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新海誠「天気の子」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
天気の子.jpg
「君の名は。」の新海誠監督の、
待望の新作「天気の子」が今ロードショー公開されています。

その初日に足を運びました。

うーん。

映像と音楽は最高です。
特にクライマックスのスカイダイビングみたいなところ、
凄いですよ。
お話は「君の名は。」ほど万人向けではなく、
より監督の趣味が強く出たかな、
という感じもあります。
今回は異常気象の意味づけをテーマにしていて、
それも狙いは良いと思います。
ただ、敢えて説明を避けているところはあると思うのですが、
それを割り引いても、
設定に辻褄が合わないところや、
説明不足のところが多く、
ラストの破滅志向的なところも引っかかりは感じます。
破滅志向が悪いのではなくて、
それに伴う犠牲を一切描写せず、
「何とかなるさ」と美化しているようなところに、
ちょっとモヤモヤする感じがするのです。
それでいて、ラストだけ「君の名は。」と全く同じ、
というのが強引なのです。

以下少しだけ内容に踏み込みます。
鑑賞前の方はご注意下さい。

これ、夜叉ヶ池ですよね。
新海誠版「夜叉ヶ池」。
ただ、普通雨乞いとそのための生け贄というところを、
逆に「晴れ女」として雨の時に晴れを呼ぶ、
という設定にしているのです。

1人の女性を取り戻すために、
村を水没させてしまうというのも「夜叉が池」と一緒です。
ただ、「夜叉が池」では横暴な村の住民、
というものが描かれているので、
「こいつらの村なら水没してしょうがないな」
という気分にさせてくれるのですが、
この作品では小栗旬が声を演じた男が、
やや責任放棄の感じがするものの、
警官も真面目に職務をまっとうしているだけですし、
多分主人公達に害をなしていると思われる家族も、
意図的に全く描かれていないので、
誰も悪くないのに主人公の決断で、
東京が水没してそれでいいの?
という気分にはどうしてもなってしまいます。

勿論ドラマの主人公は身勝手でいいわけですし、
日常にはない決断をすることが、
フィクションの醍醐味でもあるのですが、
この作品の場合、
愛する人を取り戻して東京を水没させるか、
愛する人をあきらめて東京を水没から救うか、
という2択が設定されていて、
監督のコメントなどを読むと、
そのどちらを選ぶかが作品のテーマであるような、
説明の仕方がされています。
しかし、ちょっとそれはフェアでないというか、
水没によって被害に遭う人のことも、
主人公達を孤独に追い込んでいる社会の実態も、
何1つ描写はされていないので、
それでいて主人公の選択だけに意味を持たせるというのは、
かなり無理があるように感じました。

拳銃が出て来て、
そこだけ中村文則の「銃」みたいになるのですが、
それも上手く機能はしていないという気がしました。
超常現象のライターという設定も効果的とは言えないですし、
晴れ女が結局特定の日を晴れにするというバイトでしか使われなかったり、
主人公2人の出会いがあまりにご都合主義であったりと、
何か全体的にディテールが上手く噛み合っていない、
という感じが強くしました。

そんな訳であまり乗れなかったのですが、
非常に意欲的な作品であったことは確かで、
今回はややミスタッチもあったと思うのですが、
新海監督の作品はこれかも期待して待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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松尾スズキ「命、ギガ長ス」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
命ギガ長ス.jpg
松尾スズキさんが大人計画とは別個に、
東京成人演劇部というユニットを立ち上げ、
その第一回公演として、
安藤玉恵さんとの2人芝居を今上演しています。

松尾スズキさんの作・演出で、
松尾さんの新作というのも、
かなり久しぶりという感じもします。

松尾さんの2人芝居というと、
その昔は温水洋一さんとのコンビがありましたし、
1回きりでしたが大竹しのぶさんとの2人芝居も、
なかなか充実したお芝居でした。
後2012年に「生きちゃってどうすんだ」という、
1人芝居の大傑作がありました。

なので今回も非常に楽しみにして出掛けました。

これまでのオムニバス的な少人数芝居とは違って、
今回の舞台は1時間40分ほどの、
ミニマムでまとまったお芝居になっています。

基本的には松尾さんが、
生まれてから働いたことのない、
50歳の引きこもりの中年を演じ、
安藤さんが彼の82歳の母親を演じています。

これは松尾さんが母親の介護をしていて、
そこから感じた思いが、
ベースになっているとインタビューで話されていました。

そこにその2人だけの家族を、
ドキュメンタリー映画に撮ろうという、
芸大生をもう1役として安藤さんが演じ、
その怪しげな指導教官を、
松尾さんがもう1役で演じます。

