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マグネシウムとカリウム含有塩の脳卒中予後改善効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マグネシウムとカリウムの脳卒中後の補充効果.jpg
今年のAmerican Journal of Clinical Nutrition誌に掲載された、
脳卒中で退院後の患者さんに、
マグネシウムとカリウムの補充を行なった効果を検証した論文です。

脳卒中はその後の患者さんの人生に、
深刻な影響を残す病気ですが、
発症直後の症状が、
その後の3か月から6か月程度の期間の中で、
どれだけ改善するかが、
その予後判定の1つの指標となります。

ただ、急性期を過ぎて患者さんが退院した後の期間において、
その予後を改善し神経機能を改善するための、
決め手となるような治療が存在しているという訳ではありません。

その中で比較的報告が多いのが、
脳卒中受傷後の期間にマグネシウムを補充する、
という方法です。

マグネシウムは自然に存在するミネラルで、
身体のエネルギー産生や糖代謝、
遺伝子の合成などに不可欠の微量元素です。
また、これも身体に必須の電解質であるカルシウムやカリウムは、
細胞膜を移動する際にマグネシウムが必要で、
神経の伝達においてもカリウムとマグネシウムは必須のイオンです。
また、血圧上昇は脳卒中再発のリスクになりますが、
カリウムやカルシウムの摂取は、
ナトリウムの排泄を促して、
血圧の上昇を抑えます。

このようにマグネシウムの不足がないことは、
神経の再生にも必要不可欠なことと想定されますが、
急性期にマグネシウム塩を注射するような臨床試験では、
あまり明確な改善効果は確認をされていません。

今回の研究はマグネシウムやカリウムの不足が、
比較的多い地域である臺灣において、
脳卒中で入院された患者さんを退院後に、
本人にも主治医にも分からないように3つの群に分け、
第1群は通常の食塩を、
第2群はカリウムを多く含む食塩を、
第3群はカリウムとマグネシウムを多く含む食塩を、
それぞれ1か月に使用を想定される分量を渡して、
食塩の代わりに使用をしてもらい、
6か月の経過観察を行っています。

患者さんは退院時に、
modefied Rankin Scaleという脳卒中の指標において、
4以下という持続的な介護は必要としないレベルが対象で、
寝たきりのような重症度の方は含まれていません。
また、一か月以内の入院で、
年齢は45歳以上というのが要件になっています。

基本的な判断は、
退院の時点と治療開始後半年の時点での、
脳卒中の後遺症と生活自立度の指標が、
どの程度であったかで行われます。

具体的には3つの指標があり、
まずmodified Rankin Scaleで1以下、
NIHSS(NIH脳卒中スケール)が0、
Barthel Index(バーセル・インデックス)が100、
の全てを満たす患者さんの比率が、
どう変動したかを見ています。

このうち、modified Rankin Scaleの1以下というのは、
症状や症候はあっても明らかな障害はない状態で、
NIHSSの0というのは、
意識は清明で麻痺や言葉の障害もない状態、
バーセル・インデックスが100というのは、
日常生活が通常に出来るという意味合いです。

この3つの指標を満たす患者さんの比率は、
普通の食塩群では登録時が19.2%で半年後が25.3%、
カリウム強化塩群では登録時が17.5%で半年後が30.9%、
カリウムとマグネシウムの強化塩群では、
登録時が25.3%で半年後が40.0%でした。

元々の比率にもかなり違いがあるので、
その判断は微妙ですが、
統計上はカリウム強化塩群では、
普通の食塩群と有意な差はなく、
カリウムとマグネシウム強化塩群では、
3か月後と半年後の結果をミックスした場合に、
普通の食塩群より2.25倍(95%CI; 1.09から4.67)、
有意に増加していました。

このように、結果としてはちょっと微妙で、
解析によっては差が出たり出なかったりもしているのですが、
全体の傾向としては、
確かにカリウムとマグネシウムの摂取量を、
ナトリウムと相対的に増加させると、
脳卒中の予後が改善する傾向を示していることは、
間違いはなさそうです。

ただ、これは摂取した正確な量は不明で、
渡された食塩以外に、
自宅で摂取しているという可能性もありますから、
今後薬としてのマグネシウムを、
長期服用したような試験も、
再度行う必要があるように思います。

マグネシウムは高齢者では蓄積による中毒もありますから、
単純に多く摂った方が良いとも言えないのですが、
脳卒中後の患者さんで腎機能が正常であれば、
一定量の補充を考えても良いようには思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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