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バセドウ病の免疫治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
バセドウ病の免疫治療の効果.jpg
2019年のThyroid誌に掲載された、
バセドウ病の新しい治療の可能性についての論文です。

バセドウ病は甲状腺がTSH受容体抗体という、
自己抗体によって刺激され、
甲状腺機能亢進症を起こす代表的な甲状腺の病気の1つです。

その治療法には、
抗甲状腺剤による薬物療法と、
放射性ヨードによる放射線治療、
そして甲状腺の大部分を切除する手術療法の3種類がありますが、
どの治療にも一長一短があり、
確実に完治すると言えるような方法はないのが実際です。

抗甲状腺剤による治療は簡便ですが、
治療期間は通常2年程度を要し、
薬を止めて再発しない寛解率は、
決して高いものではありません。
また、顆粒球減少症など重篤な副作用の起こることもあります。

手術治療や放射線治療は、
成功すれば治療の必要はなくなりますが、
機能低下となれば、
一生ホルモン剤を使用しなければなりません。
放射線治療には眼症の悪化の可能性や、
二次発癌の可能性が僅かながら認められます。
手術は首に傷が付きますし、
反回神経麻痺などの合併症が生じることもあります。

そもそもバセドウ病の原因は、
甲状腺に対する自己抗体ですが、
手術や放射線治療は物理的に甲状腺組織を取り除くだけですし、
抗甲状腺剤は一時的にホルモンを低下させるだけの作用で、
確かに長期的には抗体価は陰性になることがありますが、
そのメカニズム自体も不明です。

つまり、
原因を取り除くような治療が、
存在していない、という点が一番の問題なのです。

そこで検討されている方法の1つが、
アレルギーで試みられているような免疫療法です。

花粉症や食物アレルギーにおいては、
免疫療法や減感作療法と言って、
原因となる抗原をごく少量から身体に使用して、
それを徐々に増やして身体を慣れさせることにより、
アレルギー反応を減弱させる、
という方法が一定の効果を挙げています。

自己免疫疾患というのも、
アレルギーに似たところのある、
特定の抗原に対する過剰な免疫反応ですから、
同じように軽い抗原刺激を与えて持続することにより、
過剰な免疫反応が沈静化する、
という可能性が存在しています。

ただ、これまでにそうした試みはあったものの、
自己免疫の抗原を身体に作用させても、
安定した効果はあまり得られず、
却って症状の悪化に結び付くリスクがある、
というのがこれまでの結果でした。

最近になって遺伝子工学の技術を用い、
ヘルパーT細胞と呼ばれる免疫調整細胞が、
抗原を認識しているエピトープという部位を、
その部分だけ取り出して反応させることにより、
副作用なく軽度の免疫反応を起こして、
免疫を調整するような手法が開発されました。

こうして合成された特定の抗原を、
アピトープと呼んでいます。

多発性硬化症という難病において、
その再発予防にATX-MS-1467というアピトープが開発され、
その継続使用により、
一定の有効性が確認されています。

今回はバセドウ病に対して、
その自己抗体を免疫細胞が感知する2つの部位を合成した、
ATX-GD-59というアピトープが新たに開発され、
その第一相の臨床試験が行われました。

その結果をまとめたのが今回ご紹介する論文です。

軽症で未治療のバセドウ病の患者さん12名に、
このATX-GD-59というアピトープを、
少量から2週間毎に用量を増加させながら皮下注射し、
10回の治療を行なって、その経過を観察しました。

その結果、
10人が治療を最後まで継続し、
そのうちの5名は治療終了の時点で、
2名は経過観察期間の時点で、
甲状腺機能が正常化しました。
甲状腺機能の正常化に伴い、
血液中の自己抗体も低下していました。
一方で残りの3名では、
甲状腺機能亢進症は治療により増悪していました。

このように、
まだまだその有効性も安全性も未知数の部分が多いのですが、
これまでにない画期的なバセドウ病の治療に、
一定の有効性が確認されたことは意義のあることで、
今後の研究の進捗に期待をしたいと思います。

成功するかどうかは分かりませんが、
間違いなくこれまでにない、
画期的な治療ではあるからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カフェインの内臓脂肪燃焼効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カフェインの脂肪燃焼効果.jpg
2019年のScientific Reports誌に掲載された、
カフェインの脂肪燃焼効果を検証した論文です。

脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類があります。

白色脂肪細胞は脂肪をため込む細胞で、
その一方で褐色脂肪細胞は、
脂肪を燃焼させて熱を発生させる細胞です。

褐色脂肪細胞には、
UCP1(ミトコンドリア脱共役蛋白質1)という、
一種のエネルギー変換器のような蛋白質があります。

身体の細胞はブドウ糖などを代謝して、
それをATPというエネルギーに変えるのですが、
そのエネルギーを熱に変換するのがUCP1です。

よく運動で脂肪を燃焼させて熱に変える、
というような言い方をしますが、
これは概ねUCP1を持つ細胞でのみ成り立つ理屈です。

UCP1を活性化させる刺激は、
交感神経の緊張なので、
運動のみならず、寒冷やストレスなど、
交感神経が緊張するような刺激であれば、
それが熱産生に結び付いて、
UCP1が発現している脂肪細胞であれば、
脂肪は溶けて熱になるのです。

