バセドウ病の免疫治療の効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のThyroid誌に掲載された、
バセドウ病の新しい治療の可能性についての論文です。
バセドウ病は甲状腺がTSH受容体抗体という、
自己抗体によって刺激され、
甲状腺機能亢進症を起こす代表的な甲状腺の病気の1つです。
その治療法には、
抗甲状腺剤による薬物療法と、
放射性ヨードによる放射線治療、
そして甲状腺の大部分を切除する手術療法の3種類がありますが、
どの治療にも一長一短があり、
確実に完治すると言えるような方法はないのが実際です。
抗甲状腺剤による治療は簡便ですが、
治療期間は通常2年程度を要し、
薬を止めて再発しない寛解率は、
決して高いものではありません。
また、顆粒球減少症など重篤な副作用の起こることもあります。
手術治療や放射線治療は、
成功すれば治療の必要はなくなりますが、
機能低下となれば、
一生ホルモン剤を使用しなければなりません。
放射線治療には眼症の悪化の可能性や、
二次発癌の可能性が僅かながら認められます。
手術は首に傷が付きますし、
反回神経麻痺などの合併症が生じることもあります。
そもそもバセドウ病の原因は、
甲状腺に対する自己抗体ですが、
手術や放射線治療は物理的に甲状腺組織を取り除くだけですし、
抗甲状腺剤は一時的にホルモンを低下させるだけの作用で、
確かに長期的には抗体価は陰性になることがありますが、
そのメカニズム自体も不明です。
つまり、
原因を取り除くような治療が、
存在していない、という点が一番の問題なのです。
そこで検討されている方法の1つが、
アレルギーで試みられているような免疫療法です。
花粉症や食物アレルギーにおいては、
免疫療法や減感作療法と言って、
原因となる抗原をごく少量から身体に使用して、
それを徐々に増やして身体を慣れさせることにより、
アレルギー反応を減弱させる、
という方法が一定の効果を挙げています。
自己免疫疾患というのも、
アレルギーに似たところのある、
特定の抗原に対する過剰な免疫反応ですから、
同じように軽い抗原刺激を与えて持続することにより、
過剰な免疫反応が沈静化する、
という可能性が存在しています。
ただ、これまでにそうした試みはあったものの、
自己免疫の抗原を身体に作用させても、
安定した効果はあまり得られず、
却って症状の悪化に結び付くリスクがある、
というのがこれまでの結果でした。
最近になって遺伝子工学の技術を用い、
ヘルパーT細胞と呼ばれる免疫調整細胞が、
抗原を認識しているエピトープという部位を、
その部分だけ取り出して反応させることにより、
副作用なく軽度の免疫反応を起こして、
免疫を調整するような手法が開発されました。
こうして合成された特定の抗原を、
アピトープと呼んでいます。
多発性硬化症という難病において、
その再発予防にATX-MS-1467というアピトープが開発され、
その継続使用により、
一定の有効性が確認されています。
今回はバセドウ病に対して、
その自己抗体を免疫細胞が感知する2つの部位を合成した、
ATX-GD-59というアピトープが新たに開発され、
その第一相の臨床試験が行われました。
その結果をまとめたのが今回ご紹介する論文です。
軽症で未治療のバセドウ病の患者さん12名に、
このATX-GD-59というアピトープを、
少量から2週間毎に用量を増加させながら皮下注射し、
10回の治療を行なって、その経過を観察しました。
その結果、
10人が治療を最後まで継続し、
そのうちの5名は治療終了の時点で、
2名は経過観察期間の時点で、
甲状腺機能が正常化しました。
甲状腺機能の正常化に伴い、
血液中の自己抗体も低下していました。
一方で残りの3名では、
甲状腺機能亢進症は治療により増悪していました。
このように、
まだまだその有効性も安全性も未知数の部分が多いのですが、
これまでにない画期的なバセドウ病の治療に、
一定の有効性が確認されたことは意義のあることで、
今後の研究の進捗に期待をしたいと思います。
成功するかどうかは分かりませんが、
間違いなくこれまでにない、
画期的な治療ではあるからです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のThyroid誌に掲載された、