松尾さんの絵をあしらったシンプルなセットは趣がありますし、
後半には松尾さんらしいサプライズもあります。
ある役者さんが特殊効果を担当するという趣向も楽しいですし、
衣装や小道具にも随所にセンスを感じます。

とても楽しいお芝居で、
充実した時間を過ごすことが出来ました。

ただ、昔から松尾さんと大人計画が大好きな立場から言うと、
かなり大人しめで予定調和的なお芝居で、
その点にやや物足りなさを感じたことも確かです。

最後キレイに終わるでしょ。

こういうことは昔は嫌っていた筈で、
絶対やらなかったですよね。

後半アル中の妄想が認知症の妄想とリンクして、
お話が膨らむところも、
もっと破天荒に盛り上がってもいいですよね。
とても節度のある感じで、
お子様が見ても問題のないくらいの感じでしょ。
実際に見せたいのかも知れないですけどね。

テーマも、
端的に言えば、
「惨めに生き続けていいんだよ」
ということでしょ。

極めて穏当で、
文部省推薦(昔の表現です)と言ってもいいくらいですよね。

もっと羽目を外して、
目茶苦茶にして欲しかったな、
というのが正直なところですけど、
それはもう松尾さんの自由なのですから、
どうこう言う性質のものではないのだと思います。

松尾さんの今の心の中は、
多分以前と比べればかなり穏当で常識的になっているのかも知れません。

それで勿論良いのですけれど、
それで詰まらない感じもしてしまうのが、
藝術であり創作というものの難しさなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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LDLコレステロールと脳内出血リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
LDLコレステロールと脳卒中リスク.jpg
2019年のNeurology誌に掲載された、
LDLコレステロール値と脳内出血のリスクとの関連についての論文です。

LDLコレステロールは、
悪玉コレステロールと呼ばれることもあるように、
その数値が上昇することで、
心血管疾患特に心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクになります。

そのため、
心筋梗塞の予防のためには、
LDLコレステロールをなるべく低くすることが推奨されています。

特に心筋梗塞などを起こした時の二次予防では、
70mg/dLを切るような、
かなり極端な数値が目標として設定されています。

ここまで強力にコレステロールを下げて、
何か問題は生じないのでしょうか?

体質的にコレステロールが低値の家系があり、
その調査などのデータからは、
コレステロールが基準値を超えて高度に低くても、
健康上の問題はないとされています。

ただ、その一方で一般住民の疫学データなどによると、
脳出血のリスクは、
コレステロールが低いほど増加する、
という報告が複数存在しています。

コレステロールは細胞膜にとって必要不可欠の脂質ですから、
シンプルに考えると、
それが欠乏することにより、
脳の血管が脆くなり、
出血しやすくなるという可能性は想定されます。

ただ、これまでの報告は
脳内出血の比較的少ない欧米のものが多く、
頻度の多いアジアでの報告が待たれていました。

今回のデータは中国のもので、
登録の時点で心筋梗塞や脳卒中、癌の既往のない、
トータル96043名(年齢中間値51.3歳)を9年間経過観察し、
経過中に複数回測定したLDLコレステロール値と、
脳内出血リスクとの関連を比較検証しています。

その結果、
脳内出血のリスクは、
血液のLDLコレステロール濃度が100mg/dL以上と比較して、
70から99mg/dLでは有意な差はありませんでした。
しかし、70から99mg/dLと比較して、
50から69mg/dLではそのリスクは1.65倍(95%CI: 1.32から2.05)、
50mg/dL未満では2.69倍(95%CI:2.03から3.57)、
それぞれ有意に増加していました。

それを図示したものがこちらです。
LDLコレステロールと脳卒中リスクの図.jpg

今回のデータでは1から4%程度が、
コレステロール降下剤を使用していましたが、
それを除外しても、
この傾向は変わりませんでした。

このようにあくまで治療していない場合の話ですが、
血液のLDLコレステロール値が70mg/dLを下回ると、
脳内出血の発症リスクが増加することは、
ほぼ間違いがなさそうです。