問題は人間においては褐色脂肪細胞が非常に少ない、
という点にあります。

これが、運動しても脂肪が減り難い主な理由です。

ところが…

通常はUCP1が発現していないとされる白色脂肪細胞でも、
たとえば交感神経のβ3受容体が刺激されると、
白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞様に変化して、
UCP1の発現が見られるようになる、
という知見が存在しています。

つまり、場合によっては、
脂肪をため込むだけの細胞が、
脂肪を燃焼させて熱に変えるような細胞に、
変化することがあるのです。

この白色脂肪細胞が変化した、
褐色脂肪様細胞を、
元々の褐色脂肪細胞と区別する意味で、
ベージュ細胞と呼ぶことがあります。

ちなみに医師の方が、
ベージュ細胞という報道を見て、
これは「褐色脂肪細胞」という言い方が正しい、
というニュアンスの発言をされているのを読みましたが、
それは誤りだと思います。
両者は違うものだからこそ、
「ベージュ」という言い方をしているのです。

内臓肥満のあるような人では、
内臓脂肪の多くが白色脂肪細胞であると考えられますが、
それを適切な刺激によってベージュ細胞に変えることが出来ると、
そうした人でも脂肪を簡単に燃焼することが可能になり、
内臓脂肪や肥満の解消に繋がることが期待されます。

さて、寒冷の刺激や唐辛子の辛み成分であるカプサイシン、
またコーヒーやお茶などに含まれるカフェインには、
代謝を促進して脂肪燃焼を促すような働きがあることが、
これまでの研究により明らかになっています。

ただ、カフェインが褐色脂肪細胞に、
直接的な影響を与えているのかどうかについては、
あまり明確なことが分かっていませんでした。

今回の研究では、
幹細胞由来の脂肪細胞を使用した基礎実験と、
サーモグラフィーなどを用いた臨床実験により、
カフェインの脂肪燃焼効果を検証しています。

その結果、カフェインがUCP1の活性化を介して、
褐色脂肪細胞の熱産生を刺激していることが確認されました。

こちらをご覧下さい。
カフェインの脂肪燃焼の画像.jpg
これは左側がコーヒーの摂取前で、
右が65ミリグラムのカフェインを含むインスタントコーヒーを、
1杯飲んだ後で計測したサーモグラフィーです。
上の画像は生データで、
下は熱産生が行われた部分を差し引きで示したものです。

少し分かりにくい感じはあるのですが、
鎖骨の上の部分の温度上昇がコーヒー摂取後に見られていて、
この部位には褐色脂肪細動が多いので、
その燃焼に結び付いた可能性を示唆しています。

このようにカフェインには一定の脂肪燃焼効果があり、
それが代謝の亢進や体重減少効果に、
結び付いている側面はあるようです。

ただ、これがどの程度全身的に影響するものであるかは、
あまり明らかではなく、
UCP1の活性化自体はこれまでにも、
トマトや青味魚など多くの食品でも報告があるので、
特にカフェインの特性というようには、
考えない方が良いようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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バセドウ病放射線ヨード治療の二次発癌リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
放射性ヨードと癌リスク.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に対する放射性ヨード治療の、
その後に与える二次発癌リスクについての論文です。

バセドウ病の治療には、
抗甲状腺剤による薬物療法と、
甲状腺の極一部を残して切除する手術治療、
そして放射性ヨードを内服して、
甲状腺の細胞の大部分を死滅させるという、
放射性ヨード治療の3種類があります。

日本においては、
第一選択の治療は、
通常は薬物療法で、
副作用で治療継続が困難な場合や、
何らかの要因で薬物治療が困難な場合などに限って、
他の治療が選択されることが通常です。
ただ、アメリカにおいては、
放射性ヨード治療が、
短期で治療が終えられるなどの利点から、
第一選択の治療とされることが多い、
という国内外の違いがあります。

ただ、そのアメリカにおいても、
放射性ヨード治療後にバセドウ病の眼症が悪化する事例があることや、
その放射線被ばくによる二次発癌のリスクから、
抗甲状腺剤による治療が、
近年では見直される傾向にあるようです。

さて、
バセドウ病の放射線治療は、
放射能でラベルしたI 131という放射性ヨードを、
内服することによる治療です。

ヨードはその大部分は甲状腺に集積し、
甲状腺の細胞はほぼ死滅してしまうため、
他の臓器の被ばくの影響は少ない、
というのがその安全性についての理屈です。

しかし、実際には他の臓器への影響も少ないながらはあり、
それが将来的な別の臓器の発癌に、
結び付くという可能性は否定出来ません。

今回の研究では、
アメリカとイギリスにおいて、
甲状腺機能亢進症の治療の予後を長期観察した、
大規模な疫学データを活用して、
この問題の検証を行っています。
以前に一度解析結果が報告されていて、
そこではあまり明確な関連は証明されなかったのですが、
今回はその時より長期の、
24年に渡る観察期間をおいて、
再検証を行っているのです。