バセドウ病の新しい治療の可能性についての論文です。
バセドウ病は甲状腺がTSH受容体抗体という、
自己抗体によって刺激され、
甲状腺機能亢進症を起こす代表的な甲状腺の病気の1つです。
その治療法には、
抗甲状腺剤による薬物療法と、
放射性ヨードによる放射線治療、
そして甲状腺の大部分を切除する手術療法の3種類がありますが、
どの治療にも一長一短があり、
確実に完治すると言えるような方法はないのが実際です。
抗甲状腺剤による治療は簡便ですが、
治療期間は通常2年程度を要し、
薬を止めて再発しない寛解率は、
決して高いものではありません。
また、顆粒球減少症など重篤な副作用の起こることもあります。
手術治療や放射線治療は、
成功すれば治療の必要はなくなりますが、
機能低下となれば、
一生ホルモン剤を使用しなければなりません。
放射線治療には眼症の悪化の可能性や、
二次発癌の可能性が僅かながら認められます。
手術は首に傷が付きますし、
反回神経麻痺などの合併症が生じることもあります。
そもそもバセドウ病の原因は、
甲状腺に対する自己抗体ですが、
手術や放射線治療は物理的に甲状腺組織を取り除くだけですし、
抗甲状腺剤は一時的にホルモンを低下させるだけの作用で、
確かに長期的には抗体価は陰性になることがありますが、
そのメカニズム自体も不明です。
つまり、
原因を取り除くような治療が、
存在していない、という点が一番の問題なのです。
そこで検討されている方法の1つが、
アレルギーで試みられているような免疫療法です。
花粉症や食物アレルギーにおいては、
免疫療法や減感作療法と言って、
原因となる抗原をごく少量から身体に使用して、
それを徐々に増やして身体を慣れさせることにより、
アレルギー反応を減弱させる、
という方法が一定の効果を挙げています。
自己免疫疾患というのも、
アレルギーに似たところのある、
特定の抗原に対する過剰な免疫反応ですから、
同じように軽い抗原刺激を与えて持続することにより、
過剰な免疫反応が沈静化する、
という可能性が存在しています。
ただ、これまでにそうした試みはあったものの、
自己免疫の抗原を身体に作用させても、
安定した効果はあまり得られず、
却って症状の悪化に結び付くリスクがある、
というのがこれまでの結果でした。
最近になって遺伝子工学の技術を用い、
ヘルパーT細胞と呼ばれる免疫調整細胞が、
抗原を認識しているエピトープという部位を、
その部分だけ取り出して反応させることにより、
副作用なく軽度の免疫反応を起こして、
免疫を調整するような手法が開発されました。
こうして合成された特定の抗原を、
アピトープと呼んでいます。
多発性硬化症という難病において、
その再発予防にATX-MS-1467というアピトープが開発され、
その継続使用により、
一定の有効性が確認されています。
今回はバセドウ病に対して、
その自己抗体を免疫細胞が感知する2つの部位を合成した、
ATX-GD-59というアピトープが新たに開発され、
その第一相の臨床試験が行われました。
その結果をまとめたのが今回ご紹介する論文です。
軽症で未治療のバセドウ病の患者さん12名に、
このATX-GD-59というアピトープを、
少量から2週間毎に用量を増加させながら皮下注射し、
10回の治療を行なって、その経過を観察しました。
その結果、
10人が治療を最後まで継続し、
そのうちの5名は治療終了の時点で、
2名は経過観察期間の時点で、
甲状腺機能が正常化しました。
甲状腺機能の正常化に伴い、
血液中の自己抗体も低下していました。
一方で残りの3名では、
甲状腺機能亢進症は治療により増悪していました。
このように、
まだまだその有効性も安全性も未知数の部分が多いのですが、
これまでにない画期的なバセドウ病の治療に、
一定の有効性が確認されたことは意義のあることで、
今後の研究の進捗に期待をしたいと思います。
成功するかどうかは分かりませんが、
間違いなくこれまでにない、
画期的な治療ではあるからです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-07-11 06:16
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