ただ、これは、
スタチンなどでコレステロールを薬で下げている、
患者さんでのデータではないので、
その点はまた別個に考える必要があります。

脂質異常症は心血管疾患のリスクであることは間違いがありませんが、
それは主には虚血性心疾患のデータで、
そのまま脳卒中にも当て嵌まるものではない、
という点には注意が必要で、
コレステロールを何処まで下げるのかについては、
個々の患者さんの病気のリスクを慎重に判断した上での、
多角的な検討が必要であるのかも知れません。

今後ガイドライン等においても、
より患者さんのトータルな予後を重視した、
繊細で個別の差に配慮した、
改良がなされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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CGRP受容体拮抗薬の群発頭痛予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
CGRPと群発頭痛.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
群発頭痛に対する新薬の臨床試験結果をまとめた論文です。

群発頭痛というのは重症型の習慣性頭痛の代表です。

片側の目の奥に針に刺されたような激痛が、
一定期間集中して発作的に繰り返されるのです。
発作は未治療であれば15分から3時間渡り持続し、
1日に数回の発作が数週間から時に月単位で持続します。

通常行われている治療は、
発作時の高濃度酸素療法と片頭痛に使用されるトリプタン製剤で、
トリプタン製剤については通常注射薬か点鼻が使用されます。
予防目的では血管拡張剤のベラパミルと、
リチウム、バルプロ酸などが使用されていますが、
その根拠や有効性はそれほど明確ではありません。

片頭痛と同じく群発頭痛においても、
神経終末から分泌されるCGRPという炎症物質が、
その原因として大きな役割を果たしていると考えられています。

それでは、
群発頭痛に対するCGRP抑制治療の効果はどうでしょうか?

ガルカネズマブ(Calcanezumab)は、
CGRPに特異的に結合するモノクローナル抗体で、
結合することにより、
CGRPの作用をブロックする注射薬の新薬です。

今回の臨床試験においては、
18から65歳で群発頭痛と診断された106名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はガルカネズマブを1ヶ月間隔で2回300mg皮下注射し、
もう一方は偽の注射を使用して、
その効果を比較検証しています。

その結果、
注射後1から3週間において、
1週間の頭痛発作の頻度は、
偽薬群が5.2回減少したのに対して、
ガルカネズマブ群が8.7回減少していて、
ガルカネズマブ群で有意な頭痛発作抑制が認められました。

ただ、観察期間中の1週間当りの発作回数は、
ガルカネズマブ群が17.8±10.1回に対して、
偽注射群が17.3±10.1回で、
はっきりとした差はありません。

また、注射後3週の時点で、
週の発作回数が半分以下に減少した比率は、
ガルカネズマブ群が71%であったのに対して、
偽注射群は53%で、
これも差は付いてはいるものの、
偽薬でも5割以上低下しているので、
これもあまり明確な有効性と言えるほどではありません。

このように、
メカニズム的に考えれば、
もっと著効しても良いように思いますが、
実際には有効性はあるものの、
現状のデータはそれほどのものではなく、
今後その使用法を含め、
この薬の意義と有効性は、
より多角的に検証される必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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CGRP受容体拮抗薬の片頭痛発作への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
CGRPと片頭痛.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
全く新しいメカニズムによる片頭痛治療薬の、
第3相臨床試験結果をまとめた論文です。

片頭痛は習慣性頭痛の代表で、
セロトニンの1Bと1Dという種類の受容体を刺激する作用を持つ、
トリプタン製剤と呼ばれる薬が主に使用されています。

このタイプの薬は従来の痛み止めと比較すれば、
格段に片頭痛には効果の高い薬です。
ただ、片頭痛の患者さんの3分の1ではトリプタンは無効で、
3から4割の患者さんは使用後も発作を繰り返しています。
また、血管収縮作用のあることより、
心血管疾患のある患者さんではそれが悪化する可能性がある、
というリスクも持っています。

最近の考えではトリプタン製剤のターゲットである、
セロトニンの受容体は、
片頭痛の症状に関連はしていても、
その原因ではありません。
片頭痛というのは脳の一種の炎症で、
三叉神経の興奮により、
神経終末から遊離されるCGRP
(calcitonin gene-related peptide)
と呼ばれる炎症物質が、
そのきっかけであると考えられています。

そうであるなら、
このCGRPをブロックすることにより、
片頭痛をより根本から治療することが、
出来るのではないでしょうか?