放射性ヨードで治療された甲状腺機能亢進症の患者さん、
トータル18805名をその後24年間観察しています。
放射性ヨードの線量はバセドウ病に対しては平均で375メガベクレル、
結節性甲状腺腫に対しては平均で653メガベクレルが使用されていて、
各臓器の吸収線量は、
大腸、骨盤内臓器、脳と中枢神経に対しては20から99ミリグレイ、
膵臓、胃、肝臓、腎臓、乳腺、肺、骨髄に対しては100から400ミリグレイ、
食道に対しては1.6グレイ、
そして甲状腺に対しては130グレイとなっています。

患者さんの年齢は平均49歳で78%は女性、
原因疾患は93.7%がバセドウ病です。
全ての固形癌に対して、
胃の吸収線量100ミリグレイ当たり、
6%の死亡リスクの増加が有意に認められました。
また、乳腺の吸収線量100ミリグレイ当たり、
12%の死亡リスク増加が有意に認められました。
乳癌を除外したそれ以外の固形癌の死亡リスク増加は、
胃の吸収線量100ミリグレイ当たり5%でした。

今回の検証において初めて、
治療の線量とその後の長期の癌による死亡リスクとの間に、
用量依存的な関連が確認されました。

この結果はかなり重いもので、
バセドウ病に対する放射性ヨード治療の適応についてh、
今後欧米においても、
再検証されることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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口髭の皮膚癌予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ひげの癌予防効果.jpg
2019年のJournal of the American Academy of Dermatology誌に掲載されたレターですが、
口髭と皮膚癌との関連を検証して、
興味深い臨床データの報告です。

日光角化症という病気があります。
ただの湿疹のような病名に感じられますが、
実はこれは早期の皮膚癌の一種です。

こちらをご覧ください。
日光角化症.jpg
これは自験例ではなく、
日本皮膚科学会のサイトにある事例の画像を、
トリミングしたものです。

正式な許可を得たものではないので、
もし問題があればご指摘下さい。

これは高齢者の頬の皮膚ですが、
赤いあざのようなものがあり、
その辺縁はくっきりはしていなくて、
上にかさぶたがあります。

これが日光角化症で、
紫外線を浴びる顔や手の甲の皮膚に発生する、
皮膚癌の早期の所見です。
60歳以上の高齢者に主に発生し、
この段階であれば転移はせず、
外用剤などの局所の治療で対応が可能ですが、
放っておいて進行すると、
有極細胞癌と呼ばれる悪性度の高い皮膚癌になることがあります。

さて、今回の研究はアメリカにおいて、
日光角化症の男性の患者さん200人を調査したところ、
口髭を生やしている男性では、
生やしていない場合と比較して、
下唇に発生する日光角化症のリスクが、
0.06倍(16.7分の1)という低率になっていました。

髭の存在が紫外線の悪影響を予防し、
日光角化症のリスクを低下させた可能性が示唆されます。

このように紫外線を受けるかどうかで、
このタイプの皮膚癌のリスクはかなり大きく変化し、
髪の毛や髭は、
そのリスクの低下において、
かなり重要な働きを有していると言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「長いお別れ」(2019年中野量太監督作品) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
長いお別れ.jpg
傑作「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督が、
今度は認知症をテーマにした新作映画を作りました。
前回はオリジナル脚本でしたが、
今回は同題の原作があります。

これは絶対に観なければ、
と最初から思っていたのですが、
なかなか予定が合わず、
ようやく先週に滑り込みで観ることが出来ました。

「湯を沸かすほどの熱い愛」は末期癌を主軸に据えたドラマでしたが、
今回の「長いお別れ」は認知症を扱ったドラマです。

中島京子さんの原作は、
連作短編の形式で、
認知症の老人を中心として家族模様を、
多角的に人物スケッチ風に描いたものですが、
今回の映画はその中の幾つかのエピソードは、
そのままで活かしながらも、
蒼井優さんと竹内結子さんという、
2人の娘の人生に主にスポットが当てられ、
7年間の年代記的に物語は展開されています。

蒼井優さんのパートはほぼ原作にはないオリジナルで、
起業を夢見ながらフリーターと試行錯誤を繰り返していて、
恋も実らないという、
「寅さん」的な役柄になっていますが、
原作はフードコーディネーターとして成功している、
という設定でそうした人間ドラマは描かれていません。
また、竹内結子さん演じる女性は、
研究者の夫と海外で暮らしているという設定自体は、
原作にもあるのですが、
夫との葛藤であるとか、
家族との「積み木崩し」めいた葛藤の部分は、
これも原作にはないオリジナルです。

端的に言えば、
原作はインテリの家庭の生活スケッチなんですよね。
そのふんわりとしてとぼけた面白さは残しながらも、
中野監督としては、
もっと庶民的な活力のあるドラマ、
もう少しきれいごとを排した、
ドロドロしたドラマにしたかったのだと思います。

原作のエピソードのうち、
ほぼそのまま使われているのは、
メリーゴーランドの件と、
母親の網膜剥離の手術の件、
柔道部のかつての友達の葬儀に参列し、
とぼけた対応をしてしまうところ、
そしてラストのアメリカでの校長先生と生徒の対話です。

