眠前のタンパク質摂取の筋肉蛋白産生増加作用 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のthe Journal of Nutrition誌に掲載された、
寝る前や寝ている間に蛋白質を補充すると、
寝ている間にタンパク合成が進行して、
高齢者の筋肉量の低下を予防出来るのでは、
というかなり特殊な感じの報告です。
純度の高い蛋白質(プロテイン)を、
運動しながら摂ることで、
筋肉量が増加することは、
ボディビルの選手などがされていることで、
それが健康的かどうかはともかくとして、
一定の有効性のあることは間違いがありません。
健康上筋肉量が問題となるのは、
高齢者や寝たきり、癌など消耗性疾患の患者さんの場合で、
同じ量の蛋白質を摂取していても、
そうした方では充分な効果が得られない、
ということが知られています。
若年者で20グラムのプロテインを摂ることにより、
筋蛋白合成は75%程度増加すると報告されていますが、
これが高齢者になると、
同じ筋蛋白産生率を達成するには、
倍の40グラムのプロテインの摂取が必要であった、
という報告もあります。
ボディビルで筋肉をつける時には、
プロテインを運動の前後と寝る前に、
摂取することが多いようです。
運動の前後においては、
効率の良い運動の実現と、
その後の筋蛋白産生の増加を見越して、
プロテインを補充することで筋蛋白の産生率を増加させる、
という理屈があります。
それでは、何故寝る前にプロテインを摂るのかと言うと、
寝ている間には成長が促進されるので、
その時に充分な量のプロテインを補充することで、
その効率をより上げようという狙いがあります。
また、寝ている間には筋肉組織は少し減少するのですが、
プロテインの摂取によりそれを最小限に抑えよう、
という考えもあるようです。
消化や吸収の観点から考えると、
寝ている間に食事が胃腸に入るのは、
胃腸に負担が掛かってあまり良いことではない、
というように思います。
実際食べてすぐ寝れば翌朝は体調が悪く、
げっぷが出て胃もたれがして、
便通も悪い状態となることが殆どです。
また、寝る前に食べると太る、
というのもしばしば言われる事実で、
寝ている間はカロリー消費は最小限に抑えられていますから、
そこでカロリーが過剰に入れば、
脂肪の蓄積が増すこともまた理の当然です。
ただ、見方を変えると、
寝ている間は太りやすいというのは、
それだけ効率的にカロリーや栄養素が身体に取り込まれる、
ということです。
そうは言っても脂肪のみが増えるのであれば、
健康上のメリットのあることではありませんが、
これまでの研究により、
寝る前や寝ている間にプロテインを摂取すると、
比較的効率的に筋蛋白の合成率が高まり、
筋肉量が増加することが証明されています。
自然な状態ということで考えれば、
1日の中で半分の12時間くらいはカロリー摂取がなくなり、
少し身体が異化に傾くこと自体は、
そちらの方が自然な状態であって、
無理にその時間帯にプロテインの摂取を行うことは、
かなり自然の理に反したことのように思います。
ただ、その一方で、普通に食事を摂っていても、
体重や筋肉量が低下するような、
消耗疾患の患者さんや高齢者では、
効率良く吸収が行われる夜間に、
プロテインの補充を行うことは、
悪くないプランであるようにも思います。
今回の研究では、
65歳以上の糖尿病などの基礎疾患のない高齢者48名を、
くじ引きで本人にも実施者にも分からないように4つの群に分け、
第1群は40グラムのカゼインプロテインを、
第2群は20グラムのカゼインプロテインを、
第3群は20グラムのカゼインプロテインと1.5グラムの必須アミノ酸のロイシンを、
第4群は偽の栄養剤を、
それぞれ寝る前に摂取して、
その後の筋肉のアミノ酸の取り込みと筋蛋白の合成率を、
放射能の標識をしたアミノ酸を使用することで解析しています。
実際の筋組織における標識アミノ酸の分布は、
前後2回の筋生検をすることで確認しています。
1日だけの試験とは言え、
健康な人の筋生検を2回も行い、
放射能も使用してアミノ酸の分布を解析するというのは、
通常は倫理的に問題があるとされても、
おかしくはないレベルの、
かなり過激な研究デザインです。
研究はオランダで行われています。
その結果、
プロテインの寝る前の摂取により、
偽の栄養剤と比較して、
有意な筋肉へのアミノ酸の取り込みの増加と、
筋蛋白産生の増加が確認されました。
この筋肉増強効果は、
40グラムという高用量のプロテインにおいて、
他の用量やロイシンの併用よりも、
高いレベルで認められました。
従って、高齢者の筋肉量の減少が、
充分に昼間食事を摂っていても、
進行してしまうようなケースでは、
寝る前もしくは眠中に、
プロテインの摂取を行うことが、
一定の有効性が期待出来る方法であることが、
理論的には確認されました。
ただ、これがあまり健康的な方法とは思えませんし、
これを繰り返した場合の身体への弊害も、
現時点では未知の部分が大きいように思います。
今後の検証にもまた期待をしたいと思いますが、
現状安易に飛びつくような栄養療法ではないように、
個人的には思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のthe Journal of Nutrition誌に掲載された、
