アガリスクエンターテインメント「そして怒涛の伏線回収」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日2本目の話題は演劇です。
それがこちら。
緻密なシチュエーションコメディに勢いのある、
アガリスクエンターテインメントの新作が、
今新宿のシアター・ミラクルで上演されています。
今回はこの劇団得意の「会議もの」で、
以前は学校で学生の会議などが描かれましたが、
劇団員も年齢を重ねて来たので、
商店街の活性化のための会議、
という内容になっています。
それに加えて今回は、
作品作りを企画の段階から、
募集した観客との相談の上公開で行うという、
特殊な試みを同時に行っています。
役者さんは今回は非常に充実していて、
特にまとめ役の伊藤圭太さんが、
抜群の熱演で感心させられました。
アンサンブルはいつもながら抜群です。
内容についてはシャッター通りの商店街を、
活性化するために、
地元出身のコンサルタントが、
商店街のアーケードを撤去するというプランを出し、
それで商店街の面々が2つに割れてドタバタを繰り広げる、
という物語で、
この劇団の作品を見慣れていると、
定番で何となく展開が読めてしまう、
という感じはあるのですが、
お馴染みの面々がお馴染みのドラマを、
楽しそうに演じているので、
こちらも肩の力を抜いて、
楽しみながら見ることが出来ます。
小空間の劇場の中央に机と椅子を並べて会議室を作り、
それを取り巻くように客席を配置した構造も、
舞台の臨場感と親近感を高めるのに効果を上げています。
皆が最後に一致団結して、
1つの結論に達したところで、
物語に登場したディテールのうち、
まだその結論と関連がないものがある、
という指摘があり、
それを無理矢理に関連付けようという、
やや意味不明の段取り作りが始まります。
これが「怒涛の伏線回収」ということのようです。
別に悪くはないのですが、
「伏線回収」という言葉を台詞で出した時点で、
商店街の活性化の会議というリアルは後退して、
一種のメタフィクションの物語になってしまうのが、
ちょっと引っかかる感じがありました。
商店街の個人事業主にとって、
「伏線回収」という言葉は異次元のものだと思うからです。
伏線回収というと、
シベリア少女鉄道に無理矢理の伏線回収をテーマにした作品があって、
そこでは前半に謎めいた設定や謎のキーワードなどが、
次々と登場し、
その度に舞台横に数字が加算されて表示され、
それが後半伏線が回収される度に、
今度は減少してゆきます。
しかし、そもそも無理な伏線が多いので、
伏線を全身にくっつけた、
謎の怪獣が登場するなど、
出鱈目の極致のような回収作業になる、
というような怪作でした。
この場合は前半の謎の伏線だらけの物語と、
後半の怒涛の伏線回収の物語を、
明確に別物として作品世界が変貌するのが見どころになっていました。
また伏線回収のプロと言えば、
芝居としては三谷幸喜さんが天才的な手腕ですが、
必ずきちんと観客の印象に残る形で伏線やキーワードが提示され、
それが必ず巧妙にラストに再度提示されて、
大団円のパズルのピースとして嵌り込みます。
それと比較すると今回の作品は、
最後までリアルな会議としての枠組みが維持されていながら、
後半にやや唐突に「伏線回収」という用語が登場して、
後はその議論がキャストによって行われる、
という経過になります。
個人的にはどうもその辺りに違和感があり、
後半の伏線回収にはちょっと乗れませんでした。
また、回収するべき伏線が、
再度台詞として言わないと分からないものが多い、
という点にも物足りないものを感じました。
三谷幸喜さんの作品では、
別にわざわざそんな台詞はなくても、
観客の方が、
「あの話はどうなったんだっけ?」
と伏線を覚えているからです。
作品内容的にも、これまでの、
ある種守られた世界である学校での会議と比較すると、
商店街の活性化というのはかなりシビアな議論であり、
作品中での解決策は、
実際にはあまり解決にはなっていないように、
個人的には思いました。
私も商店街の個人事業主なので、
その立場から考えると、
現実のシビアさを物語が上手く捉えていないように、
どうしても考えてしまったのです。
生活に直結する経営の問題は、
笑い事ではそもそもないので、
それを「笑い」に変換するには、
もっと超絶技巧が必要となるように思うからです。
この辺りは脚本のもう一段の深化を、
今後に期待したいと思います。
そんな訳で今回はキャストの演技などはとても見応えがありましたが、
内容は特に後半の伏線回収を、
あまり楽しむことが出来ませんでした。
ただ、新しい取り組みが、
最初から大成功ということもないと思いますし、
今後もアイデア満載の常に勝負している舞台を、
楽しみに待ちたいと思います。
これからも頑張って下さい。
応援しています。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日2本目の話題は演劇です。
それがこちら。
緻密なシチュエーションコメディに勢いのある、
アガリスクエンターテインメントの新作が、