そうした考えから開発された薬が、
今回ご紹介するリメゲパント(rimegepant)という飲み薬です。

この薬はCGRPの受容体の拮抗薬で、
これまでの第2相の臨床試験において、
1回75mgの用量で2時間以内に症状を改善し、
24から48時間効果が持続することが確認されています。

今回の第3相臨床試験では、
18歳以上で1年以上の片頭痛の既往があり、
1ヶ月に2から8回の発作が起こっている、
トータル1186名の患者さんを、
本人にも主治医にも分からないようにくじ引きで2つに分け、
一方はリメゲパント75mgを頭痛発作時に使用し、
もう一方は偽薬を同じように使用して、
その後の症状の変化を比較検証しています。

その結果、
使用後2時間で痛みが消失したのは、
リメゲパント群では19.6%であったの対して、
偽薬群では12.0%とリメガパント群で有意に改善していました。
(modified intention-to-treat analysis)

また2時間で最もつらい症状が改善したのは、
リメゲパント群では37.6%であったのに対して、
偽薬群では25.2%で、
こちらもリメゲパント群で有意に改善していました。

安全性については、
リメゲパント群でやや多かったのは、
尿路感染症と吐き気程度で、
それも偽薬群と比較して、
明確に多いとは言えないレベルでした。

このように、
CGRP受容体拮抗薬の使用により、
急性の片頭痛発作の症状が改善することが、
臨床試験において示されました。

ただ、その改善効果はやや微妙なもので、
特効薬と言うからには、
もっと高い比率で改善が見られても、
良いようには思われます。

問題は現行のトリプタン製剤との関係で、
トリプタンとリメゲパントとの直接比較による効果の確認や、
トリプタン製剤で無効の片頭痛において、
リメゲパントにどの程度の有効性があるのかなどの、
検証が行われて初めて、
この薬の評価が明確になるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(補足)
数値に誤りがあり、ご指摘を受け修正しました。
(令和1年7月18日午前6時修正)
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COPDのCRPガイド治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COPD急性増悪に対するCRPガイド治療の有効性.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
COPDに対する抗菌剤治療の適応を、
血液の炎症反応で判断する、
という方法の有効性についての論文です。

近年抗菌剤の乱用による耐性菌の増加などが問題となり、
抗菌剤の使用を必要最小限に制限することが、
世界的に医療のトレンドとなっています。

風邪症状の多くでは抗菌剤は無効で、
その使用は制限される方向にあります。

ただ、病態によってはその初期から、
抗菌剤の使用が有効であると認められていることがあり、
そのうちの1つが慢性閉塞性肺疾患(COPD)の、
急性増悪時の抗菌剤の使用です。

COPDというのは、
主に喫煙習慣を続けることにより生じる、
慢性気管支炎や肺気腫などの肺の変化の総称で、
この病気は普段から痰がらみや息切れなどの症状があり、
それが感染などの要因によって、
急性増悪と呼ばれる急激な症状の悪化を来します。

この急性増悪は細菌感染が引き金となることが多いので、
病気の初期から抗菌剤の使用が、
スタンダードな治療として推奨されているのです。

しかし、全てのCOPDの急性増悪に、
抗菌剤が有効である、という訳ではありません。
入院に至ったCOPDの急性増悪のうち、
2割は感染症以外の要因によるものだった、
という報告もあるからです。

それでは、抗菌剤が有効な急性増悪を、
そうでないものと区別することは出来るのでしょうか?

現行のガイドラインにおいては、
膿性の痰の増加を伴う急性増悪では、
抗菌剤の使用を考慮して良いことになっています。

つまり、症状からの判断で良いのです。
しかし、それは正確でないことも当然ありそうです。

それでは、簡単で臨床現場ですぐに結果が出るような検査で、
細菌感染による急性増悪を見分けることは出来ないでしょうか?