寝る前や寝ている間に蛋白質を補充すると、
寝ている間にタンパク合成が進行して、
高齢者の筋肉量の低下を予防出来るのでは、
というかなり特殊な感じの報告です。
純度の高い蛋白質(プロテイン)を、
運動しながら摂ることで、
筋肉量が増加することは、
ボディビルの選手などがされていることで、
それが健康的かどうかはともかくとして、
一定の有効性のあることは間違いがありません。
健康上筋肉量が問題となるのは、
高齢者や寝たきり、癌など消耗性疾患の患者さんの場合で、
同じ量の蛋白質を摂取していても、
そうした方では充分な効果が得られない、
ということが知られています。
若年者で20グラムのプロテインを摂ることにより、
筋蛋白合成は75%程度増加すると報告されていますが、
これが高齢者になると、
同じ筋蛋白産生率を達成するには、
倍の40グラムのプロテインの摂取が必要であった、
という報告もあります。
ボディビルで筋肉をつける時には、
プロテインを運動の前後と寝る前に、
摂取することが多いようです。
運動の前後においては、
効率の良い運動の実現と、
その後の筋蛋白産生の増加を見越して、
プロテインを補充することで筋蛋白の産生率を増加させる、
という理屈があります。
それでは、何故寝る前にプロテインを摂るのかと言うと、
寝ている間には成長が促進されるので、
その時に充分な量のプロテインを補充することで、
その効率をより上げようという狙いがあります。
また、寝ている間には筋肉組織は少し減少するのですが、
プロテインの摂取によりそれを最小限に抑えよう、
という考えもあるようです。
消化や吸収の観点から考えると、
寝ている間に食事が胃腸に入るのは、
胃腸に負担が掛かってあまり良いことではない、
というように思います。
実際食べてすぐ寝れば翌朝は体調が悪く、
げっぷが出て胃もたれがして、
便通も悪い状態となることが殆どです。
また、寝る前に食べると太る、
というのもしばしば言われる事実で、
寝ている間はカロリー消費は最小限に抑えられていますから、
そこでカロリーが過剰に入れば、
脂肪の蓄積が増すこともまた理の当然です。
ただ、見方を変えると、
寝ている間は太りやすいというのは、
それだけ効率的にカロリーや栄養素が身体に取り込まれる、
ということです。
そうは言っても脂肪のみが増えるのであれば、
健康上のメリットのあることではありませんが、
これまでの研究により、
寝る前や寝ている間にプロテインを摂取すると、
比較的効率的に筋蛋白の合成率が高まり、
筋肉量が増加することが証明されています。
自然な状態ということで考えれば、
1日の中で半分の12時間くらいはカロリー摂取がなくなり、
少し身体が異化に傾くこと自体は、
そちらの方が自然な状態であって、
無理にその時間帯にプロテインの摂取を行うことは、
かなり自然の理に反したことのように思います。
ただ、その一方で、普通に食事を摂っていても、
体重や筋肉量が低下するような、
消耗疾患の患者さんや高齢者では、
効率良く吸収が行われる夜間に、
プロテインの補充を行うことは、
悪くないプランであるようにも思います。
今回の研究では、
65歳以上の糖尿病などの基礎疾患のない高齢者48名を、
くじ引きで本人にも実施者にも分からないように4つの群に分け、
第1群は40グラムのカゼインプロテインを、
第2群は20グラムのカゼインプロテインを、
第3群は20グラムのカゼインプロテインと1.5グラムの必須アミノ酸のロイシンを、
第4群は偽の栄養剤を、
それぞれ寝る前に摂取して、
その後の筋肉のアミノ酸の取り込みと筋蛋白の合成率を、
放射能の標識をしたアミノ酸を使用することで解析しています。
実際の筋組織における標識アミノ酸の分布は、
前後2回の筋生検をすることで確認しています。
1日だけの試験とは言え、
健康な人の筋生検を2回も行い、
放射能も使用してアミノ酸の分布を解析するというのは、
通常は倫理的に問題があるとされても、
おかしくはないレベルの、
かなり過激な研究デザインです。
研究はオランダで行われています。
その結果、
プロテインの寝る前の摂取により、
偽の栄養剤と比較して、
有意な筋肉へのアミノ酸の取り込みの増加と、
筋蛋白産生の増加が確認されました。
この筋肉増強効果は、
40グラムという高用量のプロテインにおいて、
他の用量やロイシンの併用よりも、
高いレベルで認められました。
従って、高齢者の筋肉量の減少が、
充分に昼間食事を摂っていても、
進行してしまうようなケースでは、
寝る前もしくは眠中に、
プロテインの摂取を行うことが、
一定の有効性が期待出来る方法であることが、
理論的には確認されました。
ただ、これがあまり健康的な方法とは思えませんし、
これを繰り返した場合の身体への弊害も、
現時点では未知の部分が大きいように思います。
今後の検証にもまた期待をしたいと思いますが、
現状安易に飛びつくような栄養療法ではないように、
個人的には思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
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