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カルシウムの摂取量が骨量に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カルシウムの摂取量と骨粗鬆症.jpg
2019年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
骨密度とカルシウム摂取量との関連についての論文です。

カルシウムは骨を構成する主要なミネラルで、
その高度の欠乏が骨量減少の要因となることは間違いがありません。

しかし、その必要量がどのくらいであるかについては、
あまり明確なことが分かっていません。

日本では1日600mg以上、
イギリスでは1日700mg以上が推奨されていますが、
アメリカやオーストラリアでは1300mg以上が推奨されるなど、
その対応は国や地域によって大きな幅があります。

一方でサプリメントとしてカルシウムを摂ることが、
世界中で広く行われていて、
その理由は骨粗鬆症や骨折の予防と、
高血圧症の予防が2つの柱です。

ただ、最近になり特にサプリメントとしてカルシウムを摂ることが、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクを高め、
生命予後にも悪影響を与えるのではないか、
という疑念が多く寄せられるようになりました。

以前何度かご紹介したことがあるのは、
2013年のBritish Medical Journal誌に掲載されたスウェーデンの疫学データで、
6万人以上の中高年の女性の統計として、
1日のカルシウムの摂取量が1400㎎以上のグループは、
少ないグループと比較して、
心筋梗塞などの心臓病のリスクが2倍以上増加していました。

同様の報告は他にもあります。

こちらをご覧ください。
カルシウムサプリメントと心血管疾患.jpg
これは同じ2013年のJAMA Intern Med.誌に掲載されたものですが、
アメリカで39万人弱の、
50歳から71歳の男女を平均で12年間観察した結果として、
男性で1日1000mgを超えるカルシウムを摂取している男性では、
サプリメントを摂取していない男性と比較して、
心血管疾患のリスクが1.20倍(95%CI;1.05から1.36)、
心臓病による死亡のリスクが1.19倍(95%CI;1.03から1.37)、
とそれぞれ有意に増加していました。
心血管疾患による死亡には有意な増加はなく、
女性での同様の検討では有意なリスクの増加は認めませんでした。
更に食事からのカルシウムの摂取量が多くても、
このような心血管疾患リスクの増加は認められませんでした。

この報告ではBritish Medical Journalのものとは異なり、
女性ではなく男性でリスクが増加している、
という結果になっています。

より直近の2016年にも次のような論文が発表されています。
カルシウムサプリメントと心血管リスク(2016).jpg
これは2016年のAm J Clin Nutr誌に掲載された論文ですが、
アメリカの癌予防の疫学データを元にした解析です。
13万人余りの男女を平均で17.5年という長期に渡り観察した結果、
1日1000mg以上のカルシウムをサプリメントで摂取している男性は、
サプリメントを使用していない男性と比較して、
総死亡のリスクが1.17倍(95%CI; 1.03から1.33)有意に増加していました。
しかし、女性では総死亡のリスクはサプリメント群で有意に低下していました。
食事由来のカルシウムの摂取量と、
総死亡のリスクとの間には関連は認められませんでした。

つまり、どうもサプリメントでカルシウムを、
1000mgを超えて摂取することは、
心臓病のリスクの増加に、
結び付く可能性が高そうです。
その影響はどうやら男性に強そうなのですが、
スウェーデンの検証では女性にも認められています。

しかし、明確な差とまでは言えない上に、
そのメカニズムも明確ではありません。

最近注目すべき研究としては、
冠動脈へのカルシウムの沈着と、
サプリメントとの関連を見た次のような論文があります。
カルシウムサプリメントと冠動脈石灰化.jpg
これは2016年のJ Am Heart Assoc.誌に掲載されたものですが、
5448名を10年間観察した、
動脈硬化に関しての疫学データの解析で、
動脈硬化の指標として、
心臓CTによる冠動脈の石灰化を利用しています。

カルシウムの摂取量をトータルで見ると、
多いほど10年後の冠動脈の石灰化病変の出現は低いのですが、
カルシウム量を補正した上でサプリメントの使用の有無で解析すると、
サプリメントの使用により新規の石灰化病変出現のリスクは、
1.22倍(95%CI;1.07から1.39)有意に増加していました。
このリスクの増加は、
元のカルシウムの摂取量が不足していると、
より大きなものになっていました。

つまり、どうやらサプリメントのカルシウムと、
食品からのカルシウムの摂取とは別個に考えるべきで、
食事からのカルシウムは多いほど健康に良いですが、
サプリメントのカルシウムは、
逆に心血管疾患のリスクを増加させる可能性があるのでは、
ということを示唆する結果です。

ただ、現時点で明確ではないことは、
閉経後で骨粗鬆症のリスクが高いような女性に対しの、
カルシウムのサプリメントの有効性です。

そこで今回の研究では、
これまでの骨減少症に対する臨床データを解析することにより、
カルシウムの摂取量(サプリメント未使用)と骨量との関連を検証しています。

骨量がTスコアで-1.0から-2.5という、
骨減少症の状態にある65歳を超える女性で、
骨粗鬆症の治療やカルシウムのサプリメントを使用していない、
1994名の骨量と食事のカルシウム摂取量を比較検証しています。
また、臨床試験で偽薬を使用されていて、
骨量などの経過をみていた698名も併せて解析しています。

その結果、
カルシウム摂取量の中間値は886ミリグラムで、
登録時のカルシウム摂取量と、
その時点での骨塩量との間には、
明確な関連は認められませんでした。
また、偽薬で経過をみた検討では、
骨塩量の減少とカルシウム摂取量との間にも、
明確な関連は認められませんでした。

つまり、かなりカルシウムの摂取量は充分な集団である、
という前提の上ですが、
それを上回る量のカルシウムを摂っても摂らなくても、
骨量や骨粗鬆症の予防には、
何ら違いがなかったという結果です。

これはサプリメントの試験ではありませんが、
間接的なサプリメント否定でもあるのです。

骨の健康のためには、
確かにカルシウムを不足なく摂取することが重要ですが、
サプリメントでカルシウムのみを摂取しても、
どうやら骨粗鬆症予防においても、
あまりその有効性は明らかではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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