震災の話は原作にもあるのですが、
時間経過ははっきりしていません。
それを映画は2007年からのドラマにして、
間に挟み込む格好にしています。

多分、メリーゴーランドがやりたかったのだと思うのですね。

とても面白くファンタスティックでグッと来るエピソードで、
映画ではそれをオープニングと中段に分けて配置することで、
映画の骨格を作っています。
ただ、子供と遊園地の係員との対話などは映画のオリジナルで、
中野監督の良さがとても活きた場面だと思います。

このパートを含めて、
巻頭の辺りは本当に素晴らしいですよね。
台詞の1つ1つが絶妙で、
時間的空間的に遠く離れた何かが繋がるという、
映画のテーマを巻頭10分くらいで全て見せていて、
それと同時に人物紹介まで済ませています。
この鮮やかな技巧の冴えは、
さすが中野監督という感じがします。

ただ、認知症は矢張り難しいですね。

山崎努さんは勿論名演だとは思うのです。

でも、僕も毎日認知症の方とは仕事で接しているので、
やっぱり違うよなあ、という感じが強くあって、
中段からはあまり物語の中には入り込めませんでした。

途中で誤嚥するのを見せたりするでしょ。
熱演しているのですけれどちょっとね。
こういうものは、矢張りフィクションで見せる、
演技で見せる、という性質のものはないと思います。

つらくなりますよね。

途中で万引きを見せるでしょ。
あれもいらないよね。
原作には勿論ないのです。

また、前回の「湯を沸かすほどの熱い愛」でも思ったのですが、
医療監修はひどいよね。

途中で父親が入院するのですが、
モニターがね、心電図だけを表示しているんです。
血圧も酸素飽和度も何もなし。
有り得ないでしょ。
2人部屋だけど、必ず1人しかいないし、
重症になると特別室みたいな個室に移されているし。
普通はナースステーションの隣くらいになるでしょ。
目配りの出来ない個室になるなんて、
有り得ないですよね。

ただ、今回は確信犯なのかな、
というようにも感じました。

原作にはね、
もっと治療のこととか、
薬のこととか、診断のこととか、
施設入所の話やケアマネの話とか、
リアルな診療の実際が、
結構出て来るんですよ。
最後に延命治療について考えるところも、
もっとリアルに書かれているし、
病名も違っているのです。
それを、バッサリ全部切っていて、
治療もせず、全部妻が介護している、
みたいな感じにしているのでしょ。
わざわざこうしているんですよね。

監督はそんなに医療が嫌いなのかしら?

ちょっとモヤモヤしてしまいました。

今回の場合、
そうした医療無視の改変が、
あまり成功しているようには思えないんですよね。

後半で重症のお父さんのために、
誕生日会を開く(これも原作にはない設定)のですが、
帽子をかぶせるために、
身体を無理に引っ張って移動させるんですよね。
ちょっとひどいよね、
これを何かユーモアとしてやっている感じなのがね、
違うんじゃないかな、という気持ちを強く持ちました。

医療とは違いますが、
竹内結子さんの役は、
7年もアメリカで暮らしていて、
全く英語がしゃべれないという設定なんですよね。

有り得ないでしょ。

夫と息子の3人家族であまり家族の交流もない、
という設定で、
日常会話くらいは出来ないと、
生きていけないじゃないですか。

原作は勿論、
「英語は下手で自信がない」というくらいの設定なのです。
それを「全くしゃべれない」にしているんですよね。
こういうところも、
趣旨は分かるのですが、
リアリティを全く無視するほどの効果が、
果たしてあったのかと思うと、
これも極めて疑問です。
むしろあれですよね。
今流行りの翻訳ソフトを常に使っている、
というような設定なら面白かったかも知れません。

面白いところも勿論あるんですよね。

アメリカで竹内結子さんの息子が、
腐女子のアメリカ少女と、
英語で会話してAKBを踊ったりとか、
成功かどうかはともかくとして、
あまり見たことのない映像表現でしょ。

ラストは戸惑われた方が多かったと思うのですが、
これはほぼ原作通りなんですよね。
原作でも分かりにくい表現ですが、
日本で校長先生の祖父が死んで、
それをアメリカで校長先生に話をする、
その2つが時空を超えて、
微かにつながる、ということだと思うのですが、
微妙で不思議なセンスですよね。
映画では2人の校長先生が同じ仕草をする、
という原作にないディテールを付け加えて、
よりその意図を鮮明化していました。

成功はしていなかったと思いますが、
僕はこれは嫌いではありません。

関係ないけど、山崎努の縁側の後ろ姿で見せるところ、
あれ川島雄三ですよね。

そんな訳でさすが中野監督というところは多々あったのですが、
トータルは「湯を沸かすほどの熱い愛」ほどはのめり込めず、
モヤモヤした気分で劇場を後にしました。

でもこの映画も嫌いではありません。

中野監督の、
ちょっとブラックな部分、
普通と倫理観のややずれたような部分に、
若干の危惧はもちながらも、
その絶妙な映画技巧と構成力、
押しつけではない感動の醸成には、
今後も最上級の期待持って、
次作を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ゴジラ キングオブモンスターズ.jpg
ハリウッド版ゴジラ映画の新シリーズの2作目が、
今ロードショー公開されています。

