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ヒスタミン産生腸内細菌と過敏性腸症候群との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒスタミンによる腹痛.jpg
Science Translational Medicine誌に、
2022年7月27日掲載された、
過敏性腸症候群における腹痛と、
ヒスタミンを産生する腸内細菌との関連についての論文です。

過敏性腸症候群には多くのパターンがありますが、
その1つとして食後に強い腹痛が生じるタイプがあります。

この腹痛の原因には幾つかの仮設があり、
自律神経系のアンバランスによる腸管の過剰な収縮が、
主に想定されることが多いのですが、
それ以外の可能性として、
上記論文の著者らが注目しているのが、
腸管内で腸内細菌から産生されるヒスタミンの関与です。

ヒスタミン食中毒という食中毒の一種があり、
これは腐敗した魚などを食べることにより、
アミノ酸のヒスチジンが細菌によって分解され、
ヒスタミンが過剰に産生されることにより起こります。
この時ヒスタミンが増加することにより、
腸管は過剰に収縮して腹痛が起こるのです。

それと同様のことが、
過敏性腸症候群における腹痛の際にも、
起きているのではないか、というのが、
上記論文の著者らの仮説で、
この研究以前に、
虫歯の原因となるショ糖や果糖などの、
所謂「発酵性糖質」を制限することにより、
過敏性腸症候群の腹痛が減り、
それが尿中へのヒスタミン量の減少と、
相関しているというデータを出しています。

今回の研究では発酵性糖質の摂取による腸内細菌叢の変化が、
腹痛に影響を与えるメカニズムを検証する目的で、
無菌状態のネズミに過敏性腸症候群の患者の腸内細菌叢を移植し、
その動態を検証しています。
患者の腸内細菌想を移植されたネズミは、
内臓の知覚過敏が亢進して、
ヒスタミンを遊離する肥満細胞が活性化し、
実際に大量のヒスタミンが産生されていましたが、
こうしたネズミに発酵性糖質を減らした餌を投与すると、
内臓の知覚過敏とヒスタミンを産生する肥満細胞の集積が減少しました。

ヒスタミン産生菌の主体として同定されたのは、
Klebsiella aerogenes という細菌で、
ヒスチジンをヒスタミンに変換する酵素を持ち、
ヒスタミンの4型受容体をブロックすることにより、
そのヒスタミンの過剰産生は抑制されることも確認されました。

つまり、発酵性糖質を多く摂ることにより、
腸内細菌叢が変化してヒスタミン産生菌が増え、
それがヒスタミン食中毒に似通ったメカニズムで、
大腸を収縮させ腹痛を生じさせたのではないか、
というメカニズムが推測されたのです。

従って、この病態を改善させるには、
ヒスタミンの産生をブロックするような薬剤が、
有効な可能性があり、
また発酵性糖質を控えることは、
腸内細菌叢を変化させることによって、
症状を改善させる効果のあることが示唆されました。

ヒスタミンと過敏性腸症候群の腹痛とが関連している、
という考え方は非常に興味深く、
こうした研究の積み重ねで、
実際の症状の改善に結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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