「三度目の殺人」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
朝からちょっと買い物に出て、
今戻って来たところです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
福山雅治さんと役所広司さんの主演で、
是枝裕和監督の新作映画が今公開されています。
是枝監督のこれまでの路線とはかなり異なる、
福山雅治さん演じる弁護士と、
殺人自体は自白しながらコロコロと発言を変える、
役所広司さん演じる再犯の殺人犯との対決を描いた、
裁判物のサスペンスです。
これはフィルム・ノワールなんですよね。
フリッツ・ラングやジョン・ヒューストンの、
モノクロのハードボイルド映画みたいな感じ。
ヒッチコックの「めまい」や、
「セブン」や「羊たちの沈黙」、
黒沢清監督の「CURE」辺りも入っているんですが、
基本的には1940年代くらいのノワールが基本ラインなんだと思います。
広瀬すずさんは、
現在の是枝監督のお気に入りだと思うのですが、
足の悪い少女を演じていて、
学校から制服の上に深紅のダッフルコートを着て、
足を引きずりながら下校する姿を、
弁護士の福山雅治が尾行するんですよね。
これだけでノワールの呼吸で、
なかなか良い感じの絵になっているのです。
この映画の広瀬すずさんは、
とても美しく魅力的です。
主演の2人もとても良いんですよね。
福山雅治さんの弁護士の、
何か斜に構えた屈折した造形も、
それらしくてなかなか良い感じですし、
対する犯人の役所広司さんも、
レクター博士の向こうを張ったような、
凄みのある芝居、それでいて、
ちょっと弱い人間的な苦悩も見せていて、
それが矛盾せずに1つの人格に溶け合っている辺りも、
なかなかに凄いと思います。
話はある意味とてもありがちで、
読めてしまうような感じがある一方で、
ラストはかなりモヤモヤする感じになっているのですが、
映像的なディテールが上手いですよね。
謎の十字架のサインというのは、
「CURE」の頂きと思いますが、
ラストの十字路に繋がるのは洒落ていますし、
役所さんが飼っていた鳥を殺して、1羽だけ逃げて、
それが後半に戻って来たり、
福山さんの今は離れている娘さんがウソ泣きをして、
それが最後に福山さんの本物の涙に繋がったり、
雪の北海道の雪だるまの思い出が繋がったり、
ともかく丹念に絵的に考えていると感心します。
撮り方も何度も何度も繰り返される接見で、
役所さんと福山さんを隔てている硝子が、
後半溶けたように見えたり、
2人の顔が反射でオーバーラップしたりと、
凝りに凝っています。
日本映画で裁判ドラマというと、
野村芳太郎監督の「事件」とかをどうしても思い浮かべるので、
ああいう、クライマックスで日本的情念大爆発みたいな、
そうしたものをどうしても少し期待してしまうのですが、
この作品にはそうしたカタルシスはなく、
重要人物の告白が、
結局なされないままに終わってしまい、
司法としての幕引きがされてしまう、
というモヤモヤしたものになっていて、
その後の接見でもそうしたものは何も出て来ないので、
ストレスは溜まるのですが、
色々考えた上で、
福山さんの無自覚な一筋の涙と、
十字路での当惑で終わるというのが、
是枝イズムなのかも知れません。
2時間を超える長さですが退屈はしませんし、
客席の反応も悪くありませんでした。
ヒットしてくれたらいいな、
と思いますが、
どうなのでしょうか?
観てから感想を友達と話したくなるような映画です。
そこそこお勧めです。
ただ、個人的には司法の意味を問う、
というような映画ではなく、
フィルム・ノワールの是枝監督版として、
観るのが正解のように感じました。
その路線としてはとても良く出来ていると思いますし、
何度も観返したくなる、
「残る映画」になっていると思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
朝からちょっと買い物に出て、
今戻って来たところです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
福山雅治さんと役所広司さんの主演で、
是枝裕和監督の新作映画が今公開されています。
是枝監督のこれまでの路線とはかなり異なる、
福山雅治さん演じる弁護士と、
殺人自体は自白しながらコロコロと発言を変える、
役所広司さん演じる再犯の殺人犯との対決を描いた、
裁判物のサスペンスです。
これはフィルム・ノワールなんですよね。
フリッツ・ラングやジョン・ヒューストンの、
モノクロのハードボイルド映画みたいな感じ。
ヒッチコックの「めまい」や、
「セブン」や「羊たちの沈黙」、
黒沢清監督の「CURE」辺りも入っているんですが、
基本的には1940年代くらいのノワールが基本ラインなんだと思います。
広瀬すずさんは、
現在の是枝監督のお気に入りだと思うのですが、
足の悪い少女を演じていて、
学校から制服の上に深紅のダッフルコートを着て、
足を引きずりながら下校する姿を、
弁護士の福山雅治が尾行するんですよね。
これだけでノワールの呼吸で、
なかなか良い感じの絵になっているのです。
この映画の広瀬すずさんは、
とても美しく魅力的です。
主演の2人もとても良いんですよね。
福山雅治さんの弁護士の、
何か斜に構えた屈折した造形も、
それらしくてなかなか良い感じですし、
対する犯人の役所広司さんも、
レクター博士の向こうを張ったような、
凄みのある芝居、それでいて、
ちょっと弱い人間的な苦悩も見せていて、
それが矛盾せずに1つの人格に溶け合っている辺りも、
なかなかに凄いと思います。
話はある意味とてもありがちで、
読めてしまうような感じがある一方で、
ラストはかなりモヤモヤする感じになっているのですが、
映像的なディテールが上手いですよね。
謎の十字架のサインというのは、
「CURE」の頂きと思いますが、
ラストの十字路に繋がるのは洒落ていますし、
役所さんが飼っていた鳥を殺して、1羽だけ逃げて、
それが後半に戻って来たり、
福山さんの今は離れている娘さんがウソ泣きをして、
それが最後に福山さんの本物の涙に繋がったり、
雪の北海道の雪だるまの思い出が繋がったり、
ともかく丹念に絵的に考えていると感心します。
撮り方も何度も何度も繰り返される接見で、
役所さんと福山さんを隔てている硝子が、
後半溶けたように見えたり、
2人の顔が反射でオーバーラップしたりと、
凝りに凝っています。
日本映画で裁判ドラマというと、
野村芳太郎監督の「事件」とかをどうしても思い浮かべるので、
ああいう、クライマックスで日本的情念大爆発みたいな、
そうしたものをどうしても少し期待してしまうのですが、
この作品にはそうしたカタルシスはなく、
重要人物の告白が、
結局なされないままに終わってしまい、
司法としての幕引きがされてしまう、
というモヤモヤしたものになっていて、
その後の接見でもそうしたものは何も出て来ないので、
ストレスは溜まるのですが、
色々考えた上で、
福山さんの無自覚な一筋の涙と、
十字路での当惑で終わるというのが、
是枝イズムなのかも知れません。
2時間を超える長さですが退屈はしませんし、
客席の反応も悪くありませんでした。
ヒットしてくれたらいいな、
と思いますが、
どうなのでしょうか?
観てから感想を友達と話したくなるような映画です。
そこそこお勧めです。
ただ、個人的には司法の意味を問う、
というような映画ではなく、
フィルム・ノワールの是枝監督版として、
観るのが正解のように感じました。
その路線としてはとても良く出来ていると思いますし、
何度も観返したくなる、
「残る映画」になっていると思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。