今新宿のシアター・ミラクルで上演されています。
今回はこの劇団得意の「会議もの」で、
以前は学校で学生の会議などが描かれましたが、
劇団員も年齢を重ねて来たので、
商店街の活性化のための会議、
という内容になっています。
それに加えて今回は、
作品作りを企画の段階から、
募集した観客との相談の上公開で行うという、
特殊な試みを同時に行っています。
役者さんは今回は非常に充実していて、
特にまとめ役の伊藤圭太さんが、
抜群の熱演で感心させられました。
アンサンブルはいつもながら抜群です。
内容についてはシャッター通りの商店街を、
活性化するために、
地元出身のコンサルタントが、
商店街のアーケードを撤去するというプランを出し、
それで商店街の面々が2つに割れてドタバタを繰り広げる、
という物語で、
この劇団の作品を見慣れていると、
定番で何となく展開が読めてしまう、
という感じはあるのですが、
お馴染みの面々がお馴染みのドラマを、
楽しそうに演じているので、
こちらも肩の力を抜いて、
楽しみながら見ることが出来ます。
小空間の劇場の中央に机と椅子を並べて会議室を作り、
それを取り巻くように客席を配置した構造も、
舞台の臨場感と親近感を高めるのに効果を上げています。
皆が最後に一致団結して、
1つの結論に達したところで、
物語に登場したディテールのうち、
まだその結論と関連がないものがある、
という指摘があり、
それを無理矢理に関連付けようという、
やや意味不明の段取り作りが始まります。
これが「怒涛の伏線回収」ということのようです。
別に悪くはないのですが、
「伏線回収」という言葉を台詞で出した時点で、
商店街の活性化の会議というリアルは後退して、
一種のメタフィクションの物語になってしまうのが、
ちょっと引っかかる感じがありました。
商店街の個人事業主にとって、
「伏線回収」という言葉は異次元のものだと思うからです。
伏線回収というと、
シベリア少女鉄道に無理矢理の伏線回収をテーマにした作品があって、
そこでは前半に謎めいた設定や謎のキーワードなどが、
次々と登場し、
その度に舞台横に数字が加算されて表示され、
それが後半伏線が回収される度に、
今度は減少してゆきます。
しかし、そもそも無理な伏線が多いので、
伏線を全身にくっつけた、
謎の怪獣が登場するなど、
出鱈目の極致のような回収作業になる、
というような怪作でした。
この場合は前半の謎の伏線だらけの物語と、
後半の怒涛の伏線回収の物語を、
明確に別物として作品世界が変貌するのが見どころになっていました。
また伏線回収のプロと言えば、
芝居としては三谷幸喜さんが天才的な手腕ですが、
必ずきちんと観客の印象に残る形で伏線やキーワードが提示され、
それが必ず巧妙にラストに再度提示されて、
大団円のパズルのピースとして嵌り込みます。
それと比較すると今回の作品は、
最後までリアルな会議としての枠組みが維持されていながら、
後半にやや唐突に「伏線回収」という用語が登場して、
後はその議論がキャストによって行われる、
という経過になります。
個人的にはどうもその辺りに違和感があり、
後半の伏線回収にはちょっと乗れませんでした。
また、回収するべき伏線が、
再度台詞として言わないと分からないものが多い、
という点にも物足りないものを感じました。
三谷幸喜さんの作品では、
別にわざわざそんな台詞はなくても、
観客の方が、
「あの話はどうなったんだっけ?」
と伏線を覚えているからです。
作品内容的にも、これまでの、
ある種守られた世界である学校での会議と比較すると、
商店街の活性化というのはかなりシビアな議論であり、
作品中での解決策は、
実際にはあまり解決にはなっていないように、
個人的には思いました。
私も商店街の個人事業主なので、
その立場から考えると、
現実のシビアさを物語が上手く捉えていないように、
どうしても考えてしまったのです。
生活に直結する経営の問題は、
笑い事ではそもそもないので、
それを「笑い」に変換するには、
もっと超絶技巧が必要となるように思うからです。
この辺りは脚本のもう一段の深化を、
今後に期待したいと思います。
そんな訳で今回はキャストの演技などはとても見応えがありましたが、
内容は特に後半の伏線回収を、
あまり楽しむことが出来ませんでした。
ただ、新しい取り組みが、
最初から大成功ということもないと思いますし、
今後もアイデア満載の常に勝負している舞台を、
楽しみに待ちたいと思います。
これからも頑張って下さい。
応援しています。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「ダンケルク」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
何もなければ今日は1日家で過ごすつもりです。
休みの日は趣味の話題です。
今日は映画の話題が1本と演劇の話題が1本です。
まずこちらから。
クリストファー・ノーランの新作「ダンケルク」が、
今ロードショー公開されています。
品川のIMAXで観て来ました。
これはサイレント映画の時代の戦争映画をお手本に、