最初のハリウッドゴジラは、
東宝特撮映画のゴジラとは別物でしたが、
2014年に新シリーズ化されたゴジラは、
東宝とも連携して製作に当り、
アメリカのスタッフにも怪獣オタクが揃って、
その世界観も東宝特撮映画を、
かなり意識したものに仕上がっていました。

今回の続編はハリウッド製作として、
初めてキングギドラ、ラドン、モスラが、
ゴジラと共に顔を揃え、
かつての「三大怪獣地上最大の決戦」と、
「怪獣総進撃」を、
かなり意識した映画になっています。

要するに、とても馬鹿馬鹿しく楽しい映画です。

映画の前半はアメリカSFアクションという雰囲気で展開されるので、
正直それほど乗れませんでした。
ただ、中段でゴジラとキングギドラが相対する、
という辺りになると、
東宝特撮映画を再現しようという、
意図がかなり明確になって来るので、
その後の馬鹿馬鹿しくも楽しい展開は、
「そうだよね。怪獣映画はこうじゃなくちゃね」
という感じで楽しむことが出来ました。

怪獣が善悪に分かれて、
プロレスもどきに対決するでしょ。
ラドンが洗脳されて敵になって、
キングギドラが目茶苦茶強いので、
一旦はゴジラが負けて海に沈んじゃうんでしょ。
それを人間が放射能で助けようとして、
尊い犠牲が生まれるんだよね。
生き返って二度目の対決があって、
またゴジラ危うしとなると、
モスラが助けに来るんだよね。
まあ、とてもとても定石通りで、
小気味よい感じです。

頭の悪い悪役に、家族の絆に、少女の活躍でしょ。
マッドサイエンティストに、
秘密兵器でオキシジェンデストロイヤーも出て来るんだよ。

ラストにね、
破壊された地球に、ゴジラの力で自然が蘇る、
というようなクレジットが流れるでしょ。
これはもう水木しげるのだいだらぼっちの思想でしょ。
この脳天気な楽天主義と破滅思想。
もうモロに60年代のユートピアです。

東宝特撮映画の黄金時代は、
1960年代ですが、
当時はヒットはしても、
批評家からは馬鹿にされて酷評しかなかったんですよね。
石上三登志さんとか双葉十三郎さんとか、
本当にもうケチョンケチョンで、
当時のアメリカの「放射能X」とか「宇宙戦争」とか、
そういう映画は褒めてたんだよね。
今考えると下らないというか、分かってないというか、
別におバカ映画にはアメリカも日本も、
変わりはないんだよね。
それなのにアメリカ映画は絶賛して、
東宝特撮映画は罵倒するというのは、
単純に日本製は駄目、という先入観があっただけだったのだと、
今は明らかにそう思えます。

当時もっと正当な評価というか、
こんな荒唐無稽な馬鹿馬鹿しい映画を、
精魂込めて作っていたということに、
少しでも理解のある批評があったら、
もっと違った発展が、
日本特撮映画にもあったと思いますよね。
結局素晴らしい未来に繋がる映画の可能性を、
当時の知識人と称する人達が潰してしまったんだよね。

今じゃさあ、
同じような馬鹿丸出しの映画を、
世界中で同じように作ってヒットしているでしょ。
これで良かったんだよ。
でも、今もきっと同じように日本の可能性を、
皆さんが潰しているのだと思います。
これが多分悲しいけれど日本人の個性ですね。

今思うと良かったのは世界観とデザインですよね。
世界で怪獣をコントローラーで制御して、
人間と共存させていると宇宙人がそれを妨害してとか、
斬新だったのじゃないかなあ。
怪獣のデザインが素晴らしいよね。
人間が入る着ぐるみが原点で、
それを感じさせないようにカモフラージュする、
というところに神経を使ったのが、
かえって良かったのではないかしら。
今回の映画でもね、
新たに創造された怪獣のデザインは本当にクズで、
キングギドラやモスラ、ラドンは、
それぞれにCG用にちょっと変えているとは言え、
やっぱり素晴らしいんだよね。
これはもう誇って良いことだと思います。
それなのにね、
公開当時はそれも馬鹿にされたんだよ。
恐竜が放射能で復活したのであれば、
もっと恐竜そのものの形でないとおかしい、
とか悪口を書かれていたんだよ。
何を言ってるんだか。
おバカ映画なんだから、
格好良ければいいんだよ。
生きてる恐竜なんか誰も見たことはないんだし。

正直CGの絵作りは好きじゃないのです。
画面も暗くて、
殆どアンバーとブルーだけの照明でしょ。
もっと原色じゃないと怪獣映画は詰まらないよね。
ただ、後半になると、
割と意識的に着ぐるみの感じを出していて、
それはなかなか良かったです。
人間に救われたゴジラが、
海から出て来るところとか、
着ぐるみっぽくていいよね。
好きです。

そんな訳で東宝怪獣映画が好きな人には、
必見と言っても良い映画です。

ラストとか、ちょっと泣けますよ。

中国資本になって、
モスラは中国に取られちゃった感じですけど、
それも時代だから仕方がないですね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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軽症持続性喘息の半数に吸入ステロイドは無効? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
軽症喘息に吸入ステロイドは無効?.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
軽症持続型喘息に対する吸入ステロイドと気管支拡張剤の、
有効性を検証した論文です。

気管支喘息の治療は、
吸入ステロイドの登場により、
大きく変わりました。

それまでの一時的に気管支を広げるだけの治療や、
効果はあっても副作用の強い、
全身的なステロイドの使用とは異なり、
継続的に吸入ステロイドを使用することにより、
気管支喘息の原因である、
気道のアレルギー性の炎症を抑え、
吸入という方法により、
身体に吸収されるステロイドは最小にして、
副作用の少ない持続的な治療が可能となったのです。

これは気管支喘息の治療における、
画期的な進歩でした。

ところが…

実際には吸入ステロイドの効果が明確なのは、
持続性の喘息の患者さんのうち、
半数程度であることが、
その後の臨床研究により明らかになって来ました。

何故吸入ステロイドに反応しにくい患者さんがいるのでしょうか?