そこで候補として考えられている検査の1つが、
CRPと呼ばれる炎症反応です。

CRPは幅広い炎症で上昇しますから、
上昇しているからと言って、
それが細菌感染であるとは言えません。
ただ、上昇が高度である場合には、
その可能性が高くなります。

そこで今回の研究では、
プライマリケアにおいて、
COPDの急性増悪の患者さんに対し、
通常の治療とCRPを活用した治療との効果を、
抗菌剤の使用頻度の差と、
COPDの予後の差をターゲットにして検証しています。

対象となっているのは、
イギリスのプライマリケアの複数医療機関において、
COPDの急性増悪と診断されたトータル653名の患者さんで、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の医師の判断による治療を行い、
もう一方はCRPを測定してその数値による指針を参考にして、
抗菌剤の使用の可否を決定する治療を行って、
抗菌剤の使用品後とCOPDの予後を比較しています。

CRPの数値は、
それが2mg/dL未満であれが抗菌剤は原則使用せず、
2から4mg/dLの場合は膿性痰の時のみ抗菌剤を考慮し、
4mg/dLを超えるときには抗菌剤を推奨する、
という方法で使用します。

その結果、
通常治療群では77.4%が抗菌剤を使用したのに対して、
CRPガイド治療群では57.0%が抗菌剤を使用しており、
CRPガイド治療は有意に抗菌剤の使用を抑制していました。
一方で登録後4週間の時点でのCOPDの病状は、
CRPガイド治療群の方が僅かながら有意に改善していました。

このように、
CRPを活用した治療戦略により、
COPDの急性増悪時の抗菌剤の不必要な使用は、
減少する効果が期待され、
今回の検証ではそれが患者さんに不利益をもたらす可能性は、
低いと推定されました。

これはまだ今後の検証を待つ必要がありますし、
CRPという数値の評価についても、
専門家により異論のあるところですが、
今後は検査数値など一定の根拠のある時に限って、
抗菌剤の治療は行われる、
という流れは動かないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「アラジン」(2019年実写版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アラジン.jpg
ディズニーが20年前の大ヒットアニメーションの「アラジン」を、
実写映画化して今公開中です。

これはサイレント映画時代に最初に作られて、
1940年代にトーキーのカラー映画としてリメイクされた、
「バクダッドの盗賊」を元にしています。

元々の「アラジンと魔法のランプ」には、
魔人は出て来るものの願い事が3つだけ、
という設定はなく、
空飛ぶ魔法の絨毯も出て来ません。

3つの願いと魔法の絨毯がミックスされているのは、
映画の「バクダッドの盗賊」のアイデアなのです。

実写映画版はアニメ版を元にしながら、
魔神ジーニーと王女の次女のラブロマンスというおまけを入れて、
ウィル・スミスの演じるジーニーに、
かなりスポットの当たる内容に改変されています。
「バクダッドの盗賊」の魔神は、
人間にいいように騙されて使われる、
という存在ですから、
魔神が人間になって家族を作るという今回の映画は、
彼が主役と言っても言い過ぎではないのです。

今回の映画はまた、
CGのウィル・スミスが縦横無尽に動き周り、
アニメとほぼ同じスピード感と、
ほぼ同じカット割りを達成しているのが画期的で、
アニメと同じ感覚で、
実写(もどき)が実現する時代になったのだなあ、
という感慨にふけることが出来ました。

正直お話はセンス・オブ・ワンダーが足りないというか、
ランプの魔神という非現実的なものが出て来る割には、
それ以外にあまり不可思議なものや、
奇怪なもの、荒唐無稽なものが登場しないので、
お話的にもあまり盛り上がる感じがないことが、
ちょっと物足りません。
活劇らしい活劇もなく、
最後も悪党を騙して自滅させるだけ、
というのも物足りません。
ただ、それはもう意図されたもので、
もっとホンワカした歌芝居の世界に、
ひと時浸れればそれで良いのかも知れません。

僕にはちょっと物足りない世界でした。

まあ対象が違うので当然ですね。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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歌舞伎座七月大歌舞伎(2019年夜の部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
7月歌舞伎座夜.jpg
このところ少し歌舞伎座にも足を運んでいます。
まだ記事にしていませんが、
6月には三谷幸喜さんの新作歌舞伎を観て、
今月は海老蔵、来月は玉三郎と中車の舞台に足を運ぶ予定です。

