のある人の方が、
新型コロナウイルス感染症にも罹り難く、
重症化もしにくい、ということはあるのでしょうか?

今回の研究はこれまでの主だった臨床データを、
まとめて解析するメタ解析ですが、
これまでの16の臨床研究に含まれる、
トータルで1853610名のデータをまとめて解析したところ、
定期的な運動習慣を持っている人はいない人と比較して、
新型コロナウイルス感染症の感染リスクが11%(95%CI:0.84から0.95)、
入院のリスクが36%(95%CI:0.54から0.76)、
重症化のリスクが34%(95%CI:0.58から0.77)、
施行のリスクが43%(95%CI:0.46から0.71)、
それぞれ有意に低下していました。

運動習慣を持つことは、
新型コロナウイルス感染症の感染予防や重症化予防に対しても、
かなりの有効性があると考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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妊娠糖尿病の診断基準の適切さについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
妊娠糖尿病の診断基準.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年8月18日掲載された、
妊娠糖尿病の診断基準の適切さについての論文です。

妊娠糖尿病というのは、
糖尿病という名前は付いていますが、
実際には糖尿病にまでは至らない糖代謝の異常のことです。

糖尿病にまでは至らなくても、
妊娠中に一時的な耐糖能異常があると、
正常妊娠と比較して流早産や巨大児などの、
母体や胎児双方の異常が、
多くなることが報告されているので、
対応が必要な「病気」として捉えられているのです。

ただ、実際に血糖値がどのレベルを超えると、
妊娠糖尿病と言って良いのか、
という点については、
専門家の中でも見解が一致しているとは言えません。

現行世界的に最も広く使用されている基準は、
国際糖尿病妊娠学会が2010年にまとめたもので、
妊娠24週以降くらいの時期に75グラム糖負荷試験を施行して、
負荷前の血糖値が92㎎/dL以上、負荷後1時間値が180mg/dL以上、
負荷後2時間値が153mg/dL以上のいずれかを満たすとき、
というように規定されています。

この基準が現行日本においても適応されていて、
通常まず血糖値などを測定して、
上昇が疑われる場合には糖負荷試験が施行され、
上記の基準を満たせば「妊娠糖尿病」とするのが一般的です。

ただ、たとえば上記論文が書かれたニュージーランドにおいては、
2010年以前にはよりゆるやかな診断基準が施行されていて、
2010年以降も医療機関によって、
どの基準を用いるかはまちまちであったようです。

現行の基準はかなり厳しいもので、
以前の数倍の妊娠糖尿病が診断される事態となっているので、
その適切さを疑問視する意見も根強くあるのです。

そこで今回の研究ではニュージーランドにおいて、
4061名の妊娠女性をくじ引きで2つの群に分けると、
妊娠24から32週の時点で75グラム糖負荷試験を施行し、
一方は上記の国際基準により妊娠糖尿病を診断、
もう一方はより緩い基準として、
負荷前の血糖が99mg/dL以上、負荷後2時間値が162mg/dL以上の、
どちらかを満たす場合を妊娠糖尿病と診断する基準を適応して、
母体と胎児の予後を比較しています。

国際基準を適応した場合には、
15.3%の妊娠女性が妊娠糖尿病と診断されましたが、
より緩い基準を適応した場合には、
診断されたのは6.1%に留まっていました。
そして、巨大児のリスクについては、
どちらの基準を用いても発症率には有意な差はなく、
他の主な母体と胎児の健康の指標も、
両群で明確な差は認められませんでした。

つまり、もう少し緩い基準を適応すれば、
妊娠糖尿病として管理すべき人数は半分以下に減るのですが、
妊娠糖尿病に伴う合併症や有害事象については、
特に増えるという結果にはなっておらず、
今の国際基準が厳し過ぎるという見解を、
支持するような結果となっているのです。

今後こうしたデータを議論することにより、
妊娠糖尿病の基準については、
再検討が行われることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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母親の妊娠中の抗精神薬使用と子供の成績との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
抗精神病薬の使用と学校の成績.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年8月15日ウェブ掲載された、
妊娠中の抗精神病薬の使用が、
生まれたお子さんの学校の成績に与える影響についての論文です。

抗精神病薬は、
主に脳のドパミン作動神経の働きを抑制する作用を持つ薬で、
強い鎮静作用や抗幻覚妄想作用を持ち、
統合失調症のみならず、
双極性障害や不安障害、うつ病などの治療にも、
広く使用されている薬剤です。

そのため抗精神病薬を使用しながら、
妊娠出産する女性の数も増え、
国と地域にもよりますが、
妊娠女性の0.3から4.6%が抗精神病薬を使用している、
という報告があります。

ただ、抗精神病薬の多くは胎盤を通過して、
胎児の脳にも影響を与えます。
脳のドパミン作動神経を抑制することは、
正常な脳の発達に悪影響を与える可能性が否定出来ません。

しかし、その実際の影響がどの程度のものなのか、
という点については、
これまでの臨床データは、
量質ともに充分なものとは言えませんでした。

今回の研究は国民総背番号制の取られているオランダにおいて、
1997年から2009年に生まれた667517名の小児を対象としたもので、
そのうちの0.2%に当たる1442名が、
妊娠中に母親が抗精神病薬を使用していました。
その後日本の小中学校に当たる4から12歳で施行された、
語学や数学の共通試験の成績を比較検証したところ、
学校の成績と母親の妊娠中の抗精神病薬の使用との間には、
明確な関連は認められませんでした。

