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新型コロナウイルス感染による脳の変化 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の脳への影響.jpg
Nature誌に3月7日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症後の脳の変化についての論文です。

これはまだ、
正しいとも誤っているとも言いにくいものですが、
一般のニュースにもしばしば取り上げられています。

新型コロナウイルス感染症の罹患後には、
多くの体調不良が後遺症のように残ることが知られていて、
その中には全身倦怠感や頭痛など、
脳の機能との関連が疑われるものが含まれています。
認知機能の低下が見られたとする報告もあります。

またこの感染症に非常に特徴的な嗅覚味覚障害は、
嗅覚中枢の神経細胞の障害によるという考え方があり、
これは脳病変の1つの現れと考えることが出来ます。

ただ、それではどの程度の脳への影響が、
どのような脳の部分に生じるのか、といった詳細については、
あまり多数の事例を緻密に分析したような、
信頼のおけるデータは存在していませんでした。

今回のデータは遺伝情報と臨床情報を含めた、
大量の医療情報を蓄積しているUKバイオバンクのデータを解析したもので、
平均で141日の間を空けて2回の脳MRI検査を施行した、
51から81歳の785名のうち、
その間に新型コロナウイルス感染症に罹患した401名と、
感染しなかった384名を比較して、
感染による脳構造の変化を比較しています。

その結果コントロールとの比較で、
脳全体の体積はコロナの感染により0.3%程度低下していました。
脳の部位別に見ると、
認知機能や記憶に関わる海馬傍回と、
嗅覚に関わる嗅皮質の部位に、
特に感染による萎縮傾向が強く認められました。
この脳萎縮の程度は0.3から2%くらいのレベルもので、
1年で0.2から0.3%は中年以降は自然に脳萎縮が生じるので、
微妙な程度の差ではある点に注意は必要です。

この脳の感染による萎縮の変化は、
インフルエンザ感染の事例やコロナ以外による肺炎の事例では、
明確には認められませんでした。
ただ、インフルエンザの事例は5例で、
肺炎事例は11例のみですから、
この点についてはまだ検証の余地を残しています。

この新型コロナ感染後の脳萎縮の変化は、
入院にした比較的重傷の事例であった15例を、
除外しても同様に認められていました。

つまり、論文の著者らの意見としては、
今回認められた脳の一部に強く見られる萎縮性の変化は、
感染に伴う嗅覚低下や認知機能低下と関連があり、
新型コロナ感染に特徴的な変化で、
軽症な事例にも認められる、ということになります。

これはもう事実のように報道されていますが、
現状は「そうしたこともあるかも…」というレベルのもので、
今後他のウイルス感染などとの比較や、
より長期の画像的変化などの検証などが積み重ねられることにより、
その真偽が明らかとなる性質のものではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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