今回の夜の部は、
外題は違うのですが、
実際には名作「義経千本桜」の通し上演で、
それを海老蔵の13役早変わりで上演する、
という趣向です。

こういう原作を適当に役者に合わせてアレンジして上演するのは、
キワモノで邪道のような感じがしますが、
江戸時代にはむしろ普通のことで、
有名なところで「東海道四谷怪談」は、
忠臣蔵をアレンジして成立した作品です。
過去の作品を古典として、
台詞も演出も同じで再演するようになったのは、
歌舞伎を藝術にしようと悪戦苦闘した、
明治以降の習慣なのです。

最近では先代猿之助が、復活狂言として、
こうした趣向作を多く上演していて、
「伽羅先代萩」の世界をアレンジして早変わりショー化した、
「伊達の十役」はその代表的な成果です。

今回の上演の特徴は、
「義経千本桜」の名場面自体は、
適宜カットを加えてダイジェスト化する程度で、
台詞も演出もほぼ原作通りにしている一方で、
主な13の役柄を全て海老蔵1人が演じるという、
早変わりショーの趣向を導入していることです。

これね、
先代猿之助であれば、
場面にメリハリを付けて、
お芝居でじっくり見せるところは、
むしろ早変わりはせず、
段取り的な部分を早変わりショーにして、
娯楽作として楽しめるものにする、
というような発想であったのですね。

しかし、今回の海老蔵版は、
全ての場面で主だった役はすべて海老蔵が演じる、
という趣向になっているので、
正直相当無理のある作品になっていました。

一番問題だと思ったのは「鮨屋」で、
父親と道楽息子と高貴のお方の3人を全て演じているのですが、
この3人はクライマックスでは同時に舞台に存在しているのですね。
それをどうするのかと言うと、
1人は海老蔵で、他の2人は海老蔵のお面を被っているのです。

この名場面でそれはないでしょ。

ひどいよね。

父親と息子がいる場面で、
確かに父親には台詞は少ないのです。
しかし、何も言わない父親の受けの芝居も、
当然大きな意味を持っているのです。
それをただの早変わりショーにして、
お面を被ってスタントが俯いているだけじゃ、
芝居として成立しないですよね。

多分本人やスタッフも、
やっていて「ひどいな。失敗したな」とは思っていると思うですよね。

どうして止められなかったのかな、
とてもとてもガッカリです。

四の切りはほぼ澤瀉屋型での上演でしたが、
海老蔵はキツネ言葉が全くダメなので、
もう少し勉強して精度を上げて欲しいですよね。
これじゃ成立していません。

面白いところもあるんですよね。

鮨屋の前段のところで、
北嵯峨庵室という、通常絶対やらない場面を、
入れているんです。
これが意外に良くて、
小金吾と権太の2役は、
海老蔵悪くないんですよね。
児太郎と子役が2役を兼ねるのも理にかなっていますよね。
この辺はとてもいいなあ、と思って観ていると、
権太の父親で出て来るでしょ。
そりゃ無理があるよ。
早変わりにすらなっていないもん。

総じて何か大切なものを忘れていますよね。

早変わりってそんなものじゃないよ。
ハッとするような場面もなく、
お面をつけている役者が何人も、
舞台をうろうろしているだけじゃ話にならないでしょ。

せめて、鮨屋は海老蔵は権太1役でやるべきだったと思います。

良い場面であっただけに、それは悔やまれてなりません。

復活狂言に関してはね、
先代猿之助の見識が大きかったと思うんですよね。
当時は「古典を踏みにじっている」というようにも言われた訳ですけど、
それでも踏みとどまるところは踏みとどまっていて、
何より歌舞伎愛が強かったし、理論家ですよね。

海老蔵に歌舞伎愛がない、
というようには勿論思わないのですが、
こうした企画を自分でマネージメントする、
というタイプではないと思うので、
周囲の人がもっと企画を練り上げて欲しいですよね。

当代歌舞伎を代表する荒事の肉体が、
これじゃ詰まらないと思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ドライビング・ミス・デイジー」(2019年翻訳舞台) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドライビング・ミス・デイジー.jpg
1989年に製作され米アカデミー作品賞を受賞した名作映画の、
原作となったオフ・ブロードウェイの舞台劇が、
草笛光子さん、市村正親さん、堀部圭亮さんという魅力的なキャストで、
今翻訳劇として上演されています。