つまり、止むを得ず母親が妊娠中に抗精神病薬を使用していても、
トータルに見て思春期前のお子さんの知能の発達には、
明確な影響はなかった、という結果です。

この結果のみで妊娠中の抗精神病薬の使用が、
無害であるとは言い切れませんが、
止むを得ない事情により投薬を妊娠中も継続された方にとっては、
安心を与える結果であることは間違いがなく、
今後もこうした検証は継続的に施行される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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タバコとコーヒーの不思議な関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ニコチンとコーヒーの不思議な関係.jpg
Neuropharmacology誌に、
2022年6月27日ウェブ掲載された、
タバコとコーヒーとの関連を示唆する、
基礎研究の論文です。

タバコとコーヒーは以前は嗜好品の代表で、
徹夜でコーヒーをじゃんじゃん飲み、
タバコを多量に吸って仕事をする、
というのが、ハードな仕事をしているサラリーマンの、
典型的な姿でもありました。

タバコに含まれるニコチンも、
コーヒーに含まれるカフェインも、
共に脳を刺激して集中力を高め、
眠気を抑制するような効果があるので、
それを共に摂取することは、
徹夜の仕事などには効果的であったのです。

しかし、タバコは身体に有害な多くの作用を持っていて、
それが明らかになるにつれ、
喫煙は科学的には止めるべき習慣であることが、
今では常識となっています。

一方でコーヒーについては2012年のNew Englannd…の論文発表以降、
健康に良い多くの効果があることが確認されています。

つまり、以前は共通に語られることの多かったコーヒーとタバコは、
健康への効果という面では、
大きく明暗を分けることになったのです。

ところで…

コーヒーとタバコの相性の良さは、
単純に習慣的なものなのでしょうか?

たとえば、朝起きて一服目のタバコは、
コーヒーと一緒でないと美味しくない、
というような意見があります。

こうした喫煙者の感想からは、
タバコとコーヒーの脳への影響の間に、
何らかの科学的な関連があることが想定されます。

それは一体何なのでしょうか?

タバコに含まれるニコチンの依存性は、
ニコチンが脳で結合するα4β2というニコン受容体の働きによる、
ということが分かっています。
この受容体にニコチンが結合すると、
ドーパミンという一種の脳内麻薬が放出されて、
それが喫煙に伴うある種の快感を生み出しているのです。

今回の研究では培養細胞にこのタイプの受容体を発現させ、
そこにコーヒー由来の抽出物を反応させて、
その効果をみる実験が行われています。

その結果、コーヒー由来の抽出物により、
高感受性のα4β2ニコチン受容体は抑制される一方で、
低感受性のα4β2ニコチン受容体は刺激される、
ということが分かりました。

ここからは論文筆者の推論になります。

喫煙によるニコチンの依存のある喫煙者では、
高感受性のニコチン受容体がより多く発現し、
ニコチンに非常に敏感な状態となっています。
そこでコーヒーを飲むと、
高感受性のニコチン受容体が抑制されるので、
喫煙への渇望が和らげられ、
精神的に安定した状態で、
喫煙が可能となる状態が想定されるのです。

つまり、朝コーヒーと一緒にタバコを吸うと心地良いのは、
過剰なニコチン感受性が抑えられることにより、
脳のバランスが安定するためと考えられる訳です。

この知見は現状ではそこまでのものですが、
このメカニズムは禁煙治療にも有効と考えられますから、
コーヒーの抽出物を上手く利用することで、
より効果的な禁煙治療の可能性が、
開けることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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デスクワークで座位時間を減らす試みの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
デスクワークで座る時間を減らす試み.jpg
British Medical Journal誌に、
2022年8月17日ウェブ掲載された、
オフィスワークでの、
運動不足を改善する取り組みの効果についての論文です。

現在の労働は二分化されていて、
身体を使って仕事をする人は労働時間の殆どで運動していますが、
オフィスや在宅で仕事をしている多くの人は、
労働時間の殆どを座って過ごしています。

ただ、1日の多くの時間を座って過ごすことは、
総死亡のリスクの増加や、
糖尿病や癌や心血管疾患のリスクの増加に繋がることが、
多くの疫学データにおいて示されています。

つまり、座る時間が長いほど、
健康には悪影響を与えることになるのです。

それでは、デスクワークにおいて、
座位時間を減らすには、
どのようにすれば良いのでしょうか?

上記論文の著者らは、
SWALという介入プログラムを開発し、
その臨床導入を行っています。
これは労働者にビデオなどで教育を行い、
共有スペースからイスをなくしたり、
立って行うミーティングを導入するなどして、
仕事中の座位時間を減らそうとするものです。
それに加えて今回の研究では、
自由にその高さを変えられる机を導入して、
その有効性も同時に検証しています。
こうした机は立った姿勢で仕事が出来、
疲れたら座っても仕事が出来るように工夫されたものです。

対象は殆どの時間を座って仕事をしている、
756名のオフィスワーカーで、
特に何も介入はしない場合と、
SWALのプログラムを導入した場合、
そしてSWALに加えて、
高さを自由に変えられる机を導入した場合の、
12か月継続の影響を比較検証しています。

その結果、12か月に渡り介入を継続することにより、
SWALのプログラム単独で1日22.2分(95%CI:-38.8から-5.7)、
それに高さ自由の机を併せると1日63.7分(95%CI:-80.1から-47.4)、
それぞれ有意に平均の座位時間は短縮していました。

それによる血圧や血糖など、
生活習慣病のリスクなどについての指標は、
明確な変化は認められませんでしたが、
ストレスの指標はやや軽減し、
下肢の疼痛は改善が認められました。

このように、適切な介入や器具を使用することにより、
デスクワークにおける座位時間は短縮可能で、
今後こうした介入の効果をより長期検証して、
明確な健康改善効果の確認に、
繋がることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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