気管支喘息の原因は、
気管支のアレルギー性の炎症であるとされています。
その特徴は好酸球という白血球が主体の炎症です。
しかし、多くの患者さんの痰を検査してみると、
好酸球がそこに多く検出される患者さんがいる一方で、
炎症はあっても好酸球は多くなく、
むしろ好中球が主体の別個の炎症が見られる患者さんもいます。

ここで1つの仮説として、
好酸球主体の気道炎症のある患者さんでは、
吸入ステロイドが効果的であるけれど、
そうでない患者さんでは、
吸入ステロイドは効果がないのではないか、
という考え方が生まれます。

それは事実でしょうか?

そのことを検証する目的で今回の研究では、
アメリカの複数施設で、
12歳以上の軽症持続性喘息の患者さん、
トータル295例に、
喀痰の好酸球比率の検査を行い、
吸入ステロイドのモメタゾン(商品名アズマネックスなど)と、
気管支拡張剤(抗コリン剤)のチオトロピウム(商品名スピリーバなど)、
そして偽の吸入薬をくじ引きで決めた順番により使用し、
その効果を喀痰の好酸球比率と共に比較検証しています。

気管支喘息には軽症から重症まで、
非常に幅広い状態があります。

最も軽い喘息では、
風邪をひいた時などに軽い発作があるものの、
それ以外の時は特に症状はなく、
運動を含めて日常生活にも特に制限が生じることはありません。
医学的な定義では軽症間欠型と呼んでいて、
発作の回数が週1回未満で軽いことなどで定義されています。

それより少し症状が進んだものが、
軽症持続型の喘息で、
こちらは発作が毎日ではないものの週に1回以上はあり、
月に2回以上は夜の発作や症状のあるというものです。

現行のガイドラインにおいては、
軽症持続型の喘息においては、
吸入ステロイドを持続的に使用することが推奨されています。

喀痰の好酸球比率は、
2%以上を高値群、2%未満を低値群として区分けしています。
治療の有効性は発作回数や呼吸機能の数値などから、
総合的に有効か無効かを判定しています。

その結果、
295例中73%に当たる221例が好酸球比率では低値群で、
この低値群では偽の吸入と比較して、
吸入ステロイドも抗コリン剤も、
有意な有効性を確認出来ませんでした。

一方で喀痰の好酸球比率の高値群では、
偽吸入の有効率が26%に対して、
吸入ステロイドの有効率は74%で、
吸入ステロイドの有効性が確認されましたが、
抗コリン剤の吸入の有効性は、
偽吸入と有意な違いはありませんでした。

このように今回の研究においては、
軽症持続型の喘息では、
半数以上の患者さんが喀痰の好酸球は低比率で、
こうした患者さんにおける吸入ステロイドの使用は、
有効とは認められませんでした。

こうした研究は、
有効性の定義によっても結果は変わる性質のものなので、
これをもって軽症持続型喘息で喀痰の好酸球比率が低値なら、
吸入ステロイドは無効とは言い切れません。

また、
喀痰の好酸球比率の測定は、
吸入で痰を誘発したりする必要があり、
クリニックレベルで実施は困難である上に、
患者さんの状態により変わりうる指標でもあるので、
この結果をそのまま現時点で、
一般臨床に取り入れることも現実的とは言えません。

今後も検証の積み重ねが必要であると思いますし、
実証的なデータの積み重ねにより、
今後ガイドラインがより患者さんの効果的な治療に結び付くように、
改訂されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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抗コリン剤の長期使用と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
抗コリン剤の認知症リスク.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
抗コリン作用という、
色々な診療科で使用される薬が持っている作用による、
認知症リスクについての論文です。

この問題はこれまでにも何度か取り上げています。

今回はこれまでの経緯を含めてまとめておきたいと思います。

抗コリン作用と言うのは、
副交感神経に代表される、
アセチルコリン作動性神経の働きを抑えるというもので、
非常に多くの薬剤がこの作用を持っています。

その中には抗コリン作用そのものが、
薬の効果であるものもありますし、
副作用として抗コリン作用を持つものもあります。

アセチルコリン作動性神経により、
胃や気管支、膀胱などの平滑筋は収縮しますから、
胃痙攣を抑える目的で使用されたり、
気管支拡張剤として、
また過活動性膀胱の治療薬として使用されます。
パーキンソン症候群の補助的な治療薬として、
使用されることもあります。