これは1948年から25年に渡る、
元教師のユダヤ人の老婦人と、
その運転手を務めた黒人ドライバーとの、
交流をオムニバス的に描いた物語です。

これね、高齢ドライバーが事故を起こして…
というところから始まるお話なので、
意外に今の時勢にも合っているのです。

舞台版は老婦人とその息子のやり手の経営者、
そして黒人ドライバーのみの3人芝居ですが、
映画はそこにメイドや息子の妻などの人物が追加されています。
映画を先に観ていると、
メイドなどはいないと成立しないように思うのですが、
舞台版では黒人ドライバーの台詞の中で、
舞台には登場しない人物として、
何度も語られていて、
舞台劇としてはそれでありだな、
ということが分かります。
映画で印象的な場面の多くは、
原作でもほぼそのまま残っています。

シンプルな小劇場向けの戯曲で、
森新太郎さんの演出は最小限度の装置で、
過不足ない効果を挙げている点がさすがです。
音楽は映画と同じ「ルサルカ」の「月に寄せる歌」が使われていましたが、
物語と直接の関連はないような気もするので、
イメージでの選曲なのかしら、と感じました。

物語は1948年から始まり20年以上が舞台上で経過するのですが、
それが分かりにくいというきらいはあり、
字幕などで説明した方が、
良かったのではないかしら、というようには思いました。

これ、黒人の表現をどうするのかしら、
と思っていたのですが、
実際には黒人ドライバー役の市村さんは、
古典的なオセロのように、
茶色いドーランを肌に塗って演技をしていました。
今後はこうした表現は、
おそらく難しくなるのだろうな、とは感じました。

キャストは草笛光子さんが素晴らしい芝居で、
後半衰えた肉体の表現などには、
役者魂も感じました。
市村さんは特に前半のちょっとしたやり取りに味があり、
映画と同じ台詞を、
日本人の観客に対しては、
映画より数段説得力と膨らみを感じる演技で、
肉付けしていたのがさすがと感じました。

後半のシリアスな部分は、
映画でもちょっとピンと来ないところがあり、
今回の舞台版でも矢張り釈然とはしませんでした。
公民権運動の話とかキング牧師の話とか、
身近には感じられないので仕方がないのかも知れません。

ラストももう少しくどくてもいいのに、
もう一押しあってもいいのに、
というようには思うのですが、
アメリカ戯曲はこうしたところは淡泊ですね。

そんな訳でまずまずの仕上がりの舞台で、
一見の価値は充分にあると思います。
もう少し練れて来ると、
後半はより趣きが増すのでは、
というようにも思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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サプリメントの種類と健康リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
サプリメントと健康被害.jpg
2019年のJournal of Adolescent Health誌に掲載された、
青少年の使用するサプリメントのリスクについての論文です。

サプリメントというのは、
そもそもは通常の食生活で、
不足し易い栄養素や微量元素などの、
補充として使用する製品の意味合いですが、
今では病気の予防や健康の維持増進などのために、
役立つという触れ込みの商品全てを指すようになっています。

そこには、
ビタミン剤やグルコサミン、コンドロイチンなど、
一定の有効性が科学的にも示されているものもありますが、
体重減少効果や腸内洗浄効果、
精力増進や筋力増加など、
何の成分がどのように作用するのかも、
明確ではないものも多くあります。
アメリカでは精力増進や腸内洗浄などの効能を謳ったものが多いようですが、
日本ではダイエット効果や、
全身倦怠感への効果などを謳ったものが多いように思います。

国内外を問わず問題となるのは、
怪しげなサプリメントに限って、
青少年が使用するケースが多いということです。

今回の研究は、
アメリカのFDAに2004年から2015年に集積された、
サプリメントの有害事象のうち、
年齢が25歳以下に使用された977件を解析したものですが、
ビタミン剤と比較して、
筋力増強目的のサプリメントの健康被害のリスクは2.7倍(95%CI:1.9から4.0)となり、
体重減少目的のサプリメントも2.6倍(95%CI:1.9から3.4)、
エネルギー補給目的のサプリメントも2.6倍(95%CI:1.9から3.6)、
精力増進目的のサプリメントも2.4倍(95%ci:1.3から4.3)、
それぞれ有意に健康被害のリスクが増加していました。

このように一口にサプリメントと言っても、
ビタミン剤と、
筋力増強などの効能を謳ったサプリメントとは、
全く別個のものと考える必要があり、
特にその青少年の利用については、
濫用に結び付かないような対応が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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