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軽症持続性喘息の半数に吸入ステロイドは無効? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
軽症喘息に吸入ステロイドは無効?.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
軽症持続型喘息に対する吸入ステロイドと気管支拡張剤の、
有効性を検証した論文です。

気管支喘息の治療は、
吸入ステロイドの登場により、
大きく変わりました。

それまでの一時的に気管支を広げるだけの治療や、
効果はあっても副作用の強い、
全身的なステロイドの使用とは異なり、
継続的に吸入ステロイドを使用することにより、
気管支喘息の原因である、
気道のアレルギー性の炎症を抑え、
吸入という方法により、
身体に吸収されるステロイドは最小にして、
副作用の少ない持続的な治療が可能となったのです。

これは気管支喘息の治療における、
画期的な進歩でした。

ところが…

実際には吸入ステロイドの効果が明確なのは、
持続性の喘息の患者さんのうち、
半数程度であることが、
その後の臨床研究により明らかになって来ました。

何故吸入ステロイドに反応しにくい患者さんがいるのでしょうか?

気管支喘息の原因は、
気管支のアレルギー性の炎症であるとされています。
その特徴は好酸球という白血球が主体の炎症です。
しかし、多くの患者さんの痰を検査してみると、
好酸球がそこに多く検出される患者さんがいる一方で、
炎症はあっても好酸球は多くなく、
むしろ好中球が主体の別個の炎症が見られる患者さんもいます。

ここで1つの仮説として、
好酸球主体の気道炎症のある患者さんでは、
吸入ステロイドが効果的であるけれど、
そうでない患者さんでは、
吸入ステロイドは効果がないのではないか、
という考え方が生まれます。

それは事実でしょうか?

そのことを検証する目的で今回の研究では、
アメリカの複数施設で、
12歳以上の軽症持続性喘息の患者さん、
トータル295例に、
喀痰の好酸球比率の検査を行い、
吸入ステロイドのモメタゾン(商品名アズマネックスなど)と、
気管支拡張剤(抗コリン剤)のチオトロピウム(商品名スピリーバなど)、
そして偽の吸入薬をくじ引きで決めた順番により使用し、
その効果を喀痰の好酸球比率と共に比較検証しています。

気管支喘息には軽症から重症まで、
非常に幅広い状態があります。

最も軽い喘息では、
風邪をひいた時などに軽い発作があるものの、
それ以外の時は特に症状はなく、
運動を含めて日常生活にも特に制限が生じることはありません。
医学的な定義では軽症間欠型と呼んでいて、
発作の回数が週1回未満で軽いことなどで定義されています。

それより少し症状が進んだものが、
軽症持続型の喘息で、
こちらは発作が毎日ではないものの週に1回以上はあり、
月に2回以上は夜の発作や症状のあるというものです。

現行のガイドラインにおいては、
軽症持続型の喘息においては、
吸入ステロイドを持続的に使用することが推奨されています。

喀痰の好酸球比率は、
2%以上を高値群、2%未満を低値群として区分けしています。
治療の有効性は発作回数や呼吸機能の数値などから、
総合的に有効か無効かを判定しています。

その結果、
295例中73%に当たる221例が好酸球比率では低値群で、
この低値群では偽の吸入と比較して、
吸入ステロイドも抗コリン剤も、
有意な有効性を確認出来ませんでした。

一方で喀痰の好酸球比率の高値群では、
偽吸入の有効率が26%に対して、
吸入ステロイドの有効率は74%で、
吸入ステロイドの有効性が確認されましたが、
抗コリン剤の吸入の有効性は、
偽吸入と有意な違いはありませんでした。

このように今回の研究においては、
軽症持続型の喘息では、
半数以上の患者さんが喀痰の好酸球は低比率で、
こうした患者さんにおける吸入ステロイドの使用は、
有効とは認められませんでした。

こうした研究は、
有効性の定義によっても結果は変わる性質のものなので、
これをもって軽症持続型喘息で喀痰の好酸球比率が低値なら、
吸入ステロイドは無効とは言い切れません。

また、
喀痰の好酸球比率の測定は、
吸入で痰を誘発したりする必要があり、
クリニックレベルで実施は困難である上に、
患者さんの状態により変わりうる指標でもあるので、
この結果をそのまま現時点で、
一般臨床に取り入れることも現実的とは言えません。

今後も検証の積み重ねが必要であると思いますし、
実証的なデータの積み重ねにより、
今後ガイドラインがより患者さんの効果的な治療に結び付くように、
改訂されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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