その一方で、
鼻水や痒みを止める抗ヒスタミン剤や、
抗うつ剤や抗精神薬は、
副作用としての抗コリン作用を持っています。

この抗コリン作用は基本的に末梢神経のものですが、
脳への作用も皆無ではありません。

一方で認知症では脳のアセチルコリン作動性神経の障害が、
早期に起こると考えられています。

そのために、
現在認知症の進行抑制目的で使用されている、
ドネペジル(商品名アリセプトなど)は、
脳内のアセチルコリンを増やす作用の薬です。

抗コリン剤はアセチルコリン作動性神経を抑制する薬ですから、
これがそのまま脳に働けば、
脳のアセチルコリン作動性神経の働きを弱め、
認知症のような症状を出すであろうことは、
当然想定されるところです。

実際に高齢者に抗コリン剤を使用することにより、
せん妄状態や、記憶障害や注意力の障害など、
認知症様の症状が急性に見られることは、
良く知られた事実です。

通常こうした急性の症状は、
薬剤の中止により回復する、
一時的なものと考えられています。

しかし、
高齢者が長期間こうした薬剤を使用している場合はどうでしょうか?

それが認知症の発症に繋がるようなことはないのでしょうか?

この点については、
あまり長期間の観察を行なったようなデータが、
これまで存在していませんでしたが、
2015年1月のJAMA Internal Medicine誌に、
アメリカにおける、
高齢者の大規模な健康調査のデータを活用して、
抗コリン剤の長期処方と、
認知症の発症との関連を検証した論文が掲載されました。

これは発表の時期にブログ記事にしています。

65歳以上の認知症のない高齢者3434名を登録し、
平均で7.3年間の経過観察を施行したデータを解析したところ、
65歳以上の高齢者が、
3年以上常用量の抗コリン作用のある薬を使用すると、
その薬の種別に関わらず、
最大で1.5倍程度の
認知症のリスクの増加が生じる可能性がある、
という結果が得られています。

ただ、このデータにおいては、
個別の抗コリン作用のある薬の種別と、
認知症リスクとの関連は明らかではありません。

通常に考えると、
泌尿器科などで高齢者に長期使用が常態化している、
過活動性膀胱の治療薬などは、
その脳への作用は限定的であるように、
薬の添付文書などを見る限りはそう思えます。

しかし、それは本当に正しい考え方なのでしょうか?

これまでの文献上での検討から、
抗コリン作用を持つ薬の脳への影響の強さは、
ACBスケールという指標により、分類されています。

これによると、
抗コリン作用自体はあることが確認されているものの、
それが認知機能に悪影響を与えたという報告のない薬が、
ACBスコアで1点、
脳への抗コリン作用が臨床的に確認されている薬が、2点、
そして更にせん妄などの発生が報告されている薬が、3点、
それ以外の薬は0点となっています。

具体的には三環系の抗うつ剤やパロキセチンなどのSSRIの大部分、
胃痛などを抑える、アトロピンやスコポラミン、
過活動性膀胱の治療薬である、
トルテロジン(デトルシトール)やオキシブチニン(ポラキス)、
ソリフェナシン(ベシケア)、
オランザピンなどの抗精神病薬、
ヒドロキシジン(アタラックスP)やプロメタジンなどの、
第一世代抗ヒスタミン剤などが、
このACBスコア3点となっています。

そこでイギリスのプライマリケアのデータベースを元にして、
40770名の認知症の患者さんを、
283933名のコントロールと比較して、
抗コリン作用のある薬剤の使用歴と、
認知症のリスクとの関連を検証した研究が行われ、
2018年5月のBritish Medical Journal誌に発表されました。

これも同時期にブログ記事にしています。

その結果を掻い摘まんで言うと、
ACBスコア3点の薬剤の使用により、
他のリスクを補正した結果として、
認知症のリスクは1.11倍(95%CI; 1.08から1.14)
有意に増加していました。

ACBスコア3点以外の薬剤のリスクは有意なものではなく、
3点の薬の中でも、
抗うつ剤、パーキンソン病治療薬、泌尿器科治療薬のリスクが、
より高いものとなっていました。
こうした薬剤に関しては、
認知症と診断される15から20年前の処方についても、
関連が認められました。

今回の研究は2018年論文と同じく、
イギリスのプライマリケアのデータベースを元にしたものですが、
55歳以上で認知症と診断された58769名を、
年齢性別などをマッチさせた、
225574名のコントロールと比較して、
抗コリン作用を持つ薬剤の認知症診断以前1から11年の使用と、
認知症発症リスクとの関連を検証したもので、
これまでで最も大規模な疫学研究です。

その結果、
認知症と診断する前1から11年に、
抗コリン剤を通常の使用量に換算して、
累積で1095日以上内服していると、
内服していない場合と比較して、
認知症の発症リスクは49%(95%CI: 1.44から1.54)、
有意に増加していて、
これは累積で1から90日の使用においても、
6%(95%CI: 1.03から1.09)有意に増加していました。

薬剤毎の解析においては、
抗うつ剤と過活動性膀胱の治療薬、
抗精神病薬や抗痙攣剤のリスクが高く、
抗ヒスタミン剤や筋弛緩剤、
気管支拡張剤や胃の鎮痙剤などについては、
単独で有意な認知症リスクの増加は認められませんでした。
この点は以前の論文とは少し結果が異なります。

