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2型糖尿病の既存薬による併用治療の長期効果(2017年イタリアの研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病併用治療の比較.jpg
今年のthe Lancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
2型糖尿病の2種類の飲み薬による併用治療の効果についての論文です。

2型糖尿病の第1選択薬がメトホルミンであることは、
世界的に認められている大原則ですが、
実際には充分量のメトホルミンを使用しても、
血糖コントロールが不充分であることは、
臨床ではしばしば遭遇することです。

この場合欧米のガイドラインにおいては、
メトホルミンに上乗せする形で、
別の種類の血糖降下剤を、
併用することが推奨されています。

ただ、併用薬としてどの薬が最も優れているのか、
と言う点については、
未だ結論は得られていません。

最近インクレチン関連薬やSGLT2阻害剤という、
新しいメカニズムの薬の評判が高く、
そうした薬の併用は臨床医にとっては魅力的ですが、
新薬は高価ですし、
その長期効果もまだ分からない面は多いので、
長く使用され薬価も安い併用薬の可能性を、
検証することも非常に重要なことです。

以前よりメトホルミンの併用薬として使用されている薬は、
SU剤とピオグリタゾンです。

SU剤は飲み薬の血糖降下剤としては最も強力な薬で、
その血糖降下作用が一番強いことは間違いがありません。
その一方で低血糖を起こしやすいという欠点があり、
またインスリン濃度の上昇により体重増加を来しやすく、
長期的な心血管疾患の予防にも、
悪い影響を及ぼすのではないか、
という危惧があります。

ピオグリタゾンはインスリン抵抗性を改善する効果があり、
その血糖降下作用はSU剤より弱いのですが、
低血糖を起こしにくいという利点があります。
また、心不全に対しては悪化させるという危惧はあるものの、
トータルには心血管疾患の進行予防効果も期待されています。

2型糖尿病の治療目的は、
現在では心血管疾患の予防が最大のものとなっています。

それでは、
メトホルミンへの上乗せ治療として、
SU剤とピオグリタゾンの、
どちらが心血管疾患の予後に良い影響を与えるのでしょうか?

今回の研究はイタリアにおいて、
その点を直接比較で検証したものです。

患者さんはイタリアの57か所の糖尿病専門施設で、
2年間以上メトホルミン単剤の治療を受け、
1日2000mgから3000㎎(日本での使用量は原則2250mg まで)という、
充分量の治療を継続していても、
血糖コントロールの指標であるHbA1cの数値が、
7から9%の50から75歳の2型糖尿病の患者さんで、
トータルな人数は3028名です。
クジ引きで2つの群に分けると、
一方はSU剤を使用して、
もう一方はピオグリタゾンをそれぞれ上乗せで使用して、
半年毎にHbA1cを測定、
それが8%を下回ることを目標に、
量の調整を行います。
ピオグリタゾンは1日15から45㎎(日本での使用量と同じ)で使用され、
SU剤はグリベンクラミドが5から15㎎(日本では10㎎が上限)、
グリメピリドが2から6㎎(ほぼ日本の使用量と同じ)、
グリクラジドが30から120㎎(ほぼ日本の使用量と同じ)、
で使用されます。

試験はもっと長期行われる筈でしたが、
中間解析においてそれ以上の継続をしても、
結果が変わる可能性はほぼないとの判断で、
平均観察期間が57.3か月の時点で途中終了となっています。
それでも5年弱の観察期間です。

試験の目的は、
総死亡と心血管疾患の新規発症とを併せたリスクで、
これは両群に差はありませんでした。
SU剤は結構高用量を使用していますが、
意外にも長期のHbA1cはピオグリタゾンの方が安定して低下しています。

そして、これは当然と言えば当然ですが、
低血糖のリスクについては、
ピオグリタゾンよりSU剤で高くなっていました。
ピオグリタゾンで指摘されることの多い心不全と膀胱癌については、
今回の試験の範囲では、
特に問題になることはありませんでした。

このように、
ピオグリタゾンもSU剤も、
生命予後を含めた心血管疾患の5年程度の予後については、
それほどの差はないと考えて良く、
後は低血糖のリスクや他の有害事象のリスクに勘案して、
その選択を行うことが妥当であると考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。



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