それを現代の技術で精緻に映像化した、
かなりマニアックな作品で、
ストーリーは殆どなく、
台詞も極端に少なく切り詰められていて、
昔の戦意高揚映画にお決まりの、
「勝つまで闘いを止めないぞ!」というような、
アジテーションが最後に付く形式になっているので、
純粋の映像表現のみを楽しむ、
という感覚で観ないと、
おそらく落胆は必至の作品です。
ただ、映像はともかく凄まじくも素晴らしくて、
全編がIMAXフィルムで撮影されているので、
IMAXで観ないと全く面白くはないと思うのですが、
こんなものはテレビで観ても、
何1つ面白くはないと思いますから、
IMAXで体験してみる価値は、
充分にあると思います。
まさしく現場を体感しているという感じで、
最初に若者の目の前に、
グワっと浜辺の情景が広がるところも凄いですし、
戦闘機の空中戦の極めてリアルな迫力や、
沈んだ船に閉じ込められる感じ、
船倉に潜んでそこに銃弾が撃ち込まれて、
ボコボコ穴の開く恐怖感など、
物凄く手が掛かっていることは間違いのない映像の数々が、
これでもかと連続して大画面に現れるのですから、
映像としての映画を愛する人には、
たまらない魅力に満ちています。
ただ、その一方でストーリー重視で映画を観るという方には、
この映画はあまり向いていないと思います。
実際、一緒に行った妻は、
何ひとつ見る物がない、
ただ最初から最後までドンパチしているだけ、
と怒っていました。
僕はノーランの初期作の「メメント」が大好きで、
今回も3つの物語を時制を変えて並立的に描く、
というようなことが書かれていたので、
これは超絶技巧がまた観られるのかしら、
とそれはちょっと期待をしたのですが、
実際には後から言われれば、なるほどね、
という感じもあるのですが、
語り口の1つとしての技巧であって、
特にそれが前面に立っている、
と言う感じの映画ではありませんでした。
ラストに飛行機の不時着を、
長く長く引き伸ばすのだけは、
ちょっと面白いと思いました。
そんな訳で宣伝は極めて仰々しいのですが、
万人向けの映画でないことは確実なので、
凄い映像を観たいという方だけ、
必ずIMAXの劇場で「体感」して頂きたいと思います。
僕は結構好きです。
凄いですよ。
でも、ラストは何か、
モヤモヤします。
それでは次の記事に続きます。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
何もなければ今日は1日家で過ごすつもりです。
休みの日は趣味の話題です。
今日は映画の話題が1本と演劇の話題が1本です。
まずこちらから。
クリストファー・ノーランの新作「ダンケルク」が、
今ロードショー公開されています。
品川のIMAXで観て来ました。
これはサイレント映画の時代の戦争映画をお手本に、
それを現代の技術で精緻に映像化した、
かなりマニアックな作品で、
ストーリーは殆どなく、
台詞も極端に少なく切り詰められていて、
昔の戦意高揚映画にお決まりの、
「勝つまで闘いを止めないぞ!」というような、
アジテーションが最後に付く形式になっているので、
純粋の映像表現のみを楽しむ、
という感覚で観ないと、
おそらく落胆は必至の作品です。
ただ、映像はともかく凄まじくも素晴らしくて、
全編がIMAXフィルムで撮影されているので、
IMAXで観ないと全く面白くはないと思うのですが、
こんなものはテレビで観ても、
何1つ面白くはないと思いますから、
IMAXで体験してみる価値は、
充分にあると思います。
まさしく現場を体感しているという感じで、
最初に若者の目の前に、
グワっと浜辺の情景が広がるところも凄いですし、
戦闘機の空中戦の極めてリアルな迫力や、
沈んだ船に閉じ込められる感じ、
船倉に潜んでそこに銃弾が撃ち込まれて、
ボコボコ穴の開く恐怖感など、
物凄く手が掛かっていることは間違いのない映像の数々が、
これでもかと連続して大画面に現れるのですから、
映像としての映画を愛する人には、
たまらない魅力に満ちています。
ただ、その一方でストーリー重視で映画を観るという方には、
この映画はあまり向いていないと思います。
実際、一緒に行った妻は、
何ひとつ見る物がない、
ただ最初から最後までドンパチしているだけ、
と怒っていました。
僕はノーランの初期作の「メメント」が大好きで、
今回も3つの物語を時制を変えて並立的に描く、
というようなことが書かれていたので、
これは超絶技巧がまた観られるのかしら、
とそれはちょっと期待をしたのですが、
実際には後から言われれば、なるほどね、
という感じもあるのですが、
語り口の1つとしての技巧であって、
特にそれが前面に立っている、
と言う感じの映画ではありませんでした。
ラストに飛行機の不時着を、
長く長く引き伸ばすのだけは、
ちょっと面白いと思いました。
そんな訳で宣伝は極めて仰々しいのですが、
万人向けの映画でないことは確実なので、
凄い映像を観たいという方だけ、
必ずIMAXの劇場で「体感」して頂きたいと思います。
僕は結構好きです。
凄いですよ。
でも、ラストは何か、
モヤモヤします。
それでは次の記事に続きます。