この抗コリン剤の使用継続による認知症リスクは、
特に80歳以前で診断された認知症で高く、
アルツハイマー型認知症より脳血管性認知症でより高い、
という特徴がありました。

トータルにみて全ての認知症の発症において、
その診断前1から11年における抗コリン剤の使用は、
その10.3%に影響をしていると計算されました。

今回の結果はこれまでのデータを更に補強するもので、
認知症の1割は抗コリン剤が影響している可能性がある、
という結果はかなり重い意味を持つもので、
少なくとも65歳以上での長期の抗コリン剤の使用については、
これまで以上に慎重に考える必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第45回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。
こちらをご覧下さい。
第45回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
7月20日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「サプリメントの最新情報」です。

医療財政が危機的状況にあるので、
国も医療費削減を強く言うようになり、
医療費の自己負担もどんどん上がっているので、
医者には行かずに健康を維持したい、
という健康志向が高まりを見せています。

その1つの表れとして、
その人気が高まりを見せているのがサプリメントです。

元々は不足し易く健康に影響の出やすい栄養素を、
補充する、というのが目的であった筈なのですが、
次第に病気の予防や治療のための、
薬に近いようなニュアンスで捉えられるようになりました。

元々の本場はアメリカで、
有名なアーサー・ミラーの「セールスマンの死」にあるような、
スーツケースにビタミン剤を入れて売り歩くような商売は、
アメリカの1つの伝統でもあった訳ですが、
日本においては健康志向の高まりと、
国の病気予防を自力でやれ、という
誘導的な政策と、
それをビジネスチャンスと考える企業や起業家、
その尻馬に乗って健康番組や記事を量産するマスコミ、
という三位一体のプロモーションによって、
近年これまでにない高まりを見せているのです。

大半のサプリメントは勿論、
あまり科学的な裏付けはないもので、
動物実験や基礎研究はあっても、
それが人間に適応されるという検証はされていないものや、
その高度の不足は確かに病気の原因になっても、
軽度の不足や不足がない状態で、
それを摂取することが意味があるという根拠はないのに、
それをすり替えて、あたかも効果が確立されているように、
見せかけて宣伝されているようなものが殆どです。

中にはビタミンEやカルシウムのように、
その過剰摂取で悪影響が懸念されるようなものもあります。

その一方で一旦は否定されながら、
最近再評価されているような、
そうしたサプリメントもあります。

たとえば、グルコサミンは、
膝の痛みの緩和に広く使用されていますが、
その有効性は一旦はほぼ否定されたものの、
最近は若干ながら肯定的な結果が複数報告され、
そればかりか生命予後や心血管疾患などの予防効果も、
あるとする報告が寄せられています。

このように注目すべきサプリメントもあるのです。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
7月18日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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セフトリアキソン(ロセフィン)の使用量は適切なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ロセフィンの適切な使用量.jpg
2019年のExpert Review of Anti-infective Therapy誌に掲載された、
1980年にその使用が開始されたセフトリアキソンという抗菌剤の、
市中肺炎に対する適正な使用量を検証したレビューです。

セフトリアキソン(商品名ロセフィンなど)は、
第3世代セフェム系と分類される抗菌薬の注射薬で、
広い抗菌活性を持つと言う点と、
胆道などへの組織移行が良い点、
半減期が長く1日1回の注射でも有効性が確認されている、
という点で今でも有用な抗菌剤として、
その評価が世界的にも高い薬です。

1日1回の注射で済むということは、
外来での治療が容易いということで、
その利便制から日本でも広く使用されています。

やや特異的な有害事象として、
胆石症が知られていますが、
概ね副作用や有害事象も少ない薬剤です。

さて、このように有効性の確立されているセフトリアキソンですが、
その主な使用目標の1つである市中肺炎の治療において、
適切な使用量がどのくらいであるかが明確ではありません。

そもそもの開発の時点で、
1日1グラムと1日2グラムという2つの臨床試験が、
並行して行われていて、
重症の事例や入院の事例では、
1日4グラムの使用が行われています。

WHOは現状1日2グラムの使用を推奨していますが、
臨床の現場においては、
1日1から4グラムの使用が、
1日1回もしくは2回というかなり幅のある形で、
あまり根拠なく行われているのが実際です。

ちなみに日本の添付文書においては、
1日1から2グラム、1日1から2回の使用で、
重症の事例は1日4グラム2回と記載されていて、
世界的に幅のある使用法を、
そのまま羅列した感じになっています。

そこで今回の検証では、
これまでの主だった臨床試験のデータを、
まとめて解析するメタ解析とシステマティック・レビューの手法を用いて、
市中肺炎に対するセフトリアキソンの適正な使用量を検証しています。

その結果、
1日1グラムの使用と2グラム以上の使用との間で、
その有効性には明らかな差は認められませんでした。

つまり、市中肺炎の治療に関して言えば、
セフトリアキソンは1日1グラム1回の使用で、
必要にして充分な可能性が高い、
ということになります。

こうした検証は臨床の現場ではとても重要ですが、
日本では添付文書が聖典のように扱われ、
あまりこうした検証が行われる素地がないことは、
大きな問題であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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