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甲状腺癌手術後の放射線治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺癌術後アブレーションの有無.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年3月10日掲載された、
甲状腺癌手術後の放射線治療の可否についての論文です。

甲状腺腺癌は一部の未分化癌のような悪性度の高いものを除けば、
一般に生命予後の良い癌として知られています。

ただ、その一方で転移や局所再発は稀ではなく、
そのため欧米においては、
悪性度の低い癌においても、
甲状腺の全摘手術を行なった上に、
放射性ヨードによるアブレーションという、
補助療法を行なうことが一般的です。

放射性ヨードによるアブレーションというのは、
大量の放射性ヨードを使用することにより、
手術で取り残された僅かな甲状腺組織を、
全て身体から除去してしまう、という治療です。

勿論患者さんは甲状腺機能低下症になるので、
その後一生甲状腺ホルモンを飲み続ける必要があります。

そうした弊害がありながら、
何故こうした治療をするのかと言えば、
再発や転移をより減らせると共に、
仮に再発があってもそれを早期に検出することが可能だ、
という利点があるからです。
甲状腺組織から漏れ出る蛋白質にサイログロブリンがあり、
アブレーション後にはその数値はほぼゼロになるので、
サイログロブリンを定期的に測定することにより、
再発の有無をチェックすることが出来るのです。

一方でもともと生命予後の良い甲状腺癌に対して、
アブレーションまでするのは過剰ではないか、
という意見もあります。

日本においては以前から、
甲状腺癌手術後のアブレーションは、
一部の予後の悪いことが想定されるような事例以外には、
あまり行なわれていません。

これは放射線治療を施行可能な施設が、
日本には少ないという事情もあり、
また日本では甲状腺癌は部分切除を行なう事が多く、
早期の事例で全摘はあまり行なっていない、
というような事情もありました。

ただ、最近になり海外でも、
比較的軽症の事例におけるアブレーションの施行を、
見直す動きが出始めています。

今回の臨床試験はフランスにおいて、
18歳以上の分化度の高い甲状腺癌で、
大きさは大きくても2センチ以下で、
局所のリンパ節転移や遠隔転移のないなど、
低リスクと想定される甲状腺癌の手術事例730例を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は1.1GBqの放射性ヨードによるアブレーションを施行し、
もう一方は施行せずに経過観察のみ施行して、
3年の経過観察を行なっています。

その結果、
再発などの所見が認められなかったのは、
アブレーション施行群の95.9%、未施行群の95.6%で、
両群に明確な差は認められませんでした。

つまり。アブレーションをしてもしなくても、
低リスクの甲状腺癌であれば差はないことを、
推測させる結果です。

ただ、これはまだ3年の結果なので、
今後より長期の予後の検証が必要ですし、
有害事象についてもより詳細な比較が必要であるように思います。

それでも欧米の甲状腺癌の治療のトレンドは、
変わりつつあることは間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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